淫夢ごっこは連邦軍において最も恥ずべき行為です 作:アイアイホイホイおさるさん
原作:ガンダム
タグ:AI本文利用 宇宙世紀 真夏の夜の淫夢 ジム改 ジム・カスタム ジム・クゥエル ゾック 地球連邦軍 ティターンズ ジオン残党 ギャグ ウーンドウォートガチ恋系Vtuberしょーぐん
宇宙世紀0084年。
一年戦争が終わってから、すでに五年が経過していた。
デラーズ紛争も終わり、地球連邦軍は「もう大規模な戦争は起こらない」と考えたい時期に入っていた。
もちろん、そんな希望的観測が成立するほど宇宙世紀という時代は甘くない。
ジオン公国は滅びた。
だが、ジオン軍人は滅びていない。
各地に散った残党は、それぞれの思想、それぞれの事情、それぞれの予算不足を抱えながら、今日も連邦軍にちょっかいを出していた。
そして連邦軍もまた、戦争が終わったからといって暇になったわけではない。
むしろ逆だった。
戦争が終わった後には、戦争そのものより面倒な仕事が待っている。
書類。
査察。
予算請求。
物資管理。
人事。
基地警備。
そして、暇になった兵士たちが余計なことをするのを防ぐこと。
これが最後の一つが、後に連邦軍の一部で「淫夢ごっこ禁止令」と呼ばれる奇妙な内規を生む事件の発端となった。
場所は月面近傍の補給拠点。
地球連邦軍第七警備中隊、通称「月面西ブロック警備隊」。
この部隊に所属する一人の兵士が、勤務時間中にとんでもないものを発見した。
名前を、ハロルド・マイヤー曹長という。
年齢二十六歳。
整備兵。
MS操縦経験なし。
戦闘技能は平均的。
事務処理能力は極めて低い。
そして暇潰しの能力だけは異常に高い。
「……なんだこれ?」
その日もハロルドは、補給端末の隅に残されていた旧式ネットワークのアーカイブを眺めていた。
宇宙世紀のネットワーク環境は、一年戦争以前から比べれば恐ろしく高速化している。
だが古い記録は残る。
旧世代の掲示板。
旧世代の動画。
旧世代の文章。
かつて地球圏の人々が熱狂した、意味不明な流行。
ハロルドはそれらを眺めながら、
「昔の人間って暇だったんだな」
などと、現代の自分が言われても仕方のない感想を抱いていた。
そして、その中に奇妙な動画編集文化のアーカイブを発見した。
古い成人向け映像を元にした、奇妙なネットミーム。
大量の台詞。
妙に印象に残る言葉。
それらを組み合わせて遊ぶ文化。
ハロルドはしばらく無言で画面を見つめた。
「…………」
そして。
「なんだこれは」
もう一度言った。
それが始まりだった。
*
「野獣先輩って何ですか?」
「知らん」
「じゃあ、語録って何ですか?」
「知らん」
「じゃあなんで曹長はそんなに詳しいんです?」
「昨日一晩調べた」
「勤務中に?」
「勤務中に」
「クソだな」
「お前も見てるじゃねえか」
翌日。
整備班の休憩室には、妙な文化が誕生していた。
原因は明白だった。
ハロルドが同僚に動画を見せたのである。
そこから先は早かった。
宇宙世紀の人間は、娯楽に飢えていた。
特に兵士は。
戦争。
訓練。
整備。
食事。
睡眠。
また訓練。
そこへ「意味は分からないのに妙に語感が強い言葉」が大量に供給された。
兵士たちが夢中にならない理由がなかった。
「じゃ、俺、補給申請書出してくるから」
「おう」
「何か手伝う?」
「いいっすよ」
「そう……」
兵士は立ち上がった。
「じゃあ俺、ギャラもらって帰るから」
「何のギャラだよ!」
休憩室が爆笑に包まれた。
これがいけなかった。
笑ってしまった。
その成功体験が、兵士たちをさらに深みへ引きずり込んだ。
数日後。
「整備終わった?」
