ナツカワ ハルキ
星が瞬く以外の光のない宇宙を駆け回って弱きを助け、悪をくじくウルトラマン。
相変わらず宇宙は散らばったデビルスプリンターの脅威にさらされ、宇宙警備隊やその仲間たちはその対応に追われていた。
新米も凖警備隊員扱いも関係ないほどに忙しい。
それはそれとして、今日は特にウルトラマンゼットはそれはそれはご機嫌だった。
何しろ、大好きなゼロ師匠とジード先輩と一緒に任務に当たることになっているからだ。
ゼロからもジードからも呆れられるくらいにはニコニコと任務に当たっていた。
もちろん絶好調で順調に任務をこなし、一段落して少し休憩するか、と手近な星に3人で降り立つ。
ほっと一息ついていると、降って湧いたように見知った、敵ではない闇の気配が降り立った。
「トゲトゲ星人?」
「ジャグラーさん!」
「なんでこんなところに」
3人してその見知った気配に振り返る。
「ゼット、ハルキは」
光の戦士の3対の視線を意にも介さず、ジャグラス・ジャグラーはゼットに問いかける。
「ハルキに用事か?休憩に入ろうかって時点でハルキは疲れたから寝るって。だから後にしてもらえないか?」
「駄目だ、叩き起こせ。今すぐだ」
苛ついたような一方的な言葉にさすがのゼットもちょっと嫌な顔をする。
「ジャグラー、ハルキは今疲れてるんだって。急ぎか?」
「わざわざ探して来てやったんだ、急ぎに決まってるだろう」
ゼロも助け船を出すが、それにもつっけんどんに言い返す。この大きさの差を前になかなかの肝の座りっぷりはさすがだ。
「ジャグラーさん、何かあったんです?」
ウルトラマンが嫌いを公言する彼がわざわざ接触してきてここまで言うのだ、何かあったのかとジードが問う。
苛ついている自覚が余計に随分と世話焼きな自分を際立たせて、チッと蛇が舌打ちした。
数日前、ただの気まぐれで、彼はそこにいた。
「月日は経てども、変わらねぇもんだなぁ」
着慣れたスーツで盆栽片手にかつての自分の縄張りを遠目に眺める、ヘビクラことジャグラス・ジャグラーがポツリと呟く。
あれから何年経ったかなんて数えちゃいないが、せいぜい3、40年といったところか。人間には長いが、ジャグラス・ジャグラーからすれば瞬きとさして変わらない年月だ。
つらつらと考えていると、後ろから二人分の気配が近づいてくる。
「隊長ー!やっぱり!ほら、ヨウコ!私の探知機すごくない!?」
「分かった分かった。お久しぶりです、ヘビクラ隊長」
かつての可愛い部下、ヨウコとユカが月日を重ねた姿でそこに立っていた。
「元、隊長な。いつまでやるんだ、これ」
「私達にとってはいつまでも隊長は隊長なんで」
「にしても変わりませんねー!さすが宇宙人!ちょっとサンプルを……!」
「お前らも全然変わらないだろ」
ユカが伸ばしてきた手を避けながら変わらない2人に嬉しさと微かな寂しさを感じつつ苦笑いを浮かべる。
「ユカ」
ヨウコが声をかけると、少し残念そうにしながらも今までより断然素直に手を引くユカ。それに違和感を覚えて、どうした?と声をかける。
「隊長、ハルキに会う予定とかあります?」
「ハルキ?いや、特に会う予定はないが」
そんな予定を立てたことはこれまで一度もないんだが、と思いつつ応える。
「じゃああの……会えたら、でいいというか……その……」
「隊長、ハルキ呼んできてください!」
遠慮がちに何かを頼もうとするヨウコを押しのける勢いでユカが単刀直入に切り込んだ。
「は?なんで俺が」
「私達じゃハルキたち捕まえられませんもん、隊長しか頼めないんですよ」
「ちょっとユカ、隊長も忙しいから無理言っちゃ悪いよ」
「でも今呼ばないと絶対ハルキ後悔するって。ちょっと声かけるだけでも!ね、隊長!」
「待て待て、ちゃんと説明しろ」
いわく。数日前、ストレイジにハルキの母親から封筒が届いたらしい。
歳とそれに伴う病気もあって、もう次にハルキが帰ってくるまでもたないだろうと。だから、息子が帰ってきたら手紙を渡してほしいのだと、そういう内容だった。筆圧も弱く、震える手で書かれたその文字が、彼女の余命を示しているかのようだった。
