ヘブンバーンズレッドの世界にムコーダ御一行が迷い込む

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ムコーダ御一行の災難?

見渡す限りの荒涼とした大地。岩肌が露出し、草木もまばらなその景観は、ムコーダ(向田剛志)が見慣れた異世界のどの国とも異なっていた。空気中には、かすかに鉄と焦げた硫黄のような不快な臭いが漂っている。

「ぬう……ムコーダよ、ここはどこだ? ヴァルハラやレオンハルトの治める国とも、どうやら違うようだが」

巨大な狼の姿をした従魔、伝説の魔獣フェルが鼻をひくひくさせながら不機嫌そうに呟いた。その背には、ぽよんぽよんと揺れる水色のプルプルした体を持つスライムのスイと、小さな翼を羽ばたかせるピクシードラゴンのドラちゃんが乗っている。

「いや、俺に言われても困るよフェル……。魔法陣のトラブルか何かで飛ばされたっぽいけど、街どころか街道すら見当たらないし」

ムコーダが頭を抱えていると、突如として地鳴りが轟いた。

地平線の向こうから集団で迫ってくるのは、魔獣(モンスター)とは明らかに異なる異形のものたち。硬質で甲殻類のような黒と赤の不気味な外骨格を持ち、目も口もなく、ただ破壊のために突き進んでくる謎の生命体――「キャンサー」の群れだった。

「む? 珍しい形状の魔物だな。だが、我らの前を遮るというなら肉の露と消えるのみ!」

フェルが退屈そうに欠伸を噛み殺しながら、前脚を軽くひと振りする。

刹那、空気を切り裂く巨大な風魔法『風刃』が放たれた。真空の刃は音速を超えて荒野を駆け抜け、迫り来ていた数十匹のキャンサーの群れを、まるで紙屑のように一瞬で微粒子へと破砕した。

ズザザザザ……ッ!

「あ、相変わらず容赦ないなフェルは……」

「あるー? あれ、たべられないのー?」

スイが不思議そうに触手を伸ばすが、キャンサーの残骸は青い光の粒子となって消滅していく。肉すら残らない様子にドラちゃんも「ちぇっ、骨の折れ損かよ」と呆れ顔だ。

「ふむ、腹が減ったぞムコーダ。異形の魔物退治の労をねぎらい、昼飯にしろ」

「はいはい、分かったよ……」

ひとまず脅威が去ったことで、ムコーダはいつものように固有スキル『ネットスーパー』を起動した。目の前に空間が開き、ホログラムのような画面が浮かび上がる。

「よし、サクッと作れるものにするか……ん? なんだこれ?」

画面の隅に表示された新しいカテゴリ「コストコ・ワールドセレクション」の文字。興味本位でタップしたムコーダは、ポップアップした利用規約をよく読みもせず「同意する」を連打してしまった。

【『ネットスーパー』追加オプション:コストコ特別プラン(10年分一括更新)を購入しました。銅貨100枚(銀貨10枚)が引き落とされました。】

「ゲッ!? ちょっと待て、10年分一括契約!? 会費高ッ!!」

冷や汗を流すムコーダだったが、引き落とされたものは仕方がない。画面には大容量で魅惑的な商品の数々がズラリと並んでいる。背に腹は代えられぬと、ムコーダはコストコの名物惣菜『ハイローラー(B.L.T.)』の巨大なパックを注文した。

ポンッ。

出現したのは、トルティーヤ生地でベーコン、レタス、トマト、チーズがぎっしりと巻かれたロールサンドが数十個詰まった圧巻の巨大パックだ。

「うわ、デカいな……でも美味そうだ。ほら、フェル、スイ、ドラちゃん。今日は手軽にこれにしよう」

トルティーヤの香ばしい風味、カリカリに炒められたベーコンの塩気と旨味、まろやかなチーズ、そしてフレッシュなトマトとレタスのシャキシャキ感。一口かじれば、絶妙なハーモニーが口いっぱいに広がる。

