デュエルアカデミア。未来のプロデュエリストをはじめカードデザイナーや教育者等、デュエル界の未来を担うエリートを育成する教育機関。
その鉄の門を潜り抜けるべく厳しい試験を潜り抜ける受験者達。その神聖な試験に一人のメスガキが乗り込む。
これはそんな一日の話。

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第1話

 ここは童実野町。デュエリストならば知らない者はいないデュエルキング武藤遊戯出生の地であり、デュエル産業において世界的に有名な海馬コーポレーションのお膝元といえる決闘(デュエル)聖地(メッカ)

 そこの代表的な建物海馬ドームでは現在、未来のデュエル界を担うと言っても過言ではないエリート決闘者(デュエリスト)を養成する機関――デュエルアカデミアの高等部入学実技試験が行われていた。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、先生!」

 

 ……とは言っても既に試験はほぼ終了しており、現在は電車の事故による遅刻によって本来の時間よりも遅れて実技試験を受けているような特例の受験生を残すだけになっているのだが。

 

「な、何故ナーノ? 何故ワタクシーが、あんなドロップアウトボーイにー……」

 

 敗北した試験官が、自身のモンスターに押し潰された(ソリッドビジョンのため身体に影響はないが)ようにうずくまりながら悔しそうに呟き、「いえ~い! 勝っちゃった俺~!」と言って嬉しそうに小躍りする受験生を睨みつける。

 

「いいぞー! 110番!」

 

 観客席に立つ水色髪に眼鏡の小柄な少年が、そんな小躍りしている少年に歓声を送る。

 

「これで、デュエルアカデミア中央校高等部、入学試験実技試験を終了します」

 

 しかしこれで遅刻をした件の少年の実技試験が終了し、全ての受験生の実技試験が終了する。

 

「続きまして。これよりデュエルアカデミア中等部からの特別編入生、入学試験実技試験を開始します」

 

 ざわりと受験会場中の受験生や、中等部の中でも既に高等部への編入が決まっていて日程の余裕があり入学試験の見学に来ていた三年生がざわつく。

 アナウンスによれば実技試験は終了しており、合否発表は後日という事になっているため受験生は退場しても問題なく、あくまでもこの編入生の実技試験の見学は各々の自由となっている。元々見学に来ている生徒はそもそも入退室自由だ。

 そのため他の生徒の試験にまで興味はないらしい受験生は席を立ってぞろぞろと帰っているが、一部の受験生はやはり「特別編入生」という肩書きが気になっているのか席に座ったままであり、見学に来ている生徒も興味深そうに席についていた。

 

「特別編入生っすか……なんかすごい響きっすよね」

 

「うむ……今聞こえているアナウンスによればどうやら今は中等部の二年生らしい。しかし成績優秀という事で特別に高等部への編入試験を受けられる事になったそうだ」

 

「へー。それじゃあきっとそいつ、とっても強いんだろうな」

 

 水色髪に眼鏡の小柄な少年の呟きに、その隣で観戦していた黒髪を几帳面な短髪にまとめた少年が腕組みをしながら頷き、現在流れている特別編入生なる生徒の紹介といえるアナウンスを聞きながら答えると、いつの間にか戻ってきたのかさっきまで実技試験を受けていた少年が話しながら興味深そうに観客席からデュエル場を見下ろすと同時にデュエル場に一人の女の子が入ってくる。

 銀髪をショートヘアにしており、服は赤を基調としたシンプルなものだがその上から黒猫を模したようなネコミミパーカーを羽織っている。その口元には悪戯っぽい小さな微笑が浮かべられている……

 

「うぎゃー!!!」

 

 その顔を見た瞬間水色髪の少年の口から悲鳴が飛び出した。

 

「ど、どうしたんだい君!? そんな大声を出して!?」

 

「あ、あわわわわわわ……」

 

 周囲の学生が心配そうに声をかけるが彼は顔を真っ青にして声にならない声を上げながら身体を震わせている。明らかに尋常ではない様子だが訳が分からない二人は顔を見合わせるのがやっとだった。

 

 

 

 

 

「特別編入生……そういえばそんな話聞いてたノーネ。それならここは私が直々に相手をシーテ汚名返上とさせてもらうノーネ……」

 

 一方先程実技試験デュエルで負けた試験官が微笑しながら呟く。

 つい先ほどは不覚を取って、実技試験に遅刻するような心構えもなっていない上に筆記試験の成績もどん底レベルのドロップアウトボーイに負けてしまったが、次に試験を受けるのは未だ中等部二年生ながらも特別編入生として高等部への飛び級で編入試験が認められる程の成績を収めた優秀な生徒。ここで素晴らしいデュエルを行いこの汚名を返上すればいい。そう彼は考えていた。

 

「クロノス教諭」

 

 そんな彼に何者かが声をかけ、試験管――クロノスは立ち上がりながら声の方を向く。

 そこに立っているのは黒髪にサングラスをかけて青いコートを着た男性。その姿を認めたクロノスは「ああ」と声を漏らした。

 

「これは茂野間(ものま)ネオ先生、一体どうしたノーネ」

 

「いえ。次の特別編入生とのデュエルは私が試験官としてデュエルを行うので」

 

 どうやら彼が件の編入生の試験官らしい。それを知ったクロノスはニヤリと笑みを浮かべた後、人当たりのいい笑顔を浮かべて茂野間に話しかけた。

 

「どうでしょう? そのデュエル、私に代わっていただけないノーネ?」

 

「申し訳ないですが、これは校長先生直々の指定ですので……」

 

「ぬぅ……」

 

 校長先生直々に指名されたと言われてしまえば言い返せず、クロノスは渋々とデュエルリングを降りる。

 そして編入生の生徒と茂野間がデュエルリングに上がり、編入生の少女は目を細めながらにこりと笑みを見せた。

 

「今回編入試験を受ける柳里(やなり)彩葉(あやは)です。よろしくお願いします」

 

 編入生――彩葉がにこりと笑顔を浮かべてぺこりと一礼。まさに飛び級入学を認められても不思議ではない相手であるというような丁寧な所作に観客の生徒達は、何故か一部苦虫を噛み潰したような顔をした生徒や顔を青くしている生徒がいる以外は「おお」と感心したように声を漏らし、茂野間は何故か僅かに変なものを見るような表情を見せながらこちらこそと会釈で答える。

 

――はっはっは。流石にあなたも初対面の相手には礼儀正しく接するんですね

 

 突然そんな声が会場内のスピーカーから聞こえる。老熟したような男性の声に生徒どころか茂野間を除く先生までもきょろきょろと辺りを見回すと、会場のメインモニター。位置的にはちょうど彩葉と対峙する茂野間の真後ろに位置するモニターが点灯する。

