勝ちは勝ちでやんす、勝った方が正義でやんす
「俺も必殺技が欲しい」
部活の休憩中、染岡さんがボソッと呟いたのを俺の耳はしっかりとキャッチしていた。隣にいた半田さんをチラリと見ると、彼の耳も同じ音を拾っていたようだ。
「豪炎寺のファイアトルネードみたいなのか?」
「ああ。ああいう必殺技があれば、俺だって点を取れるようになれるはずなんだ……」
「まぁ確かに染岡さんは雷門の自称・点取り屋ですもんね。点取ってるとこ見たことないけど」
「な、渚……!そんな豪速球ぶち込まなくても……!」
半田さんの心配は的中し、俺は染岡さんに埋められた。地面に頭からぶち込まれ、足だけ飛び出しているような状況だ。これを犬神家ポーズと名付けよう。
「悔しいが渚の言ってることは間違っちゃいねぇ。実際、帝国との試合の時に点を取ったのはコイツと豪炎寺だ。俺は何も出来なかった」
「ははは、確かに。途中からはボロ雑巾みたいな扱い受けてましたもんね」
「ブレーキ踏め、渚ッ!!」
今度は下半身から地面に埋められ、辛うじて首だけが地面から出ている状態にされた。最低でも呼吸だけは出来るようにという配慮らしい。優しい……のか?
「俺だってFWなんだ……。点を取れるようにならなきゃ……豪炎寺みたいに……」
その言葉に半田さんは難しい顔をしていた。
半田さんはいわゆる初期メンというやつで、この雷門中サッカー部はキャプテン、染岡さん、そして半田さんから始まっている。この3人はよく一緒にいることが多いし、キャプテンも何か悩みとか相談事がある時はまず半田さんや染岡さんに声をかけることが多い。
共有してきた時間が多いのだ、この3人は。だから、半田さんは染岡さんが悩み苦しんでいることをいちばん強く理解している。
「なぁ渚、何かコツとか無いのか?お前も必殺シュートを撃てる人間だから、アドバイスとか」
「そうですね……強いて言うなら……"イメージ"ですかね……」
その言葉に染岡さんはこちらに目を向ける。
「イメージ?」
「はい。こうなりたい、ああなりたいとか、そんな簡単なやつでいいんです。他人から見られた自分とかそういうのじゃなく、確固たる己のイメージがあれば後は体がついてきます」
「確固たる……己の……」
「今の染岡さんで言えば、余りにも豪炎寺さんに引っ張られすぎている。あなたは豪炎寺さんじゃないんだから、ファイアトルネードを覚えようとしなくていいんです。染岡さんには、染岡さんの動きや技がある。きっとある。それを信じていきましょう」
「渚……お前……」
半田さんが感心したような声を出す。なんだそれ、なんか意外だったか?まぁ柄にもなくカッコつけたようなこと言ったとは思うけど……。
「そうか……。ありがとな、アドバイスくれて。俺、自分なりの必殺技を見つけてみる」
「はい、応援してます」
何かが吹っ切れたような表情を、染岡さんはしていた。これが何か良い効果を生み出してくれたらいいんだけど。
フットボールフロンティアを勝ち上がっていくには、チームのパワーアップは必要不可欠だ。そして俺達がやっているのは普通のサッカーじゃない、超次元サッカー。ファイアトルネードやゴッドハンド、アクアブレイクだけで全国の強者たちとしのぎを削れる訳じゃない。染岡さんにはひと皮もふた皮も剥けてもらわないと。
「一時はどうなるかと思ったけど……渚、染岡にアドバイスしてくれてありがとな」
「お礼なんて要らないですよ、半田さん。それに他人事みたいに言ってますけど、半田さんにも言ってますからねアレ」
「え?俺にも?」
「はい!そりゃもう!」
戸惑う半田さんに対してニッコニコの笑顔で返す。
「半田さん、あなたにもあなただけの必殺技を身につけてもらいます」
〇
そんなこんなで迎えた尾刈斗中戦。場所はまたもや雷門グラウンド。わざわざこちらまで足を運んでくださる対戦校の皆様には頭が上がりません。今日のギャラリーは……帝国戦と比べると若干少ないくらいか。天気とか悪いしな。空は曇り空でどんよリーヨしている。
「今日の相手は尾刈斗中だ。マネージャーが特殊なコネを使って集めてくれた情報や映像によると、彼らとの試合の時は不思議な事が起きるらしい」
試合前のミーティング。キャプテンが対戦校について解説を始める。
元新聞部の音無が入手した情報によると、尾刈斗中と試合中、急に足が動かなくなったり、尾刈斗中選手が分身して見えたり、不可解なことが頻発するらしい。そんなバカな……とみんな鼻で笑っていたが、実際の映像を見るとあながちウソでは無さそうだった。確かにみんな、急に足が止まって尾刈斗中に良いようにされている。わざと……には流石に見えない。