私信はさすがに見ていないが、少なくともストレイジに当てた文に、会いたい、とは書いていなかったそうだ。
遠くで頑張る息子にわがままを言えない、負担をかけられない、という母心というやつだろう。
最愛の一人息子に会いたくないはずはない。
だが、技術が進歩した今のストレイジでも、広い宇宙のどこにいるかもわからないウルトラマンゼットにコンタクトをとることは不可能だった。
なんとかしてハルキを母親にせめてあと一度会わせてやれないかと、最期を看取れなくてもせめて、と思うのは親しい人間として当然の思考。
苦心している時に、ユカの作った地球外生命体探知機にジャグラス・ジャグラーが引っかかったことから、二人して頼みに来たのだという。
「……………分かった。少し探してやるが、期待はするな」
「ありがとうございます!」
ウルトラマンゼットの任務は個人的にはどうでもいい、可愛い部下の家族との最期の別れを惜しむ時間を作るきっかけくらいは作ってやろう、と、気まぐれというには少し力のこもった思いを持って、ジャグラス・ジャグラーは宇宙に戻ったのだった。
「ハルキに話があるんだ、さっさと出せ」
「いやだから、寝てるって……」
《ゼットさん……?どうしたんです?》
繰り返す押し問答にハルキが起きたようだ。
《………隊長!?》
「元、な?全く、お前らときたら……」
お小言が始まりそうな予感がしたが、それ以降の言葉をジャグラーが飲み込んだのを、頭に?を浮かべて眺める。
「ハルキ、お前、母親のところにしばらく帰ってやれ」
《はい?》
「ちょ、何言い出すんでありますか?!」
この忙しい時にいきなり理由も言わずにそんなことを言われれば、はぁ??っとなるのも分かる。
《た、隊長がそんな事言うとは思わなかったっすけど……なんかあったんすか……?》
不安そうな声を出すハルキに、ゼットも言葉を飲み込んだ。
「いつ危篤状態になってもおかしくないそうだ」
きとく、キトク、と、理解できない音がハルキの頭をぐるぐると駆け巡った。ようやく音を言葉に変換して、息が詰まる。心臓がうるさいほど脈打つ。
ゼットはカラータイマーの奥が冷え込んでいくような気がした。同時に悟る。これは、ハルキの感情だ。
「きとく?」
「は、ハルキ……その、キトク?ってなんだ?」 ただならぬハルキの反応に、『危篤』という言葉の意味を知らないゼロが首を傾げ、ゼットはハルキの不安を受けて自分も不安そうな様子になる。
「………ハルキさん、任務のことは気にしないで、早く帰ってあげて。ゼット!急いでハルキさん連れてってあげて!」
いち早く理解したジードが、早く!と固まったハルキの背中をゼットごと叩く。
《ぁ……ぜ、ゼットさん……!》
母のもとに行きたいが、任務を放り出すわけにもいかない。どうしたらいいか分からなくなって、すがるように相棒を呼ぶ。
え、え、と困惑するゼットの肩に勝手に乗ってジャグラーが言葉で蹴り上げた。
「説明ならしてやるから早くしろ。できるだけ速く飛べ」
「え、ちょっ……」
さすがにゼロは任務もあるし、訳も分からないしでとっさに止めようとするのを、ジードが間に入って止める。
「お願い、ゼロ。行かせてあげて。ゼットの抜けた穴は僕が埋めるから」
「いや、でもこっちも手が足りねぇし、第一事情も聞かずに任務から抜けるのは駄目だろ」
「ゼロ!」
普段はゼロに向けられない強い口調がゼロを押し留めた。
「ゼット、早く行ってあげて」
この場で『危篤』の意味を知る者として声に出してその意味を示せば、ゼットはすぐさま飛び立つだろうし、ゼロもそれを見送るだろう。
でも、それはつまり、『母の死』をハルキに明確に押し付けることになる。
だから今は、早く、としか言ってあげられない。
静かな圧で背中を押すジードに負けて、ゼットがゼロとジードに一礼し、ジャグラーと共に飛び立った。
それを見送って、ジードがほっと息をつく。
「おい、ジード。まずは隊長に確認してからじゃないとだな、やっぱ任務なんだし」
