「執事!このワインで庶民のドレスを彩ってやりなさい!」「美味しいですねこれ!」「何飲んでるのよ!」「ワインです!」「そうじゃないわよ!」

1 / 1
悪役令嬢の執事がアホすぎて何をさせても善行に繋がってしまう

「なんて庶民らしい、見窄らしい衣装でしょう」

 

 レティシア・フォン・アルヴェインは、扇子で口元を隠しながら、広間の隅に立つ一人の少女を見つめていた。

 

 王立アストリア学園。

 

 王国中から優秀な若者が集まるこの学園は、貴族社会において特別な意味を持つ場所だ。

 

 高位貴族の子息令嬢はもちろん、商家の子供や平民出身の特待生までが同じ門をくぐる。

 

 身分による差別をなくし、才能ある者には平等に学ぶ機会を与える。

 

 ――建前の上では、そういう場所だった。

 

 だからこそ、今日のような入学式後の歓迎パーティーでは、身分の違いなど忘れたかのように皆が笑顔を浮かべている。

 

 豪華な料理が並び、楽団が優雅な音楽を奏で、天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアが広間全体を照らしている。

 

 壁際には高価な花瓶。床には王都の職人が織り上げた絨毯。天井近くには、王家の紋章を模した装飾まで施されていた。

 

 そんな場所に――その少女はいた。

 

 ミリア。平民出身の特待生。

 

 レティシアが彼女を見つけたのは、単なる偶然……いや、正確には彼女の服装があまりにも場違いだったから自然と目に入ってしまったのだ。

 

 周囲の令嬢たちは、色とりどりのドレスを身にまとっている。

 

 淡い桃色。深い青。煌びやかな銀。金糸をふんだんに使った豪奢な衣装。

 

 対してミリアが着ているのは、飾り気のない白いドレスだった。

 

 もちろん汚れているわけではない。破れているわけでもない。むしろ丁寧に手入れされていることが分かるほど清潔だった。

 

 ただ……質素なのだ。

 

 レティシアにとっては、それだけで十分に気に入らなかった。

 

「……本当に、目障りね」

 

 レティシアは小さく呟いた。

 

 別に平民が嫌いというわけではない。

 

 ……いや、嫌いではない、ということにしておこう。

 

 少なくとも本人はそう思っている。

 

 ただ自分たちとは違う世界にいる人間が、こうして同じ場所に立っていることが気に入らない。

 

 それも自分よりも周囲から注目されている。

 

 先ほどから、あちこちでミリアについて話している声が聞こえていた。

 

「彼女が例の特待生?」

 

「平民なのに魔力試験で満点だったらしいわよ」

 

「今年一番の逸材だとか」

 

「王立学園始まって以来の平民出身主席候補ですって」

 

 レティシアは扇子を閉じた。

 

 ぱちん、と乾いた音がする。

 

「……面白くないわ」

 

 レティシア・フォン・アルヴェイン。

 

 公爵令嬢。

 

 王国でも五本の指に入る名門アルヴェイン家の一人娘。

 

 幼い頃から礼儀作法、魔術、学問、社交術。

 

 貴族令嬢として必要なものは何一つ欠けていない。

 

 だからこそ……だからこそ、平民の少女が自分より注目されていることが、どうしても許せなかった。

 

「執事」

 

「はい、お嬢様!」

 

 背後から、やたら元気な声が返ってくる。

 

 レティシアは振り返らない。

 

「ここにワインがありますわね」

 

 レティシアはテーブルに置いてあったワインを執事に差し出す。

 

「ありますね!」

 

「……」

 

 レティシアは少しだけ眉をひそめる。

 

 この男、名前はセバス。

 

 正式にはセバス・グランという、アルヴェイン家の専属執事である。

 

 十年以上レティシアに仕えており、身の回りの世話から護衛、雑用まで何でもこなす。

 

 剣の腕も悪くない。

 

 料理もできる。

 

 馬にも乗れる。

 