「ほう! この肉の塩加減と乳製品のコク、野菜の酸味が組み合わさった巻物……味付けが見事だ! おかわりだ!」

「これ、おいしいー! スイ、もっとたべたい!」

「カリカリの肉とチーズの組み合わせが最高だな! パクパクいけるぜ!」

大好評のハイローラーをみんなで貪っていた、その時だった。

「――動くな! キャンサーの群れを壊滅させた謎の生体反応……あなたたち、一体何者!?」

鋭い声とともに、荒野の陰から突如として姿を現したのは、彩り豊かな制服を身にまとった少女たち――セラフ第31A部隊だった。

部隊長の茅森月歌が巨大なセラフブレードを構え、和泉ユキが銃口を向ける。逢川めぐみが超能力のポーズを決め、國見タマが大きなシールドで身を固め、朝倉可憐が二重人格の危うい視線を投げかけ、東城つかさが冷徹に状況を分析する。

「ちょっとユキ、あの巨大な犬……じゃなくて狼、キャンサーじゃないわよね?」

「見ればわかるでしょ月歌! そもそも服着た普通のおじさん(※ムコーダ)がいるじゃない!……って、え? あのキャンサーの群れ、あいつらが一瞬で吹き飛ばしたの!?」

殺気立つ少女たちに対し、ムコーダは両手を挙げて降参のポーズをとる。

「ま、待ってください! 俺たちは怪しい者じゃありません! ただの旅の商人……というか料理人で……」

しかし、フェルが鬱陶しそうに低く唸った。

「ぬう、小さき娘どもが。我らの食事を邪魔する気か? 追い払ってくれる」

「フェル、待て待て! 争うつもりはないんだから!」

冷や冷やするムコーダだったが、月歌の鼻がピクリと動いた。

「……待って。何この、すごーく香ばしくて魅力的な匂い……」

「月歌、油断しちゃダメ……って、うわ、本当だ。香ばしい肉とチーズの匂いがする……」

ユキの突っ込みも虚しく、31Aのメンバーの視線はムコーダの手元にあるハイローラーへと注がれる。過酷なキャンサーとの戦いの中、基地の味気ない合成食(エネルギーバーなど)ばかり食べている彼女たちにとって、その芳醇な香りはあまりにも毒だった。

「あの……もしよかったら、これ食べますか? たくさんあるので……」

ムコーダが引きつった笑顔でハイローラーのパックを差し出すと、月歌は警戒感を一瞬で捨て去り、ぱくっと一口かじりついた。

「――っ!? なんっじゃこりゃあああーっ!?」

荒野に月歌の叫びが響き渡る。

「トルティーヤのモチモチ感の中から、香ばしいベーコンの脂とコク深いチーズが溢れ出してくる! そこにトマトの爽やかな酸味が重なって……なにこれ、美味しすぎて脳がトロけるんだけど!?」

「えっ、嘘でしょ月歌……んぐっ!? や、やばい……なにこれ、止まらないんだけど!? レタスがシャキシャキで無限にいける!」(ユキ)

「お、おタマも食べたいです! ……はうぅ〜! お口の中が天国です〜〜っ!」(タマ)

「ふふ、この洗練されたジャンク感……悪くないわね」(つかさ)

「めぐみんの超能力でも、こんな美味しい食べ物は生み出せないわ……!」(めぐみ)

「ウヒヒ……肉……美味しい……もっと食べさせろぉ……」(可憐/かれん)

あまりの衝撃的な美味しさに、31Aの面々は完全に取り込まれてしまった。

そこへ、無線を聞きつけて続々と他のセラフ部隊が駆けつけてくる。

「31A、応答しなさい! 巨大な生命体反応と接触したって……って、なんなのこの人たちは!?」

「あ、倉さとみちゃん! 見てこれ、すっごく美味しいの! はい、あーん!」

「ん……!? ~~っ!? な、なにこれぇぇ!?」

31Bの蒼井えりかや水瀬いちご、31Cの山脇様や豊後弥生、さらには31Fや30Gのメンバーまでが次々と集結。ムコーダがネットスーパーで追加注文したハイローラーやピザ、大容量のチキンを振る舞うたび、荒野はキャンサーの戦場から巨大な「コストコ試食パーティ会場」へと変貌を遂げていった。

