VTuber事務所の社長なので、批判されるのは覚悟していたけど、まさか視聴者に刺されるとは思っていなかった。刺されてからスタッフやライバーが過保護すぎるんだけど、どうにかできない 作:主義
「なんで、僕の部屋じゃないの?」
「あそこは危ないと判断しました」
「危ない?」
「犯人の一味が残っている可能性もあります。社長の住んでいる場所も安全ではありません。犯人は社長に対する恨みが動機のようですし、また同じようなことを起こさせるわけにもいきませんので」
まぁ…分かるような内容だった。
でも、一つだけ理解できないことがあった。
「それは分かったけど、なんで倉掛の家なんだ?」
「私の家はバレていないと思いますので」
「別にそれだったら、ホテルでも良いと思うが」
「お金を掛けたくなかったので」
「別にそれぐらいは僕が払うよ。自分の泊る場所だし」
「社長、お金は無限にあるわけではありません。なるべく出費は抑えるべきだと愚行します」
「ま、まぁ…そうだけど」
それにしても女性の部屋に泊まるのはさすがに。それに僕と彼女は社長と秘書の関係。公私混同するようなことは避けたいし、彼女に迷惑を掛けることになってしまっているのが申し訳ない。
「でも…」
「私は構いません。社長は私のことを襲うんですか?」
「襲わないよ」
「それなら別に問題ないと思いますが」
「…まぁ…確かに」
倉掛は僕のことをそれなりに信頼してくれているってことだと思うので、そこは嬉しい。彼女ともそれなりに仕事をしてきたし。
でも、ここで何を言っても今の僕は怪我人なので倉掛の力を借りないと動くこともできないので、大人しく従うことにする。
その話は終わり、次に気になっていることを聞いてみることにした。
「荷物は?」
「社長の荷物もそのうち、ここで運び込まれる予定です」
「そっか……でも、このままっていうわけにはいかないから早いうちに新しい家を探さないと」
「…それはそうですね。私としてもいつまでもいられるのは迷惑なので」
「すいません」
嫌ならやっぱりホテルで良かったのにと思ったけど、さすがに口に出すと色々と言われるので止めた。
「ですが、新しい家に関しては必ず相談してくださいね」
「え、倉掛に?」
「そうです」
「なぜ?」
「社長の住居は把握しておかないといけませんし、こんなことになったんです。防犯設備などを含めて吟味しないといけません。社長のことだから適当に決めそうですので」
「…わかったよ」
こんなことになったんだ。
防犯設備に関しては真剣に考えないといけない。今回のことで改めて分かった。
僕が倒れると多くの人に迷惑を掛けると。だからこそ、二度とこんなことを引き起こされるわけにもいかない。会社のために。
「あと、社長」
「なに?」
「社長はあんまり望んでいないかもしれませんが、ライバーの方やスタッフさんたちから社長の『退院祝い』をしたいと承っています」
「退院祝い?」
「はい。お忙しく、社長のお見舞いに行けなかった方もたくさんいらっしゃいます。その方たちを筆頭に社長の元気な姿を見たいという声が多く上がりまして。それに対して副社長が「じゃあ、やろっか」みたい風に言ってしまい、社内ではやるムードになっています」
退院祝いをしているのは嬉しいけど、これ以上僕のことで会社に迷惑を掛けたくはないんだよね。でも、倉掛の話している感じだと今から止めるのは難しそうだ。何より副社長が多少意欲を示しているみたいだし。
「素直に祝われた方がいいと思いますよ。もし、ここで退院祝いを止めるみたいな話になれば社内に「社長、本当はすごく体調が悪いんだろうか」みたいなネガティブな話が広がることになると思いますので」
これも倉掛の言う通りだな。ここで断って、僕の調子が悪くて出てこれないという噂よりも、ここである程度元気な姿を見せることで『僕は大丈夫だ』という姿を見せた方がいいはず。
「そうだね。退院祝いを参加する方向で」
「わかりました、そのように副社長にしっかりと伝えておきます」
そしてその日は倉掛の部屋で出来る仕事をした。
本当は会社にも行きたかったが、秘書が「今日は大人しくしていてください。明日からは会社に行くので」と言われた。
今の会社のことを秘書から聞き、これからのことを考える。
明日以降の会食や社内からの意見、会社としてやっていく新しいプロジェクトなどやるべきことはたくさんあるので明日のために今日は21時には寝ることにした。
食事は倉掛が作ってくれて、お風呂に関しては久し振りに湯舟に入った。
「僕はどこで寝ればいいの?」
「私の部屋でいいんじゃないですか」
「いや、それはさすがになし。僕と倉掛はこれでも大人同士だ。これからも仕事仲間として過ごしていくためにもその辺りはしっかりしておきたい」
「別にいいでしょう。最初に確認しましたけど、社長は私を襲う気はないんですよね」
「ない」
「それなら問題はないです」
「問題しかない。倉掛は常識をもう一度叩き直してもらった方がいいと思う」
「大丈夫です。常識はしっかりとあるので」
「ある人間は一緒の部屋で寝るなんて言い出さない」
その後も押し問答が続いたが、ここは折れるわけにはいかない。するとさすがに倉掛も今回は折れる気がない事を悟ったのか、諦めてくれた。
「じゃあ、僕はリビングに寝かせてもらうよ」
「いえ、それなら私の部屋を社長が使ってください。いくら何でも今日退院したばかりの人をソファーや地べたに寝かせる訳にはいきません」
「ここはキミの家だろ?」
「そうですが、今この家においてもっとも重要なのは社長です。その社長にはしっかりと睡眠を取ってもらわないと困る。なのでそのために、私の部屋で寝てください」
倉掛の目からは『絶対に折れない』という気持ちが伝わって来るほどの眼力だ。寝る場所は絶対に折れられなかったけど、これなら折れてもいいか。
「わかった。今日は倉掛の部屋を寝かせてもらうよ」
「そうしてください」
なので、その日、秘書の部屋で僕は寝た。
―――――――
「ねぇ…倉掛」
「なんですか?」
「なんでたかが会社に行くだけで僕は防弾ベストを着させられているの?」
「安全のためです」
僕はため息を吐き、天井を見上げた。