 掃除もできる。

 

 主人に対する忠誠心も非常に高い。

 

 ただし……頭が悪い。

 

 それも、どうしようもないほどに。

 

 レティシアは一度、彼にこう聞いたことがある。

 

『あなた、私の命令をどの程度理解できるの?』

 

 するとセバスは胸を張って、

 

『百パーセントです!』

 

 と答えた。

 

 その直後、

 

『じゃあ庭にある花を全部摘んできて』

 

 と言ったら、本当に庭を丸裸にした。

 

 レティシアが欲しかったのは一輪の花だった。

 

 そのときから、彼女はセバスに複雑な指示を出すのをやめている。

 

 ――それでも。

 

 この男しか他に頼れる者もいないので頼ることにした。

 

「なんて庶民らしい、見窄らしい衣装でしょう」

 

 レティシアはミリアを指し示す。

 

「そう思わない?」

 

「はい!」

 

 セバスは即答した。珍しく意見が合った。

 

「では、これを使いなさい」

 

 レティシアはワインを差し出す。

 

「はい!」

 

 セバスは受け取った。

 

「それを使って、あの庶民の服を――」

 

「いただきます!」

 

「…………は?」

 

 次の瞬間。

 

 ごく、ごく、ごく。

 

 セバスはワインを一気に飲み干した。

 

「いやー、美味いっすねこれ!」

 

「何を飲んでいるのよ!」

 

「ワインです!」

 

「見れば分かるわよ!」

 

 レティシアは思わず声を荒らげた。

 

 周囲の何人かがこちらを振り返る。恥ずかしい。

 

 公爵令嬢の専属執事ともあろう者が、主人から渡されたワインを一気飲みしている。

 

「それを使って、あの子の服を彩りなさいと言っているの……!」

 

「ああ!」

 

 レティシアの囁きにセバスは手を叩いた。

 

「そういうことでしたか!」

 

「最初からそう言っているでしょう!」

 

「いやー、てっきり俺に飲めってことかと」

 

「そんな命令をするわけないでしょう!」

 

「ですよね!」

 

「当たり前よ!」

 

 レティシアは深く息を吐いた。

 

 怒っていても仕方がない。

 

 こういう男なのだ。

 

「……もういいわ」

 

 レティシアは近くの給仕から新しいワインを受け取った。

 

「ほら。もう一本もらってきたから、これを使いなさい」

 

「ありがとうございます! やっぱレティシア様は優しいですね!」

 

「いいから、とっとと行きなさい!」

 

「了解っす!」

 

 セバスはワインを抱えて歩き出した。

 

 その背中を見送りながら、レティシアは小さく息を吐く。

 

「……これで少しは思い知るでしょう」

 

 ミリアのような平民が、貴族の集まる場所で注目を浴びている。

 

 それ自体が間違いなのだ。

 

 服を汚されれば、恥をかく。

 

 笑われれば、自分の身分を思い知る。

 

 それで十分だった。

 

「すみませーん!」

 

「はい?」

 

 セバスの呼びかけにミリアが振り返る。

 

 セバスは笑顔だった……あまりにも笑顔だった。

 

 嫌な予感がする。

 

「あっ」

 

 セバスが足を滑らせた。

 

 ばしゃっ!

 

「きゃっ!」

 

 ワインがミリアの白いドレスに盛大に降り注ぐ。赤い液体が胸元から裾へと広がり、白い布地を染めていく。

 

「ふふっ……」

 

 レティシアは満足そうに目を細めた。

 

 成功。

 

 完璧だ。

 

 周囲からざわめきが起こる。

 

「まあ……」

 

「ドレスが……」

 

「ひどい……」

 

 そして、誰かが小さく笑った。

 

 それを皮切りに、何人かの貴族たちが口元を押さえる。

 

 レティシアは扇子を広げた。

 

 これでいい。

 

 あの少女も、自分がこの場に相応しくないことを理解するだろう。

 

