フリーザ、ヒーローになる ~宇宙の帝王がワンパンマン世界に墜ちた結果~ 作:&劉
第二十二話 第六宇宙の戦士達
惑星サダラ。第六宇宙におけるサイヤ人たちの母星では、その日も各地の訓練場から衝撃音が響いていた。戦士たちが日常的に鍛錬を重ねるこの星で、三人だけが手を止め、訓練場の中央から同じ方角の空を見上げている。 キャベ、カリフラ、ケール。
もちろん、青い空に何かが見えているわけではない。三人が意識を向けているのは、そのさらに先、肉眼では決して届かないほど遠い宇宙だった。本来なら気を探ろうとしても距離に埋もれてしまうはずの場所から、妙に鋭く研ぎ澄まされた気配が届いている。 キャベがゆっくり息を吐き、目を開いた。
「……やはり間違いありません。フリーザです」
その名前だけで、三人の表情が変わった。
力の大会。宇宙そのものの存亡を懸けて行われた戦いで、第六宇宙の戦士たちは第七宇宙のフリーザと遭遇している。必死に向かってくる相手を余裕の笑みであしらい、時にはわざと隙を見せ、希望を持たせたところで叩き落とす。カリフラにとっては腹立たしく、ケールにとっては不気味で、キャベにとっては戦士として認めたくなくとも無視できない強者だった。 カリフラが舌打ちする。
「やっぱアイツかよ。しかも、前より気持ち悪い気の使い方してやがる」
「気持ち悪いって……姉さん」
「だってそうだろ。さっきまでほとんど消えてたくせに、急に馬鹿みたいに跳ね上がるんだぞ」
ケールの言葉に、キャベも頷いた。
「僕も同じことを感じました。力の大会の頃は、もっと分かりやすく大きな気でした。でも今は違います。抑えて、消して、必要な瞬間だけ一気に上げているような……」
「で、強くなってんのか?」
「かなり」
即答だった。 カリフラは一瞬だけ黙り、それから口元を吊り上げた。
「なら、ちょうどいいじゃねえか」
「そう言うと思いました」
「何だよ、その顔」
「力の大会以降、僕たちもずっと修業してきました。カリフラさんも、ケールさんも、当時より遥かに強くなっている。それは間違いありません。ただ……」
キャベはもう一度、遥か彼方へ意識を向けた。
「何ビビってんだよ」
カリフラは拳を掌へ打ちつける。
「あれからどれだけ鍛えたと思ってんだ。あたしもケールも前とは違う。ケールなんて、今は力を暴れさせずに使えるんだぞ」
ケールも小さく頷いた。
「はい。以前より、かなり安定して戦えるようになりました」
「だろ? あたしとケールがいりゃ十分だ」
「僕は?」
「お前も来るだろ」
「なら最初から数に入れてください!」
ケールが思わず笑い、カリフラもつられて吹き出した。張りつめていた空気が少しだけ緩む。
それでもキャベは完全には安心できなかった。三人とも強くなった。カリフラとケールには、いざとなれば融合という切り札もある。自分だって力の大会当時とは違う。条件だけを並べれば、以前より勝機は大きいはずだった。 ――もしかすると、本当に勝てるかもしれない。 そう考えかけた時、背後から低い声が飛んだ。
「やめておけ」
三人が同時に振り返る。
紫色の肌、長身、ほとんど感情を見せない顔。第六宇宙最強の殺し屋、ヒットが立っていた。その後ろには杖を手にしたヴァドスと、腕を組んだまま露骨に機嫌の悪そうなシャンパまでいる。
「ヒットさん。それにシャンパ様、ヴァドス様まで……」
キャベとケールが姿勢を正す一方、カリフラだけは眉を上げた。
「何だよ。止めに来たのか?」
「違う。俺も行く」
「ヒットさんも?」
キャベが目を見開くと、シャンパが鼻を鳴らした。
「当たり前だ! ビルスんところのフリーザが、俺の第六宇宙で好き勝手に暴れてるんだぞ。しかも何だ!会社まで作って居座ってるって話じゃねえか!」
「一応申し上げますと、フリーザさんが意図的に第六宇宙へ侵入したかどうかは、まだ確定しておりませんけれど」
ヴァドスが穏やかに訂正する。
「結果は同じだ! 何でアイツ、よその宇宙で会社なんか経営してんだよ!」
「会社?」
カリフラが聞き返した。