 

「ナ、こ、校長先生!?」

 

 既に席に戻っていたクロノスが仰天の声を上げる。

 そのモニターに映っている初老だろう恰幅の良い温和そうな男性はまさしく今この会場で入学試験を受けている生徒達が入学を目指している学園――デュエルアカデミアの校長こと鮫島であった。

 すると鮫島がゴホンと一つ咳払いを漏らしてから話し出す。

 

――皆さん。驚かせてしまい申し訳ありません。デュエルアカデミアの校長、鮫島です。まずはこの場に残った入学希望者の方々、実技試験お疲れさまでした

 

 まずは今回実技試験を受けた生徒の皆への労いの言葉。優しい微笑みを浮かべながらのそれに受験生の皆は照れ臭そうに頭をかいたり頬をかいたりと反応を見せる。

 そんなほんわかとした空気の中鮫島の優しい微笑みが消え、彩葉に厳しい目を向けた。

 

――そして今回特別編入生として選ばれた柳里彩葉さん。あなたの編入実技試験の相手は私が行います

 

 校長が直々に実技試験の相手を行う、という言葉。だがその言葉に反して試験官として場に立っているのは茂野間。そんな矛盾した様子に会場内がざわめいているとそれを察したように鮫島は鷹揚に頷いた。

 

――皆さんの動揺も分かります。しかしこの日のために私は特別に作った試験用デッキの基本的な運用方法を茂野間先生に教え、その上で茂野間先生には私から指示を出すための通信用のカメラやマイク、スピーカー等を装着していただいております

 

 つまりデュエルを行うのは茂野間だが、実際には鮫島がカメラを通じて手札や場の状況を確認して茂野間に指示を出してデュエルを代行するという事だろう。基本的な運用方法を教えたのは万が一のトラブルで通信が出来なくなった時に問題なくデュエルを続行させるための保険だろう。

 そして鮫島が彩葉に柔和な笑顔を向ける。しかしその額には心なしか怒りマークが浮かんでいた。

 

――今回の特別編入試験に当たって、中等部から色々とお話は伺っていますよ。柳里彩葉さん

 

 それから鮫島が話し出すのは、たしかに彩葉は中等部二年生にして既に中等部卒業レベルの成績を修めているという彼女の学業と実技の優秀さを示す話。

 だが同時に素行の悪い三年生に喧嘩(デュエル)を売ってはボコボコに撃破して煽り倒すような暴走癖もあり、それは中等部の教員から鮫島に、かなり柔らかい表現でフィルターをかければ「もう手に負えません」「中等部のレベルを超えています」「どうか高等部で引き取ってください」という内容の苦情が届くほど。

 ちなみにその「ボコボコに撃破して煽り倒す」の部分で一部の中等部からの編入決定組がチッと舌打ちを叩いていたり、既に高等部の制服を身体に馴染ませている先輩だろう威厳のある生徒が頭を抱えていたり、その隣の美少女が頬を引きつかせて苦笑していたりしていた。

 

――無論。だからと言って良くも悪くもあなたを特別扱いする気はありません……ですが、かつてサイバー流を、そしてリスペクトデュエルを教えた師として。私にはあなたのデュエルアカデミア高等部への飛び級入学が正しいか否か見定める義務があると思っています。私が今回のために特別にあつらえた試験用サイバー流デッキにて、あなたのデュエルを見せていただきます

 

 その言葉を合図にしたように茂野間がデュエルディスクにデッキをセットし、彩葉もそれに倣うようにデュエルディスクにデッキをセットする。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして二人の声が重なり合った。

 

「先攻は受験生からだ」

 

「じゃあ私のターン、ドロー」

 

 茂野間が構えを解いて促せば彩葉がお言葉に甘えてと言うように先攻を取ってカードをドロー。六枚になった手札をさっと眺めるとその内の一枚を取った。

 

「私は手札の《サイバー・ダーク・クロー》を捨てて効果発動。このカードを手札から捨てて発動でき、デッキからサイバーダーク魔法・罠カード一枚を手札に加える。私は永続魔法《サイバーダーク・ワールド》を手札に加えてそのまま発動! このカードの発動時の効果処理として、同名カードが自分の墓地に存在しないサイバー・ダークモンスター一体をデッキから手札に加える事ができる。私は《サイバー・ダーク・ホーン》を手札に加えるよ」

 

「ほう……」

 

 一枚のサーチカードから永続魔法をサーチし、さらにその永続魔法の効果でモンスターをサーチ。堅実にアドバンテージを取る手法に茂野間は感嘆の声を漏らす。

 

――ふふふ、茂野間先生。感心している暇はないと思いますよ?

 

 そんな茂野間に鮫島が通信越しで声をかける。なお既に会場に繋がるマイクは切っていて茂野間のつけているイヤホンにしか鮫島の声は聞こえないようになっている。

 

「《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚して、効果発動。このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備する。私は《サイバー・ダーク・クロー》を装備するよ。さらにサイバー・ダーク・ホーンの攻撃力はこのカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップするよ」

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:800→2400

 

「こ、攻撃力2400!?」

 

――いえいえ。この程度は彼女にとって序の口ですよ

 

 サイバー・ダーク・ホーンの腹部からケーブルが伸び、彩葉の墓地から先程墓地に送られたサイバー・ダーク・クローを引きずり出して抱え込むように取り込むとそのエネルギーを吸収して攻撃力を引き上げる。その姿に茂野間が驚いたような声を上げると鮫島が笑いながら声をかける。

 

「さらに手札から魔法カード《タイムカプセル》を発動するよ。デッキからカードを一枚選択して、そのカードをタイムカプセルに入れる。発動後二回目の自分のスタンバイフェイズ時にタイムカプセルは破壊され、中のカードは私の手札に加わる。何が入るのか楽しみにしててね♪ カードを一枚セットしてターンエンドだよ☆」

 

「わ、私のターンドロー!」

 

 彼女の場に出現した棺型のタイムカプセルに一枚のカードが封印され、タイムカプセルは地中に姿を消す。そして彩葉がキャハっと無邪気に笑い、カードを一枚伏せながらターンエンドを宣言すると、茂野間が自身のターン開始を宣言してカードをドローし、六枚になった手札をカメラに写して鮫島に見せる。

 

――ふむ。では……

 

 校長室に置いたパソコン越しに映像を受け取った鮫島が茂野間に指示を出す。その内容の茂野間もおよそは頷いたが一つだけ奇妙に思ったようにマイクに口を寄せた。

 

