はい。内容と出来事はそのままに、現行の「平明な翻訳児童文学調」「地の文で意味を説明し直さない」「一つの冗談を引っ張らない」「四人全員に順番に喋らせない」へ寄せます。特に「なぜなぜ手帳」の命名場面を会話の中心にし、それ以外は宿題・読書・出入りで時間を流します。 執筆ルール_統合版.txt また、前話の「偶然見る」はここで実際の行動へ進める形を維持します。 手直し案.txt
5 図書館の四人組
薬草学のあと、四人で図書館へ行った日から何日かが過ぎた。
次の日にいたのは真司とマルコムだけだった。その次の日にはエイダが先に来ていた。ベアトリスがハッフルパフの友達と別の机に座っている日もあった。
それでも、図書館で顔を合わせれば、四人は同じ机に座った。
*
その日の午後は雨だった。
高い窓を細かな雨粒が叩いている。夕食にはまだ早かったが、図書館の奥はもう薄暗く、棚の間ではときどき本を抜き取る音だけがした。
真司の前には、呪文学の宿題が広がっていた。
羊皮紙八インチ。
ホグワーツへ来るまで、作文の長さをインチで指定されるとは思っていなかった。いまでは八インチがどれくらいあるのか、よく分かる。
長い。
「マルコム」
向かいで本を読んでいたマルコムは、顔も上げなかった。
「写させないよ」
「まだ何も言ってない」
「じゃあ何?」
「最初だけ見せて」
そこで本が少し下がった。
「それを写すって言うんじゃない?」
「見るだけだよ」
「見たあと何をするの?」
真司は黙った。
マルコムはまた本を上げた。
「ほら」
「最初から決めつけるのはよくないと思う」
「君が言うと便利な言葉だね」
反論を考えているところへ、本が三冊、どさりと置かれた。
「何の話?」
エイダだった。
「シンジが僕の宿題を写そうとしてる」
「見るだけ」
「ああ。じゃあ、まだ写してないね」
「ラブレス」
マルコムが本の向こうから顔を出した。
「何?」
「君はどっちの味方なんだ」
「どっちでもないよ。本読みに来たの」
本当にそうらしく、エイダは真司の隣へ座ると、さっさと一冊目を開いた。
少し遅れてベアトリスもやって来た。書架のそばでハッフルパフの女子生徒と別れ、空いていた椅子へ鞄を置く。
「まだ呪文学?」
真司は羊皮紙を少し自分の方へ寄せた。
ベアトリスはそれを見て笑ったが、何も言わずに自分の本を開いた。
それからしばらく、四人は本当に静かだった。
マルコムは魔法史の本を読み、ベアトリスは薬草の図版を写している。エイダは呪文学の教科書へ顔を近づけたまま、羽ペンだけを忙しく動かしていた。
真司の宿題も四行進んだ。
四行進めば、少しくらい休んでもよいような気がした。
授業で書いたところを確かめようと、羊皮紙の脇に置いていた革表紙のノートを開く。
呪文学。
《ルーモス》《ノックス》。
杖は大きく振らない。手首で。
その横には、小さく、
羊皮紙?
と書いてある。
ページをめくると、変身術の板書があり、その次は薬草学だった。授業の内容の脇に、
葉が閉じた。影? 振動?
という走り書きも残っている。
「隙あり」
「あっ」
エイダの手が伸びた。
前に「偶然見る」と言っていたが、これはどう考えても偶然ではなかった。
「エイダ!」
「ちょっとだけ」
「それを返して」
真司が身を乗り出すより早く、エイダは二、三ページめくった。
「ルーモス、ノックス、羊皮紙? 変身術……『なんで北へ行くのに南へ?』」
「そこまで読まなくていいよ」
さらに目が下へ動く。
「葉が閉じた。影? 振動?」
「返して」
今度は素直に返ってきた。
真司はすぐノートを閉じた。
「授業のノートじゃなかったの?」
「授業のノートだよ」
「でも授業じゃないのも書いてある」
「気になったから」
エイダは少し考える顔をした。
「なんで羊皮紙。なんで北へ行くのに南へ。なんで葉っぱが閉じる」
「そんなふうには書いてない」
「だいたい同じじゃん」
口元がにやりとした。
「なぜなぜ手帳」
「ノート」
「なぜなぜ手帳」
「勝手に名前つけないでよ」
マルコムが本から目を上げた。
「分かりやすくはあるね」
「マルコムまで」
ベアトリスは本の向こうで笑っていた。
「採用しないからね」
真司はノートを自分の側へ引き寄せた。
エイダはもう教科書へ戻っている。
どうやら、持ち主の許可は必要なかったらしい。
*
しばらくして、真司は参考書を探しに席を立った。
目当ての本は棚のずいぶん上にあり、踏み台を使ってようやく引き抜いた。
机へ戻ると、開いたままにしていたノートに、見覚えのない字が増えていた。
薬草学の、
葉が閉じた。影? 振動?
の横である。
試す?
真司はノートを見た。それからエイダを見た。
「……エイダ」
「何?」
本から顔も上げない。
「これ」
「書いたよ」
「勝手に書かないでよ」
そこでようやくエイダが顔を上げた。
「消す?」
羽ペンを持った。
真司は二文字を見た。
「……今回はいい」
「じゃあ試そう」
「それは別」
「なんで?」
「先生に聞いてから」
エイダは少し考えて、頷いた。
「じゃあ聞こう」
それで話は終わった。
真司はノートを自分の方へ戻した。
試す?
は、そのままにした。
*
雨が弱くなるころには、図書館の生徒もずいぶん減っていた。
窓の外は暗くなり始め、司書が棚のあいだへ明かりをつけて回っている。
最初に席を立ったのはベアトリスだった。
「私、そろそろ戻るね」
入口では、ハッフルパフの女子生徒が待っていた。
ベアトリスは本を抱え、手を振ってそちらへ行った。
少しすると、今度はレイブンクローの生徒がエイダを呼びに来た。
エイダは時計を見て、ぱちりと目を瞬いた。
「あ。忘れてた」
本を二冊まとめて鞄へ押し込み、一冊だけ入りきらなかったので小脇に抱える。
「じゃあね。明日、葉っぱのこと聞こう」
「覚えてたらね」
「覚えてるよ」
そう言って駆けていき、三歩ほどで羽ペンを一本落とした。
呼びに来た生徒が拾って、そのあとを追った。
真司は黙って見送った。
「今のは教えなくていいの?」
マルコムが本を閉じながら尋ねた。
「もう拾ってもらってる」
「そう」
二人だけになると、図書館は急に静かになった。
真司は残った羊皮紙へ目を戻した。
あと少しである。
「帰ろう」
「宿題は?」
「夕食のあとやる」
マルコムは真司の羊皮紙を一度見たが、何も言わずに本を鞄へしまった。
*
翌日の放課後。
真司とマルコムが図書館へ入ると、昨日の机にはもうエイダがいた。
二人を見ると片手を上げたが、本から顔は上げない。
「遅ーい」
「約束してないだろう」
「してないけど、待ってた」
「本読んでるじゃないか」
「待ちながら読んでたの」
マルコムは何か言いかけたが、やめた。
真司が椅子を引こうとすると、そこには一冊の本が置いてあった。
黄色い栞の挟まった薬草学の本である。
「これ、ベアトリスの?」
「うん。棚に行ってる」
エイダはページをめくった。
「すぐ戻るって」
真司は空いている椅子へ鞄を置き、革表紙のノートを取り出した。