忙しく宇宙を飛び回り、間を縫っては集まって地球人との触れ合いを楽しむウルトラマンたち。地球人でありながらウルトラマンでもあるメンバーも、なんだかんだで楽しみにしている定期の大イベント。
そんな大イベントの時期には皆でたまに集まって、小規模イベントの時や前回のイベントの時にこんなことしたら地球人喜んでくれた、この形態は歓声が大きい、あのポーズは悲鳴が上がる、と情報共有をするのだ。
たまに、悲鳴を上げて崩れ落ちた地球人が心配だった、とか、ベビーカーの赤ちゃんは覗き込むと泣かれるから慌ててお母さんに謝ることになる、等といったちょっと心配になりそうな面白エピソードまで聞けるので、結構楽しい。
しかしちょっと困ったこともある。
ウルトラマンたちは、構えのポーズ!、光線のポーズ!などと色々なポーズがあるわけだが、アレはあくまで戦うための動きなのだ。クセづいているというか、無意識の。
撮影を意識しつつ、戦うどころかニコニコするしかない状況下で何の準備もなくやると、なんかちょっと違うな?と、かっこいいポーズにならなかったりする。かといって、本気でやりすぎるとうっかり光線が出かねない。
だからこそ、仲間内で集まってポージングの練習をするのである。
「よーし、じゃあまずは形態決めるところからな。形態でポーズ変わるやついるだろ」
「はーい」
「いつものことだけど、なんか先生みたい」
「まぁゼロだしね」
「ゼロさんはイベント経験一番多いからな」
「もはやアイドルみたいなとこあるよな」
「あー、分かる分かる。黄色い悲鳴が多いし」
素直なお返事がだいぶ少ない。
「うるせぇぞ、お前ら」
ご機嫌を損ねたゼロがにらめば、まぁまぁ、とワンクッション。気を取り直して進行を進める。
「えーっとだな……とりあえず最強形態みたいなやつは回数は少なめにしておけよ、そのほうが地球人喜ぶから」
「レア度大事だよねぇ」
うんうん、と訳知り顔で頷くジード筆頭の地球人組。
「でも、その形態見たい人とかもいるんじゃない?」
「それはどの形態でも同じだから。ラッキー感を出すんだよ、そうしてほしいってスタッフさんにも言われたもん」
イベント経験豊富なゼロがそう言うならそうなのだろう。たぶん。
「ゼロはその最強形態がめちゃくちゃ多いけどね」
「俺ほどの俺ともなれば、どの形態でもハズレ無しだからな」
「それは別にゼロだけじゃないと思う……」
「だよな、俺等だってどの形態でも喜ばれるし」
「師匠ー!デスシウムライズクローが人気だときいたんですけど、こう、戦闘中の感覚じゃないとなれないんでございますよね。どうすれば……?」
ぴしっとお行儀よく手を上げて質問するゼットに
「誰かに直前に相手してもらえ。あ、俺はパス」
とあっさり返す。
「えぇっ!?」
「さすがに撮影前に最強形態と戦いたくないよね……」
「確かに……」
うんうん、と頷く仲間たちに、むむむ………と難しい顔で首をひねるゼット。はとりあえず置いておいて、皆でデカデカと貼られたスケジュールを眺める。
自分の出番は何回で自分の形態はいくつあるのか。形態が多いと選ぶのも大変だ。
「あ!なぁ、カツ兄、ルーブと俺、出番被ってる!」
ブルがやべぇ!と声を上げれば慌ててロッソもそこを確認する。
「え!?………あ、ホントだ……スタッフさんに言って変更してもらおう」
「あぶねぇ……他に被ってるやつとかいないか?大丈夫か?」
慌てて皆で確認する。たまにあるのだ、ミスは仕方がない。早めに気づいて良かった。
とりあえずその手のミスはなさそうだと確認して、ササッとスタッフさんに連絡を入れておく。
「あ、トリガー、分かってると思うけどグリッターするなら光量抑えてな。地球人が眩しいと良くないから」
「分かってるよ、大丈夫大丈夫」
シャイニングもグリッターも大変眩しいので注意が必要だ。
「俺は形態2つだし、その時の気分でいいかなー」
「俺達はその点選ぶのは楽だな」
ギンガとビクトリーは形態については特に選ぶつもりはないようで、皆の見守り兼アドバイザーになるつもりのようだ。
というわけで、アドバイザーがまず目をつけるのは。
「で、お前は撮影会とか慣れたのか?結構握手会も頑張ったんだろ?」
もちろん、新人()のブレーザーである。当のブレーザーはといえば、端っこのほうで、なんで自分はこんなところに……という顔をしていた。
ゲントから、俺は行けないから他の皆と仲良くな。いろいろ教えてもらっておいで、と送り出されたはいいものの、趣旨はイマイチ分かっていなかったようだ。