「うむ、この者たちも食い意地が張っているな。まあ、我らの飯を美味そうに食べるなら悪くはない」

フェルも機嫌を良くし、スイは「おねえちゃんたち、いっぱい食べるー!」と嬉しそうに跳ね回っている。

腹を満たし、すっかりムコーダ(と彼の料理)の虜となったセラフ部隊の少女たち。

「向田さん! あなたは人類の宝……ううん、ドームの希望よ!」

月歌が熱い眼差しでムコーダの手を握りしめる。

「え、えーっと……?」

「決まりね! あなたたちをこのまま荒野に放っておくわけにはいかないわ。私たちの基地へ案内するわ!」

「ちょっと月歌、上官に報告もなしに勝手に決めて……いや、でもこの料理人を野放しにするのは人類の損失か……」ユキも頭を抱えつつ納得してしまう。

「基地に行けば、もっとすごい調理器具とかあるのかな?」

ドラちゃんが興味津々に呟く中、ムコーダは苦笑いするしかなかった。

「ははは……なんか大変なことになっちゃったな……」

異世界からやってきた最強の従魔たちと、食いしん坊なセラフ部隊。未知のテクノロジーと異能が交差する基地で、ムコーダの「ネットスーパー」が巻き起こす大騒動は、まだ始まったばかりだった――!

 

 

ドーム基地へと向かう移動用装甲車両の車内は、独特の静けさと興奮が同居していた。

荒野を突き進む装甲車の振動の中、第31A部隊の面々はシートに腰掛けつつも、その視線はチラチラとムコーダ(向田剛志)の手元へと注がれている。

「ねえねえ、向田さん。さっきの『はいろーらー』だっけ? あれ、本当においしかったなぁ……。基地に着くまで、なんか一口だけでもつまめる甘いものとか持系(持ってる系)じゃない?」

茅森月歌がシートから身を乗り出し、目を輝かせながら話しかけてくる。

「月歌、失礼でしょ! 向田さんは命の恩人……じゃなくて、美味しいご飯をくれたゲストなんだから!」

和泉ユキが注意するものの、彼女自身も期待に満ちた眼差しを隠せていない。

「ははは、大丈夫ですよ。移動も長そうですし、一口サイズのお菓子でも出しましょうか」

ムコーダは苦笑しながら、再び固有スキル『ネットスーパー』の画面を呼び出した。

コストコ特別プランの契約によって解放された多様な提携・特設ショップのリストをスクロールしていく中で、ふとムコーダの目に止まるものがあった。

「お、これは……一口サイズで食べやすそうだし、何より見た目が可愛いな」

注文したのは、香ばしい甘い香りを漂わせるカステラ風のお菓子――花神楽パンダ焼き 稲毛駅東口店のパンダ焼きだ。

ポンッ、と軽い音とともに、紙袋に入った出来立て熱々のパンダ焼きが大量に現れた。袋を開けた瞬間、車内いっぱいにふわっと広がる甘く香ばしいバニラと小麦粉の香り。

「うわぁぁっ! なになに、このちっちゃくて可愛いの! パンダの形してるー!」

國見タマが紙袋を覗き込み、歓声をあげる。

「見た目の可愛らしさに騙されてはいけません……しかし、この甘く優しい香りは間違いなく脳の糖分補給に最適……!」

東城つかさが眼鏡の奥の目を光らせた。

「ほら、一口サイズですから皆さんでどうぞ。味もいろいろあって、プレーンにカスタード、チョコレート、十勝あんこ、キャラメル、それに季節限定のフレーバーなんかもあるんですよ」