「僕もそこは気になっていました」
「フリーザさんが社長を……?」
ケールまで困惑した顔になる。 ヴァドスは楽しそうに微笑んだ。
「どうやら本当らしいですよ。怪人退治や技術開発、警備、広告、それから宇宙事業まで行っているとか」
「似合いすぎだろ」
カリフラが即答した。
「感心してる場合か!」
シャンパが怒鳴る。
「だから決めた。ヒット、お前がフリーザを戦闘不能にしろ。それで大人しく第七宇宙へ送り返す。抵抗してどうにもならんようなら……殺しても構わん」
キャベの表情が強張り、ケールも息を呑んだ。カリフラもさすがに笑みを消して、もう一度遠い気へ意識を向ける。
「でもよ。アイツ、力の大会の時より相当――」
そこまで言って、カリフラはヒットを見た。
この男は無駄な大口を叩かない。力の大会でも、ジレンや悟空を前にして自分の能力と勝機を冷静に分析し続けた。勝てない相手を、気分だけで「勝てる」と言う男ではない。だからこそ、第六宇宙の戦士たちは大会以前よりも強くヒットを信頼していた。 ヒットは淡々と告げる。
「フリーザは強くなっている。かなりな」
「やっぱり……」
「だが、俺なら勝てる。今の奴でもな」
キャベたちはしばらく黙った。 やがてカリフラの口元が上がる。
「そっか。ならフリーザはヒットに任せりゃいいか」
「カリフラさん。さっきまで自分で倒すつもりだったでしょう」
「気が変わったんだよ」
「姉さんらしいです」
「だろ?」
話がまとまりかけたところで、ヒットが三人へ視線を向けた。
「ただし、お前たちも来い」
カリフラの顔が一気に明るくなる。
「お、やっぱ戦わせてくれんのか!」
「フリーザは俺がやる」
「何だよ」
「奴の近くにもう一人いる」
ヒットが遥か遠い宇宙へ意識を向ける。
フリーザの近くに、奇妙な反応があった。普段は拍子抜けするほど小さい。集中して探っていても見失いそうになるほどだ。それなのに、フリーザとぶつかる瞬間だけ、その存在が異常な領域まで跳ね上がる。
「フリーザほどではない。だが、とんでもない奴だ」
「誰だ?」
「知らん」
「フリーザの部下か?」
「それも分からない」
「味方?」
「不明だ」
キャベが困惑する。
「それなのに、そこまで分かるんですか?」
「時々、フリーザと戦っている」
三人が同時に黙った。
「……は?」
カリフラが代表して聞き返す。
「普段は異常なほど気が小さい。だがフリーザとぶつかった瞬間だけ、出力が跳ね上がる。少なくとも、今のフリーザが何度も相手をする程度には強い」
ケールの顔からわずかに笑みが消えた。
「フリーザと戦えるほど……」
「ああ。だから俺がフリーザを始末する間、お前たちはそいつを引き付けておけ。倒す必要はない。時間を稼げ」
「ヒットさんがフリーザを倒した後は?」
キャベの問いに、ヒットは迷わなかった。
「俺がそいつも始末する」
訓練場が一瞬静かになる。 次の瞬間、カリフラの肩が震えた。恐怖ではない。笑いをこらえていた。
「はっ! 何だよ、それ。面白えじゃん!」
「カリフラさん。嫌な予感しかしません」
「あたしら三人で時間稼ぎ? そんなつまんねえことするわけねえだろ」
「姉さん……」
「あたしとケール、それにキャベもいる。だったら、その知らねえ奴もフリーザも、両方ぶっ倒してやる!」
「ヒットさんの作戦を聞いていましたか!?」
「聞いてた。その上で言ってんだよ」
「一番困る答えです!」
ケールが小さく笑ったあと、静かに拳を握った。
「でも、私も負けるつもりはありません」
「ケールさんまで!」
「そうこなくちゃな!」
キャベは頭を抱えた。数秒後、それでも自分も拳を握る。
「……分かりました。ただし、危険だと判断したらヒットさんの指示に従います。絶対です」
「はいはい」
「絶対に聞いてませんよね?」
ヒットは三人を見た。
「好きにしろ」
「ヒットさんまで!?」
「ただし、相手を見誤るな」
その一言で空気が変わった。 ヒットの声音は低いまま、冗談の余地がなかった。カリフラも笑みを少しだけ引っ込める。