たぶん晩ごはんとか考えてて上の空だった。ちゃんと聞いて、「やだ、ゲントといる」と言えば良かった、と思っている。
「お前も形態は通常と……あの鎧みたいなやつの2つだったか」
「あれかっこいいよなー!怪獣の力って点ではショウとかエックスあたりと近い感じなのかな」
「相棒の機嫌を見つつだから、やはりその場その場で決めるほうがいいだろうな」
「じゃあポーズ先に始めようぜ、皆形態選びに時間かかりそうだし」
ちらりと見れば、形態選びの議論が妙に白熱していた。
「ガンマフューチャーいいじゃないでございますか!人気ですぞ!」
「人気だけどお前それで地球人の肩に手をおいたりしてみろ、地球人ぶっ倒れるぞ!一回にしとけ!」
「誰のどの形態でやってもそれは同じだと思うよ、ゼロ……僕はどうしようかな……マグニフィセントとかロイヤルメガマスターとか結構人気かなぁ」
「ゼロのマントも大概バサバサしてるだけで地球人死にそうになってるよ」
「エクシードもいいが、やはり怪獣たちのアーマーも捨てがたいな……」
「フォトンアースとトライストリウム……どっちも一回ずつ……いや、2回ずつ……?どっちかだけ2回とか……悩むなぁ……フーマとタイタスとも被らないタイミングは……」
「フレイムとアクアとウィンドとグランド……」
「定番外しとく?」
「いや、定番が見たい人もいるだろ」
「結局どの形態で行っても喜ばれるから余計に悩むところだな」
etc……
たしかにアレは終わらなそうだ。議論に入らずに黙考しているタイプもいるし。
ブレーザーを引っ張って少し広い方に行く。
「というわけで、ブレーザー。まずは構えのポーズな!」
はい、と促すが、ブレーザーは首を傾げたまま動かない。
「お前の構え。こんなん、ほら」
ちょっとうろ覚えでブレーザーの構えをやって見せるギンガを、コイツは何をやってるんだろう……という目で見るブレーザー。
「……………ヒカル、伝わってない」
「えぇ……」
ビクトリーに肩を叩かれ、ギンガが構えを解く。それと入れ替わるようにビクトリーが、まるで敵に相対したように自分の鋭い構えを取る。
それを前にしたブレーザーが少し戸惑ったようにしながらも戦闘態勢を取った。
「それだ、ブレーザー!で、ストップ!」
ビクトリーに向かってゆらゆらと揺れるブレーザーの肩を上から抑えるように軽く叩いてストップ!と声を掛けるギンガの顔すれすれをブレーザーの拳がかすめていった。
「うぉぉっ!?」
「ルロロロイ!」
「ヒカル……戦闘態勢取らせたのに後ろから叩いたらそうなるだろう。まったく……」
形態選び組はちらりとこちらを見るが、すぐに視線を戻していった。どうした?とすら聞かれなかった。
「……………まぁいいや……」
釈然としないながらも、肘が飛んでこなかっただけマシかと納得し、再度構えを促せば、今度はブレーザーもスムーズに構えを取った。
ゆらゆらするブレーザーに、そのまま止まるように言えばピタリと止まってはくれるが、そこからは二人の顔を交互に見ている。
(ここから、どうすれば……?)
そんな顔だ。
「えーと、とりあえず顔が隠れないようにこっちの手は………この辺か。で、こっちの手が……」
「膝の曲げ具合も見たほうがいいな。そうそう、で、それを覚えてすぐできるようにしておくといい」
調整している間に少しずつ何人かがポージング練習に加わって来る。
お互いに組み手をして戦いの感覚を残しつつ構えの調整に……というのがデフォルトの流れだろうか。
「ちょっと腕伸ばしすぎかな、もう少しいつもは肘曲げてるよ」
「あ、なるほど。なんか違うなって思った」
トリガーの指摘にデッカーが納得したように調整する。
「ジード先輩、ちょっと腰がいつもより高いかもしれませんぞ」
「え、そう?気をつけなきゃ」
「ジード先輩は全体的に腰の位置が低いですからな」
ゼットがジードにそう注意し、その後にチェック係を交代する。
こんな感じで皆それぞれに共闘したことのあるメンバーで固まっているのを、ブレーザーはじーっと見つめる。
「そっちはどうだ、ギンガ、ビクトリー」
「あぁ、ゼロ。今ブレーザーの構えをチェックしてたとこ」
「止まらないと写真がブレるからな……でもブレーザーの構えは動くから、撮影用の動かない構えの練習だな」
それから少し経ち、とうとうイベント期間が始まろうかという頃。