「いただきまーす!」

月歌がプレーンをひとつ摘んで口に放り込む。

ふんわり、もちもちとした生地の食感。噛み締めると素朴でやさしい甘みが広がり、口の中でしっとりと解けていく。

「――っ!? なにこれ、生地が超モチモチ! 小さいのに満足感がすごすぎる!」

「カスタードもヤバい! 中からトロ〜ッと温かいクリームが溢れてくるよ! ちょっとこれ、無限にいけるやつじゃん!」

ユキも目を丸くして二個目、三個目へと手を伸ばす。

「おタマ、あんこ食べました! 程よい甘さで幸せの味がします〜〜っ!」

「フッ……このキャラメルのビターな甘み……私のクールな美学にぴったりね……(モグモグ)」

そこへ、背後でじっと様子を伺っていたフェルとドラちゃん、そしてスイが黙っているはずもなかった。

「ムコーダ! 我を省くとは良い度胸だな! その甘い塊をこちらへ寄こせ!」

「おいおいムコーダ! オレの分もあるんだろ!? 香ばしくてうマそうじゃねえか!」

「スイもー! スイも甘いのたべたいー!」

「あ、ちょっと待ってフェル! ドラちゃんも! みんなの分もちゃんと……うわっ!」

フェルが巨体で鼻先を割り込ませ、ドラちゃんが空中から疾風のごとく紙袋へダイブする。

「あーっ!? 巨体イヌ(フェル)ズルい! おタマのチョコ味がー!?」

「渡さないわよ! これは人類の未来のための糖分補給なんだからー!」

月歌が素早くパンダ焼きを死守しようと手を伸ばすが、スイが「すいー!」と柔軟な体で飛びつき、ぷにぷにした体で紙袋ごと優しく包み込んでしまった。

「ああっ、スライムちゃんに包まれちゃった!? 手が出せないー!」

「ぬう! スイ、ずるいぞ! 我にも残せ!」

「ひゃはは! 早い者勝ちだぜーっ!」

狭い装甲車の車内は、伝説の魔獣と人類最高峰のセラフ部隊員たちによる、前代未聞の「パンダ焼き争奪戦」と化してしまったのだった。

### 基地到着と、明かされるセラフ部隊の「食事情」

大騒ぎの末に到着したセラフ部隊のドーム基地。

重厚な防壁と近代的な建造物が立ち並ぶその光景は、ムコーダにとってまさに「SF映画の未来都市」そのものであった。

しかし、基地内の食堂案内されたムコーダは、そこでセラフ隊員たちが普段口にしている「食事」を目の当たりにし、絶句することになる。

テーブルに並べられていたのは、無機質で無味乾燥な合成栄養パウダー、硬い高タンパクのエネルギーバー、そしてビタミンやミネラルを補給するためだけの味気ないゼリー飲料であった。

「……これ、いつも食べてるんですか?」

ムコーダが尋ねると、月歌やユキは苦笑いを浮かべた。

「ええ……キャンサーとの戦いが始まってから、ドーム内での農業や畜産は極めて限定的なの。エネルギーを効率よく摂取するための『合成食』が基本で、本物の肉や野菜、新鮮な魚なんて、特別な時しかお目にかかれないわ」

「美味しいものを食べるっていう娯楽自体が、この世界ではすごく貴重なんだよね……」

ユキの言葉に、ムコーダは胸を突かれるような思いがした。

命を懸けて異形の怪物と戦う少女たちが、毎日こんな味気ないものしか食べていないとは。

「……よし! 分かりました!」

ムコーダはポンと拳を手のひらに打ち付けた。

「皆さん、荒野で助けてくれたお礼もありますし、今日は俺が腕によりをかけて『本物のごちそう』をお腹いっぱい振る舞います!」

「えっ……!? 本当に!?」

月歌の目がこれ以上ないほど大きく見開かれる。

「うむ! ムコーダの本気料理か! それは楽しみだぞ!」

フェルがドサリと食堂の床に座り込み、満足そうに尻尾を振る。

「おいしいのごはんー! やったー!」

スイも大喜びで跳ね回り、ドラちゃんも「おいムコーダ、肉多めで頼むぜ!」と腕を組んだ。

噂を聞きつけた他のセラフ部隊員――31B、31C、31F、30Gの面々も続々と食堂に集まり始め、広い食堂はいつしか超満員となっていた。

「よし……ネットスーパーで最高の食材を取り揃えて、宴会の始まりだ!」

ムコーダは袖をまくり上げ、巨大な厨房へと足を踏み入れた。

### 一品目:北海道男爵いものいももち(明太クリームとカマンベールチーズの2種)

まず最初のお披露目として用意されたのは、北海道産の男爵いもを贅沢に使用した「いももち」だ。

茹でて熱々のうちに潰した男爵いもに片栗粉を加え、丹念に捏ね上げて丸め、フライパンで表面がパリッとするまで香ばしくバター焼きにする。

味付けは二種類。

ひとつは、特製の明太子にコクのある生クリームと醤油を少し垂らした『明太クリーム』。

もうひとつは、もちの中にトローリとろけるカマンベールチーズを包み込み、甘辛い醤油タレを絡めた『カマンベールチーズ』。

「はい、まずは前菜代わりに『いももち』二種です! 熱いから気をつけてくださいね」

大皿に盛られた黄金色のいももちが、隊員たちのテーブルへと運ばれる。

「じゃあ……いただきます!」

月歌が明太クリームのいももちに箸をつけ、一口食べる。

モチッ……トロリ。

「――んんん~~~っっ!? なにこれぇぇぇ!?」

月歌が自分の頬を両手で押さえて身もだえした。

「じゃがいもなのに、お餅みたいにモッチモチ! 外側はバターの風味が香ばしくてパリッとしてるのに、中はホックホク! そしてこの明太クリームのピリッとした辛さとまろやかさが、芋の甘みと合わさって絶品すぎるー!」

