友人達ほど真面目にやるつもりはない。それなりに楽しめればいい。そんな彼が引いたのは。
「このままじゃソイツは倒せねえ。だから『守備封じ』!」
「城之内、それは強すぎるだろ?」
『コマンド・エンジェル』が攻撃表示になる。相手のフィールドには『伝説の剣』、『鎖付きブーメラン』を装備した『マグネッツ1号』。攻撃力は1800。一応返せるカードはデッキ内にあるが、ルールの変更によりレベル5以上のモンスターは生け贄が1体、レベル7以上のモンスターは生け贄が2体必要になった。攻撃力だけなら『ランチャースパイダー』が越え、『バーバリアン2号』が並んでいるが、レベル5は1体、レベル7である以上生け贄が2体必要、自分の場には『コマンド―』と、先ほどから『鎖付きブーメラン』と『守備封じ』で忙しなく表示形式を変更させられている『コマンド・エンジェル』、どちらも攻撃力1800には届かない。
「へっ、さっきまで押されっぱなしだったからな。つーことで『マグネッツ1号』で攻撃だ!」
「くそっ。『コマンド・エンジェル』はやられちまうな」
墓地に送られる『コマンド・エンジェル』。こうなると仮に『ランチャースパイダー』を引いても生け贄が足りない。城之内が2体目のモンスターを引く前に、守備力の高いモンスターを引き当てて耐えるしかない。
「よし。じゃあオレのターンか」
とは言っても城之内のデッキはモンスターが多めだ。このターンで何かを引かないとこの先は厳しいだろう。ドローの内容は
“やはりあるじ殿は素晴らしく運が無い“
横目で声が聞こえてきた方を見ると、手のひらに収まりそうな位の大きさの褐色の女が小憎たらしい笑顔で宙に浮いていた。
『セネトの啓示者 ネフェルタリ』。今しがた引いたカードとそっくりな未確認生物が自分の周りを飛んでいる。しかもこのUMA、どうも自分にしか見えないらしい。
ため息が漏れた。
「わるい城之内、サレンダーだ」
「おいおい、勝負はこっからじゃねえか本田」
「オレの手札にマグネッツ1号を倒せるカードがないんだよ。どうせ持ってるだろ? モンスター」
「まぁ。そうだけどよ」
不承不承と言わんばかりの城之内。コイツがくる以前の自分なら最後まで勝負していたのだろうが、コレを気まぐれで買ったパックから当てて以降、負け試合を横から延々とニヤけつつ煽られるので極力避けるようになってしまった。あと攻撃力0守備力1000の割に妙な効果を持っているようで『ネフェルタリ』自体が誰かに見られることを好んでないようだ。
なのになんで入れてるかって? それは『ネフェルタリ』自身をお守り代わりに入れておけとしつこく言うからだ。その割にはこうやって敗北の原因になるのだが。『セネト』なんてカードは『ネフェルタリ』以外見たことは無いし、仮に効果を使わないとしてもステータスが貧弱過ぎる。本気でやろうとは思っていないが、デッキに引きたくないカードがあるというのは思いの外ストレスだ。
“それと今日はファ……、あるじ殿のご学友の店に寄っていってはくれんか? 気になる気配がしての”
『ネフェルタリ』が妙に緊張しながら自分に言ってくる。コイツはどうも遊戯に対して恐れか畏れだか分からないが、そんな態度を見せる。更に言うと遊戯が近くにいると出来るだけ自分の陰に隠れようとする。あの小うるさい解説が無くなる分、こっちとしてはありがたい限りだが。
「……そんなことより、今度海馬のヤツがDMのデカいイベントをやるんだろ? 遊戯ん所言ってパックの一つでも買っていこうぜ」
「いくら特訓って言ったってお前ばっかりじゃマンネリだしな……。遊戯のヤツ、今日は店番らしいし、ちょっくら顔見に行くか」
城之内とのいつものノリにUMAの思惑が重なる。少々しこりを感じないわけではないが、説明しようがない。口出ししてくる事に関しては腹が立つこともあるが、正しいことも多い。話している分には横柄な所はあれど悪いヤツでもなさそうだ。
それに『ネフェリタリ』と言えば有名なエジプトの王妃だった気もする。遊戯の首にかけているパズルも元々エジプトの遺跡で見つかったものだそうだ。以前聞いてみたら「関係はあるが、あちらは恐らく知らんだろう。部活動の遠い後輩みたいなものだ」と言われた。『ネフェルタリ』という名も「親が過去の偉人から賜っただけよ。儂の頃のエジプト王朝にはもう、王朝と名乗れるような力は残って無くてな。王は過去の栄光に縋るしか能が無かった」とも。