よく分かっていないゼロが困惑したままジードに詰め寄る。
「ゼロ……ジャグラーさんが言ってた危篤って、死の間際って意味の言葉なんだ」
「え」
「ハルキさんのお母さんが、もういつ亡くなってもおかしくない、って、ジャグラーさんは知らせに来てくれたんだよ」
父親の死の間際を垣間見たことのあるゼロは、ひゅっと息を飲む。
「そうだよね、ハルキさんがゼットと一緒になって見た目とか変わらないから忘れてた。ハルキさんのお母さん、そろそろ80歳くらいだと思うんだ。人間にとってはそれなりに長生きした方の年齢だよ」
人間の寿命は短い。それをまざまざと見せつけられる。
「………分かった、ゾフィー隊長に報告してゼットとハルキには休みを取らせる。一緒に来てくれるか」
「うん、もちろんだよ」
休憩を切り上げて、2人は光の国に向けて飛び立った。
「………なぁ、キトクってなんだ?ハルキがめちゃくちゃ不安そうにしてるんだ」
ハルキに聞こえないように小さな声で肩のジャグラーに問う。
「危篤ってのは……そうだな、もう回復が見込めない、命が危ないってことだ」
もう随分高齢だからな。
ハルキが相手というわけでもないのに丁寧な解説をつけるのは、気まぐれなのかハルキに関わることだからなのか。
「じゃあ……」
ハルキと共に宇宙に出る前、盆正月にハルキと顔を出しに行った時、とても優しく受け入れてくれた、相棒の大切なたった一人の家族。
胸に渦巻く焦りにも似たこの感情は一体何という名前なのだろうか。
言葉が見つからなくて、それ以上は音にならない。
宇宙を翔ける速度は上がったが、地球が酷く遠く感じた。
ようやく地球に帰って、ストレイジにハルキとヘビクラが向かう。
差し出された封筒を、まだ受け取れない、と拒否して預かってもらい、母がいる場所を聞く。
覚悟はしていたが、病院にすでに入院していると聞いて血の気が引いた。
そんな顔で運転はさせられない、とヘビクラの運転で病院に向かう。
そこまで世話を焼くかと驚くほど世話を焼いてくれるヘビクラに頭を下げて母のいる病室へ向かった。
【夏川】と書かれたプレートが出ている病室。
静かな機械の音が規則的に鳴っている。
白い壁、白い天井、クリーム色のカーテン、白いベッド。色味のない部屋にいるのは、誰がもってきてくれたのかわからない花と、眠っている母。
こんなに小さかっただろうか。記憶にあるより痩せてはいないか。
最近は忙しくて、盆正月に帰ってきてもゆっくりする間もなく宇宙に飛び立っていた。
ハルキ自身も、人間の寿命が短いという当たり前を忘れてしまっていたのかもしれない。自分があまりにも昔と変わらないから、地球から離れている間の時間のことが頭から抜けていたのかもしれない。
自分の周りにいた大切な人たちはいつまでも元気なのだと、錯覚していたことを今更自覚する。
「母さん。帰ってきたよ」
眠っている母が呼吸をしているのを確認して一安心し、母の手を握る。
記憶の中にあるより細くなったその手は、記憶の中にあるままの温度で、それがどうしょうもなく切ないと思ってしまう。
しばらくそうしてじっとしていると、そっと手が握り返された。
「あら、帰ってたの、遥輝。おかえり」
この歳になっても息子を息子と認識してくれるのが嬉しくて、でも細い声に胸が締め付けられて。
「遅くなってごめん、ただいま、母さん」
「まだこないだ帰ってきたばかりじゃない、お盆もお正月もまだよ?」
「………うん、母さんの顔が見たくなったから」
そう、と嬉しそうに笑う母を見て、知らせてくれたストレイジの仲間たちや隊長、送り出してくれたリクくん先輩やなんだかんだ見送ってくれたゼロ師匠、そして連れてきてくれた相棒に感謝しつつ、穏やかに笑い返す。
こうして、しっかり見れば、痩せているのもシワが増えているのも、髪が白くなっているのも気づけたのに、どうして気づかなかったのか。
笑顔の下で自責しながら母の顔を見て話す。
「遥輝、ゼットさんとはうまくやれてる?ちゃんとご飯食べてる?」
宇宙はどんなところ?お友達は出来た?