「おタマはカマンベールを食べます……(はむっ)。……うわああん! 中から温かいチーズがとろーり溢れてきましたぁ! 甘辛いタレと濃厚なチーズが絡みついて、お口の中が幸せでいっぱいです〜!」

「この食感……病みつきになるわね。シンプルでありながら、素材の旨味とソースの計算し尽くされたバランス……恐ろしい料理人だわ」つかさが溜息をつく。

フェルも明太クリームのいももちを一口でパクリと平らげ、

「む! この芋の粘りと乳製品のコク、悪くない! 前菜としては上出来だ、次を持ってこい!」と満足気に鼻を鳴らした。

### 二品目:のどぐろの炭火焼き

「続いては、魚料理です。『白身のトロ』とも呼ばれる高級魚、のどぐろ(アカムツ)の炭火焼きです!」

ネットスーパーの特選鮮魚コーナーから取り寄せた最高級ののどぐろ。一尾一尾丁寧に塩を振り、じっくりと炭火で焼き上げた。

脂が乗った皮目はパチパチと音を立て、豊かな魚脂が炭に落ちて香ばしい煙を立ち上らせる。

運ばれてきたのは、綺麗な焼き目がついた、ふっくらとしたのどぐろの塩焼き。

「白身魚……? でも、なんだかすごく脂が乗っているように見えるけど……」

ユキが半信半疑で箸を入れ、身をほぐす。その瞬間、溢れ出すジュワッとした透明な肉汁。

口に運んだ瞬間、ユキの目が丸くなった。

「嘘……っ!? これ、本当に白身魚!? 口に入れた瞬間に身がフワッと解けて、上質な脂の旨味がブワッと広がる……! まったく生臭さがなくて、上品なのにとんでもなく濃厚……!」

「うわあああ! 皮がパリパリで香ばしい! 塩加減が絶妙すぎて、無限に身を突っつきたくなるよ~っ!」

水瀬いちごが夢中になって魚を突ついている。

「ふむ! この魚、白身でありながらこれほどの脂の乗りか! 炭火の香ばしさと塩味が脂の甘みを引き立てておる。ムコーダ、この魚は合格だ!」

魚好きのフェルも大絶賛で、骨ごとバリバリと音を立てて美味そうに喰らいついた。

### 三品目:富士宮焼きそば

「次は、 B級グルメの王道『富士宮焼きそば』です!」

大きな鉄板の上に、コシの強い専用の蒸し麺が踊る。ラードで炒められたキャベツと豚の「肉かす(油かす)」から出る旨味が麺全体に行き渡り、特製ウスターソースが焦げる芳醇な香りが食堂全体に充満する。

仕上げにたっぷりの削り粉(サバやイワシの削り節)と紅生姜をふりかけて完成だ。

ジューシーなソースの香りに、食堂の隊員たちの腹の虫が一斉に鳴り響く。

「この香り……抗えない……っ!」

山脇様(山脇・ボンプエル・ルブラン)がプルプルと震えながら箸を伸ばす。

ズズッ、と麺を啜る音。

「な、なんだこの強いコシは!? 噛めば噛むほど麺そのものの旨味とソースの濃厚な味わいが溢れ出してくるぞ! そしてこのカリカリした肉かすのアクセントと、出汁の効いた削り粉……完璧な調和ではないか!」

「紅生姜の甘酸っぱさが後味をさっぱりさせてくれて、一口、もう一口って手が止まらなくなるぜ!」

ドラちゃんが小さな身体で器用に麺を口に運んで叫ぶ。

「めんめん! ちゅるちゅるでおいしいねー!」

スイも大喜びで特製ソースの絡んだ麺をパクパクと吸収していった。

### 四品目:ノルウェー産アトランティックサーモンのちゃんちゃん焼き

「まだまだいきますよ! 四品目は、極上のアトランティックサーモンを丸ごと使った『ちゃんちゃん焼き』です!」

鉄板中央に鎮座するのは、美しいオレンジ色に輝く厚切りのノルウェー産アトランティックサーモン。

周囲には、キャベツ、玉ねぎ、しめじ、エノキ、ピーマンといったたっぷりの新鮮な野菜。

そこに、甘辛い特製味噌タレと大きめのバターを投入し、アルミホイルを被せて蒸し焼きにする。

フタを開けた瞬間、立ち上る甘辛い味噌とコクのあるバターの香り!