「強いんだろ?」
「ああ」
「なら、ちょうどいい」
ヴァドスが楽しそうに微笑んだ。
「ずいぶん賑やかな遠征になりそうですね」
「遊びじゃねえぞ!」
シャンパがまた怒鳴る。
「フリーザを追い出すのが目的だ! カリフラ、お前も勝手に遊ぶな!」
「その前に一発くらい殴らせろよ」
「好きにしろ!」
「シャンパ様まで!」
キャベが叫ぶ横で、ケールが少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「キャベさん、もう諦めた方がいいかもしれません」
「胃が痛くなってきました……」
ヒットはすでに彼らの会話を聞いていなかった。 遠くにいる二つの存在だけを見ている。
フリーザは自分が倒す。正体不明のもう一人は三人のサイヤ人に足止めさせ、フリーザを処理したあとで自分が仕留める。それで十分だ。 合理的な判断だった。 ただ一つ、ヒットはまだ知らない。
その「もう一人」がフリーザの部下でも護衛でもなく、今の帝王がこの宇宙で唯一、本気の修行相手として認めている男――サイタマだということを。 ヴァドスが杖を上げる。淡い光が広がり、ヒット、キャベ、カリフラ、ケールの姿を包み込んだ。
「では、参りましょうか」
第六宇宙の四人の戦士が、地球へ向けて動き出した。
◇
同じ頃、地球の荒野では、タツマキの怒鳴り声が何度目か分からないほど響いていた。
「ちょっと待ちなさい! 増えてるでしょ!」
正面、背後、上空。巨大な岩山が三つ同時に飛び、その隙間を縫うように細い赤色のデスビームまで混ざっている。
タツマキは正面の岩を念動力で止めながら、背後を見ずに身体を沈めた。空気が押される感触だけで岩の軌道を読み、頭上へ通す。次に右頬の近くで空気が微妙に変化した瞬間、首を傾ける。デスビームが数センチ横を通過した。
「なかなかよくなりましたね」
少し離れた位置で、最終形態のフリーザが腕を後ろへ組んでいた。
「誰のせいで、こんな変な避け方覚えたと思ってんのよ!」
「わたくしでしょうね」
「分かってんなら少しは手加減しなさい!」
タツマキは止めていた岩山をまとめて投げ返し、さらに地面そのものを捲り上げた。巨大な岩盤が津波のように押し寄せる。
「していますよ」
「嘘つけ!」
岩が接触する寸前、黄金の閃光が一瞬だけ走った。 巨大な岩山が粉になる。
フリーザの身体はすぐ白と紫へ戻る。背後から別の岩が迫ると、今度は接触の瞬間だけ黄金化し、拳一発で砕いた。
「それ! 前より速くなってる!」
「わたくしも修行していますので」
「実験台みたいでムカつく!」
「お互い様ですよ」
言い終わるより早く、フリーザの姿が消えた。
タツマキの目には見えない。それでも右側の空気が押された。気配というより、もっと曖昧な変化だった。 考える前に身体を左へ滑らせる。 一瞬後、フリーザの指先が、つい先ほどまで彼女の額があった場所を通り抜けた。
「おや。避けましたか」
「毎日殺されかけてれば、嫌でも覚えるのよ!」
タツマキの念動力がフリーザの全身を包み、そのまま地面へ叩きつける。 着弾する寸前、黄金の気が弾けた。 念力が外側から破られ、フリーザは何事もなかったように地上へ降りる。
「またそれ!」
「あなたも似たことをできるようになっていますよ。常時最大出力を出すのではなく、必要な瞬間だけ超能力を強めればよいのです」
「簡単に言うな!」
「簡単とは申し上げていません」
遠くではジェノスが黙々と戦闘データを記録していた。
タツマキは確実に変わっている。以前なら防御が必要だと判断した時点で大きなバリアを展開していた。今はまず身体を動かし、風圧や気配を読み、最小限の移動でかわす。それでも間に合わない瞬間だけ念動力を爆発させる。 教わったというより、死なないために勝手に身につけさせられたに近い。 方法としては最悪だったが、効果だけは否定できなかった。 一時間後、タツマキは両膝へ手をつきながら肩で息をしていた。
「ぜぇ……ぜぇ……!」
対するフリーザは時計を確認する。