過去の人間がDMのカードになっている状況に驚きつつそのことを聞けば、これに関しては本人も分からないそうだ。ただ
“儂もアヤツも最後の最後で国を裏切った。その報いかのう”
恐らく無意識に呟いたであろうその言葉に、それ以上こっちから聞くことは出来なくなった。
余計な事を思い出しつつも、城之内と他愛の無い雑談をしながら亀のゲーム屋を訪ねれば、良く知った声が聞こえてきた。
「いらっしゃい。あっ、城之内クンに本田クン」
「おう。邪魔するぜ遊戯」
「席、空いてるか?」
「うん、大丈夫。ボクは店番があるから直接は参加しないけどね」
「おし、じゃあパック買ったら続きやろうぜ。遊戯も後ろで教えてくれよ」
「すごくグッドタイミングだよ。丁度今日入荷したばっかりさ」
「おっラッキー」
“……左の手前から三番目と、同じく左の一番後ろ。そこになんとなく気配を感じる。頼めるか、あるじ殿”
「遊戯、俺はこことここの2パックを買いたいんだが、良いか?」
「はいどうぞ。レアカードが出ると良いね」
自分の背中に隠れて覗き見ていた『ネフェルタリ』からの声、どっちにしろショバ代として購入しているし、ならコイツの勘を信じるのもやぶさかではない。
自分が買ったのを見て、城之内は2パック買った。本当なら大会のために買えるだけ買いたいのだろうが、未だ妹さんは入院しているという。以前の様に無軌道にとはいかないのだろう。
代金と引き換えにパックを受けとって、店の一角のプレイゾーンに腰かける。早速パックを開ければ、あまり見た事の無い、青いカードが見えた。
『セネトメス・ネクベト』
確か『儀式モンスター』だったか。強力だが、儀式魔法がなければ召喚出来ない扱いの難しいカードだったはず。城之内の方に目線を向けると、随分しょっぱそうな顔をしていた。どうやらあまりいいカードは引けなかったようだ。
「ちぇっ、しけてんな。本田の方はどうだ?」
「一応『儀式モンスター』が当たった。けど儀式魔法を持ってないから難しいな」
「へぇ~。珍しいのを引いたんだね。……本当だ。かなり強力だけど、儀式魔法が無いから厳しいね。もう一つのパックに入ってたりしないかな?」
「見たところ……儀式魔法は無いな」
代わりに『セネト』と名の付いた魔法カードは何枚かあったが、儀式魔法ではない。ピンポイントで外してる様だ。やはり自分にはデュエリストとしての才能は皆無らしい。
「マジだ。儀式魔法はねえな」
「だろ? いずれ当たるかもしれねえし、一応持ってはおくけどよ」
「そっか。ボクもこのカードのは見たことないな……。少なくともウチには置いてないと思う」
2パック目を覗きこんできた城之内に返事を返しながら、他のカードを吟味する。見ると『落とし穴』は結構使えそうだ。『ネフェルタリ』の言う、1対1交換とテンポアドバンテージの感覚にもよく合っているように思える。
早速デッキの低ステータスのモンスターと入れ替えよう。と思ったが、遊戯もいるし抜くのは『ネフェルタリ』か。曰く「モンスター約5割、魔法3割、罠2割」がデッキの一つの基準と、遊戯の視線から隠れるように陣取っているUMAは言っていた。今の自分のデッキはモンスター28枚、魔法9枚、罠3枚といった所。彼女の言う目安には程遠いが、初めは罠0枚だったことを考えれば少しは形になってきている。
「おっし。じゃあ一勝負といこうぜ本田。遊戯も気になった所があったらいってくれ」
「いいぜ。今度は勝つ」
「分かったよ。お客さんが来るまでね」
「よっしゃ! 『融合』して『炎の剣士』!」
デュエルも中盤、一度客が来たため、遊戯はカウンターから自分達のデュエルを覗いている形だ。
『炎の剣士』の攻撃力は1800。奇しくも先程と似たような展開だ。だが今回は伏せカードがある。
“待て。あるじ殿。ご友人にはまだ1枚手札が残っている。焦らず最後の1枚を使った時か、攻撃宣言まで引き付けた方が良い”
『ネフェルタリ』の小声。発動しようと捲りかけたセットカードを戻す。
「何かあるのか?」
「いや。カードを確認しただけだ。バトルか?」
「その前に手札から『サラマンドラ』を『炎の剣士』に装備するぜ! これで『炎の剣士』の攻撃力は2600! バトルだ! 『バーバリアン1号』に攻撃!」