「終わりました」
「本当?」
「本当です」
「じゃあ確認するから、見とけよ見とけよー」
「その言い方やめろ!」
一週間後。
「今日の昼飯なんだ?」
「カレーです」
「おっ、そうだな」
二週間後。
「報告書は?」
「必要ない」
「なんで?」
「必要ないから」
「そういう問題じゃないだろ!」
三週間後。
ついに隊長まで感染した。
「全員、訓練場に集合!」
「はい!」
「遅刻した奴は?」
「いません!」
「おっ、そうだな」
「隊長までやるんですか!」
「……」
隊長のレオン・ハートマン大尉は咳払いした。
「流行っているからな」
「流行ってるからって軍隊で使うな!」
もっともな意見だった。
だが、そのもっともな意見を言った兵士も、翌日には語録を使っていた。
こうして第七警備中隊は、連邦軍でも珍しい「全員が妙なネットミームを共有している部隊」と化した。
そして。
事件は起きた。
*
警報が鳴った。
午前十時四十三分。
月面基地の警報システムが、けたたましい電子音を響かせた。
『未確認MS接近!』
休憩室で食事をしていた兵士たちが一斉に立ち上がる。
「敵襲?」
「まさか」
「この辺りに?」
「ジオン残党じゃないか?」
レオン大尉が指揮所へ走り込む。
「状況!」
「正体不明機、一機!」
「識別は!」
「……旧式です!」
「何?」
モニターに映った機影を見て、全員が沈黙した。
巨大だった。
丸い。
異様に幅広い。
そして、何より。
「ゾック……?」
誰かが呟いた。
そう。
ゾックだった。
一年戦争期のジオン軍水陸両用MS。
現代のMSと比較すれば明らかな旧式。
だが、旧式だからといって弱いとは限らない。
巨大なジェネレーター。
前後対称に近い設計。
そして全身に配置されたメガ粒子砲。
ゾックは、一年戦争の技術で作られた「火力を一点に集めた怪物」だった。
「なんでゾックなんだよ!」
ハロルドが叫んだ。
「知らねえよ!」
「もっと他にあるだろ!」
「旧式だから安かったんじゃないか!」
「身も蓋もねえ!」
その瞬間。
ゾックが動いた。
背部と脚部の大型スラスターが噴射する。
巨体が月面を跳ねた。
そして。
閃光。
メガ粒子砲が一斉に発射された。
基地外壁が吹き飛んだ。
「うわああああ!」
「総員退避!」
「MSを出せ!」
警備隊のMS格納庫が開く。
そこから現れたのは、RGM-79Cジム改、RGM-79Nジム・カスタムなど、0084年の連邦軍部隊としては一般的な機体群だった。
ハロルドも整備班としてMSを送り出す。
「各機、散開!」
ジム改が二機。
ジム・カスタムが一機。
それぞれが月面を駆ける。
しかし。
ゾックの火力は想像以上だった。
正面。
背面。
肩。
腹部。
巨大な機体の各所からビームが飛ぶ。
「多すぎる!」
「避けろ!」
「右!」
「右ってどっちだ!」
「お前から見て右!」
「俺から見てって言われても宇宙じゃ分からん!」
ジム改がビームを回避。
その直後、別方向から飛んできた光条がシールドを削る。
「シールド損傷!」
「まだいける!」
ジム・カスタムがビーム・ライフルを撃つ。
直撃。
ゾックの装甲が焼ける。
だが、止まらない。
『……連邦兵……』
通信回線に声が入った。
低い声だった。
『貴様らには、分からんだろう』
「何がだ!」
『俺の祖先が、何をされたのか』
パイロットは語り始めた。
自分の先祖。
かつてインターネットの歴史に残ることになった
その後、ネット上で繰り返しネタにされ、本人の意思とは無関係に巨大なミームの象徴として消費され続けたこと。
もちろん、彼自身が生まれた時代には、そんなものはとうに過去の話だった。