サーモンの身をほぐし、シャキシャキの野菜と味噌バターをしっかりと絡めて提供される。

「うわぁぁ……! 味噌とバターの香りがたまらないよ〜!」

蒼井えりかが幸せそうに頬を緩める。

「ん~っ! サーモンがすっごく柔らかくてジューシー! 甘辛い味噌タレとバターのコクが、サーモンの濃厚な旨味と完璧にマッチしてる!」

「野菜が! 味噌バターとサーモンの旨味を全部吸った野菜がめちゃくちゃ美味しいです! これなら野菜嫌いな人でもバクバク食べちゃいます!」

「むふー! お肉も美味しいけど、この旨味たっぷりの甘いお魚も最高だね!」

ドラちゃんもフワフワのサーモンの身を満足気に頬張っていた。

### 五品目:スタミナ源のタレに漬け込んだプライムビーフのテキサス風ブリスケット

そして、ついに本日の目玉である「本格肉料理」の第一弾が登場する。

「お待たせしました! ガッツリ肉料理です! 青森県民のソウルフード『スタミナ源のタレ』にじっくり漬け込んだ、最高峰プライムビーフの『テキサス風ブリスケット』です!」

牛の胸肉(ブリスケット)という大ぶりの赤身肉を、生姜やニンニク、リンゴ、野菜がたっぷり入った『スタミナ源のタレ』に丸一日漬け込み、低温のスパイススモークでじっくり数時間かけて焼き上げた逸品。

見た目は黒く香ばしいスモークの層(バーク)に包まれているが、ナイフを入れると、驚くほど柔らかく肉汁が溢れ出す。

薄くスライスされたブリスケットがテーブルに並ぶと、フェルの目がギラリと光った。

「ぬおおおっ!? この肉……ただものではない香気を放っておるぞ!」

フェルが豪快に巨大な肉片を丸呑みする。

「――グオオオオオオン!! なんという柔らかさだ! 噛みしめた瞬間に肉汁が爆発するように溢れ出し、ニンニクと生姜、そして果実の甘みが絶妙に効いたタレの味が肉の芯まで染み込んでおる! 薫製の香ばしさも相まって、いくらでも食えるぞ!」

「肉ッ! 肉ぅぅううう!!」

朝倉可憐(カレン)の人格が覚醒し、狂喜乱舞しながらブリスケットにかぶりつく。

「柔らかい! 柔らかすぎる! 歯がいらないくらいトロトロなのに、赤身肉の力強い旨味がドカンと押し寄せてくるぅぅ! 美味しい、美味しすぎるよぉぉ!」

「源タレの旨味が完璧に肉のポテンシャルを引き出してるわ……この濃い目の味付け、スタミナが湧いてくるのが実感できるわね!」つかさも興奮を隠せない。

### 六品目:あぐー豚のニューヨーク風スペアリブ

肉の連撃は止まらない。

「続いては豚肉料理! 沖縄のブランド豚『あぐー豚』の骨付きスペアリブを、特製のバーベキューソースで香ばしく焼き上げた『ニューヨーク風スペアリブ』です!」

旨味成分と甘みのある脂身が特徴のあぐー豚。その豪快な骨付き肉に、トマト、ハチミツ、スモーキーなスパイスを合わせたニューヨーカー好みの濃厚BBQソースをたっぷりと塗りたくり、オーブンでじっくりと焼き上げられている。

骨の周りの肉は、手で持つとホロリと崩れるほど柔らかい。

「豪快にかぶりついて食べてください!」

「いただきまーす! ……んがむっ!」

月歌が大口を開けてスペアリブにかぶりつく。

「――ぶはぁっ!! 美味しすぎて頭がどうにかなりそう! あぐー豚の脂がすっごく甘くて、全然しつこくない! 甘辛くてスモーキーなソースが脂の甘みと混ざり合って、骨の髄までしゃぶり尽くしたくなる味!」

「手と口がベタベタになっちゃうけど、そんなの気にしていられないよ! この肉のジューシーさ、半端じゃない!」ユキも指についたソースを舐めながら無我夢中でかぶりついている。