「しかし鮫島校長、このカードも使った方がいいのでは?」

 

――いえ。私の読みではそれは温存した方がいいかと

 

「はぁ……分かりました」

 

 鮫島がキリリとした表情で茂野間の疑問に答えるが音声しか聞こえない茂野間ではそこまでは分からず、鮫島の指示に了承の言葉を返して手札を取る。

 

「私は《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚! 相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる! さらに《強化支援メカ・ヘビーウェポン》を召喚! ここで魔法カード《アイアンドロー》を発動! 自分フィールドのモンスターが機械族の効果モンスター二体のみの時発動でき、自分はデッキから二枚ドローする。ただしこのカードの発動後、ターン終了時まで私は一回しかモンスターを特殊召喚できない……が、問題はないだろう。強化支援メカ・ヘビーウェポンの効果発動! このカードは自分フィールドの機械族モンスター一体に装備カード扱いとして装備する事ができ、装備モンスターの攻撃力・守備力を500ポイントアップさせる! さらに装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する」

 サイバー・ドラゴン 攻撃力:2100→2600

 

「むぅ……」

 

 生贄なしに五つ星モンスターを特殊召喚しただけではなく、ユニオンモンスターを召喚してドロー加速。さらにユニオンモンスターを装備に回す事でステータスを底上げするだけではなく身代わりとはいえ戦闘・効果に対する破壊耐性を与える。

 観客も先攻の彩葉もモンスター効果と装備効果を駆使したとはいえ攻撃力2400のモンスターを出した事に驚いていたが、後攻の茂野間(正確には指示を出している鮫島)もそれを上回るモンスターを装備効果を駆使して容易に繰り出す光景にこのデュエルを見ている生徒達は「おお!」と歓声を上げ、一部の生徒に至っては「いいぞ試験官!あのメスガキを分からせてやれ!」とまで声援を送っていた。

 

「……私は永続魔法《強欲なカケラ》を発動し、カードを一枚セットしてターンを終了する」

 

 しかし生徒達の期待に反して茂野間は永続魔法を一枚発動してリバースカードを一枚伏せるとターンエンドを宣言。すると彩葉がニヤッと笑みを見せた。

 

「キャッハ♡ こんな隙だらけなのに攻撃をしてこないなんて、鮫島おじーちゃんってばどーしちゃったの? それとも鮫島おじーちゃんは攻撃する気だったのにせんせーの方が怯えちゃったのかなぁ?」

 

 いきなり煽りだす彩葉としかしこれも指示通りといわんばかりに堂々と立つ茂野間とモニターで堂々とした姿を見せる鮫島。それを見守る観客席の生徒達は先程とは別の意味でざわついていた。

 

「なんであの先生攻撃しねーんだ?」

 

「今のサイバー・ドラゴンは装備したユニオンモンスターの効果により、戦闘・効果への破壊耐性も出来ている……あの伏せカードを警戒しているにしても慎重すぎやしないだろうか?」

 

 この話の最初に実技試験を受けていた受験生の少年と、その少年の近くで観戦している生真面目そうな少年も首を傾げたり疑問を持ちながら話し合っている。

 

「い、いや……あの状況で下手に攻撃を仕掛けたら次のターンとんでもないカウンターをくらってたかも……」

 

 そんな彼らの近くで水色髪の少年が顔を青くしながら呟いていた。

 

「(ちぇ~。攻撃を仕掛けてきてくれたら多少ダメージ受ける代わりにサイバー・ダーク・クローの効果が使えた上に、クローを戦闘破壊の身代わりに破壊してその時に発動する効果でまた手札に戻してサーチ効果が使えたのに……まあ鮫島おじーちゃんならこの程度は読めるよね…)…私のターン、ドローだよ」

 

 一方煽りを終えた彩葉は、それでも茂野間も鮫島も堪える様子がないのを見て内心面白くなさそうな顔になりつつそれを手札で口元を覆って隠す。

 敢えて隙を見せつつもそれ自体が策の範疇。しかし鮫島は彩葉の策を読んで敢えて攻撃をしない形で彩葉の策を潰してみせていた。

 

「私は手札の《アタッチメント・サイバーン》の効果を発動するよ。自分フィールドのドラゴン族または機械族のサイバーモンスター一体に、このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。私はサイバー・ダーク・ホーンにアタッチメント・サイバーンを装備するよ。さらにアタッチメント・サイバーンを装備したモンスターの攻撃力は600アップする」

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:2400→3000

 

「こ、攻撃力3000!? しかもあのカード、今ドローしたのでなければ既に手札に持っていたはず……!?」

 

――やはり前のターンは敢えて攻撃を誘っていましたか

 

 彩葉が提示した手札から出現した機械竜が武装となってサイバー・ダーク・ホーンに取りつき、サイバー・ダーク・ホーンに力を与える。その光景と彼女にプレイングに茂野間が驚きの声を上げると鮫島がやはりと声を漏らした。

 

「バトルだよ! サイバー・ダーク・ホーンでサイバー・ドラゴンを攻撃! そしてこのダメージ計算時にサイバー・ダーク・クローの効果を発動するよ。このカードを装備したモンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動でき、自分の融合デッキからモンスター一体を墓地へ送る。私は《F・G・D》を墓地に送るね」

 

「くぅっ!? しかし強化支援メカ・ヘビーウェポンを身代わりに破壊する!」LP4000→3600

 サイバー・ドラゴン 攻撃力:2600→2100

 

 サイバー・ドラゴンの口から放たれるブレス状の光線がサイバー・ダーク・ホーンの口から放たれるブレス状の光線とぶつかり合うも、サイバー・ダーク・ホーンの光線の方が上回る。しかし土壇場でヘビーウェポンが飛び出すとその光線を防ぐ壁となって破壊され、そこで出力が落ちたのかサイバー・ダーク・ホーンの光線も止まる。

 

「リバースカードを一枚セットしてターンエンドだよ」

 

「私のターン、ドロー! このドローフェイズに通常のドローをする度に、強欲なカケラに強欲カウンターを一つ置く」

 

 そして彩葉は伏せカードを出して守りを固め、ターンエンドを宣言。次のターンプレイヤーである茂野間がターン開始を示すドローカードを行い、ついでに強欲なカケラに力が宿る中、四枚の手札を己だけでなく鮫島も確認。

 

――ふむ。では……

 

 そして鮫島から出される指示に茂野間もこくりと頷いて手札を取った。

 

