翌朝、真司が目を覚まして最初に見たのは、深い緑色の天蓋だった。
しばらくぼんやり眺めてから、ここがエディンバラの自分の部屋ではないことを思い出した。昨日一日の出来事が、寝起きの頭へ少しずつ戻ってくる。
ホグワーツ特急に乗ったこと。
湖を渡ったこと。
組分け帽子をかぶったこと。
そして、自分がスリザリンになったこと。
カーテンを開けると、寝室にはもう起きている生徒が何人かいた。
昨夜、寝る前に自己紹介だけ済ませたカラム・フレイザーが、ベッドの下へ頭を突っ込んでいる。明るい茶色の髪が、片側だけ妙な方向へ跳ねていた。
「何してるの?」
「靴下がない」
くぐもった声が返ってきた。
「片方?」
「右」
カラムの左足には、すでに靴下が履かれている。
真司は周囲を見回した。
「枕の横にない?」
カラムがベッドの下から顔を出した。
枕の横には、丸めた黒い靴下が置かれている。
「あった」
「最初からあったよ」
「じゃあ、なくしてないな」
「見つからなかったんだから、同じじゃない?」
「見つかったから違う」
カラムはそれで話が終わったつもりらしく、靴下を履き始めた。
向かいのベッドでは、マルコムがシャツのボタンを掛けながら、大きなあくびをしていた。
「おはよう」
真司が声をかけると、マルコムは眠そうな目を上げた。
「……おはよう」
昨日の列車では、魔法界のことなら何でも知っていそうに見えたのに、朝のマルコムはちっともそう見えなかった。魔法使いでも眠いものは眠いらしい。
それは昨日から知ったことの中では、かなり安心できる部類に入った。
昨晩、寝る前にマルコムから今日の時間割は聞いていた。
最初は呪文学。
それを思い出すと、真司は急に目が覚めた。
昨日までは、魔法は見るものだった。
今日は、たぶん使う。
*
スリザリンの談話室から大広間までは、思っていたより簡単だった。
地下から出て、大階段へ向かう。昨日は上級生の背中について歩いていただけだったが、朝になって改めて通ってみれば、大広間は拍子抜けするほど近い。
「昨日はもっと遠かった気がする」
真司が言うと、隣を歩いていたマルコムが頷いた。
「暗かったし、人も多かったからじゃない?」
「じゃあ、城も案外すぐ覚えられるかも」
真司はそう言った。
この考えは、朝食が終わるまでしかもたなかった。
大広間では、昨夜と同じ四つの長いテーブルが、朝の光の下に並んでいた。高い天井には薄い雲が流れ、皿にはトーストや卵やソーセージが山ほど積まれている。
真司はパンを一枚取り、ジャムを塗った。
その間にも、頭の中では呪文学のことを考えていた。
ダイアゴン横丁で杖を買ってから、何度も手には取っている。けれど呪文を知らないので、振ってみたところで何も起きなかった。
母さんへ本が落ちそうになったときのことは覚えている。
怖かった。
止まれと思った。
そして、本が止まった。
けれど、あれは自分で使ったというより、勝手に出たという方が近い。
今日教えてもらう魔法は、きっと違う。
「シンジ」
呼ばれて顔を上げると、マルコムが自分の皿を指した。
「そろそろ行った方がいいと思う」
「もう?」
「教室の場所、分からないだろ」
真司は手を止めた。
それは忘れていた。
呪文学をやることは知っている。
呪文学教室がどこにあるかは知らない。
急いで残りのトーストを口へ入れた。
「僕も行く」
向かいからカラムが立ち上がった。
「場所知ってる?」
「知らない」
「じゃあ同じじゃん」
三人で大広間を出た。
*
大広間を出たところまではよかった。
問題は、そこからだった。
大階段の近くで、マルコムが足を止める。
「天文学棟の方らしい」
「らしい?」
「昨日、先輩がそう言ってた」
「天文学なのに呪文学?」
「棟の名前だよ」
