春の日差しが、小学校の窓から教室へ差し込んでいた。
入学してから、しばらくが過ぎた。
一年生としての生活にも少しずつ慣れ、子どもたちは毎日元気いっぱいに過ごしている。
「また明日ねー!」
「ばいばーい!」
放課後。
出久はランドセルを背負い、校門へ向かって歩いていた。
「あっ。」
少し先で、見慣れた後ろ姿を見つける。
「かっちゃん!」
出久が駆け寄る。
勝己は振り返り、小さく手を上げた。
「おう。」
二人は自然と並んで歩き始める。
「今日ね。」
出久が嬉しそうに話し始める。
「図工で、お花描いたの!」
「ふーん。」
「先生にね、きれいって言われた!」
「そうか。」
勝己は短く返事をする。
それでも出久は嬉しそうだった。
そんな何気ない帰り道。
ふと、一軒の電気屋さんの前で二人は足を止めた。
店頭のテレビから、大きな歓声が聞こえてくる。
『市民は全員無事です!』
『さすがですね!』
画面には、大勢の人を助けたヒーローの姿が映っていた。
「すごい……。」
出久は思わず見入ってしまう。
瓦礫の中から子どもを抱き上げるヒーロー。
泣いていた子どもは、安心したように笑っている。
「笑った。」
出久が小さくつぶやく。
「助けてもらって。」
「笑ってる。」
勝己もテレビを見つめたまま言う。
「当たり前だ。」
「助けたんだから。」
その言葉に、出久はゆっくりとうなずいた。
テレビが終わる。
二人は再び歩き出した。
家の近くまで来ると、勝己が足を止める。
「じゃあな。」
「うん!」
出久は笑顔で手を振る。
「また明日ね!」
「あぁ。」
勝己は軽く手を上げ、そのまま家へ向かって歩いていった。
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家へ帰ると、出久はランドセルを机の横へ置き、そのままテレビの前へ座った。
夕方のヒーロー特集。
街を守るヒーローたちが、次々と紹介されていく。
敵を倒す姿。
困っている人を助ける姿。
笑顔で手を振る姿。
出久は夢中になって見つめていた。
番組が終わる。
テレビの画面が静かになる。
それでも、出久はしばらく動かなかった。
「そんなに好きなんだね。」
引子が優しく笑う。
出久は大きくうなずいた。
「うん!」
「ヒーロー、大好き!」
「みんな。」
「助けてくれるから。」
引子は優しく微笑む。
「そうだね。」
「みんなを笑顔にしてくれるものね。」
出久は小さくつぶやく。
「笑顔……。」
その言葉が、胸の中へ静かに残った。
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夜。
夕食を終え、お風呂にも入り、家の中は静かな時間に包まれていた。
出久は自分の机へ向かう。
机の上には、一冊の真っ白なノート。
第一章の終わりに見つけた、あのノートだった。
出久はそっと表紙を開く。
真っ白なページ。
鉛筆を握る。
けれど。
「うーん……。」
何を書けばいいんだろう。
しばらく考え込む。
ふと、今日見たヒーローの姿が頭に浮かんだ。
泣いていた子ども。
抱き上げるヒーロー。
そして。
安心して笑った顔。
出久はゆっくりと鉛筆を動かし始める。
丸い顔。
大きな笑顔。
両手を広げたヒーロー。
まだ幼い絵だった。
でも、その絵には出久の憧れがいっぱい詰まっていた。
絵の横へ、小さな文字を書き添える。
『たすける。』
少し考えて、もう一つ。
『えがお。』
それだけだった。
出久はそのページを静かに見つめる。
やがて、小さく微笑んだ。
「できた。」
真っ白だった一冊のノート。
その最初の一ページには、小さな夢が書き留められた。
窓の外では、春の夜風が静かに木々を揺らしている。
その夢は、これから少しずつページを重ねながら、大きく育っていく。
翌朝。
春の陽射しが教室へ差し込み、子どもたちの元気な声が響いていた。
「おはよう!」
「おはよー!」
ランドセルを置いた出久は、自分の机へ向かう。
ランドセルの中から、大切そうに一冊のノートを取り出した。
昨日、初めて描いたヒーローノート。
何度も見返したせいか、表紙には少しだけ温もりが残っているようだった。
「かっちゃん!」
出久は嬉しそうに勝己の席へ駆け寄る。
「ん?」
勝己が顔を上げる。
出久は少し照れくさそうに笑いながら、ノートを差し出した。
「これね。」
「昨日、おうちで描いたの。」
勝己は首をかしげる。
「……ノート?」
「うん!」
「ヒーローノート!」
その言葉に、勝己は興味を引かれたようにノートを受け取る。
ゆっくりと一ページ目を開く。
そこには、大きな笑顔のヒーロー。
そして、小さな文字で書かれた言葉。
『たすける。』
『えがお。』
勝己はしばらく黙ってページを見つめていた。
「どう……かな。」
出久が少しだけ不安そうに尋ねる。
勝己はノートを閉じると、出久へ返した。
「いいじゃん。」
短い一言だった。
けれど、その言葉だけで十分だった。
出久の顔がぱっと明るくなる。
「ほんと!?」
「あぁ。」
勝己は少し照れくさそうに鼻を鳴らした。
「いっぱい描け。」
その一言に、出久は何度もうなずく。
「うん!」
「いっぱい描く!」
その様子を見ていた近くの男の子が、不思議そうにのぞき込む。
「なにそれ?」
「ヒーローの絵?」
出久は嬉しそうにノートを開いた。
「うん!」
「ヒーローが助けてくれたこととか。」
「かっこいいなって思ったこととか。」
「忘れたくないから。」
男の子は「へぇー」と感心したようにうなずく。
「おもしろそう!」
先生もその声に気づき、優しく近寄ってきた。
「出久ちゃん。」
「自分だけのノートなの?」
出久は大切そうに抱きしめる。
「うん!」
「ヒーローのこと、いっぱい描くの!」
先生はにっこりと微笑んだ。
「素敵だね。」
「きっと、世界に一冊だけの宝物になるよ。」
その言葉に、出久は嬉しそうに笑った。
「うん!」
授業が始まり、ノートはランドセルの中へしまわれる。
まだ一ページしか埋まっていない。
それでも出久にとっては、大切な一冊だった。
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放課後。
いつもの帰り道。
出久はランドセルを揺らしながら歩いていた。
「かっちゃん。」
「ん?」
「今日ね。」
「先生にも褒めてもらえた!」
勝己は少し笑う。
「よかったな。」
出久は嬉しそうにノートを抱きしめる。
「うん!」
「これから、いっぱい描く!」
春風が優しく吹き抜ける。
まだ真っ白なページがたくさん残っている。
その一ページ、一ページに。
夢も。
憧れも。
いつか誰かを助けたいという願いも。
少しずつ書き留められていくのだろう。
この日、生まれた一冊のノート。
それは、未来のヒーローを支える、大切な宝物の始まりだった。