「こんなのフィクションでやんす。映像を編集してそれっぽく見せてるだけでやんす。無駄にビビる必要なんてないでやんす」
「お、栗松。珍しく俺と意見が合うじゃんか。そうだよな、オカルトなのは名前だけにしとけよって話だよな」
栗松と肩を組んで笑い合う。無論、俺はこんなオカルト信じない。
「そうでやんすよ。それに尾刈斗中の選手……よく見たらサッカーするような見た目じゃないでやんす。目隠しとかしてるうつけ者がいるでやんす。今日の試合は貰ったでやんすね」
「今日はよく喋るな栗きんとん。確かにハロウィンのコスプレしてるみたいだな。頭にロウソク付けてる奴とかいるぞ、試合が始まったらまずコイツの火を消しに行こう」
「がはは、それいいでやんすね。ならおいらはこいつの目隠しかっぱらってくるでやんす」
人を見た目で判断する愚かな生き物──渚と栗松である。
「もう渚くん。駄目じゃない、そんなおちょくるようなこと言ったら」
「お袋みたいなことを言う……!そーいや頼んでたスピリチュアルカウンセラーはどうなった?」
「そんな人呼んでません。調べては見たけどすっごい高かったのよ。なんと呼ぶだけで10万円!中学生のお財布事情じゃ雇えません」
「別に部費で出せばよかったじゃないか。弱小でも雷門は生徒数が多いから、結構潤ってんじゃないの?」
「潤ってるって……。確認はしてみたけど、サッカー部で使えるお金は他の部と比べたらだいぶ少ないみたい。噂によると、あの冬海先生が自分の口座に入れてるとか……」
またアイツか冬海。やっぱり帝国のスパイだろ。
「まぁ期待はしてなかったけどよ。代わりに昨晩から仕込んでおいたこの塩の柱が、尾刈斗中のセコ技を防いでくれるぜ」
今日の雷門グラウンドはひと味違う。四隅に全長約5mの盛り塩──塩の柱を設置しておいたのだ。これには皆も驚きだろう。
「塩の柱で四隅を囲うとな、特殊な磁場が発生するんだ。その磁場のエネルギーを得たフィールドのことを
「何を真面目な顔で言っとんだコイツ」
あ、誰も信じてない!別にいいさ、試合後みんなが俺に感謝する未来はもう見えてるんだ。天才とは人に理解されない生き物なのさ。
「ご機嫌よう、雷門中サッカー部の皆さん」
そこに降ってきた気品のある声。パッと見ると例の理事長の箱入り娘──雷門夏未がいた。
「なんか用か?」
円堂キャプテンが言う。お嬢は髪をふぁさっとするあの仕草をしながら答える。
「別に。あなた達が敗北して廃部になるところを特等席で見ようと来ただけよ」
「えっ?あの廃部ルールまだ続いてたんすか?」
最近やけによく聞くワード、廃部。日常生活じゃあんま聞かんだろこの言葉。それもこれもこのお嬢のせい。
「当たり前じゃない。あなた達の命運は常に私の手の中にあるのよ」
「な……なに〜……!理事長の娘だからと言ってお高く止まりやがって〜……!」
「私の発言は全て、理事長の言葉と思ってもらって構いません」
「職権乱用だぞ!!どんだけ俺らのこと嫌いなんだ!?」
「あ、でも今日の試合に買ったら部費いっぱい出してくれるらしいぞ」
「ありがとうございますお嬢様、必ず勝利をお届けします」
「忙しいヤツだな……」
部費がいっぱい出る?そうなりゃ話は別だ。スポンサー様には頭が上がらないからな、ゴマでもダイコンでもすっていくぜ。やっぱり持つべきものは理事長の娘よ。
夏未お嬢様をベンチに座らせ、試合前ミーティングの続きを行う。スタメンは、人員的にまた目金さんをベンチウォーマーにしていくスタイルだ。今日は目金さん、あんまり文句言ってなかった。
「あれ、目金さんのユニ、番号が12になってる」
「気付きましたか。そう、10番から12番に変わったんですよ」
「実質的な降格喰らってんのになんで誇らしげなんだ……」
目金さんのメガネが光った。帝国戦では豪炎寺さんが来るまでは10番のユニフォームを着ていたはず。確か入部条件がエースナンバーの10を着せろっていうのだった気がするな。大したこだわりじゃなかったのかも。
「──となると、10番は実質欠番か。豪炎寺さん……結局サッカー部には入らないみたいだし……」
「いやいるぞ?そこでもうアップ開始してる」
「うそん!?」
風丸さんがグラウンドを指さす。見るとそこでは、豪炎寺さんが誰もいないゴールにド派手なシュートを繰り出していた。ちゃんと10番のユニフォームを着て。
「おう渚。ウォーミングアップはしっかりな」
「おう渚、じゃないっすよ!!どういう風の吹き回し!?」
既に汗だくな豪炎寺さんに思わず声を荒らげる。この前はサッカー部には入らない、って言ってたのに。心の切り替えスピード半端なくない?