「それは分かってるけど」
分かってはいる。
ただ、大広間の隣に呪文学教室があっても、真司としては何も困らなかった。
三人は、大階段から渡り廊下へ向かった。
地下とは違い、そこへ出ると急に視界が開けた。窓の向こうには中庭があり、その先にはいくつもの塔が空へ突き出している。
真司は思わず歩調を緩めた。
「すごい」
「何が?」
「城」
マルコムも外を見た。
「昨日も見ただろ」
「昨日は暗かったし」
昼間のホグワーツは、昨夜とはまるで違って見えた。
一つの巨大な建物というより、いくつもの古い建物を、塔と廊下と橋でつないだような造りをしている。これを全部ひとまとめにして「城」と呼んでいいのか、真司には少し自信がなくなった。
「行くよ」
マルコムに言われて、真司は慌てて追いついた。
渡り廊下を抜けると、今度は図書館の近くへ出た。
大きな扉の前を、本を抱えた上級生たちが行き交っている。
「図書館だ」
真司が言うと、マルコムが振り返った。
「入るの?」
「今は入らないよ」
そう言いながら、場所だけは覚えておこうと思った。
「入ったら授業終わるまで出てこなさそうだな」
後ろからカラムが言った。
「そんなことないよ」
「今、すごく入りたそうだった」
「場所を見てただけ」
目的地は、まだ先だった。
「もう一つ渡るみたいだ」
マルコムが言った。
「また?」
「また」
二本目の渡り廊下を渡る。
こちらは先ほどより細く、両側から空が見えた。風が吹き抜けるたびにローブの裾が揺れる。
真司は歩きながら、何度も外を見た。
こんなところを毎日通って授業へ行くのだ。
それは少し楽しい。
もっとも、毎朝遅刻しそうになりながら通るのでなければ、である。
渡り廊下を抜けて天文学棟へ入り、そこから甲冑の並ぶ廊下へ進む。
左右に立つ甲冑は、どれも似ているようで少しずつ違った。剣を持つものもいれば、長い槍を握っているものもいる。
三人が横を通ると、そのうち一体がほんの少しだけ頭を動かした。
真司もそちらを見た。
甲冑もこちらを見る。
数歩進んでから振り返ると、まだ見ていた。
「今の、動いたよね」
「動いたね」
「普通?」
「ホグワーツでは普通なんじゃない?」
便利な言葉だ、と真司は思った。
ホグワーツでは普通。
それを言えば、昨日から見たことの大半は片づいてしまう。
もっとも、説明になっているかどうかは別だった。
甲冑の廊下を抜けると、今度は上へ続く階段が待っていた。
真司は見上げた。
「まだ上がるの?」
「教室は上」
「朝食からずっと歩いてるんだけど」
「僕もだよ」
「毎回これ?」
「たぶん」
真司は少し考えた。
「朝ごはん、いっぱい食べても大丈夫そうだね」
マルコムが笑った。
「僕はもう疲れた」
カラムが後ろで言った。
階段を上がりきったところで、ようやく青と銀のローブを着た一年生たちが見えた。
レイブンクローだ。
三人はほとんど同時に息をついた。
「ここだ」
「ここだね」
「やっと」
大広間から教室まで来ただけなのに、もう一仕事終えたような気分だった。
ホグワーツでは、魔法を習う前に教室へたどり着くことが最初の壁のようだ。
*
教室へ入ると、真司とマルコムは並んで空いている席へ座った。カラムは一つ後ろへ腰を下ろした。
鞄を置いたところで、真司は目の前の席にいる女の子の髪を見た。
赤みがかった茶色。
どこかで見たと思って、すぐに思い出した。
ホグワーツ特急で、コンパートメントの扉から顔を覗かせた子だ。
そういえば、組分けではレイブンクローへ行っていた。
真司が見ていると、女の子もちょうど振り返った。
少しだけ目を丸くする。
「あ。特急で会ったよね?」
「うん。部屋、空いてる?って」
「そうそう」
女の子は椅子の背へ腕を掛けた。
「エイダ・ラブレス」
