転生じゃなくてトリップ
pixivにも投稿してます。
「ぼく、アンパ○マン」
突然だが、ハロウィンをご存知だろうか。
____10月31日、渋谷。
ハロウィンの日と言ったら、仮装である。
私も待ちに待ったハロウィンの日、制作費1280円のアンパ○マンの仮装をした。マントを羽織って、姿見鏡の前でくるりと一回りする。
歪んだダンボールで固められた丸いアンパンの顔と、鏡越しに目が合った。ガムテープで貼り付けた、ツギハギだらけのマントが目立ってるけど、何も言うまい。
うん、これでよし。
満足気になって玄関を出ると、ズキリとした頭痛が走ると同時に、後ろからピシッとヒビが入った音がした。
後ろを振り返ってみたが何もない。気のせいかと首を傾げて、自宅から出た。
*
自宅から出た私は、すぐさま渋谷のスクランブル交差点まで走った。
走っていると、色んなコスプレをしている人たちが見えてきた。ドラゴン○ールや、コ○メ太夫、妖○ウォッチなどなど。なんだか楽しそうな顔とは一変して、すぐに帰りたがっている顔をしているような……。いやいや、そんなまさか。
みんなクオリティが高くて、表情もコスプレに見合うよう特訓しているのだろう。
しかしその中でも一際目立って、とてもそっくりなコスプレイヤーを見かけてしまった。
いま流行りの呪術○戦の七海コスプレである。
それはもう、やばかった。七三分けの姿は勿論のこと、ゴーグルに似たメガネや、包帯でぐるぐるに巻かれた武器も本当に血を含んでいるように見えて……。これは神の領域だと思った。
だから、思わず「七海さんだ!」と声を掛けてしまったのは仕方ないと思う。
そうしたら、まるで本当に本名を呼ばれたかのように振り返ってきたコスプレイヤーさん。ちょっとビビった。
コスプレイヤーさんは、ズンズンとこちらに向かってきた。
「あの、七海さんですよね……」
コスプレイヤーさんに対して、口がモゴモゴとさせてしまう。
対して、コスプレイヤーさんはバリバリの警戒心MAXでこちらをじろりと見下ろしてきた。
「えと……、わ、私、アン○ンマン!!」
勢い余って間違えた。
違う、そうじゃない。
急に自己紹介を始めた私に、七海さんが1歩後ろに下がる。
「良かったら、一緒に戦闘シーン……っていうか、共闘しませんかっ!!」
頭の中で言いたいことがごちゃごちゃになりながらも、話してみる。
すると、目の前の七海さんはパチクリと目を瞬かせた。
「君は戦えるのですか……?」
「えと、はい!! アンパン○ンなんで!!」
「なら話は早いです。すぐに駅に向かいましょう」
「はい!!」
どういうことかは分からないけれど、恐らく、セッティングが駅にあるのだろう。
私は、渋谷駅へと走っていく七海さんの後に着いて行った。
結論から言うと、七海さんと離れた。
言いたくはないけれど、言う人が居ないから言ってあげよう。
______迷子って奴だった。泣きそう。
そもそも本物そっくりな七海さんは足が早くて、私なんかが追いつける訳がなかった。
やはりコスプレイヤーさんも鍛え方が違うのだろう。恐るべし。
大人がガチ泣きしそうになっている最中だった。
「あれ? 君、この世の者じゃないね?」
2時の方向から声がしたので、俯いていた顔を上げた。
すると立っていたのは夏油傑のコスプレをした人物が。さらに言うと額には紐がついている。
「あっ……もしかして夏油傑さんの……アレ(コスプレイヤー)ですか?」
「よくわかったね。アレ呼ばわりは嬉しくないけど、そうだよ」
「あぁ〜!!良かったです!! 誰とも会えないまま走ってたら迷子になってしまって。でも貴方に会えてよかったです!!」
「おやおや。そんなに私が有名人だったとはね。加茂家も捨てたもんじゃないね」
紐が付いた夏油傑さんは「着いておいで」と言った。
どうやら私が何故か珍しいらしい。
私はトコトコと着いて行ったのであった。