転生特典に全スタンド能力を選んだら、転生先がダンまちだった 作:紫呉003
森を出てから、数日が経った。
「……長いな」
俺は街道を歩きながら、思わず愚痴をこぼした。
目指しているのは迷宮都市オラリオ。
目的地自体は決まっている。
問題は――。
「遠い……!」
とにかく遠い。
森を出れば、すぐに街が見えてくる。
そんな甘い考えを持っていた数日前の自分を殴りたい。
道は長い。
ひたすら長い。
俺は荷物を背負い、街道を歩き続けていた。
幸い、食料についてはそれなりに用意してある。
水もある。
野宿にも慣れている。
魔物に襲われても、スタンドがある。
だから、そこまで危険な旅ではない。
……と思っていた。
「……ん?」
前方から、何か聞こえてくる。
「グルルルル……!」
「ヒヒィィィン!」
馬の嘶き。
そして――狼の唸り声。
「……狼?」
俺は足を止めた。
耳を澄ませる。
どうやら、少し先で何かが起きているらしい。
「……行ってみるか」
俺は街道を進む。
すると、木々の向こうに一台の馬車が見えてきた。
そして、その周囲を囲んでいるのは――。
「狼の群れか」
十数匹はいるだろうか。
馬車の周囲を取り囲み、牙を剥いている。
馬車の御者は必死に追い払おうとしているが、狼の数が多すぎる。
「くそっ! しつこい奴らめ!」
御者が棒を振り回す。
一匹が飛びかかる。
「うわっ!」
御者が尻餅をついた。
狼がその喉元へ迫る。
「危ない!」
――俺は反射的に動いていた。
「《
右手に銃が現れる。
ずしりとした感触。
俺は銃口を狼へ向けた。
「――撃つ!」
パンッ!
「ギャイン!」
銃弾が狼の目の前の地面に着弾する。
土煙が舞い上がった。
驚いた狼が飛び退く。
「な、なんだ!?」
御者が驚いてこちらを見る。
俺は走りながら、もう一発撃つ。
パンッ!
今度は別の狼の足元。
「ギャウッ!」
狼たちが一斉にこちらを振り返った。
「おいおい……」
全部こっちを見ている。
「……まあ、そうなるよな」
狼の群れが俺へ向かって走り出す。
「《皇帝》!」
俺は銃弾を連射する。
パンッ! パンッ! パンッ!
銃弾が狼たちの足元へ次々と着弾する。
俺は銃弾を操り、地面すれすれを走らせた。
狼の群れが左右に散る。
「よし!」
一匹が横から飛びかかってきた。
「っと!」
俺は身体をひねって避ける。
そのまま《皇帝》を狼へ向ける。
「悪いな!」
パンッ!
銃弾が狼の肩をかすめる。
「ギャイン!」
狼が地面へ転がった。
残った狼たちは一瞬、動きを止める。
俺は銃を構えたまま、ゆっくりと周囲を見回した。
「……まだやるか?」
「グル……」
一匹が唸る。
だが、他の狼たちは後退していく。
「そうか」
俺は銃口を下ろした。
「なら、帰れ」
狼たちはしばらくこちらを睨んでいたが――。
やがて、森の中へ消えていった。
「……ふぅ」
俺は息を吐く。
そして――。
ちょっと格好つけたくなった。
「銃は剣よりも強しってな」
「…………」
「…………」
沈黙。
御者がこちらを見ている。
俺も御者を見る。
「……なんだ?」
「いや……」
御者が苦笑する。
「お前、子供なのに妙に大人びてるな」
「……よく言われる」
実際は十五歳。
精神年齢はもっと上。
そして身体だけは十五歳。
まあ、普通の十五歳よりは大人びて見えるのだろう。
「それにしても助かった!」
御者が立ち上がる。
「本当にありがとう!」
「いや、困っているみたいだったから」
「いやいや、あの数の狼を一人で追い払ったんだぞ? 十分すごいさ!」
御者は馬車へ近づく。
「怪我はないか?」
「俺は大丈夫」
「そうか」
御者はほっとしたように息を吐いた。
「ところで、どこへ向かっているんだ?」
「オラリオ」
「オラリオ?」
「うん」
そう答えると、御者は目を丸くした。
「奇遇だな。俺たちもオラリオへ向かっている」
「……え?」
「よければ乗っていくか?」
「いいのか?」
「命を助けてもらった礼だ。それくらいはさせてくれ」
「……ありがとう!」
こうして俺は、思いがけずオラリオまでの足を手に入れた。
◇ ◇ ◇
「改めて自己紹介しておこう」
馬車の荷台で、御者が振り返る。
「俺はガイル。ガイル・ロックだ」
「俺はレオン。レオン・アルヴェイン」
「レオンか。よろしくな」
「よろしく」
俺たちは軽く握手を交わした。
ちなみに、ガイルは三十代くらいの男性だ。
体格はそれなりに良く、長年馬車を扱っているらしく、馬の扱いもかなり慣れている。
馬車には他にも二人ほど乗っていた。
一人はガイルの妻。
そしてもう一人は、彼らの息子らしい。
最初は少し警戒されていたが、狼から助けたこともあって、すぐに打ち解けることができた。
「しかし、レオンは一人でオラリオへ?」
「そうだよ」
「親は?」
「いや、いないよ」
これは嘘ではない。
少なくとも、今の俺に親はいない。
ローディは育ての親だが、血の繋がった親ではない。
「そうか……」
ガイルはそれ以上聞かなかった。
