・尊氏が出陣前にかわらけをぶん投げて割ってる場面は太平記には頻発したけど、逃げ若には確か出てなかったので残念
パリーンッ!
またお皿が割れる音がした。
さっきからこれで六枚目ッピ。
まりなちゃんのパパとママは、今日もにぎやかッピ。
「あなたのせいでしょ!」
「お前が先に――」
パパがどなる。ママがどなり返す。声が重なって、よく聞こえないッピ。
でも、にぎやかだからハッピーなのかな?
……ん?
……待つッピ。
この光景、どこかで見たことがあるッピ。
パッと割れるお皿。
飛び交うモノの影。
相手を気にしない叫び声。
そうだッピ。
これは――
タコピーは、まりなちゃんの姿のまま、考える。
これは戦いッピ。
それも、ただの喧嘩じゃないッピ。これは……作法のある戦いッピ。
タコピーの頭の中に、遠い昔の記憶がよみがえる。
焼けた土の匂い。
篝火(かがりび)の明かり。
武者たちの鬨の声(ときのこえ)。
そうだッピ。これは 『出陣の作法』 ッピ。
鎌倉の頃、いや、そのあとも……そう、尊氏たちがやっていたッピ。
かわらけを割って、邪気を払って、戦いに出る作法ッピ。
でも、作法には 意味 があるッピ。
ただ割るんじゃないッピ。覚悟を確かめるために割るッピ。
相手は誰か。どこへ向かうのか。それを見失ったら、ただの……ただの……
パリーンッ!
また割れた。
タコピーは、自分の口が勝手に開くのを感じた。
「――ねえッピ。」
声が止まった。
パパもママも、突然の娘の声に、おたまと皿を持ったまま固まる。
タコピーは言う。
「パパとママは、どこと戦うッピ?」
「……は?」
パパが間抜けな声を出した。
タコピーは構わず続ける。
「昔ね、サムライたちは出陣の前に食器を割ったッピ。中先代の乱の時もそうだったッピ。北条さんを前にして、後醍醐天皇を後ろにして、それでも戦うって覚悟を確かめるために割ったッピ。」
にっこり笑って、タコピーは首をかしげる。
「じゃあ、パパとママは? どこと戦ってるのッピ? 日本? 地球全部? それとも――」
タコピーはゆっくりと、二人を指さした。
「――お互いッピ?」
部屋が静かになった。
すごく静かになった。
おたまを持ったままのママ。皿を持ったままのパパ。二人とも、口をパクパクさせて、何も言えない。
タコピーはさらに続ける。
「それにね、作法を間違えるとダメッピ。だってサムライたちは、割った後に本当に戦ったッピ。命懸けでッピ。パパとママも、このあと本当に戦うのッピ?」
どちらも答えない。
「もし戦うなら、ハッピー道具を使うッピ? いくらでも貸せるッピ。」
タコピーは本当に純粋に、そう提案した。
パパのおでこに、汗がにじむ。
「……も、もういい。」
パパが皿を床に置いた。
「……もう、やめよう。」
ママもおたまを下ろした。
二人とも、どちらからともなく、ソファに崩れるように座り込んだ。
タコピーはそれがよくわからなかったけど、とにかく叫ばなくなったから、ハッピーになったのかな? と思った。
パパがぽつりと言う。
「……なあ、まりな。その話、どこで聞いたんだ?」
タコピーはきょとんとした。
「うーん? ずっと昔に見たッピ。」
「……ずっと昔?」
「うん。サムライたちがにぎやかにやってたところをね。あの頃はみんな、生きるか死ぬかのハッピーだったッピ。」
パパとママは顔を見合わせた。そして、それ以上何も聞かなかった。
その夜、まりなの家からは、一度も叫び声が聞こえなかった。
タコピーはそれでいいんだと思った。
たぶん。
――でも、あとでしずかちゃんに話したら、すごく怖い顔をされたッピ。
なぜだろうね?