「私は魔法カード《融合》を発動! 場のサイバー・ドラゴンと手札の《サイバー・ドラゴン》を融合し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚!! さらに装備魔法《サイバー・ローアー》をサイバー・ツイン・ドラゴンに装備! このカードはサイバーモンスター専用の装備魔法、装備したモンスターの攻撃力は300ポイントアップする! さらにこのカードがサイバー・ドラゴンまたはサイバー・ドラゴンを融合素材とする融合モンスターに装備された時、デッキからカードを一枚ドローする!」

 サイバー・ツイン・ドラゴン 攻撃力:2800→3100

 

 装備魔法の効果によりサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力がサイバー・ダーク・ホーンを上回る。高攻撃力のモンスターに対してさらに高い攻撃力で逆転するダイナミックな光景に観客席がさらに盛り上がった。

 

(サイバー・ローアーは前のターンで既に手札にあり、サイバー・ドラゴンに装備する事も出来た……だがそうしていても攻撃力は2900止まり。次のターンのサイバー・ダーク・ホーンの攻撃力には敵わない。そしてサイバー・ドラゴンを融合素材にしていればサイバー・ローアーも失ってこのターン逆転する手段を失っていた……鮫島校長はこれを読んでいたという事か……)

 

 茂野間はサイバー・ローアーを前のターン、サイバー・ドラゴンに装備するよう進言したのだが鮫島は温存を選択。その理由をここで察した茂野間は鮫島の先を読んだ戦略性に感服していた。

 

「バトルだ! サイバー・ツイン・ドラゴンでサイバー・ダーク・ホーンを攻撃! エボリューション・ツイン・バースト!!」

 

「サイバー・ダーク・クローの効果で《千年竜(サウザンド・ドラゴン)》を墓地に送るね。そして、サイバー・ダーク・ホーンが戦闘で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。サイバー・ダーク・クローを破壊するよ」LP4000→3900

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:3000→1400

 

 先程と同じようにサイバー・ツイン・ドラゴンの双頭の口から放たれる光線がサイバー・ダーク・ホーンの口から放たれる光線とぶつかり合うも、今度はサイバー・ツイン・ドラゴンの光線の方が上回る。しかしサイバー・ダーク・ホーンは腹部のケーブルを伸ばしてサイバー・ダーク・クローを身代わりにし、己の破壊を免れてみせた。

 

「サイバー・ダーク・ホーンに装備されていたサイバー・ダーク・クローが墓地に送られた事で、サイバー・ダーク・クローの効果を発動するよ。モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地に存在するサイバー・ダークモンスター一体を手札に加える。サイバー・ダーク・クロー自身をもう一度手札に加えるね」

 

「もう遅い! サイバー・ツイン・ドラゴンは一度のバトルフェイズに二度の攻撃ができる! そして――」

――待ってください! そのカードはまだ温存を!

「――え!?」

 

 茂野間は連続攻撃を指示し、さらに最後の手札に手をやる。だが即座に鮫島から通信が入ってストップがかかり、茂野間が驚いたように硬直した間にバトルが進んでサイバー・ツイン・ドラゴンの双頭から再び光線が放たれる。

 

「トラップ発動《パワー・ウォール》! 相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動でき、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき一枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。今回私が受けるダメージは1700だから、これが0になるように500ダメージにつき一枚、つまり四枚のカードを墓地に送って、今回の戦闘は無傷で終了。残念でしたー☆」

 

「な……防がれた……!? 私はカードを一枚セットしてターンエンドだ!」

 

 サイバー・ダーク・ホーンは守り切れなかったものの彩葉自身はデッキのカードをエネルギーとする壁によってダメージを防ぐ。その光景に茂野間はやけに大仰に焦った様子を見せた後、鮫島から指示が飛んだのかイヤホンの方に目線を向けた後にさっき手に取った手札を伏せてターンを終えた。

 

(今私が伏せたカード、そして発動しようとしたカードは《リミッター解除》……これを発動し、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力を倍にすれば。攻撃が通れば私の勝ちだった……だが)

 

 茂野間の額を汗が流れる。勝機を前に攻め急ぎかけたが、実際はパワー・ウォールによって攻撃を防がれていた。そのままターンエンドを迎えればリミッター解除のデメリットによってサイバー・ツイン・ドラゴンは破壊され、丸腰の状態でターンを明け渡さざるを得なくなっていた。

 その上パワー・ウォールはいわばこちらの攻撃力が高いほどに墓地を肥やす事が出来る墓地肥やし型のカウンター系防御カード。やすやすと墓地を肥やす事さえ許していただろう。

 

(鮫島校長、一体どこまで彼女の戦術を読み切っているんだ……)

 

 茂野間は通信越しでさえ彩葉の戦術を読み切っているかのように動く鮫島の観察眼に内心舌を巻いていた。

 

(さっき発動しようとして、今は伏せたカード。あれ多分《リミッター解除》辺りだろうなぁ……発動してくれてれば攻撃力が高くなってた分戦闘ダメージも増えてパワー・ウォールで墓地肥やしできたのに……)

 

 一方彩葉も茂野間の挙動から相手の戦術を、そしてそこから伺える伏せカードの正体を考察する。

 もしもあの伏せカード、そして発動しようとしたカードがリミッター解除であったならばという彩葉からすれば仮定だが。そうだった場合サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は6200になっており、サイバー・ダーク・ホーンとのバトルによって彩葉が受けるはずだったダメージは4800。

 それをパワー・ウォールで防いでいた場合、これが0になるように500ダメージにつき一枚、つまり十枚のカードを墓地に送れていたところが四枚止まり。その上リミッター解除のデメリットでサイバー・ツイン・ドラゴンが破壊されていれば攻めに転じやすかったのにサイバー・ツイン・ドラゴンは未だに茂野間の場で3100という高攻撃力で彩葉にプレッシャーをかけている。

 

(多分鮫島おじーちゃんが何か入れ知恵したんだろうなぁ……やりづらっ)

 

 元々彩葉はサイバー流の師弟として鮫島に師事してデュエルを学び、今使っているサイバー・ダーク達をメインカードとするサイバー流裏デッキも鮫島に認められて相伝されたもの。ある程度手の内を知られているというのは当然あるだろう。しかし鮫島が彩葉の戦術を見抜いている理由はそれだけではない。

 かつて彩葉が鮫島の下で学んだリスペクトデュエルの神髄、それは「相手の心となって自分を見ること」。即ち相手をリスペクトしていれば自然と相手が自分に対して何を思ってデュエルをするかを見通せる。そうやって相手の立場となって自分を見直す事で自身に足りぬものを見つけより成長する。そしてそれを極めれば相手のいかなる戦術にも対応できるデュエルが可能となる。という教え。