だが家族には記録が残っていた。
祖先が受けた苦痛。
死後も終わらなかったネット上の騒動。
そして、自分たちの家系がその記憶を背負ってきたこと。
『俺は、その恨みを晴らす』
ゾックのメガ粒子砲が光った。
『お前らが笑って使っている言葉の裏には、人間がいるんだ!』
「…………」
通信室が静まり返る。
「……それは」
ハロルドが呟いた。
「確かに、その通りかもしれない」
隊長も頷いた。
「俺たちは軽く考えすぎていた」
兵士たちは顔を見合わせた。
そして。
「……でも」
ハロルドが言った。
「だからってゾックで殴り込んでくるのはどうなんだよ!」
「それは本当にそう!」
シリアスな空気が一瞬で消えた。
『何だと!』
「いや、そこは普通に話し合えよ!」
『俺の怒りを!』
「分かるけど!」
『このゾックに込めた!』
「機体選択が極端すぎる!」
『黙れ!』
ゾックが突進した。
メガ粒子砲。
メガ粒子砲。
さらにメガ粒子砲。
月面基地が吹き飛んでいく。
「話し合いが成立しねえ!」
「隊長!」
「撤退する!」
「どこへ!」
「後ろ!」
「後ろにも基地があります!」
「じゃあ前!」
「前にはゾックがいます!」
「どうしろってんだ!」
戦況は最悪だった。
ジム改一機が撃破。
もう一機も損傷。
ジム・カスタムも右腕を失った。
ゾックは傷ついている。
だが、まだ動いている。
圧倒的な火力。
旧式機とは思えない頑丈さ。
そして、パイロットの執念。
基地防衛隊は追い詰められていた。
*
その時。
遠方から新たなMS部隊が接近してきた。
『こちらティターンズ所属、月面方面臨時遊撃隊』
通信に、冷たい声が響いた。
『現場の連邦軍部隊は戦闘を停止し、後退せよ』
レオン大尉が目を見開く。
「ティターンズ?」
レーダーに三つの機影。
濃紺のMS。
RGM-79Q。
ジム・クゥエル。
0083年のデラーズ紛争後に成立したティターンズが、その初期戦力として運用する新型機だった。
ジム・カスタムを基礎にした機体であり、治安維持やジオン残党掃討を強く意識して設計されている。
その機体が三機。
静かに戦場へ入ってくる。
「……来た」
誰かが呟いた。
「ティターンズだ」
ゾックのパイロットも気づいた。
『ティターンズ……!』
一機のクゥエルがビーム・ライフルを構えた。
別の機体がシールドを構える。
隊長機が前進する。
「全機、照準」
通信に一切の感情がない。
「撃て」
三本のビームが走った。
ゾックが回避。
だが、その瞬間。
クゥエルの一機が月面を蹴った。
大型スラスターが噴射。
巨体の横へ回り込む。
ビーム・サーベル。
抜刀。
「なっ!」
ゾックが振り返る。
しかし遅い。
クゥエルのサーベルがゾックの腕部を切断した。
ゾックが反撃。
胸部メガ粒子砲。
クゥエルはシールドで受ける。
爆発。
だが機体は無傷。
「次」
二機目が射撃。
ゾックの脚部スラスターを撃ち抜く。
推進力を失った巨体が姿勢を崩した。
そこへ隊長機。
真正面から突撃。
ビーム・ライフル。
連射。
ゾックの装甲が破壊される。
最後に。
ビーム・サーベルが振り下ろされた。
ゾックの動力系が停止。
巨体が月面へ落下した。
静寂。
戦闘終了。
*
ゾックのコクピットから、パイロットが救出された。
男はまだ怒っていた。
「俺は……祖先のために……」
それを聞いたレオン大尉は、少し考えた。
「お前の言いたいことは分かる」
「……」
「ネット上で誰かを面白半分に扱うことが、本人にとってどういう意味を持つのか。そこは考えた方がいい」
「では!」
「ただし」
大尉は続けた。