「別に大したことじゃないさ。優香が目を覚ました時に、あの子が憧れてた俺になってなきゃいけない……そう思っただけだ」
……凄く真っ当な理由で復帰してるわ。これなら何も心配は要らねーわ。雷門の戦力大幅アップだわ。もう尾刈斗中なんかに負ける気しねーわ。
「来たぞ、尾刈斗中だ!!」
半田さんの声に校門の方へ顔を向ける。すると言葉通り、既にユニフォームに着替えた尾刈斗イレブンがこちらに向かって闊歩してきていた。
「映像で見た通り、派手な見た目なやつらでやんすね」
「案ずるな栗松。塩の柱の効果で、アイツらは今日何も出来ずに帰ることになる」
目隠し、頭ロウソクに加え、仮面をつけた男、頭にネジみたいなのが突き刺さってる大男、極めつけには赤ワイン飲んでる吸血鬼みたいなやつもいる。くそ、ツッコミどころしかない。ユニークさでは負けてるな俺たち。
試合前の整列。雷門イレブンと尾刈斗イレブンが並び立つ。うちの冬海と敵の監督が握手。選手同士はしない。超次元サッカーにスポーツマンシップは存在しない。
尾刈斗中の監督が豪炎寺さんと俺の方へ近づいてきた。爽やかそうな見た目の大人だ、冬海も見習って欲しい。
「初めまして豪炎寺くん、そして渚くん。今日はあなた達に会いに来たようなものです。どうぞお手柔らかに」
それだけ言ってベンチの方へ向かっていった。なんだか様子のおかしい人だな。
「すぐに吠え面かかせてやるぜ。雷門の点取り屋を舐めるなよ」
自分が眼中に入っていないことに気が触れたのか、染岡さんが狂犬のように唸っていた。多分そのうち相手チームの誰かに噛みつきにいくぞこれ。
『試合開始ぃ!!!』
審判のホイッスルと共に雷門ボールで試合がスタート。豪炎寺さんからバックパスを受けた俺は、皆に上がってもらいつつ敵と合間見える。
「お手並み拝見といこうか、渚くん」
「塩の御加護を受けた俺に死角はない」
「しお……?」
困惑するその一瞬を見抜き、1人抜き去る。勢いのまま2人目もまた抜きでかわし、その間に続々と皆が前線へ上がってくる。
「渚、俺に出せ!」
ゴール前で染岡さんがボールを呼んでいる。見たところフリーだ。パスが通れば得点のチャンス。なんか必殺技も引っ提げてきてるらしいから、これは見ものだぞ。
「よーし、頼みましたよ半田さん!!」
「おい渚ッ、どういう了見だコラ!!」
俺は染岡さんの要求をスルー。サイドの半田さんへボールを回す。彼もまた左サイドから敵陣へ切り込んでくれていた。半田さんのすぐ後ろにはもう風丸さんがついている。超足速いなあの人。
「ナイスパスだ、渚!」
「決めちゃって下さい、半田さん!!」
「おう!!」
自信の込もった返事がくる。そうだよ半田さん。あなたはもっと堂々としてていい。円堂キャプテンや豪炎寺さんが必殺技を使い、染岡さんも熱くなっている。あなたはそれに続いていかなきゃいけない人だ。
「先輩の背中、ちゃんと
半田さんが1人抜き去り、ゴール前どフリー。キーパーと1対1。絶好の得点チャンス。染岡さんと豪炎寺さんにはDFのマークがついてる。パスは出せないぞ。
「これが俺の──必殺シュートだッ!!」
瞬間──半田さんの足元からゴール前までの地面が凍りつく。氷のフィールドとなったそこに、半田さんは渾身のシュートを撃ち込んだ。
「"フリーズショット"!!!」
氷の大地の上を滑るようにゴールへ伸びていくボール。無理やり上がったシュートスピードに敵GKは反応すらできず、半田さんのシュートはゴールネットを揺らしていた。
「──マジか」
「決まっちゃった……」
『GOAL!!!先制点はまさかの雷門中、半田!!豪炎寺でも渚でもなく、半田が決めましたッ!!!』
沸き立つグラウンド。風丸さんが半田さんに駆け寄っていく。
心底嬉しそうな半田さんがそこにはいた。
「やっぱ先輩は偉大でやんすね」
「だな。伊達に俺たちの先輩やってないわ」
ゴールゾーンから走り込んできた円堂キャプテンと染岡さんも加えて、先輩たちは喜びを分かちあっていた。
「さ、後輩ズも気合い入れてかないとな」
「でやんす!今日は活躍するでやんすよ!」
試合はまだ始まったばかり。
気を引き締めていくぜ。