 鮫島はまさしくその教えを極めて鍛えられた目によって彩葉の戦術に対応してみせていた。

 

「(まあ、とりあえずやるしかないか…)…私のターン、ドロー」

 

 彩葉がターン開始を宣言しながらカードをドローする。その瞬間彼女の場の床がひび割れ、そこから棺型タイムカプセルが出現した。

 

「タイムカプセル発動後、二回目のスタンバイフェイズ。私はタイムカプセルを破壊し、棺に入れたカードを手札に加えるよ♪」

 

 彼女の場に密かに残っていたカード──タイムカプセル。それが破壊され、棺の中に封印されていたカードが彩葉の手に渡る。これで彼女の手札は合計五枚、彩葉はその中の一枚を自信満々に取った。

 

「《サイバー・ダーク・クロー》の効果発動♪ このカードを捨ててデッキからサイバーダーク魔法・罠カード、《サイバネティック・ホライゾン》を手札に加えるね。このカードはルール上サイバーダークカードとしても扱うよ。そして《サイバネティック・ホライゾン》を発動! 手札及びデッキからそれぞれ一体ずつ、ドラゴン族または機械族のサイバーモンスターを墓地へ送る事で、デッキからドラゴン族または機械族のサイバーモンスター一体を手札に加えて、融合デッキから機械族のサイバー融合モンスター一体を墓地へ送るよ。私は手札の光属性・機械族の《サイバー・レーザー・ドラゴン》とデッキから闇属性・ドラゴン族の《サイバー・ダーク・カノン》を墓地に送る事で、デッキから機械族の《サイバー・ダーク・エッジ》を手札に加えて、融合デッキから《サイバー・ツイン・ドラゴン》を墓地に送るね」

 

 再びサイバー・ダーク・クローの効果を使ってサイバーダークとして扱う魔法カードをサーチし、それを用いてサーチと墓地肥やしを一気にこなし、まだ終わらないとばかりに次の手札を取った。

 

「魔法カード《貪欲な壺》を発動するよ。自分の墓地のモンスター五体をデッキに戻してシャッフル。その後二枚ドローする。私はサイバー・ツイン・ドラゴン、千年竜、サイバー・レーザー・ドラゴン、サイバー・ダーク・カノン、ハウンド・ドラゴンをデッキ及び融合デッキに戻してカードを二枚ドローする。そして――」

 

 肥やした墓地のリソースを利用してドローを加速した後、彩葉はにまっと笑って一枚の手札――タイムカプセルに封印していたカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「――魔法カード《サイバーダーク・インパクト!》を発動! 自分の手札・フィールド・墓地から、《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・キール》を一枚ずつ持ち主のデッキに戻し、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》一体を融合召喚する! 手札のエッジ、そして墓地のホーンとキールでサイバーダーク・インパクト! 現れろ、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》!!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000

 

「こ、攻撃力1000?」

――舐めない方がいいですよ? あれこそサイバー流裏デッキの切り札の一柱。その爆発力はともすれば我らサイバー流の切り札、サイバー・エンド・ドラゴンをも上回るのですから

 

 爆発的なエネルギーがフィールドを走り、彩葉の場に出現した黒い機械竜。だがあそこまで大仰な召喚方法を用いて呼びだすようなモンスターとも思えない攻撃力に茂野間が困惑した声を出すも鮫島は通信越しでも分かるほどにクスクスと笑い声を零しながら茂野間に警告を見せていた。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンの効果発動! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備。このカードの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地の《F・G・D》を装備して、その元々の攻撃力5000、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力がアップするよ」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000→6000

 

 機械竜──サイバー・ダーク・ドラゴンの身体のケーブルが地中に伸び、そこから引きずり出された五つ首の竜がサイバー・ダーク・ドラゴンに取り込まれるように装着。同時に繋がれたケーブルからエネルギーを取り込んだのかサイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力が一気に跳ね上がり、その圧倒的な攻撃力に観客席から慄くような声が漏れ出た。

 

「攻撃力6000!?」

 

――そらきた。ですが警戒はまだ続けていた方がいいですよ?

 

 その慄きは茂野間も例外ではなく。しかし対して鮫島はクスクスとした笑い声を零しながらまだ警告を続けていた。

 

「まだ終わらないよ♪ サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は装備したモンスターの攻撃力だけじゃなく、自分の墓地のモンスターの数×100アップする。私の墓地のモンスターはアタッチメント・サイバーン、サイバー・ダーク・クロー、サイバー・ドラゴンの三枚。よって攻撃力はさらに300ポイントアップ!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:6000→6300

 

「こ、攻撃力6300!? まさか、彼女はここまで狙っていて……」

 

――ええ、もちろん狙ってはいたでしょうが……今回はちょっと危なかったでしょうね

 

「え?」

 

 再び墓地にケーブルが伸び、そこに眠るモンスターに残された微弱なエネルギーまでも吸い上げて己のものとする。まさしく暴虐の力を持つモンスターを呼びだす手腕に茂野間は彩葉の戦略性を評価する言葉を投げると、鮫島はその評価を肯定しつつも今回は危なかったとも漏らす。その言葉に茂野間は若干困惑の顔を見せていた。

 

(……危なかったー!!! パワー・ウォールで落ちた四枚の中にキールがいなかったらサイバー・ダーク・インパクトが使えないとこだったよ……しかもクローでサイバネティック・ホライゾンをサーチしてゴリ押しで融合素材を揃えたから手札も場もあまりよくないし……)

 

 一方彩葉も、彼女自身は知る由もないだろうが鮫島の言う通り。ギリギリでサイバー・ダーク・インパクトを決められた崖っぷちだった事を内心汗ダラダラになりながらぼやく。なおそれでも顔はにししと微笑む悪戯っぽい顔をキープしつつ、それを三枚の手札で隠して底知れない雰囲気を見せる演出は忘れない。

 

「……」

 

 顔面は内心を隠しているという意味ではある意味ポーカーフェイスのまま、彩葉は何かを考える。そして「賭けになるけど仕方ないか」と内心でぼやいた後、キッとした目を見せた。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃! フル・ダークネス・バースト!!」

 

――いけません! 構えてください!

