博麗霊夢が美味しいご飯を食べるだけ

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第1話

土鍋の蓋が開く。

ふわり。

白い湯気が立ち上り、炊きたての米の香りが神社の台所を満たした。

霊夢はしゃもじを差し込む。

ほろり、と米粒がほぐれる。

粒が立っている。

艶がある。

一粒一粒が朝日を受けて、真珠みたいにきらめいていた。

 

「いい炊き上がりね」

 

茶碗へ盛る。

ぽふっ、と湯気が踊る。

米の甘い香りだけで、空っぽの胃がきゅう、と鳴いた。

 

味噌汁をよそう。

豆腐。

わかめ。

刻みネギ。

鰹節と昆布で丁寧に引いた出汁は、味噌の香りを優しく支えている。

 

焼き鮭。

皮には細かな焼き目。

脂がじんわり浮き、朝日に照らされて琥珀色に輝く。

もし箸で軽く押せば──

ほろっ。

と、身が音もなくほどけるほどに柔らかい。

 

たくあんは小皿に。

鮮やかすぎない落ち着いた黄色。

よく漬かっていて、きゅっと身が締まっている。

これでやっと準備が終わる。

 

「いただきます」

 

まずは、ご飯。

箸でひと口。

もぐ。

⋯⋯甘い。

噛むほどに、米の奥からじんわりとした甘味が染み出してくる。

静かな甘さが口いっぱいに広がり、舌を包み込む。

 

「⋯⋯これよ」

 

次に味噌汁。

ふぅ、と一息吹いて口へ運ぶ。

じわぁ──。

出汁が最初に舌へ届く。

その後から味噌の柔らかな塩味。

さらに豆腐のまろやかさが追いかけてくる。

飲み込んだあとも、喉の奥に鰹の余韻が長く残った。

 

「あぁ〜っ」

 

身体の芯まで、じんわり温まる。

朝の一杯とは、こういうことなのだ。

そして。

焼き鮭。

箸で一片。

口へ。

ほろり。

柔らかい。

噛む必要すらないほど繊細に崩れ、それでいて繊維一本一本が魚の旨味を抱えている。

脂が溶ける。

じゅわっ。

鮭の香りが鼻へ抜ける。

塩加減は控えめ。

だからこそ、鮭本来の旨味が真っ直ぐ伝わってくる。

霊夢は無言でご飯を口へ運ぶ。

もぐ。

──その瞬間だった。

鮭から溶け出した脂が、米一粒一粒を包み込む。

米の甘味。

鮭の旨味。

脂のコク。

三つが重なった瞬間、優しい味がふわりとやってくる。

口の中で完成する料理。

 

「⋯⋯!」

 

思わず目を細める。

箸が止まらない。

鮭。

ご飯。

味噌汁。

鮭。

ご飯。

味噌汁。

一口ごとに景色が変わる。

味噌汁が口を整え、

鮭が旨味を刻み、

ご飯がすべてを受け止める。

この三角形が崩れない。

永遠に食べ続けられるリズムだった。

 

たくあんを一枚。

ぽりっ。

小気味よい音。

塩気と酸味が舌を引き締める。

そこへ再び、ご飯。

甘い。

さっきより甘い。

塩味を挟んだからだ。

舌は味をリセットし、米本来の風味をもう一度、新鮮な驚きとして受け止める。

 

「はぁ」

 

ため息ではない。

満足の吐息。

炊きたての米。

丁寧に引いた出汁。

焼き加減を見極めた鮭。

身の締まったたくあん。

どれも特別な食材ではない。

普通の食卓に並ぶ、普通のご飯。

──やっぱりこれでいい。

これがいいのだ。

霊夢は最後の一粒まできれいに食べ切る。

茶碗の中にはもう何も残っていない。

 

「ごちそうさま」

 

静かな神社に、その一言だけが心地よく響いた。


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