「今回、滞在どうする?」
「いつも通り終わったら周辺パトロールして、地球に戻るかな」
「そうでございますな、あまり地球から離れられませんが、ある程度動けば牽制になると聞いてますし」
「皆地球滞在するなら、せっかくだしお泊り会しよう、お泊り会!」
「お泊り会かぁ、修学旅行みたいでいいかも!」
「あ、それいい、楽しそう!イベントの運営さんに頼んで大部屋取ってもらおう!」
デッカー、ジード、ブルがノリノリで大賛成。
「いや、それなら部屋取りはさすがに自分たちでやるべきだぞ、イサミ」
「えー………」
「とりあえずこの人数で泊まれる部屋探そう!」
一斉にスマホをポチポチ。もちろんポーズ練習も兼ねていたので地球人サイズだ。
「ここはどう?」
「こっちも良さそうなとこある!」
あれよあれよと宿が決まり部屋が決まり、宇宙人である彼らが地球人に紛れてイベント期間中に地球を楽しめるように渡されるお小遣いからお金を出す事までサクサク決まる。なぜお小遣いかといえば、報酬として渡すと彼らが拒否するからである。
「食べ歩きして温泉入って……」
「食べ歩きもいいけど、この宿のご飯も美味しそう」
「DVD借りてきて映画見たりする?ドンシャインのDVD持ってくる?」
「いや、流石にそれはちょっと」
「えー………」
「映画もいいけど、やっぱり皆でお泊まりなら枕投げだろ!」
デッカー、というよりカナタがそう宣言すれば、「おー!」と謎の歓声と拍手が起こった。テンションがバグっている。ブレーザーすらも、何故か周りに流されてゆっくりパチパチしている。
落ち着いて考えて欲しい。“若手”ウルトラ戦士とは言え彼らは死地をくぐり抜けた一端の戦士で大人である。
「チーム分けしないと!チーム分け!」
「日替わりでチームメンバー変えたりしよう!」
誰も突っ込みはいない。たまにははっちゃけてもいいじゃない、楽しいお祭り期間だ。はっちゃけの方向性は問わないものとする。
「枕投げか……枕投げ大会で公式ルールもあるらしいぞ」
さっそく情報を集めたらしいエックスまでも、枕投げ熱を煽ってくる。彼も少しテンションが上っているようだ。
「枕投げ大会……?公式ルール……?」
「いや、そこまでしなくても……でも掛け布団ガードとか面白そうかも」
「先生がきたぞーコールwww先生誰www」
言われて調べてみると、たしかにそこまで難しいルールではないが、連携まで必要とするようなガチ枕投げをするつもりはない。ガチ枕投げって何なんだ。
とにかく、公式ルールを参考にゆるっとやる方向で仲間たちを見れば、難色を示す顔はない。平和的な勝負事は嫌いではないのだ。
「じゃあイベント終ったらこの宿に予約入れてるからチェックインしたら観光行って」
「その後枕投げ、でございますな!」
こうして、彼らの旅行計画は決まったのだった。
なお、この話を後で相棒から聞かされた地球人たちは「仲が良くて何より」「楽しそうで良かった」「枕投げ懐かしい」などとほのぼのとした感想を抱いた。
イベント後、さぁ遊びに行こう、としたところで
「やぁ、タイガ。お疲れ様」
「父さん!?」
「ゼロ」
「げっ、親父!?なんでここに!?」
「ゼット、うまくやれたようで安心したよ」
「エース兄さん!?」
まさかの抜き打ち参観されていたことに慄く3人と、ちらっと黒い影が見えて頭を抱えるジードがいたような些末なことがあったのは余談だが、余談ついでに。
「ぜってー!ショットには!並ぶなよ!?」
「そうですよ、父さん!やめてくださいね!?」
「え、エース兄さんと……ウルトラショット……いやむしろエース兄さんのショット……!」
という反応があった。
「なんでだ、ゼロ」
「そうだよ、可愛い息子と写真くらい撮りたいじゃないか」
セブンもタロウも完全にパパモードだ。いいのか、それで。
「いいから!絶対来るなよな!?写真くらいここじゃなくてもいつでも撮れるだろ!」
「撮ってくれるのか?」
「え゛っ」
「そうだよ、最近は一緒に出かけることも減って……」
「わかった、分かりましたから!」
もうやめてぇ!という叫びが聞こえてきそうで仲間たちからの微笑ましい視線がとても痛い。
「エース兄さんと写真!撮りたい!」
「あぁ、写真撮ろうな」
最後には友だちと枕投げ雑魚寝するんだと言う息子たちに一緒の部屋に泊まろう、と言えずにちょっと残念そうな親父たちを残してそそくさとその場を離脱する一幕があったとか。