「すみません! 大丈夫ですか!?」

 

  ところがセバスが慌てた様子でミリアに駆け寄った。

 

「はい……」

 

「こりゃ大変だ。シミになっちゃいますね!」

 

「え?」

 

「ちょっと裏を借ります!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 セバスはミリアの手を引いて歩き出した。

 

「…………」

 

 レティシアは目を細める。

 

 何故、裏へ連れていく? ……まあいい

 

 きっと汚れを落としているのだろう。それならそれで、ドレスの惨めさは変わらない。

 

 そう思っていた。

 

 そして十分ほど経った頃。

 

「お待たせしました!」

 

 セバスが戻ってきた。その隣にはミリア。

 

 そして――

 

「…………は?」

 

 レティシアは言葉を失った。

 

 白かったドレスは、赤い薔薇を思わせる深紅の模様で彩られていた。

 

 中央から裾へ向かって伸びる模様は、まるで花弁が舞い散っているようにも見える。

 

 ワインのシミなど、どこにも残っていない。

 

 むしろ、それを利用してデザインにしてしまったらしい。

 

 質素だったドレスが、一転して華やかな衣装へと変わっていた。

 

「どうして綺麗になってきてるのよ!」

 

 レティシアは思わず近寄った。

 

「えっ?」

 

 セバスが呆けた顔で首を傾げる。

 

「お嬢様が綺麗にしろと言ったのでは?」

 

「言ってないわよ!」

 

「でも『服を彩れ』って」

 

「そんな意味じゃない!」

 

「そうなんですか?」

 

「そうよ!」

 

 セバスは困った顔をした。

 

 そしてミリアを見る。

 

「でも、似合ってますよね?」

 

「……!」

 

 ミリアは自分のドレスを見下ろした。

 

「はい……!」

 

 その顔は、とても嬉しそうだった。

 

「私、こんなに綺麗なドレスを着たことありません!」

 

「え?」

 

「ありがとうございます、レティシア様!」

 

「…………」

 

 レティシアは固まった。

 

「私なんかのために、こんなことまでしてくださるなんて……」

 

「いや、違――」

 

 否定しようとする。

 

 私はあなたを笑いものにしようとしただけ。

 

 ワインをかけて、恥をかかせて、それを皆に見せつけるつもりだった。

 

 そう言えばいい。

 

 簡単なことだ。

 

 ……なのに。

 

「……気に入ったのなら、それでいいわ」

 

 口から出てきたのは、そんな言葉だった。

 

「はい!」

 

 ミリアが笑った。

 

 その笑顔を見た瞬間。

 

 レティシアの胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなった。

 

 なんだろう。

 

 この感覚は。

 

「レティシア様って、優しいんですね!」

 

「…………」

 

 その言葉を聞いた途端、レティシアは顔を逸らした。

 

「べ、別に……これくらい、当然でしょう」

 

「ありがとうございます!」

 

「あ、うっ……」

 

 まずい。

 

 嬉しい。

 

 何故だか分からない。

 

 自分は今、完全に失敗している。

 

 なのに。

 

 悪い気分ではなかった。

 

 むしろ――。

 

「……悪くないわね」

 

「何か言いました、お嬢様?」

 

「何でもないわ!」

 

 その日を境にレティシアの計画は、ことごとく狂い始めた。

 

 数日後。

 

「お嬢様! ミリアさんが勉強で困ってるみたいです!」

 

「そう」

 

 レティシアは机に座りながら答えた。

 

「なら、私の家庭教師を貸してあげなさい」

 

「はい!」

 

「ただし、厳しく教えるように言っておきなさい。簡単には合格させないように」

 

「分かりました!」

 

 翌日。

 

「ありがとうございます、レティシア様!」

 

 ミリアは満面の笑みで頭を下げた。

 

「家庭教師の先生がすごく丁寧に教えてくださって! おかげで苦手だった魔術理論が分かるようになりました!」

 

「…………」

 