「水城真司」
「ミズキ?」
「水城が名字」
「ああ。シンジ・ミズキ」
組分けのときにも名前を聞いていたのだろう。エイダは一度口の中で確かめてから、真司の隣を見た。
「マルコム・グラント」
マルコムが名乗った。
「グラント。すぐスリザリンだった人」
「その覚え方なの?」
「覚えてるんだからいいでしょ」
後ろからカラムが顔を出した。
「僕はカラム・フレイザー」
「一気に増えた」
エイダが笑った。
そのとき教室の前が静かになり、彼女は前へ向き直った。
真司も鞄から教科書と杖、それから一冊のノートを取り出した。
少し大きめで、茶色い革の表紙がついている。
ホグワーツへ来る前、母さんがマグルの文房具店で買ってくれたものだった。
『学校に行くなら、ノートくらいいるでしょう』
改めて見てみると、革の装丁が妙にそれらしく思えた。中身は普通の紙なのに、閉じてしまえば古い魔法の本にも見えなくはない。
真司はすっかり気に入っていた。
その横へ、ダイアゴン横丁で買った羽ペンを置く。
見た目は普通の羽ペンだが、羽軸の中にインクを溜めておけるようになっている。いちいちインク瓶へ浸さなくてよいので、学生向けにはずいぶん便利な品らしい。
便利ではある。
ただし、鉛筆やボールペンと同じというわけではなかった。
真司は羽ペンを持ち、ノートへ日付を書いた。
かり、かり、と羽先が紙を擦る。
エディンバラの学校では、鉛筆ならもっと滑らかに書けたし、ペンならこんな引っかかる感じはしなかった。
「やっぱり書きにくい」
真司が小さく言うと、マルコムが隣から覗いた。
「何が?」
「羽ペン」
「そう?」
マルコムは自分の羽ペンを何の苦もなく走らせている。
「鉛筆の方が楽」
「慣れれば普通だよ」
「それ、慣れてる人の言い方だよ」
真司は少し慎重に、その下へ、
呪文学
と書いた。
文字は読める。
ただし、自分のいつもの字より少しだけよそ行きだった。
羽ペンまで含めて、まだホグワーツの生徒になりきれていないような気がする。
そのとき、小柄な教授が教室へ入ってきた。
フィリウス・フリットウィック教授は教壇の横まで歩くと、そこへ積まれていた何冊かの大きな本へ、慣れた様子で上った。
真司は思わず本の山を見た。
なるほど。教科書というものには、読む以外の使い道もあるらしい。
「おはようございます」
フリットウィック教授の声は高かったが、教室の後ろまでよく通った。
「皆さんにとって、これがホグワーツで最初の呪文学ですね」
教室が静かになる。
「魔法使いの家庭で育ち、幼いころから魔法を見てきた人もいるでしょう。昨日まで、魔法というものをほとんど見たことがなかった人もいるでしょう」
真司はこちらだった。
「ですが、ここでは皆さん、同じ一年生です」
教授はにこりと笑った。
「ですから、同じところから始めましょう」
そう言って、杖を取り出す。
「ルーモス」
杖の先に白い光が灯った。
真司は、開いていたノートのことを一瞬忘れた。
炎ではなかった。火花でもない。白い光が杖先に丸く宿り、教授が腕を動かすと、それも一緒についていく。
教室のあちこちから、小さなため息が聞こえた。
「杖灯りの呪文です」
黒板に《LUMOS》の文字が記される。
真司は慌ててノートへ写した。
「大変基本的な呪文ですが、基本的だから役に立たないということではありません。七年生になっても使いますし、卒業したあとにも使います」
教授は続けて杖を掲げた。
「ノックス」
白い光が、ふっと消えた。
今度は《NOX》と書かれる。
「こちらは灯りを消す呪文です。今日は、この二つを練習します」
真司は顔を上げた。
二つなのか。
光らせるだけでは終わりではないらしい。
「魔法は、起こせればそれでよいというものではありません」