「『融合解除』。対象はもちろん『炎の剣士』」
「ゲッ!」
これで『炎の剣士』は『炎を操る者』と、『伝説の剣豪 MASAKI』に分離。もし『サラマンドラ』が手札に残っていたら『炎を操る者』に装備させていただろうから、かなり危なかった。
「油断したな? 城之内」
「クソッ! どっちも守備表示だ」
城之内のモンスターは2体。ただステータスはそうでもないし、これなら押し込める。
「凄く良いタイミングで打ったね。本多クン。城之内クンは勝負を急ぎ過ぎたね」
「手札もねえし、ダメージ取れる時に取らねえとって思ってよ」
「たまたまだ。相手の選択肢は出来るだけ潰した方が良いだろ? 何もないならオレのターンだな。ドロー」
『ネフェルタリ』からの受け売りの言葉で適当に返事をしつつ、モンスターを召喚して城之内のモンスターを一掃する。
「それでもさ。本田クンも今回のイベントに出れるように練習しても良いんじゃないかな? 結構いい線行くと思うんだけど」
「そうだぜ。なんてったって、このデュエル・キングダム準優勝の城之内様に勝てるんだからな?」
「町内大会ベスト16の間違いだろ? やれるだけやってはみるさ」
「そっちはベスト8だ! 間違えんな!」
「ははっ。悪かったって」
乗り気味に答えつつも、本気で目指す気は無い。この判断やデッキ構築は実力で行っているものでは無いから。今は服に潜り込む形で隠れてる『ネフェルタリ』が教えてくれたものだ。
(まぁ。何かあるかもしれないし、城之内の特訓がてら練習しておくか)
その程度の気持ちで迎えたバトルシティ。城之内と違ってデュエリストレベルが足りず、ただ『グールズ』という危ない集団が参加してくるという事で、途中から城之内と共に行動することになって。
「キサマに神を見せてやろう!」
『グールズ』首領たるマリクと対峙する羽目になっていた。
TF3リメイクおめでとう&初代リスペクトテーマが出たので記念に
以下独自設定
ネフェルタリ
生前はエジプト王朝終期のとある貴族の妾の娘。弱体化した当時の王朝が過去の栄華を取り戻すために、過去の儀式を再現しようとして生み出された遊戯にして戦争の参加者。やってることはぶっちゃけどっかの聖杯戦争。
能力は非常に優秀で、その家庭環境から貧富と身分の格差も年にしては理解がある方。パッと見は自信家で厳しいが、数少ない身内から愛情は注がれていたからか、無意識下では性善説で物事を考えてしまう。儀式(セネト)で与えられた駒は比較的バランスの取れたもので本来は有力候補。しかし、呼び出した魂は若くして死んだ、いわゆるこっちの世界の人間だった。
スペックはともかく、中身がポンコツ過ぎてスタミナに致命的な弱点を抱えた相方とは、時代と環境による倫理や常識、感性の差による衝突が絶えなかった。が、次第に現代倫理で物事を考え、どこか平等で民を巻き込むことを良しとせず、敵であろうと可能な限り手を差し伸べようとする相方を叱責しつつも、いずれそんな世界が来ればいいと一部分を認めていく。
苦戦に次ぐ苦戦だったが何とか終盤まで生き残り、アメンホテプと対峙。仮に敗れてもそれなりの栄誉と権力、富を手に入れられる機会をほぼ手中に収めながら、かつての相方の「死者を蘇らせる理由とその対価」という疑問に一定の答えを得た彼女は、相方に儀式の破壊を命じた。どこぞの聖杯戦争だ。
儀式を破壊したことでクル・エナ村の悲劇の再演こそ防げたが、代わりに自分と相方は死者にも生者にもなれずに魂をすり減らし続ける事に。そんなことはさせまいとアメンホテプは2人の魂を石板に封印。緩やかな滅びに向かう王朝で指導者として振る舞い、その傍ら独自に千年アイテムを研究した彼は、いつか名もなき王のために冥界の扉が開かれた時、2人の石版に「いつかまた」という言葉を刻みつつ彼らが還れるようにした。
精霊モドキになった現在の彼女は、封印と相方と契約したせいで、相方の記憶と知識の一部が混ざっている状態である。加えてそもそもの記憶の摩耗で、ほぼ記憶喪失に近い状態だが、元デュエリストの相方の断片的な知識と持ち前の頭の良さからプレイ周りの指導はお手のもの。
かつての相棒が語っていた日々の糧に困らない世界を見たことで、生来の穏やかさと半貴族育ちが前面に出ており、本田の前では年長者を気取っている。