「スイも、骨つきのお肉だーいすき! 骨までまるごと溶かして食べちゃうもんねー!」

「あ、コラ! スイ、骨は残しなさいって!」

ムコーダの制止もどこへやら、スイは肉の旨味が染み込んだ旨味たっぷりの肉を大満足で吸収していた。

### 七品目:さくらどりの北京ダック風炭火焼き

「肉料理の最後は、鶏肉です! コストコでも大人気の『さくらどり』を使った、北京ダック風の炭火焼きです!」

ジューシーでクセのない銘柄鶏『さくらどり』。その皮目を水飴と特製スパイスでコーティングし、炭火で皮がパリパリの黄金色になるまでじっくりと丸焼きにする。

焼き上がった鶏肉のパリッとした皮と柔らかいお肉をそぎ切りにし、シャキシャキのキュウリ、白髪ネギと共に、モチモチの薄餅(パオピン)に包む。そこに甘辛い特製の甜麺醤(テンメンジャン)ソースをたっぷりとかけていただくのだ。

「自分で薄餅に巻いて食べてみてくださいね」

隊員たちはレクチャー通りに、皮付きの鶏肉、キュウリ、ネギを薄餅に乗せ、甜麺醤を垂らしてくるりと巻く。

「ん……パクッ」

逢川めぐみが一口で食べる。

「……ん~~~っ! 皮のパリッとした食感と香ばしさの後に、お肉のジューシーな旨味が追いかけてくる! 甜麺醤のコクのある甘みと、キュウリのシャキシャキ感が後味をすごく爽やかにしてくれて……何個でも包んで食べたくなっちゃう!」

「この『さくらどり』って鶏肉、すごく旨味が濃いわね。炭火の香ばしさが皮に凝縮されていて、中華風の甘辛タレと完璧な相性だわ」

フェルも包まれたものを何個も鼻先で器用に丸呑みし、「むむ、このパリパリした皮と甘いタレの組み合わせ、実にクセになる味だ!」と大満足の様子だ。

### 八品目:奥久慈しゃものスープカレー・炊きたてあきたこまち付き

宴も終盤。締めのご飯ものとして出されたのは、芳醇なスパイスの香りを漂わせる一品だ。

「締めのご飯ものです! 茨城県の高級地鶏『奥久慈しゃも』でじっくり出汁をとった『スープカレー』! ご飯は秋田県産『あきたこまち』の炊きたてです!」

引き締まった肉質と濃い旨味が特徴の奥久慈しゃも。そのガラと肉から丁寧に抽出した黄金色のスープに、数種類のホールスパイスを配合したサラリとしたスープカレー。

具材には、素揚げした大きなナス、カボチャ、ピーマン、ニンジン、そしてホロホロに煮込まれた奥久慈しゃもの骨付きもも肉がドカンと乗っている。

ツヤツヤと輝く炊きたての『あきたこまち』をスプーンですくい、スパイシーなスープカレーに浸して口へと運ぶ。

「――かるーい!? なにこのカレー、全然重くない!」

月歌が目を輝かせる。

「スープを口に含んだ瞬間、色んなスパイスの爽やかな香りが鼻を抜けていく……! その後に、奥久慈しゃもの深〜いコクと旨味が追いかけてきて、炊きたてのお米の甘みと混ざり合う……! スプーンが止まらないよ!」

「素揚げされた野菜も甘くてジューシー! ゴロゴロ入ってるお肉も、噛めば噛むほど地鶏ならではの旨味が染み出してくる……! お腹いっぱいのはずなのに、スパイスの効果でパクパク食べられちゃう!」

「スープカレー……最高です……。あきたこまちのお米の一粒一粒が立っていて、スープをしっかり吸ってくれて……美味しすぎて涙が出てきそうです〜〜!」タマが感動のあまり目をうるませる。

### 九品目:ハーフカットメロンクリームソーダ〜器のメロンも頂きます〜

豪華絢爛なフルコースの最後を飾るのは、見た目にも圧倒的なインパクトを誇る極上デザートだ。

「さあ、最後のデザートです!『ハーフカットメロンクリームソーダ』! 器になっているメロンの果肉も贅沢に崩しながら召し上がってください!」

登場したのは、丸ごと半分に贅沢カットされた高級クラウンメロン。

種がくり抜かれた中央の凹みには、シュワシュワと心地よい泡を立てるキンキンに冷えた炭火ソーダ(メロンソーダ)が注がれ、その上には巨大な濃厚バニラアイスクリームと真っ赤なチェリーがチョコンと乗っている。