教授は、もう光っていない杖先を示した。
「自分の意思で始めたものは、自分の意思で終わらせる。まずはそこからです」
*
すぐに杖を振らせてもらえるわけではなかった。
まず持ち方。
次に発音。
そして手首の動かし方。
真司が思っていたより、魔法の授業はずっと地道だった。
前の方にいた少年が勢いよく腕を振ると、フリットウィック教授がその横で足を止めた。
「そこまで力いっぱい振らなくても大丈夫ですよ。魔法は腕相撲ではありませんから」
教室に笑いが起きた。
少年は耳を赤くし、今度はずっと小さく杖を動かした。
真司も自分の杖を持ち直す。
手首。
大きく振らない。
ルーモス。
教授の発音を思い出しながら、声に出さず何度か口だけ動かした。
隣ではマルコムも真剣な顔をしている。
昨日まで、魔法界については真司よりずっと多くのことを知っていた。それでも、杖を握れば二人とも同じ一年生だった。
それが少し嬉しかった。
「では、やってみましょう」
教室中で杖が持ち上がった。
真司も自分の杖を構える。
「ルーモス」
何も起きなかった。
周囲からも、
「ルーモス」
「ルーモス!」
と声が重なっている。
どこかでぱちんと火花が散り、別の席では一瞬だけ白く光った。
真司はもう一度杖を構えた。
「ルーモス」
やはり何も起きない。
少し焦った。
簡単な呪文だと教授は言った。
簡単なら、もっと簡単にできると思っていた。
その隣で、
「ルーモス」
とマルコムが唱えた。
杖先に、ほんの小さな光が灯った。
「あ」
言ったのはマルコム本人だった。
針の先ほどの光だったが、確かに見えた。
「ついた」
真司が言うと、マルコムは自分の杖へ目を落とした。
「うん」
少しだけ口元が緩んでいる。
ところが、その光はすぐに消えてしまった。
「消えたね」
「分かってる」
マルコムはもう一度試した。
今度は何も起きなかった。
一度できたからといって、急にできるようになるものでもないらしい。
真司は自分の杖へ目を戻した。
さっきは腕まで動かしていた気がする。
教授は、もっと小さくと言っていた。
力も入りすぎていた。
肩を少し落とす。
手首だけ。
「ルーモス」
杖の先が、一瞬だけ白く瞬いた。
真司は息を止めた。
もう暗い。
けれど今、確かに光った。
もう一度。
今度は、さっき偶然できた動きを無理に真似しようとはしなかった。教授に教えられた通りに、最初からやり直す。
握り直し、肩の力を抜き、手首を小さく動かした。
「ルーモス」
白い光が灯った。
今度は消えなかった。
真司はしばらく何も言えなかった。
白い光が、自分の指を照らしている。机の木目も、教科書の端も、さっき開いた革表紙のノートも、全部が自分の杖の光で少し明るくなっていた。
本が止まったときとは、まるで違う。
こうしたいと思って、教わった通りに杖を持って、呪文を唱えた。
その結果として、光が灯った。
「……できた」
小さく言うと、マルコムがこちらを見た。
ちょうど彼の杖にも、今度はさっきより少し明るい光が灯っていた。
二人の杖が並んで机を照らす。
真司は思わず笑った。
マルコムも笑った。
ただ暗いところを照らすだけの魔法だった。
それでもよかった。
これは魔法だった。
しかも、自分で使った魔法だった。
*
「いいですね、ミスター・ミズキ」
声をかけられ、真司は顔を上げた。
いつの間にかフリットウィック教授が机の横まで来ていた。
「はい」
「では、終わらせてみましょう」
真司は自分の杖を見た。
「あ」
嬉しさのあまり、すっかり忘れていた。
まだ半分だった。
「ノックス」
光は消えなかった。
「もう一度。今度は、光を消すことだけを考えて」
教授は落ち着いた声で促した。
真司は頷いた。
「ノックス」
白い光がふっと消えた。