 レティシアはこめかみを押さえた。

 

「あなた……」

 

「はい?」

 

「本当に私の命令を理解しているの?」

 

「もちろんです!」

 

「なら、どうしてこうなるのよ!」

 

「え?」

 

 セバスは本気で不思議そうな顔をしている。

 

「だって、お嬢様は『教えてあげなさい』って言いましたよ?」

 

「その前に『厳しく』と言ったでしょう!」

 

「はい!」

 

「なのに!」

 

「厳しく教えてもらったからこそ、分かるようになったんじゃないですか?」

 

「…………」

 

 正論だった。

 

 腹が立つほど正論だった。

 

 さらに数日後。

 

 レティシアは昼休みの教室で、窓際の席から校庭を眺めていた。

 

 視線の先には、ミリアの姿がある。

 

 数人の生徒たちと楽しそうに話しながら、昼食を取ろうとしている。

 

 最近、あの少女は妙に学園生活を楽しんでいる。

 

 授業では教師たちから褒められ、成績も上々。

 

 先日のドレス事件以来、レティシアに対しても妙に好意的だ。

 

 しかも、平民でありながら貴族の生徒たちとも少しずつ交流を深めている。

 

 ――面白くない。

 

「……あの子、随分と楽しそうね」

 

「そうですね!」

 

 背後に控えていたセバスが元気よく返事をする。

 

 レティシアは振り返った。

 

「セバス」

 

「はい!」

 

「あの子の昼食を奪いなさい」

 

「はい!」

 

 即答だった。

 

 レティシアは少し満足する。

 

 今回は簡単な命令だ。

 

 間違えようがない。

 

 これでいい。

 

 平民というものは、こういう小さな屈辱から身分の差を思い知るものだ。

 

 せっかく楽しみにしていた昼食を目の前で奪われれば、さぞ悔しいだろう。

 

 しかもそれを公爵令嬢である自分が行う。

 

 周囲の生徒たちも、レティシアとミリアの立場の違いを再認識するはずだ。

 

「ふふ……」

 

 レティシアは小さく笑った。

 

「今度こそ、完璧ね」

 

「はい!」

 

 セバスが勢いよく教室を出ていく。

 

 その背中を見送りながら、レティシアは満足げに頷いた。

 

 ――しかし。

 

 十分後。

 

「レティシア様!」

 

「…………」

 

 廊下の向こうから、ミリアが駆けてきた。

 

 その顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

 

 嫌な予感がした。

 

「本当にありがとうございます!」

 

「……何の話かしら?」

 

「お昼ご飯です!」

 

「…………」

 

 レティシアはゆっくりと後ろを振り返った。

 

 そこには、満足そうな顔をしたセバスが立っている。

 

 両手には空になった弁当箱。

 

「あなた」

 

「はい!」

 

「何をしたの?」

 

「もちろん、お嬢様のご命令通りに!」

 

「そう」

 

 レティシアは頷いた。

 

 今度こそ成功したらしい。

 

「では、あの子の昼食は?」

 

「食べてもらいました!」

 

「え?」

 

「俺の弁当を!」

 

「…………」

 

 レティシアの眉がぴくりと動いた。

 

「どういうことかしら?」

 

「いやー、ミリアさんのお弁当って、普通のお弁当だったじゃないですか」

 

「……ええ」

 

「それに比べて俺の弁当は、アルヴェイン家の料理人が作った特製弁当ですよ」

 

「…………」

 

 嫌な予感が、確信へと変わっていく。

 

「だから、交換しました!」

 

「何故よ!」

 

「だってお嬢様は『あの子の昼食を奪え』って言ったじゃないですか!」

 

「そうよ!」

 

「だから、あの子の昼食を奪って、代わりにもっといいものを渡しました!」

 

「それは『奪う』とは言わないでしょう!」

 

「え?」

 

 セバスは本気で分からないという顔をした。

 

「でも、元のお弁当は俺がもらいましたよ?」

 