「!?」

 

 彩葉の命令と共に彼女の場の暗黒の機械竜が動き出し、己が取り込んだドラゴンのエネルギーと墓地から吸い上げたエネルギーを込めた強烈な光線がその口から放たれる。その光景をカメラ越しに見た鮫島が声を上げ、茂野間が驚きつつも反射的に構えると彩葉が先に動いた。

 

「墓地からトラップカード《スキル・サクセサー》を発動! 墓地のこのカードをゲームから除外し、私の場のモンスター一体の攻撃力をエンドフェイズ時まで800ポイントアップする!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:6300→7100

 

「こ、攻撃力7100!?――はっ!?」

 

 さらに引き上げられた攻撃力に茂野間は驚きつつ気づく。今サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は3100、これを受ければ戦闘ダメージは4000。つまりこの攻撃を受ければ――

 

「速攻魔法発動《リミッター解除》!! サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力を倍にする!!」

 サイバー・ツイン・ドラゴン 攻撃力:3100→6200

 

 己の敗北を察した瞬間反射的に伏せていたカードを発動。同時にサイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃に対抗して光線を放ち、ぶつけながらも押されているサイバー・ツイン・ドラゴンのリミッターが解除されて光線の出力が引き上がる。

 しかしそれでも辛うじて拮抗しつつ徐々に押されていくのは変わらず、最後にはリミッターを解除したサイバー・ツイン・ドラゴンの身体の方がもたずにその頭部の片方が爆散して光線の数が減り威力が減衰した事で受けきれなくなった光線がサイバー・ツイン・ドラゴンを飲み込み粉砕するのだった。

 

「ぐああああぁぁぁぁっ!!」LP3600→2700

 

 しかし即死級のダメージを減らし敗北を避ける事には成功。彩葉が魔法・罠ゾーンに二枚のカードを伏せてターンエンドを宣言するのを聞き、茂野間がデッキに指をかけた。

 

「私のターン、ドロー! この時強欲なカケラに強欲カウンターが乗る。そして強欲なカケラの効果発動! 強欲カウンターが二つ以上置かれているこのカードを墓地へ送り、私はデッキからカードを二枚ドロー!」

 

 ドローフェイズでの通常のドローと合わせて手札は四枚。それを見た鮫島は渋い顔を見せながら指示を出した。

 

――なかなかに危険な状況ですが。賭けに出るしかないでしょうね

 

「は、はぁ……」

 

 これ編入実技試験なのだが、鮫島校長は結構本気でデュエルしていないだろうか?

 そんな言葉が茂野間の頭をよぎるが、とりあえず鮫島の指示通りに手札を取った。

 

「魔法カード《壺の中の魔術書》を発動! 互いのプレイヤーはデッキからカードを三枚ドローする! カードを三枚ドロー!」

 

「私も三枚ドローっと。ありがとねー♪」

 

 これで茂野間の手札は六枚、彩葉の手札は四枚。互いに手札は補充できたが、茂野間は鮫島から次の指示を受けて油断なく手札を取った。

 

「速攻魔法《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動! ライフポイントを半分払い、このターン私が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に一度だけ、その融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分の場、手札、墓地から選んでゲームから除外し、これらを融合素材にできる! そして魔法カード発動《パワー・ボンド》! 機械族の融合モンスター一体を融合召喚する! 私は手札の《サイバー・ドラゴン》と、墓地のサイバー・ドラゴン二体を除外融合! 《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚!!」LP2700→1350

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000

 

 

「攻撃力4000! すっげー!!」

「だがあれではサイバー・ダーク・ドラゴンには敵わない……」

 

 茂野間の場に姿を現すのは白銀の身体を持つ三つ首の機械竜。その姿を見た観客席の少年が目を輝かせるが隣の少年は戦況を冷静に分析して難しい顔を見せる。

 

「ううん……あれなら、攻撃力は上回れる……」

 

 その近くで水色髪の少年はそう呟いていた。

 

「パワー・ボンドで特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする!」

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000→8000

 

 攻撃力4000が倍加して8000。一気にサイバー・ダーク・ドラゴンを上回る攻撃力に先程の少年達はもちろん観客席にいる受験生や生徒達から歓声が上がった。

 

「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンでサイバー・ダーク・ドラゴンに攻撃!!」

 

「この瞬間速攻魔法《神秘の中華なべ》を発動! 私の場のモンスター一体を生け贄に捧げ、そのモンスターの攻撃力か守備力の数値だけ私のライフポイントを回復するよ。私はサイバー・ダーク・ドラゴンを生贄にその攻撃力6300ポイントライフを回復!」LP3900→10200

 

「ならば攻撃続行だ!」

 

「くぅっ……」LP10200→2200

 

 茂野間の攻撃宣言と同時に彩葉が発動したカードによって、サイバー・ダーク・ドラゴンが光の粒子となって消滅しその光の粒子が彩葉に降り注いでライフポイントを大幅に回復させる。

 しかしこれで彩葉の場はがら空きとなり、茂野間は鮫島の指示の下追撃を指示。サイバー・エンド・ドラゴンの三つ首から放たれる光線が彩葉のライフを大幅に削る……が、そこで彩葉の場のカードが翻った。

 

「トラップ発動《ダメージ・コンデンサー》! 自分が戦闘ダメージを受けた時に手札を一枚捨てて発動、受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター一体デッキから表側攻撃表示で特殊召喚するよ」

 

 今回受けた戦闘ダメージは8000。大抵のモンスターを特殊召喚出来る権利を与えられたと言ってもよく、観客席の観客も、対峙している茂野間も、茂野間のサングラスに着けたカメラ越しで確認している鮫島もごくりと固唾を飲みながら、デッキを広げて何を出そうかと見ている彩葉を見守る。そして彩葉が一枚のカードをデッキから抜き出してモンスターゾーンに置いた。

 

「私は《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚!」

 サイバー・ドラゴン 攻撃力:2100

 

「サイバー・ドラゴン!」

――ほほう……

 

 彩葉が呼びだしたのは先程まで茂野間が操り、そして今彼の場にいるサイバー・エンド・ドラゴンの融合素材でもあった白銀の機械竜。その姿に茂野間が驚き、鮫島は意味深に微笑む。

 

――茂野間先生。とりあえずメインフェイズ2に入ってください。何をすればいいかは分かりますね?