「よろしい」
教授は満足そうに頷き、次の机へ歩いていった。
真司は消えた杖を見つめた。
光らせたときほど派手ではない。
それでも、こちらも自分でやった。
始めて、終わらせた。
もう一度だけ試す。
「ルーモス」
灯った。
「ノックス」
消えた。
今度は、どちらも一回だった。
嬉しくなってもう一度杖を上げようとしたとき、目の前から声がした。
「ねえ」
エイダが椅子の背越しにこちらを見ていた。
「左手でもできるかな?」
「左?」
「右でできたから」
言うが早いか、右手に持っていた杖を左へ移した。
真司は思わずそちらを見る。
「ルーモス」
何も起きなかった。
エイダは首をかしげ、持ち方を少し直した。
「もう一回」
「ルーモス」
今度は、杖先に小さな光が灯った。
「あ、できた」
「本当にできるんだ」
「右より暗いけど」
エイダは左右の手を見比べた。
「じゃあ、持つ手で変わるのかな。それとも慣れてないから――」
「ミス・ラブレス」
教室の向こうからフリットウィック教授の声が飛んだ。
「はい」
「まずは利き手で、同じ結果を三回続けて出せるようにしましょう」
エイダは左手の杖を見た。
それから少し名残惜しそうに右へ戻した。
「はい、先生」
そして、本当に一回目から数え直した。
真司はその後ろ姿を見ながら、少し笑った。
「何?」
エイダが振り返った。
「いや。できたばっかりなのに、もう違うことしてるから」
「だって、気になるでしょ?」
「まあ」
「でしょ」
勝手に同意したことにされた。
横を見ると、マルコムが二人を見比べている。
「何?」
真司が聞いた。
「別に」
口元だけ少し笑っていた。
*
授業が終わるころには、教室のあちこちで白い光が灯ったり消えたりするようになっていた。
もちろん、毎回うまくいくわけではない。
真司も失敗したし、マルコムも失敗した。エイダはかなり上手だったが、一度だけ杖先を明るくしすぎて、自分でまぶしそうに目を細めていた。
フリットウィック教授は机の間を歩きながら、何度も同じことを言った。
急がない。
大きく振りすぎない。
呪文を怒鳴らない。
できたら、同じやり方をもう一度やる。
最後に教授は全員の杖を下ろさせた。
「一度できたことと、いつでもできることは違います。今週は《ルーモス》と《ノックス》を練習してください。明るさを競う必要はありません。確実につけて、確実に消せるようになること」
そこで鐘が鳴った。
最初の授業が終わった。
真司はノートに《ルーモス》《ノックス》と杖の振り方を簡単に書き足した。
「それから、宿題を忘れないように」
立ち上がりかけていた生徒たちの動きが止まった。
「今日の二つの呪文について、杖の動きと注意点を羊皮紙八インチにまとめてください。次回集めます」
真司はノートの下へ、
宿題 羊皮紙八インチ
と書いた。
その横に、少しだけ考えてから、
羊皮紙?
と付け足した。
羽ペンを置く。
今は、それだけだった。
「行こう、シンジ。次は変身術だ」
マルコムがもう鞄を持っていた。
「うん」
真司もノートを閉じた。
前ではエイダが教科書を鞄へ押し込んでいる。
「じゃあ、またね」
彼女は振り返って手を上げた。
「また」
三人が廊下へ出るころには、レイブンクローの生徒たちがエイダを呼んでいた。
「あ、行かなきゃ」
エイダはそちらへ駆けていった。
三歩ほど進んだところで、鞄の口から羽ペンが一本落ちた。
「ラブレス!」
後ろを歩いていた生徒が拾って追いかける。
真司はそれを見送った。
「変な子だったね」
するとマルコムがこちらを見た。
「君も似たようなものじゃない?」
「どこが?」
「知らない」
「今絶対何かあったでしょ」
マルコムは答えず、先に歩いていった。
真司はそのあとを追った。