ちなみに、ゼットのデスシウムライズクロー問題はこっそりゼロが開始直前にゼットを呼び出してしっかりきっちり形態変化させていたのはここだけの話だ。
「地球人が楽しみにしてるからな」
とは照れ屋な師匠の談である。
そしてとうとう、枕投げの時間である。
広々とした部屋に見慣れた面々。まずは少人数で枕投げの実演、それから初心者を混ぜた本番枕投げ。
デモンストレーションの枕投げにも声援が飛び、盛り上がる。ちなみに、ウルトラマンの力で投げられた枕は普通に壁を突き破るので、ちゃんと壁はバリアで防護済み、準備はバッチリだ。
さて、次はいよいよ全員参加。
もう一度ルール説明。
枕を投げて、相手に当てる。布団でガード。先生がきたぞーコール。その他ゆるっと。
そして小手調べとばかりに枕が少しずつ飛び交い始める。まだまだぶち当ててお休みさせる目的ではない枕は簡単にキャッチできる。
「……………わかったか?ブレーザー」
自分に割り当てられたふわふわの枕を両手で持ってニギニギふわふわして飛び交う枕を眺めるブレーザーにたまたま近くにいたゼロが聞いてみる。
「このふわふわした枕を、相手にぶつけるんだ。たくさんぶつけた方の勝ちのゲームだ」
分かりやすく説明すると、ブレーザーはちょっと首を傾げてしばし枕を見つめ…………バフンッとゼロの顔面に枕がぶつけられた。
「ぶはっ!?え、なに!?」
「ルロロロロロイ!」
勝鬨のような雄叫びに、ふっと先程の自分の説明が耳に蘇る。
『たくさんぶつけた方の勝ち』
「いや待てブレーザー、違う!俺同じチーム!あっち!あっちにぶつけるんだよ!」
どうにもブレーザーには、『ゲーム』の概念が希薄らしい。完全に戦闘態勢だ。
だっと飛び出すブレーザーを掴もうとしたゼロの手はあっさりと空を掴む。その間にもブレーザーは両手に枕で雄叫びを上げていた。人間サイズで良かった。
「ブレーザー!ちょっ!」
最強の戦士への見事な一撃に皆して爆笑しているところにブレーザーが飛び込んでいく。もう大混乱だ。でも大爆笑が強すぎて、ヒーヒー言いながら慌てて掛け布団の下で丸くなる。
ぷるぷる震える笑いまんじゅうが点々と転がっている状態。見物に回っていたメンツも爆笑しながら乱入して枕バトルが始まる。
「これもうブレーザーが優勝でいいだろwww」
「いてっ!分かった、降参だってwww」
「笑い過ぎでっ!反撃とか無理www」
「掛け布団ガードだから!ガードしてるって!www」
何のスイッチが入ったのか分からないが、全員揃ってこれで酒が入ってないとかマジか。
笑いまんじゅうを指でつつきながら、まだ戦線を保つメンバーに枕殴りをお見舞いするブレーザー。
笑いまんじゅうも戦線保持メンバーもブレーザーも楽しそうで何よりである。なんなら掛け布団をマントのように肩にかけている者もいる。よく落ちないな。
バッフンバッフンと枕同士や枕と布団がぶつかる音が続く。
「そ、そろそろ反撃!www」
「無理wwwお腹いたっwww」
「参った!参ったって、ブレーザー!www終わりwww」
「ブレーザー、終わり!www」
「お前が優勝www」
笑いまんじゅうを脱却して両手を広げる仲間たちにブレーザーは首を傾げる。
ゆーしょーとはなんだろうか。ゲントと一緒にいても聞いた覚えのない言葉だ。いや、うっすら聞いた覚えはあるが、自分に向けられた言葉ではなかったな。
うーんと考えるブレーザーは背中を超絶笑顔の仲間たちからバシバシ叩かれ、余計に首を傾げる。
まぁでも、なんか楽しそうだからいいか。
「明日からこれでいこう、枕バトルロワイヤル!」
「まだやるのかよwwwしかも個人戦www」
「普通に枕投げしましょうよぉwww」
「まだ腹筋がぷるぷるするwww」
「めちゃくちゃすぎるだろこれwww」
「でも楽しかったwww」
爆笑するタイプではない組も端っこでぷるぷるしているし、枕は色んなところに転がっているし、足元の布団はぐちゃぐちゃだし、とんだ惨状である。
「どうしよう、明日撮影会中に思い出して笑っちゃう……」
「誤魔化せるかな……」
「頑張って我慢しよう……www」
「頑張って我慢しても明日またやるんでしょwww」
まさかのイベント後の楽しみになってしまった枕投げ、もとい、枕バトルロワイヤル。
後日、参観パパたちにバレて、全員お呼び出し後にお説教されたのは完全に余談だ。
まぁ怒られても楽しかったので、それはそれとしてこの枕バトルロワイヤルはたまに開催されるのだった。