「だからといってゾックで基地を襲うな」
「…………」
「あと、よりによって全身火力の塊みたいな旧式MSを持ち出すな」
「ゾックを馬鹿にするな!」
「ゾックは悪くない」
横からティターンズのパイロットが言った。
「問題は使い方だ」
誰も反論できなかった。
ハロルドは黙っていた。
自分が最初に古いアーカイブを掘り起こした。
仲間に見せた。
そこから部隊全体に流行した。
結果として。
基地は半壊。
MS三機大破。
負傷者多数。
そしてジオン残党のゾック一機が襲撃してくるという、軍務日誌に書きたくても書けない事件になった。
「……俺たち、やりすぎたな」
「はい」
同僚が頷く。
「語録遊びはほどほどにしよう」
「そうですね」
「ところで」
別の兵士が言った。
「隊長」
「何だ」
「今回の件、報告書にはどう書きます?」
全員が沈黙した。
「……」
「……」
「……」
レオン大尉は頭を抱えた。
「『古いインターネット文化に端を発する部隊内の不適切な流行が、敵性残存勢力の襲撃を誘発し――』」
「長いですね」
「長くなるに決まってるだろ!」
「じゃあ『ゾックが来ました』で」
「もっとダメだ!」
「『ネットミームがゾックを呼んだ』」
「軍務日誌にそんなこと書けるか!」
結局、報告書は三十七ページになった。
そして、その報告書を読んだ上級司令部は、頭を抱えた。
後日。
地球連邦軍内部で一枚の通達が出された。
«軍務中における旧時代ネットミームを用いた私的な遊戯的会話について»
内容は簡潔だった。
勤務規律を乱す私的ネット文化の流行は禁止。
特に、出典が不明瞭な映像・画像・音声を用いた悪ふざけは禁止。
そして最後に。
«なお、今回の事案を踏まえ、同種の流行については各部隊指揮官の判断により適切に対処すること。»
という一文が付け加えられた。
だが兵士たちは知っていた。
あの文章には、本当はもう一行あったのだ。
原案には。
«「淫夢ごっこは恥ずかしいのでやめましょう」»
と。
しかし軍上層部は、そんな文章を正式な軍文書に載せることを最後まで拒否した。
理由は単純だった。
恥ずかしかったからである。
*
事件から一か月。
月面西ブロック警備隊。
休憩室。
「……最近、静かになったな」
ハロルドが言った。
「ああ」
「誰も変な語録を使わなくなった」
「あのゾック事件が効いたな」
「うん」
沈黙。
兵士たちは普通にコーヒーを飲んでいた。
そこへ新兵が入ってきた。
「曹長、これ確認お願いします」
「了解」
「ありがとうございます」
「いいよ」
新兵が去る。
しばらくして。
「……」
「……」
ハロルドが口を開いた。
「ところでさ」
「何?」
「例のアーカイブ」
「うん」
「消した?」
「全部消した」
「本当に?」
「本当に」
「そうか」
「うん」
また沈黙。
そしてハロルドは静かに言った。
「……まあ、多少はね」
「やめろ」
「何が?」
「その言い方」
「分かった」
「二度とやるなよ」
「はい」
その日以来。
月面西ブロック警備隊では、淫夢語録を使う者はいなくなった。
少なくとも、表向きには。
そして後年。
宇宙世紀の軍隊では、奇妙な教訓が一つだけ語り継がれることになる。
すなわち。
――兵士が暇だからといって、古代ネット文化を掘り返してはいけない。
――ネットミームは、使う場所を選べ。
――そして何より。
――軍隊で淫夢ごっこをするのは、恥ずかしい。
この三つである。
なお、最後の一つだけは。
なぜかティターンズの内部文書にすら、正式には記録されなかった。
理由は言うまでもない。
それを記録すること自体が。
あまりにも。
恥ずかしかったからである。