「く……!」
「あぁ!」
試合開始から5分。どうやらフルカウルと名付けたらしい緑谷の全身強化に、心操は喰らい付いていた。緑谷がまだフルカウルに慣れていないものの、日頃から様々な訓練を受けているヒーロー科に、普通科が接戦を繰り広げている。この光景は、例年体育祭を観る人々……そしてヒーローとしては、信じられないものだろう。
「はぁ、はぁ……!」
「……個性は、使わないの?」
「俺の個性は"洗脳"、話に応答した相手を洗脳できるものだ。周りをよく見てるお前のことだから、騎馬戦の時に気付いてるもんだと思ってた」
「気づいたのは曽我くんが来たからだよ」
「……曽我が?」
緑谷の返答に目を丸くした後、観客席……正確に言えば、俺の居る席に視線を向ける。
「曽我くんが、君の個性を伝えに来たんだ。僕は断ったけど……君の強さに足元を掬われないようにって」
「……気にかけてるってのは、本当みたいだな」
「僕は何も知らないよ!?」
「……そうか」
緑谷は慣れないフルカウルで、心操は実践ではないとは言え、初のルール無用の試合。お互い疲弊してることには違いはなかった。
「やぁっ!」
仕掛けたのは緑谷。その跳躍で、一瞬にして心操の懐へと潜り込んだ。
「速っ──」
「スマァァッシュ!」
鳩尾に重い一撃が入って、心操は蹲る。その隙に緑谷が心操を抱えて、内臓に負担が無いよう場外にそっと置いた。
「心操くん場外!勝者、緑谷くん!」
分野に限らず、ファーストペンギンとは動きが鈍くなるものだ。にも拘らず白熱した肉弾戦を魅せてくれた彼らに、観客は精一杯の拍手を贈った。
・・・・・
「……強くなったね、人使」
「筋が良いんだよ、心操は。あとは……人を助けたい思いが強いのもある」
先ほどの試合を見て、耳郎は緩く笑っていた。たった2週間……クラスメイトと過ごしたまだ短い期間、それよりもさらに短い、ひと月と無いこの期間に、思いの外友情が芽生えていたらしい。
「耳郎」
「?」
「切島の硬さ……お前なら突破口を見つけると信じてる」
「……!」
そう言うと耳郎は頬を紅潮させて、ジャックをひゅんひゅん振り回す。危ないからやめろ。
「初めて信じてるって言われた」
「!」
「……いつかさ」
──いつか「一緒に」ヒーローしようって言ってもらえるように、ウチ強くなるからね。
「……ああ」
……俺も、覚悟決めるべきだな。
「耳郎」
「どうしたの」
「夏休みに入ったら、少し付き合ってもらいたいことがある。……予定取れるか」
「そこまで先の予定は流石に決まってないし、入れておくよ。細かい日時とかは?」
「まだ。ただ来週に連絡が来るから、来たら伝える」
「わかった」
……なあ、母さん。
クラスメイト、連れて行くよ。
ああ、勿論あの人達にも許可取るからさ。
(だから……7月楽しみにしててくれ)
夏休み耳郎「─────とか聞いてないんだけど」
夏休み曽我「言ったら確実に避けられるからな」