その気遣いがありがたい。
「冒険者になるのか?」
「そのつもり」
「なら、気をつけろよ」
「そんなに危険なの?」
「ああ」
ガイルが前を向いたまま答える。
「オラリオは冒険者の街だ。世界中から人が集まってくる」
「それは聞いたことがある」
「金も稼げる。名誉も手に入る。だが――」
ガイルの声が少し低くなった。
「それ以上に、人が死ぬ場所でもある」
「……」
俺は黙って聞く。
「特に最近は、冒険者同士の揉め事も増えているらしい」
「冒険者同士?」
「ああ。ダンジョンだけが危険ってわけじゃない」
なるほど。
これはローディから聞いていた話とも一致する。
そして俺がこれから向かうオラリオは――。
原作で描かれる時代より、さらに十年ほど前だと思う。
つまり、ベル・クラネルが生まれるより前。
俺が知っている物語とは、まだかなり違う時代だ。
「今のオラリオって、どんな感じなんだ?」
俺は聞いてみた。
「そうだな……」
ガイルは少し考える。
「迷宮都市としては、今まで以上に発展している」
「へぇ」
「冒険者の数も多い。強い奴もたくさんいる」
「有名な冒険者とか?」
「ああ」
ガイルは何人か名前を挙げた。
俺は聞きながら、記憶を探る。
……やっぱり、知っている名前がほとんど出てこない。
当然だ。
俺が知っている物語は十年後。
今とは時代が違う。
「それと、ファミリア同士の勢力争いもかなり激しい」
「神様同士で?」
「まあ、そんなところだ」
ガイルが苦笑する。
「オラリオは変わった街だよ。神が普通に歩いているのに、人間もそれを当たり前だと思っている」
「……」
神。
俺はその言葉を聞いて、少しだけ複雑な気持ちになった。
俺の知っている「神」は、あのクソ宇宙人だ。
まあ、あいつは神じゃない。
……たぶん。
「ソウスケ?」
「ん?」
「どうした?」
「いや……神様って、どんな奴なんだろうと思って」
「それは会ってからのお楽しみだな」
ガイルが笑った。
「ただ、酒好きな神には気をつけろ」
「ローディと同じこと言ってる……」
「ローディ?」
「あ」
しまった。
「俺を育ててくれた人」
「そうか」
「元冒険者なんだ」
「へぇ」
「弓がすごく上手い人だった」
「じゃあ、お前も弓を使うのか?」
「一応ね」
俺は背負っている弓を軽く叩いた。
「銃も使うけど」
「……」
ガイルが俺の腰を見る。
「それ、銃っていうのか?」
「うん」
「ずいぶん変わった武器だな」
「まあ、ちょっと特殊なんだ」
まさかスタンドとは言えない。
俺は笑って誤魔化した。
◇ ◇ ◇
その後も、旅は順調に進んだ。
……とはいかなかった。
「また来たぞ!」
ガイルが叫ぶ。
「今度はゴブリンだ!」
「了解!」
俺は荷台から飛び降りる。
「《
銃を構える。
パンッ!
ゴブリンの足元を撃ち抜く。
「ギャッ!」
怯んだところへ、もう一発。
パンッ!
「よし!」
次。
別の魔物が馬車へ近づいてくる。
「《皇帝》!」
弾丸を操る。
軌道を曲げる。
木の陰に隠れていた魔物へ命中。
「……便利だな、この能力」
銃という武器そのものの扱いにも、かなり慣れてきた。
ローディから教わった弓や短剣と違い、こちらは俺自身が使い方を考える必要がある。
だが、弾丸を自由に操れる《皇帝》はかなり使いやすい。
その後も何度か魔物に襲われた。
狼。
ゴブリン。
大型の魔物。
そして、盗賊。
だが――。
そのすべてに俺は対処した。
時には《皇帝》。
時には弓。
時には短剣。
そして、どうしても危険なときには――。
別のスタンド。
ただし、できるだけ使うスタンドは絞った。
スタンドを切り替えるたびに精神力を消費する。
無駄遣いはできない。
それに。
俺はまだ「冒険者」ではない。
この旅で何度も戦いながら、少しずつ実戦経験を積んでいく。
これもまた、オラリオへ向かうための修行だ。
「レオン!」
ガイルの声が聞こえる。
「前を見ろ!」
「……?」
俺は顔を上げた。
そして――。
遠くの地平線に、それが見えた。
巨大な城壁。
その向こうにそびえ立つ巨大な塔。
そして。
その中心に存在する、巨大な建造物。
「…………」
思わず息を呑む。
あれが――。
あれこそが。
俺が目指していた場所。
「……オラリオ」
ついに。
ついに見えた。
胸の奥が熱くなる。
五年間暮らした森を出て。
ローディと別れて。
長い旅をして。
そして――。
俺はようやく、ここまで来た。
「どうした、レオン?」
ガイルが笑う。
「緊張してるのか?」
「……ちょっとだけ」
「そうか」
俺は立ち上がった。
風が吹く。
遠くに見える迷宮都市を見つめる。
あそこには何が待っているのだろう。
どんな人間がいる。
どんな神がいる。
どんな魔物がいる。
そして――。
俺はどこまで強くなれるのだろう。
「……行こう」
俺は拳を握る。
「俺の冒険は、ここからだ」
馬車はゆっくりと街道を進んでいく。
その先にあるのは――。
迷宮都市オラリオ。
俺の知らない物語が始まる場所だった。