 

「もちろんです……メインフェイズ2に入り、私は《サイバー・ジラフ》を召喚し、効果発動。このカードを生け贄に捧げ、このターンのエンドフェイズまで私への効果によるダメージは0になる……パワー・ボンドには発動したターンのエンドフェイズに、私はこの効果でアップした数値分のダメージを受ける効果がある。だがこれでそれを無効にさせてもらったよ」

 

 爆発的な攻撃力の上昇に違わぬデメリットだがそれを見事にカバーする戦術。観客が「おお」と声を漏らした。

 

――手札は残り二枚でしたよね、確認させてください

 

「は、はいっ!」

 

 しかしこの程度は当然とばかりに次の戦術を練ろうとする鮫島からの言葉に茂野間は慌てて残り二枚の手札をカメラに映した。

 

――(手札は《ピケルの魔法陣》と《天罰》……両方伏せたいところですが、天罰には手札コストが必要。天罰を伏せるならばピケルの魔法陣は手札コストとして残しておきたいですね)

 

 次のターン彩葉が、このターン茂野間の使った壺の中の魔術書のような相手にも手札を与えるカードを使ってくる可能性もなくはないがそれを当てにするのは少々危険。天罰を伏せるなら手札コストとしてピケルの魔法陣は温存するべきだろう。

 そうなるとどちらを伏せるかが重要になる。そしてそのためには相手が何を狙うかを読む必要がある。

 

――(彩葉さんは先程の攻撃、サイバー・ダーク・ドラゴンを神秘の中華なべの生贄にした……それをしたところでダメージ量は変わらないのに。さらに言えばサイバー・ダーク・ドラゴンにはサイバー・ダーク・ホーン達のように戦闘破壊時に装備モンスターを身代わりに出来る効果がある……)

 

 サイバー・ダーク・ドラゴンを生贄にした大量のライフ回復。一見お得に見えるだろうが結局その攻撃力で壁になるサイバー・ダーク・ドラゴンを失ったせいでダメージ量そのものは変わらない。それどころかサイバー・ダーク・ドラゴン自体は身代わり効果で守れる事を考えればボードアドバンテージとしては損をしていると言っていい。

 

――(つまり、そこ(敢えてダメージを増やす事)に意味がある)

 

 彩葉のデッキは多少彼女なりのアレンジが加わっているとはいえその根本はサイバー流裏デッキ、そしてサイバー流デッキの流れを汲んでいるもの。ならば鮫島も必然そのデッキ構成、つまり今回ダメージ・コンデンサーで特殊召喚を狙えるモンスターにも当たりはつく。

 

――(サイバー・エンド・ドラゴンとサイバー・ダーク・ドラゴンが戦闘を行ったとして、受ける戦闘ダメージは1700。それでは足りなかったという事。彩葉さんのデッキにも攻撃力0の《サイバー・ヴァリー》はいるはず、普通に考えればサイバー・ヴァリーを出し、次のターン生き残ったサイバー・ダーク・ドラゴンと共に除外してドローを加速する方が戦略の幅も広がるはず。それをしなかった、つまり……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ドローで手札を増やす事に頼らず、確実にサイバー・ドラゴンに繋げたい。それはつまりサイバー・ドラゴンが逆転の道筋になるという証拠。さらに彼女は前のターン、サイバー・ドラゴンが墓地に存在する事を明言している。そしてここまでのプレイング。

 

――(……なるほど。彩葉さん、読めましたよ。あなたの戦略)

 

 おそらくあの伏せカードか手札の中にたとえばリビングデッドの呼び声や死者蘇生のような蘇生効果持ちのカードがある。

 そして手札の一枚、あるいは可能性としては低いがあの伏せカードの正体は、サイバー・ドラゴン二体を生贄として手札・デッキ・墓地から《サイバー・レーザー・ドラゴン》を特殊召喚できる速攻魔法《フォトン・ジェネレーター・ユニット》。そしてサイバー・レーザー・ドラゴンには自身の攻撃力以上の攻撃力か守備力を持つモンスター一体を破壊する事ができる効果がある。

 

――(死者蘇生かリビングデッドの呼び声か分かりませんがサイバー・ドラゴンを蘇生し、サイバー・ドラゴンを二体揃えてサイバー・レーザー・ドラゴンに繋げる。そしてその効果でサイバー・エンド・ドラゴンを破壊し、ダイレクトアタックを決めるつもりですね。今の茂野間先生のライフポイントならそれで勝敗は決する……ですが)

 

 そうはいかない。天罰でサイバー・レーザー・ドラゴンの効果を無効にし破壊すれば次のターン、相手に攻撃を防ぐ術がなければサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃でそのまま押し切れる。

 こちらの取る戦術は決まったとばかりに鮫島はこくりと頷いてマイクを口元に近づけた。

 

――天罰を伏せてください。それでこのターンは終わりです

 

「はい。私はリバースカードを一枚セットし、ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー」

 

 鮫島の指示に従った通りに茂野間はカードを伏せてターンエンドを宣言し、彩葉がカードをドローする。そして彼女は前のターン、壺の中の魔術書でドローする前から持っていた一枚の手札を取った。

 

「魔法カード発動《強制転移》! お互いのプレイヤーは、それぞれ自身のフィールドのモンスター一体を選び、そのモンスター二体のコントロールを入れ替えるよ。サイバー・ドラゴンをあげるから、サイバー・エンド・ドラゴンをもらうね♪」

 

 互いのフィールドのモンスターは彩葉の場のサイバー・ドラゴンと茂野間の場のサイバー・エンド・ドラゴンのみ、その二体のコントロールがくるりと入れ替わり、彩葉の場でサイバー・エンド・ドラゴンが咆哮。攻撃力8000のモンスターを容易く奪う手腕に観客席がざわついた。

 

――何か狙いがあるのかと思っていましたが……その程度の戦術はとっくに見通していましたよ

 

 突然会場内のスピーカーから鮫島のどこか残念そうな声が聞こえだす。同時に茂野間が鮫島の指示を聞くまでもないというように、伏せていたカードを発動した。

 

「トラップカード《トロイボム》を発動。自分フィールド上のモンスターのコントロールが相手のカードの効果によって相手に移った時に発動できる。そのモンスターを破壊、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」

 

 つまり彩葉はせっかく奪い取ったサイバー・エンド・ドラゴンが破壊されるだけでなくその攻撃力8000のダメージを受ける事になる。

 

――ただでさえ消費の激しい融合召喚を主軸としている以上、パワー・ボンド等で強化したモンスターが奪われてしまえばそのリソースごと奪われる事と同義ですからね……だからこそ、その対策はしっかりとしていますよ

 

 対策どころか相手の手を読み切った末のカウンターによる一撃必殺と言っていい。サイバー・エンド・ドラゴンの内部からエネルギーが奔流し、一気に彩葉の小さな身体を飲み込むような大爆発が起きてフィールド全体を覆うような爆風が広がった。

 

「……結果は君の負けになってしまったが。デュエルそのものは素晴らしいものだった。高評価を約束――」

 

「キャハ☆」

 

 茂野間が実技試験を締める言葉を告げようとした時、爆風の中から彩葉の笑い声が聞こえる。その時爆風の煙の中から巨大な長方形の光が光線のように走って茂野間を飲み込んだ。

 

「ぬああああぁぁぁぁっ!?」LP1350→0

 

――な……!?