「昨日より三分延びました」
「たった三分……?」
「三分は大きいですよ」
「ムカつく……」
「本日のあなたの修行は、これで終了です」
タツマキの顔に一瞬だけ安堵が浮かび、すぐ別の言葉へ引っかかった。
「……あなたの?」
「次、俺?」
後方から平坦な声がする。 ジャージ姿のサイタマが立っていた。 フリーザが振り返る。
「ええ」
「月?」
「月です」
「また?」
「またです」
サイタマは遠い空を見上げた。
「月、結構ボコボコなんだけど」
「まだ半分以上残っています」
「残量で考えるなよ」
ジェノスが会話へ割り込む。
「先生、準備は完了しています」
「お前も来んの?」
「当然です。観測します」
タツマキもふらつきながら立ち上がった。
「私も行く」
「休めばよろしいのでは?」
「見る」
「なら、ご自由に」
メタルナイトとフリーザ・コーポレーションの技術を組み合わせて造られた宇宙船へ四人が乗り込み、数分後には月面へ到着した。
そこは以前のような静かな衛星ではない。巨大なクレーターが地平線まで続き、途中で消し飛んだ山脈や、何百キロも伸びる裂け目が残っている。ほとんどがフリーザとサイタマの修行の跡だった。 中央へ降りたサイタマが肩を回す。
「今日は何すんの?」
「少々、試したいことがあります」
「また新しいの?」
「ええ」
フリーザの身体を黄金の光が包んだ。 ゴールデンフリーザ。 しかし、タツマキはすぐ違和感に気づいた。
「……気、小さくない?」
ジェノスもスカウターを見る。
「ゴールデン形態にもかかわらず、出力は極端に抑制されている」
黄金の身体から、ほとんど気配が消えていく。 サイタマが目を細めた。
「それ、まためんどくさいやつだろ」
「よくお分かりで」
次の瞬間、フリーザが消えた。 サイタマが拳を出す。 二人の拳がぶつかる、その一瞬だけ、フリーザの気が爆発した。
フルパワーに近い出力が刹那だけ黄金の身体へ集中し、サイタマの拳を正面から止める。二人の足元が巨大な円形に沈んだ。 サイタマが少し笑う。
「前より硬いな」
「ありがとうございます」
フリーザの尾が横から飛ぶ。
サイタマが跳び、フリーザが追う。拳を腕で防ぎ、次の瞬間には気配が消える。サイタマの感覚がわずかにずれた隙に背後へ回り、筋肉が一気に膨張する。 ゴールデン・フルパワー。 ただし、それも一瞬だけだった。 拳がサイタマの背中へ入り、轟音とともに黄色い身体が月面を数十キロ跳ねていく。
「あー」
サイタマは普通に起き上がり、背中の埃を払った。
「今の、結構きた」
フリーザの筋肉はすでに元へ戻っている。
「では、もう一度」
「いいぞ」
今度はサイタマから踏み込んだ。 二人の姿が同時に消える。
拳、膝、踵、尾。攻撃と防御が目まぐるしく入れ替わり、月面のあちこちで衝撃波が弾ける。以前と違うのは、フリーザが高出力を維持しないことだった。普段は極端に抑え、攻撃を当てる瞬間、防御が必要な瞬間、踏み込む瞬間だけ出力を跳ね上げる。 しかも、その跳ね上がる量が以前より大きい。
木星でジャネンバとガロウを相手にした死闘を経て、フルパワーの出力そのものにも身体が順応し始めていた。 サイタマも同じだった。
フリーザとの修行を重ね、さらに木星で自分へ傷を与える敵と戦ったことで、本人に自覚がないまま動きが洗練されている。 ゴールデン・フルパワーの拳と、サイタマの普通のパンチが真正面からぶつかった。 月面が沈む。 二人とも同時に後退した。 フリーザが一瞬目を見開き、すぐに笑う。
「素晴らしい!」
「お前も前より強くなってるな」
「それはこちらの台詞ですよ!」
二人はまた衝突した。 十発、百発と拳が重なり、光と衝撃が月面を何度も揺らす。
離れた場所で見ていたタツマキは、以前より少しだけ二人の動きを追えるようになっている自分に気づいた。フリーザの気が跳ねる瞬間、拳が出る。次に消え、サイタマがその間へ攻撃を差し込む。 全部は見えない。 それでも以前の「何も分からない」状態ではなかった。
「……」