見た目の華やかさと清涼感に、食堂全体から「きゃあああーっ!?」という歓声が上がった。

「うわあぁぁぁ……なにこれ!? 夢!? 夢なのこれ!?」

月歌がメロンの器を前にして大興奮。

ストローでソーダを吸い、スプーンでバニラアイスとメロンの果肉を同時にすくって口へ運ぶ。

「――っっっ!? 贅沢すぎるーーーっっ!!」

月歌が頭を抱えて叫んだ。

「冷たいソーダのシュワシュワ感と、バニラアイスの濃厚な甘み! そこに、スプーンで簡単に崩れるくらい熟したメロンの果汁がジュワッと合体して……最高に爽やかで甘くて幸せ!! 器の果肉を削って食べるの楽しすぎるー!」

「あはは! これ凄ーい! 贅沢の極みだね!」ユキもニッコリ笑顔でスプーンを動かす。

「甘くて冷たくて、ソーダがシュワシュワして……スイ、これ大好きー! メロンの器もペロペロしちゃうー!」

スイはメロンの果肉にダイブしそうな勢いで大はしゃぎだ。

「ふん、甘ったるい飲み物かと思えば……この果実のフレッシュな甘みと冷たさは悪くないな」

フェルも器のメロンを豪快に果肉ごとベロリと舐め取り、満足そうに目を細めた。

### 後半の引き:そして、運命の打診へ……

怒涛のフルコースが終わり、食堂内には幸福な溜息と、お腹を満たされた隊員たちの満足気な笑顔が満ち溢れていた。

「ふぅ……食べた食べた! こんなに美味しくてお腹いっぱいになったの、生まれて初めてかも……」

月歌が満足そうにお腹をさする。

「向田さん、本当にありがとうございました。ドームの味気ない食事しか知らなかった私たちにとって、今日の料理は一生忘れられない体験になりました」

ユキが深々と頭を下げる。

「いやいや、喜んでもらえて良かったです。みんなが美味しそうに食べてくれるのが、料理人として一番嬉しいですから」

ムコーダが胸を撫でおろしていると、食堂の重厚な扉が開き、凛とした雰囲気を纏った女性――司令官の手塚咲代が姿を現した。

食堂に残る香ばしい料理の残り香と、満足し切った隊員たちの様子を見た手塚司令官は、驚きに目を見張りつつも、真剣な面持ちでムコーダへと歩み寄ってきた。

「あなたが……荒野で31Aを救い、この素晴らしいごちそうを振る舞ってくれたという異世界の料理人、向田さんですね」

「あ、はい。向田剛志と申します」

手塚司令官は、ムコーダの目を見つめ、静かに、しかし力強い声で告げた。

「単刀直入に申し上げます。向田さん……あなたのその『ネットスーパー』という能力、そして食材を生み出し絶品の料理を作る腕は、過酷な戦いの中で絶望に瀕している我々セラフ部隊……いいえ、人類全体の『希望の光』そのものです」

「え……? 希望の光……?」

「単なる栄養補給ではなく、『食べる喜び』を取り戻すこと。それがどれほど隊員たちの士気を高め、精神を救うか……今日の食堂の様子を見れば一目瞭然です。そこで、お願いがあります」

手塚司令官は深く腰を折り、頭を下げた。

「どうか、私たちの専属料理長として……このドーム基地に留まっていただけないでしょうか!?」

「「「ええええええぇぇぇぇぇっっっ!!!???」」」

ムコーダの絶叫と、31Aをはじめとするセラフ隊員たちの歓声が食堂中に響き渡る。

「ちょっと待ってください!? 俺はただの旅の途中で……! それにフェルたちもいるし……!」

慌てるムコーダの横で、フェルがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ほう……専属料理長か。ムコーダよ、この基地とやらは面白そうな奴らも多いし、何より我らの飯を存分に作れる環境があるのではないか?」

「オレも賛成! ここに居れば毎日あのごちそうが食えるんだろ!?」

「すいもー! おねえちゃんたちと一緒に美味しいのごはんたべたいー!」

従魔たちまで乗り気になってしまい、完全に逃げ場を失うムコーダ。

「嘘だろおい……俺の穏やかな異世界マイペース放浪生活はどこに行っちゃったんだよ〜〜っ!?」

見知らぬ未来の地球、キャンサーとの戦い、食いしん坊なセラフ少女たち、そしてマイペースすぎる最強の従魔たち。

ムコーダの波乱に満ちた「異世界(?)放浪メシ」は、新たな舞台『ドーム基地』で、さらなる大騒動の幕を開けようとしていた――!

 


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