マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~ 作:メスキャン界隈
家の中で、スマホに指を滑らせた。今日はバイトが休みだから。
チャットを開いて、何かを打ち込もうとして止まる。
何をしようとしてたんだっけ……ああそっか。マスターになんとなく送ろうとしてたんだった。
と、マスターとのチャット欄を開いて、なんとなく掛ける言葉も思い付かなくて、指が止まる。
最近、私はマスターに対して冷たくなったんだって。あおちゃんも、みっちゃんもそう言ってるんだけど、私にはよくわかってない。
……メス堕ちキャンセラー、結構すごいね。ここまで、気持ちが変わるなんて。
でも、あんまり違和感がなかったんだけど。私たちみたいなTSしてる人に対して、ガチすぎない?
あおちゃんも、知らないうちに冷たくなってるみたいで、ちょっと困ってるらしい。
……私も、なんでキモいとか言ってる相手のところに、バイトしてるんだって話だしね。不思議な気分。
でも、なんかマスターのことを考えていると少しムカムカする。……これはきっと、そういうことなんだと思う。
にしても、なんで私はマスターのことが気になったんだろ。これはきっと、なんでも受け入れてくれるからなんだけど。
マスターはずるい。
元々、私が俺だった時の話。ちょっとだけ、お願いしてしまった。
今とは違う、自分になりたい。なんとなく、今の自分が嫌だったから。
そうして、その願いがどうやら叶ってしまって。気付いたら私になっていた。
違う、そういうことじゃない。私は、ただ今がなんとなく嫌だっただけなのに。
だから、適当に走っていて。その最中に雨が降ってきて、ずぶ濡れになったところにマスターの喫茶店を見つけた。
なんとなくそこに入って、何も聞かれずにただ優しくされただけ。
たぶん、その時にはすでにもう、気になってたんだとは思う。
それで、そのままずるずると気持ちが深まってしまって、気付いたらこうなってしまった、というだけの話。
……まあ、簡単に言えばマスターのことが好きなんだろうけど。今はそれも、メス堕ちキャンセラーに押さえ付けられてるから。
自分の気持ちを理解してしまうと、少しむず痒い気持ちになる。
……理解はしてたけど、そっかーみたいな。いやあ、だいぶアピールはしてたっけ。メス堕ちキャンセラーのせいで、好きになる原因とかの記憶が靄がかかったみたいに曖昧だから、逆にもう一度理解させられてるっていうか。
まあいいや。チャット欄を閉じる。別に、なにか連絡する必要もないし。
……これ思い出したってことは、またメス堕ちキャンセラー貫通してるってことになるのかな。
ちょっとだけ、寂しいけど。明日またマスターに連絡しようかな。
「チャットしないの?」
――不意に、耳元から声が聞こえてきた。
思わず、振り向くと……小さな女の子が立っている。拳がメリィさんに少し似てるけど、ちょっと違うような。
ひらひら、と手元に持っているメモ帳をなぜか振りながら、にこりと笑いかけてきた。
「私、パリィさん。今、あなたの部屋にいるの」
「えっ、あの壁に耳あり障子でパリィの!?」
「そう、そのパリィだよ」
すごい、パリィさんだ。なんでここにいるんだろ。
「なんとなく、ゲーミング因習村にいると暇だから来たの」
「パリィさんってそこ出身?」
「そうだよ、当たり前でしょ」
当たり前なんだ。
「でも、なんで私の部屋に?」
「ん?あのマスターのとこのバイトの人でしょ?」
こてん、と小首を傾げた。……マスター、メリィさんに続けてパリィさんからも注目されてるんだ。いや、前に電話かけられてたって言ってたっけ。
マスターも、不思議な人だなあ。……やっぱり、他の人と絡んでるのを想像すると、もやもやする。
「ほら、マスターのこと考えてる」
いつの間にか、近づかれて顔を覗かれてる。
「……それが、なんですか?」
「気になるなら、もっとぐいぐい行けばいいでしょ?」
「パリィさんもコイバナとかするんだ」
「するわけないでしょ」
どっちなの?
「ああ、もしかしてあの忌まわしい機械のせい?」
「メス堕ちキャンセラーのことを言ってます?」
「……イカれた名前」
そうかな、そのままの名前でいいと思うけど。
メス堕ちをキャンセルしてるんだし。
「パリィさんは嫌いなんですか?メス堕ちキャンセラー」
「当たり前じゃない。人の気持ちを操作してるなんて、気味が悪い」
言われてみればそうかも。あんまり気にしたことなかったけど。
……そういう違和感を持たないようにしてるとか、そういう機能もあったりして。
「あと、あれが結界になってて入れないから」
「……そっちが本音ですよね?」
「そうだけど。結界をこじ開けるの大変だから」
「こじ開けられるんですか?」
「私ぐらいになるといけるよ」
言われてみれば、副次的効果として存在してる、怪異とかを阻む結界の機能があるのに拳がメリィさんは普通にいたんだから、怪異によっては入れるんだ。
これって、七夕シェアハピシャークとかにも影響するのかな。
「そういえば、結界をこじ開けるのできるし。あなただけ、そのへんてこ機械の影響受けなくするとか、できるかもね」
「えっ」
「はい」
するり、と私の胸元をなぞる。……特に変わった気はしない。
「じゃあ、このままマスターにアタックしてきてね」
「……なんでさせたいんです?」
「見たいから?マスター、このままだとバイトの子がアタックしちゃいますよ~ってやつ」
「真似しないでくださいっ」
◇◇◇
「というわけで、ナギちゃん復活ですっ!」
やけに元気に、ナギが宣言してきた。確かに、元に戻ってるな。
よくわからんが、パリィさんのお陰でなんとなかったらしい。復活したならよかった。
「あおちゃんとかの分も、気が向いたらなんとかしてくれるらしいですよ」
「便利すぎない?」
「今まで意味わかんないものばっかり出てきたんですから、そんなもんですって」
「それはそうなんだが」
ナギも、意味がわからないものだって理解してたんだな。さすがに、そりゃそうか。
カウンターに座り込んでは、じーっとこっちを見てくる。
「なんだ?」
「マスターの顔って、こんな感じだなーって」
「……どういうこと?」
「ずっと眺めてられるかもしれませんね」
くすり、と笑ってはなぜか視線を逸らした。逆に恥ずかしくなってきたのかもしれない。
「にしても、お客さん来ませんね」
「そうだな」
今日も、いつも通り喫茶店は閑散としてて、いつもの面子もやってこない。
「マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」
こうやってこの言葉を聞くのも日常になってるんだな、と思いながらカップを磨いていく。
「おや、ナギくんが前みたいになってるね」
「よっす!ナギ」
「あれ、ナギ普通になってんの?」
と思えば、コヨミとミズキ、アオイがやってくる。
「パリィクリスマス~」
……さらに変なやつまできた。別にクリスマスでもないけどな。
誰だよ、このメリィさんみたいな……そういえば前見たな。パリィさんだっけか。
また、騒がしくなりそうだな。
「マスターの周囲ってなんか女の子ばっかりですね」
「周囲というか、客なんだが」
「確かに」
けらけら、と笑いながらナギも準備を始める。
「マスター、目移りしないでくださいね」
不意に言葉を掛けられたが、どういう意味かもわからずに、とりあえずコーヒーを淹れることにした。
まあ、元に戻ったナギとまたやっていけるならいいか。
一部完的なノリです
別に完結してないし、なんか思いついたら急に更新するんですけど、一旦更新止まると思うで……