少しだけ嬉しい。 認めるのは腹が立つので、口には出さない。 隣でジェノスが言った。
「タツマキ。以前より目で追えている」
「当然でしょ。私、強くなってるから」
「俺もだ」
「聞いてない」
「事実だ」
「だから何で張り合うのよ!」
「張り合ってはいない」
「余計ムカつく!」
その間にも遠くで爆発が続いている。 約一時間後、ようやく二人は動きを止めた。 サイタマは月面へ座り込む。
「腹減った」
フリーザも黄金を解除し、白と紫の最終形態へ戻った。呼吸は少し荒いが、顔には満足そうな笑みがある。
「よい修行でした」
「今日はフルパワー、結構使ったな」
「少しずつ維持できるようになりましたので」
「俺も前よりいけた気がする」
「ええ。実際そうでしょう」
ジェノスの目が輝いた。
「先生はまた成長している」
「そう?」
「自覚ないの?」
タツマキが呆れる。
「ない」
「気持ち悪いわね」
その時だった。 フリーザの表情がほんのわずかに変わった。 サイタマがすぐ気づく。
「どうした?」
フリーザは答えず、目を閉じた。 非常に遠い。 それでも、確実にこちらへ近づいてくる気がある。 一つは静かで、冷たく、研ぎ澄まされていた。 記憶が蘇る。 力の大会。時を飛ばす殺し屋。
「……ヒットさんですか」
その後方に三つ。 真っ直ぐで若い気。キャベ。 荒々しく前のめりな気。カリフラ。 その隣で、普段は抑えられながらも底の見えない気配を持つケール。 フリーザの口元がゆっくり上がった。
「ほっほっほ」
「何?」
「敵か?」
ジェノスが身構える。
「怪人?」
タツマキも宇宙を見上げた。
「怪人ではありません。知り合いです」
フリーザは目を開く。
「少々、因縁のある方々ですが」
「何人?」
「四人。そのうち一人は、とんでもなく厄介ですよ」
サイタマが立ち上がった。少しだけ興味のある顔をしている。
「強い?」
「ええ」
即答だった。
ヒットは戦闘中に相手へ適応し、時とばしそのものさえ成長させる。力の大会では存分に戦う機会がなかった。今の自分なら、どこまで通用するのか。 考えただけで笑みが深くなる。
「かなり」
「へえ」
さらに気を探る。
三人のサイヤ人も以前より明確に強い。目的はおそらく自分だろうが、その三人が何をするつもりなのかまでは分からない。 もっとも、どうでもよかった。
「どうやら次は、とんでもない方々がいらっしゃるようですよ」
木星での死闘が終わり、ようやく普通の修行へ戻ったと思った矢先である。 サイタマは拳を軽く握った。
「また月でやる?」
フリーザは少し考える。
「地球では狭いでしょうね」
タツマキが露骨に嫌な予感のする顔をした。
「ちょっと、何の話?」
「俺も同行する」
ジェノスは当然のように言う。 フリーザは笑った。
「その前に、まず地球へ戻りましょう」
「飯?」
「ええ」
「敵、来るんだろ?」
「来るまで時間があります」
「じゃあ焼肉」
「昨日も焼肉では?」
「じゃあラーメン」
「緊張感なさすぎ」
「先生は戦闘前に食事を取るべきだ」
「だろ?」
月面で、四人はいつものように話していた。
しかし遥か宇宙の向こうでは、第六宇宙最強の殺し屋ヒットと、三人の成長したサイヤ人――キャベ、カリフラ、ケールが地球へ近づいている。 ヒットは考えていた。 フリーザは自分が始末する。正体不明のもう一人は三人に足止めさせ、その後で自分が片付ける。 カリフラは考えていた。 足止めなど冗談ではない。せっかく行くなら両方倒す。 ケールも戦う覚悟を決め、キャベは慎重さを失わないまま、それでも逃げるつもりはなかった。 そしてフリーザはまだ知らない。 三人のサイヤ人が、自分ではなくサイタマの相手として割り当てられていることを。 サイタマはさらに知らない。 自分を「時間稼ぎの相手」として処理するつもりの三人が、もうすぐ地球へ来ることを。 殺し屋と帝王。 三人のサイヤ人と、趣味でヒーローをする男。 力の大会では交わらなかった組み合わせが、今度は一つの星で向き合おうとしていた。