母の言葉は全部ハルキを気遣う言葉で、もっと帰ってきて欲しい、とかそういう言葉はやはりでてこない。
それが誇らしくもあり、すこし寂しくもあった。
思いつく限り、宇宙のこと、助けた星や宇宙船、助けてくれた宇宙人、そして友達とは少し違う仲間たちのことを話す。
うまくやれてるよ。心配しないで。
そう思いながら、こんなことも今まで話すこともしなかったのかと自分に驚きながら話し続ける。
様子を見に来る看護師や医者が、彼女を母と呼ぶ孫かと思うほど若い男から語り続けられる夢物語に不思議そうな、あるいは胡乱げな目を向けてくるが、そんなことはどうでも良かった。
ハルキを彼女の息子だと知る人も、話していることが本当のことなのだと信じる人もいない。それでも、今ここで母が息子が本当のことを話していることが分かればそれでいい。元気にやっていることを知ってほしい相手は母だけだ。
「一度、遥輝の仲間の皆さんにも挨拶したいわねぇ」
息子がお世話になっています、って。これからもどうぞよろしく、って。
唯一、母が自分の願いを呟くのが、やはり息子を案じる願い。
地球の遥輝を知る仲間は遠からず誰もいなくなってしまうから、遠くの星の仲間に。そういうことなのだろうと嫌でも察してしまう。
「…………」
「遥輝、母さん、少し疲れたから寝るわね。あなたも戻ってきたばかりでしょう?ストレイジの方には顔は出した?挨拶したらあなたも少し休みなさい」
穏やかな顔で母はそう言う。それに頷いて、一度部屋を出た。
《ハルキ……》
「ゼットさん……あの、わがままなのはわかってるんスけど、しばらく地球にいちゃ駄目っすかね」
俯いたまま、ダメ元でそう口に出してみる。
《さっきゾフィー隊長から連絡が来た。俺たちはしばらくは地球の防衛任務に変更だ》
え、と顔を上げる。
《ゼロ師匠とジード先輩がゾフィー隊長たちに掛け合ってくれたそうだ。完全に戦線離脱とはいかないが、しばらく地球にいられる》
願ってもない話だ。戻ったら感謝を伝えないと。
「ありがとうございます、ゼットさん。すみません、俺の個人的なことでゼットさんまで」
《ハルキのお母上には俺も良くしてもらったんですから、そんな事気にしなくていいんだ。むしろ、ちゃんと戦線離脱まで話を持っていけなくて申し訳ない、とジード先輩が。何かあったら対応しなきゃならないってことだからな》
「そんなの当然っすよ。何かあったら、俺もゼットさんも休みでも動いちゃうし」
《それもそうだな》
二人して笑って、少しだけ軽くなった表情で病院を出ると、車に乗ったまま、ヘビクラが待っているのに気づいた。
「え、隊長、待っててくれたんすか!?」
「さすがに足がないと困るだろうが。宇宙から直行してきて金は持ってるのか?タクシーも使えないだろ」
確かに。まさか飛ぶわけにも行かないし、交通手段がなかった。
その事に気づいて、ありがたく隊長の気遣いを受け取って車に乗り込む。
実家よりはストレイジのほうが病院からは近いが、さすがに半部外者が私用で泊まり込むわけにも行かない。
病院周辺のホテルを探すしかないかな、カードは実家に預けてたはずだし……と記憶に残っている残金を思い出す。
しばらくはホテルでも大丈夫だろう。ストレイジパイロットは給料も良かったし、散財するような当てもなく、ある程度の貯蓄はあったはずだ。
それを読んだようにヘビクラがお金を貸してきて、なぜ隊長も宇宙から戻ったばかりのはずなのにお金を持ってるのかと不思議に思いつつ、実家まで交通機関を使って戻る。
必要なものをひっつかんで取って返し、ヘビクラにきっちりお金を返してホテルに入った。
明日になったらまた病院に行って……と考えているうちに、いつの間にかハルキは眠っていた。