 

 その瞬間茂野間のライフが大きく削られて0を示し、このデュエルの終了を示すブザーが鳴り響くのだった。

 鮫島がどういう事かとモニターの向こうで目を剥いていると爆風の煙が収まり消えていく。その煙の中からいつの間にか黒猫を模したフードを被って猫目を細め、妖しい笑みを浮かべている彩葉とまるで彼女を守る壁のように立ちふさがる、蔦が巻きついてボロボロの巨大な板が姿を現した。

 

――あれはエネルギー吸収板、いや、リフレクト・ネイチャー……!? そうか、そういう事でしたか……!

 

「ありがとーございましたっ♡」

 

 鮫島が彩葉の真の狙いに気づくと同時、彩葉はフードを外しぺこっと頭を下げて一礼。そのままくるっと回れ右をすると、大ピンチからまさかの大逆転を行ってみせた光景が信じられないとばかりにざわつく観客席や教員席のざわめきを置いていくようにデュエルリングを降りてその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「彩葉」

 

 試験会場である海馬ドームでの通路。人気のないそこを歩く彩葉に追いついたように後ろから声をかける者があり、彩葉は足を止めてくるりと振り返る。

 そこにはデュエルアカデミア高等部、その中でもエリートを示すオベリスクブルーの制服を着用した。彩葉より数歳程年上だろう青年の姿があり、その姿を見た彩葉がにぱっと微笑んだ。

 

「あ、亮おにーさん。久しぶりー」

 

「彩葉、さっきのデュエルで聞きたい事がある……あの時、サイバー・ドラゴンを出した理由についてだ」

 

 亮おにーさんと呼ばれた青年――亮が真剣な顔でそう告げた途端、彩葉の微笑みに妖しいものが混じり、目もすっと細く澄まされる。

 

「……鮫島おじーちゃんはどう思ってるの?」

 

「師範も俺と同じ結論だ。故に、この言葉は師範からの言葉と同じと捉えてもらって構わない」

 

 亮はそう告げ、一拍置いて切り出す。

 

「あの局面で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、それこそがあの局面で()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まるで頓智みたいな亮の言葉に彩葉はニコニコと微笑むのみ。しかし亮は構わずに続ける。

 

「サイバー・ドラゴン。俺達サイバー流にとって切っても切り離せない重要なカードだ。それをあそこまで手間をかけて出してきた以上、そこに何か意味があると考えてしまう……彩葉、お前はそのサイバー流ならではの思考を逆手に取った。違うか?」

 

「……大正解だよ、亮おにーさん♪」

 

 亮の言葉を最後まで聞いた彩葉はにんまりと微笑を深めて答える。そしてその後疲れたようにがっくりと肩を落とした。

 

「だってもーああするしかなかったんだもん。強制転移でサイバー・エンドをコントロール奪取してトドメを刺せられればよしだけど、多分鮫島おじーちゃん保険でトロイボム辺りの罠張ってるだろうからそれ対策のリフレクト・ネイチャーも含めて鮫島おじーちゃんにバレないよう誘導するの大変だったんだから……」

 

 リスペクトデュエルを極めた鮫島の観察眼ならば普通に罠を張ったところで見破られる可能性が高い。だからこそ彩葉はあの場面で敢えてサイバー・ドラゴンを出し、大仰なコンボを使ってまでサイバー・ドラゴンを出した以上それを起点にしたコンボを使ってくるに違いないと鮫島の思考を誘導した。つまり彼の相手の戦術を見抜く目をただあの一瞬だけ曇らせてみせたのだ。

 

「ま、直接戦ってたら気づかれてたかもしれないけどね。映像越しだからギリ誤魔化せたって感じ?」

 

「そうだな。俺も観客という立場からか無意識に気が緩んでいたのかもしれん。お前の狙いに気づいたのはお前のコンボが決まった時だった……」

 

 ひょいと肩をすくめてそう締める彩葉に対して亮も静かに首肯、聞きたい事は終わったのか踵を返す。

 

「聞きたかったのはそれだけだ。今の話は師範にも共有させてもらうが構わないか?」

 

「ご自由にどうぞ~」

 

 亮の言葉に彩葉も軽くそう答え、両手を頭の後ろで組んでくるっと踵を返して歩き出す。

 

「ああ、言い忘れていた」

 

 すると亮が足を止めて再び口を開き、それを聞いた彩葉も足を止めると両手を頭の後ろで組んだまま振り返る。

 

「さっきのデュエル、素晴らしいものだった。お前とデュエルアカデミア高等部で会える日を楽しみにしている……きっと師範も同じ気持ちだろう」

 

「……うん!」

 

 亮からそんな賞賛の言葉を受け、彩葉は嬉しそうに微笑んで答えるのであった。




《後書き》
 キメラテック・フォートレス・ドラゴンの存在はなかった事にしてください!(挨拶)

 お久しぶりのメスガキ遊戯王です。ちょっと久々にサイバー流書きたくなったので久しぶりにメスガキ書いてみました。しばらく書いてなかったので「メスガキってこんなんだっけ?」と若干不安気味ですw今回は相手が実質鮫島だから彩葉からしたら煽るどころじゃねえ真剣にやらなきゃヤバいってのもありそうだけどw
 あと心理フェイズとか互いに相手の手の読み合いとか自分なりにリスペクトデュエルのなんたるかとか色々考えて書いてみました。お楽しみいただければ幸いです。

 そして今回のデュエルは後書き冒頭で言った通りキメフォは存在しない事にしてください。
 いやサイバー流のミラーマッチになるとこいつデュエル構想で邪魔すぎるんですよマジで。機械族ばっか並ぶしこいつ自身サイバー流の一員だから、どんな盤面でもモンスターが脅威になってるのなら「キメフォに巻き込めばいいじゃん」が最適解になってしまって盤面突破のしがいがないんですよ。なのでその辺は敢えてセルフ縛りを行っております。

 なお漫画版のサイバー・ドラゴンサポートカードであるサイバー・ローアーにしれっと「サイバー・ドラゴンだけじゃなくてサイバー・ドラゴンを素材とする融合モンスターに装備した場合もドロー効果」を追加していますが……最終的に壺の中の魔術書とかいう壊れドローカードを解禁しても手札が足りない事態に陥ったのと「攻撃力300アップ程度なんだからドローの適用条件増やしてもよくね?」みたいな感じで、まあ……どうかお見逃し下さい。(目を逸らしながら)

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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