「え?」

 

「ほら」

 

 セバスが空になった弁当箱を見せる。

 

「全部食べました!」

 

「あなたが食べたの!?」

 

「はい! 美味かったです!」

 

「そういう問題じゃないわ!」

 

 レティシアは頭を抱えた。

 

 もう嫌な予感しかしない。

 

「ちなみに……」

 

「まだ何かあるの?」

 

「お嬢様が『あの子には何も食べさせない』とおっしゃっていたので」

 

「そうよ!」

 

「俺のお弁当だけじゃ足りないかもしれないと思って――」

 

 セバスは近くの机に置かれた紙袋を持ち上げた。

 

「食堂で追加の料理も買ってきました!」

 

「…………」

 

 紙袋の中から現れたのは、焼きたてのパン。

 

 果物。

 

 肉料理。

 

 そして、小さなケーキまで入っている。

 

「……何故そこまでするのよ」

 

「だって、お腹いっぱいになった方が嬉しいじゃないですか!」

 

「私の命令を聞きなさいよ!」

 

「ちゃんと聞いてますよ!」

 

「聞いてないわよ!」

 

 レティシアが叫ぶ。

 

 すると、隣にいたミリアが申し訳なさそうに口を開いた。

 

「でも……本当に、ありがとうございます」

 

「…………」

 

「私、家ではこんなに豪華なお昼を食べたことありません」

 

 ミリアは紙袋の中身を見つめている。

 

 その瞳は、きらきらと輝いていた。

 

「このケーキも、すごく美味しそう……」

 

「…………」

 

 レティシアは言葉を失った。

 

 本当なら目の前で昼食を奪われ、何も食べられずに惨めな思いをするはずだった。

 

 それが今ではどうだ。

 

 ミリアは嬉しそうに笑っている。

 

 しかも、周囲の生徒たちまでこちらを見ていた。

 

「さすがレティシア様ね」

 

「平民の子にも自分の食事を分けてあげるなんて……」

 

「しかもアルヴェイン家の特製弁当でしょう?」

 

「お優しい方なのね」

 

「…………」

 

 違う。

 

 全然違う。

 

 私はこの子から昼食を奪おうとしていたのだ。

 

 むしろ、今すぐここで説明してやりたい。

 

 私は優しくなんかない。

 

 あなたを困らせようとしたのだと。

 

 けれど……

 

「ありがとうございます、レティシア様!」

 

 ミリアがもう一度頭を下げた。

 

「私、今日のお昼のこと、ずっと忘れません!」

 

「…………」

 

 レティシアは口を開きかけて――閉じた。

 

 何故だろう。

 

 言えなかった。

 

「……別に」

 

 ようやく出てきた声は、自分でも驚くほど小さかった。

 

「これくらい、たいしたことではないわ」

 

「はい!」

 

 ミリアは嬉しそうに笑った。

 

「いただきます!」

 

 そして、幸せそうにパンを頬張る。

 

 その様子を見ていると。

 

 レティシアの胸の奥が、また少しだけ温かくなった。

 

「…………」

 

「お嬢様?」

 

「何よ」

 

「なんか嬉しそうですね」

 

「嬉しくないわ」

 

「そうですか?」

 

「ええ」

 

「でも笑ってますよ」

 

「笑ってないわ」

 

「笑ってますって」

 

「うるさい!」

 

 レティシアは扇子を広げて顔を隠した。

 

 その頬が、ほんの少し赤くなっていることを。

 

 セバスは気づいていた。

 

 けれど、あえて何も言わなかった。

 

 ――まあ、いいか。

 

 レティシア自身も、少しずつ分かり始めていた。

 

 誰かを困らせるより。

 

 誰かに喜んでもらう方が。

 

 ずっと気分がいい。

 

「……悪くないわね」

 

 誰にも聞こえないほど小さな声で、レティシアは呟いた。

 

 それが、自分の意思でこぼれた初めての言葉だった。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。