「大勢で乗り込んでったら、さすがに食屍鬼どもが騒ぎ出すよなあ。そもそも地下神殿なんて、いつもの戦場と勝手がちがいすぎる。最初の一手次第で戦況は大きくかわるぞ……」
リョーツーンは思案する。
思案の結果、リョーツーンは大将軍キシュワードに、ある提案をした……。
「おのれ、リョーツーンとやら、面憎いやつ」
「あやつひとりのせいで、エクバターナの拠点が全滅してしまった」
「この神殿での儀式も中断したままだ」
「だがな、この聖地を満たした苦痛と悲嘆、壺や亀で醸成された血肉の瘴気によって、アンドラゴラスめの肉体の再生は、ほぼ完了していたのだ。少なくとも致命傷となるような損壊は残っていない」
「うむ。なれば、ザッハーク様復活の儀式は他の場所でも続けられよう」
「……向かうか、デマヴァント山に」
陰気な場所で、陰気な連中が、陰気な会合を開いていた。
「なにやら食屍鬼が騒いでいるな」
魔道士のひとりが異変に気付いた。
「……どうも焦げ臭くないか?」
別の魔道士が不審気に鼻をひくつかせた。
「これは……煙、か?」
不吉なものを彼らは感じ取った。
ザッハークの眷属にとって、不吉なものを。
ひと抱え程もある球状の物体に火がつけられ、石切り場の穴に次々と勢いよく投げ込まれてゆく。
ひとつやふたつではない。
何百という数の、干し草を球状に丸めて中に薪を詰め、油をしみ込ませたものに火がつけられ、暗黒神殿への地下道に投げ込まれているのだ。
暗黒神殿まで地下道はひたすら下るだけであり、大きく曲がっている箇所もない。干し草の球はザッハークの神殿まで転がり落ちて行くであろう。
「干し草を全て投げ入れたら、そこの岩で穴にふたをするんだ」
リョーツーンはパルス兵たちに指示を出した。
「うまくいくかな」
「そこはやってみないと分からないですが、やってみて損になる話ではないでしょう」
話しかけてきたザラーヴァントにも、涼しい顔でこたえる。
はやくも、暗黒神殿への穴から煙が噴き出し始めていた……。
「われらを燻りだすつもりか!」
「おのれ、卑劣な真似を!」
暗黒神殿の魔道士たちは狼狽し、激昂した。
「エクバターナの地下室へ向かうぞ! パルス兵どもが封鎖しているだろうが、我ら全員でかかれば、ものの数ではない!」
そう言って隠し扉を開けてなかに駆け込んだ者がいたが、すぐに悲鳴をあげてもどってきた。
「あやつら、地下室への地下道に油をまいているぞ! このまま進めば、火をつけるつもりに違いない!」
「こちらの出口に、何も策をうってないわけがないだろうが、あほうどもめ」
地下道から聞こえてきた魔道士の悲鳴に、イスファーンは無慈悲な悪態をついた。
「おぞましい怪物退治も、麗しのファランギースどのと一緒となれば、風雅な趣がただよってきますなあ」
「そうか」
「つれないところも魅力でござるが、たまには素直なところも見せてほしいものですぞ」
「これがわたしの、この上なく素直な一面じゃ」
その傍らでは流浪の楽士と黒髪の女神官がいつもの会話をしている。
「おぬしら、その漫才によく飽きぬものだな」
「ファランギースどのとの戯れは、おれにとって呼吸よりも不可欠なもの。飽きるなど、到底ありえぬ」
「わたしはとっくに飽き飽きしておるのじゃが、この軽薄な色事師が飽きもせずに話しかけてくるものでな」
イスファーンはあきれたように、軽く頭を振った。
煙の臭いがしてきた。そろそろ、地下道への扉を閉めねばなるまい。
「さて、ザッハークの眷属ども、このままおとなしく燻製になるか、それとも……」