病院とホテル、時々ストレイジを行き来する数日間、名ばかりの地球防衛任務を全うしつつ、きっと誰かが宇宙で地球を守っているんだろうな、と空を見上げながら、母との時間を過ごす。
罪悪感はあるが、いつ来るともしれないこの時間の終わりを考えるとこの時間を手放し難くて、その罪悪感から目を背けていた。
そんな中、とうとう地球に怪獣が飛来する。
《ハルキ》
「…………」
一瞬、迷う。もし、この離れている間にこの時間の終わりが来てしまったら。
「………遥輝」
傍らの、穏やかな声が鋭さを帯びた。
「遥輝、あなたがするべきことをしなさい。あなたがするべきことはここで立ち止まることじゃないでしょう」
その声に叱咤されて、ハルキが顔を上げる。
「すみません、行きましょう、ゼットさん!」
《あぁ!》
この手の届く限り、全てを守る。地球を旅立った日から変わらない、ハルキとゼット、2人の願いで2人の覚悟。
母が、ニュースに映る光の巨人をどれほど誇らしげに見つめているかを、彼らは知らない。
母の、仲間にあってみたい、との言葉を聞いたゼットが気を利かせたのか、宇宙を飛び回る仲間たちが暇を見つけて見舞いに来てくれた。
その度に母はニコニコとしながら、挨拶をする。子どもじゃないのにな、と思いつつ、ちょっと照れながらそれを見ていた。
最後に来たのはゼロ。
うちの息子がお世話になって。ゼットさんや皆さんに迷惑をかけてないかしら。
傍らで聞いている息子が恥ずかしくなるくらい、毎回聞いているが、一番世話になっている、と紹介されたゼロには特にいろんなことを聞きたがった。
「ごめんなさいね、こんなおばあちゃんに質問ばっかりされて退屈でしょう」
一通り話を聞けて満足したのか、少し申し訳無さそうな困った顔で頭を下げると、ゼロは慌てて首をふる。
「いや、そんなことないぜ。むしろうちの……隊員のゼットがハルキには世話になってるからな」
ピクッとゼットがゼロの言葉に一瞬反応したのはハルキ以外には分かるはずもないのだが、何か感じたらしいゼロは言葉を足してゼットの肩を落とさせる。
うちのゼットと言われかけて期待したらしい。それにそっと苦笑しながら、穏やかな母を刻みつけるように見つめた。
何はともあれ母の、仲間たちに挨拶したい、という願いは叶えられてほっとした数日後から、母は眠りがちになった。
何本も管が伸びる。もうここ数日は目を覚ました母を見ていない。
いよいよか、とその姿を見ながら心のなかで呟く。
もしかしたら、ハルキやハルキの仲間に挨拶できたことで、彼女は満足してしまったのかもしれない。
心肺停止時に蘇生を行わない同意書にもサインをし、静かに母の手を握ってその時を待つ。
宇宙を飛び回る身分でありながら、親の最期に立ち会える自分の幸運と幸福を噛み締め、母との思い出を思い浮かべる。
ピー、と、長い静かな音が鳴った。
遥輝が喪主を務める葬儀が粛々と進む。
随分と忙しないな、とゼットはそれを眺めていた。
喪に服す、と言う割には、一番悲しいはずの家族が一番忙しなく動いている。地球人はこんな時でも忙しないのかと少し驚く。
ハルキを見た参列者たちは驚いたように、あるいは首を傾げている。
遥輝を知らない人は喪主が孫のように若い男であることに。遥輝を知る人は、ハルキの見た目が全く変わっていないことに。
あなたのことを自慢に思っていたんだよ、いつも気にかけていたよ、と、参列者たちがハルキに晩年の母の様子を伝えてくれる。
ハルキの中で、ハルキの代わりに、ゼットはカラータイマーの光る胸に手を当てた。
温かい気持ちとぽっかりと空いた穴のような感情が伝わってくる。
ハルキだけの感情だけど、今だけは共有していたい。自分も、この感情を覚えていたい。
棺に横たわる母に最期の別れを告げながら、参列者たちは静かに花を入れていく。
《………なぁ、ハルキ》
ずっと黙っていたゼットがハルキに声をかける。
《俺も、お母上に花をあげたい。地球人みたいな、モフク?はないけど、だめか?》
こんなところにウルトラマンの姿が現れれば騒ぎになるかもしれない。でも、母はゼットを受け入れてくれて、息子の友達か、ともすればもう一人の息子のように扱ってくれた。ゼットが望んでくれるのならそれを断るつもりはなかったし、相棒も母を想ってくれているのが嬉しかった。
「…………もちろん、いいっすけど、ちょっと待ってくださいね」
参列者の中から、目的の人たちを探す。さすがに参列者たちを短時間とは言え追い出すわけにもいかない。幸い、ストレイジの代表、という名目で、ヘビクラ、ヨウコが参列してくれている。
二人の元へ行き、参列者たちを少し下がらせて最前列に立ってもらい、ハルキは静かにゼットライザーのトリガーを押し込む。
眩い光の中から、かつて地球を守った巨人がハルキのサイズでその場に現れた。
参列者たちからざわめきが上がるが、先頭に立つかつて顔の知られたストレイジ関係者が平然としているのを見て、その場の喪主がいたはずの場所にウルトラマンが立っているのを見て、察しのいい人間から冷静さを取り戻していく。
ウルトラマンゼットが、そっと花を棺に納め、胸に手を当てる。
表情は分からないが、泣いているように見えたと、その場にいた地球人たちは後に語った。
《俺の相棒を産んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。愛してくれてありがとう。俺を受け入れてくれてありがとう。俺にハルキを託してくれてありがとう》
俺でさえ、こんなに伝えたいありがとうがあるというのに、ハルキは伝えても伝えきれないだろうな、と思いながら、胸に手を当てたまま深く深く頭を下げる。
頭を上げると、再び光がその場を包み、ハルキが戻ってくる。
「ありがとうございます、ゼットさん。隊長、ヨウコ先輩も、ありがとうございます」
今起こったことが夢だったのかと錯覚するほどに、そこにウルトラマンがいた名残はない。
だが、確かにいた。地球人の相棒の母を悼むウルトラマンが。
「全く。自重しろ、お前ら」
ジャグラーの言葉で嗜めるが、ヘビクラは仕方ないなと言う風に薄く笑っていた。
式が終わり、母は骨になって帰ってきた。
墓に納骨を済ませ、諸々の手続きを終わらせて、ハルキはゼットに、宇宙に戻ることを伝えた。
《大丈夫なのか?もう少し待ってからでも……》
「大丈夫っすよ。葬式の翌日から仕事するのなんて珍しくもなんともないんで、むしろ俺は恵まれてるっす。それに、ずっとここにいたら母さんにまた叱られるんで」
するべきことをしなさい。母の言葉が耳に蘇る。
《分かった。なら復帰できることを師匠たちに伝えておく》
「はい、お願いします」
数日、遺品整理や雑務をこなし、いよいよ宇宙に戻るためにストレイジに挨拶に顔を出す。
簡単に挨拶をし、昔宇宙に旅立ったときのように空を見上げる。違うのは、今度は戻るために飛び立つということ。
地球の仲間たちに見送られ、随分と久しぶりな気がする宇宙に出る。
「戻ったな」
声がした方に目を向けると、ゼロとジードがそこにいた。
《ゼロ師匠!ジード先輩!その節はありがとうございました!お陰様で、母と過ごすことができました!》
伝えなければ、と思っていた言葉を出すハルキと一緒に、ゼットも頭を下げる。
「一緒にいられてよかったね」
言葉を選ぶようにしながら、ジードが優しい言葉をくれる。
「一応ゾフィー隊長に挨拶しとけよ。その後はまた任務だからな」
《押忍!》
「はい!」
2人で返事をして、ゼロとジードと共に光の国に向かう。お礼を言いたい相手はたくさんいるのだ、任務の合間にでも伝えていかなければ。
別れのときだけでは伝えきれないのだから。