無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第二章 ヒーローノート

 

春の日差しが、小学校の窓から教室へ差し込んでいた。

 

入学してから、しばらくが過ぎた。

 

一年生としての生活にも少しずつ慣れ、子どもたちは毎日元気いっぱいに過ごしている。

 

「また明日ねー!」

 

「ばいばーい!」

 

放課後。

 

出久はランドセルを背負い、校門へ向かって歩いていた。

 

「あっ。」

 

少し先で、見慣れた後ろ姿を見つける。

 

「かっちゃん!」

 

出久が駆け寄る。

 

勝己は振り返り、小さく手を上げた。

 

「おう。」

 

二人は自然と並んで歩き始める。

 

「今日ね。」

 

出久が嬉しそうに話し始める。

 

「図工で、お花描いたの!」

 

「ふーん。」

 

「先生にね、きれいって言われた!」

 

「そうか。」

 

勝己は短く返事をする。

 

それでも出久は嬉しそうだった。

 

そんな何気ない帰り道。

 

ふと、一軒の電気屋さんの前で二人は足を止めた。

 

店頭のテレビから、大きな歓声が聞こえてくる。

 

『市民は全員無事です!』

 

『さすがですね!』

 

画面には、大勢の人を助けたヒーローの姿が映っていた。

 

「すごい……。」

 

出久は思わず見入ってしまう。

 

瓦礫の中から子どもを抱き上げるヒーロー。

 

泣いていた子どもは、安心したように笑っている。

 

「笑った。」

 

出久が小さくつぶやく。

 

「助けてもらって。」

 

「笑ってる。」

 

勝己もテレビを見つめたまま言う。

 

「当たり前だ。」

 

「助けたんだから。」

 

その言葉に、出久はゆっくりとうなずいた。

 

テレビが終わる。

 

二人は再び歩き出した。

 

家の近くまで来ると、勝己が足を止める。

 

「じゃあな。」

 

「うん!」

 

出久は笑顔で手を振る。

 

「また明日ね!」

 

「あぁ。」

 

勝己は軽く手を上げ、そのまま家へ向かって歩いていった。

 

---

 

家へ帰ると、出久はランドセルを机の横へ置き、そのままテレビの前へ座った。

 

夕方のヒーロー特集。

 

街を守るヒーローたちが、次々と紹介されていく。

 

敵を倒す姿。

 

困っている人を助ける姿。

 

笑顔で手を振る姿。

 

出久は夢中になって見つめていた。

 

番組が終わる。

 

テレビの画面が静かになる。

 

それでも、出久はしばらく動かなかった。

 

「そんなに好きなんだね。」

 

引子が優しく笑う。

 

出久は大きくうなずいた。

 

「うん!」

 

「ヒーロー、大好き!」

 

「みんな。」

 

「助けてくれるから。」

 

引子は優しく微笑む。

 

「そうだね。」

 

「みんなを笑顔にしてくれるものね。」

 

出久は小さくつぶやく。

 

「笑顔……。」

 

その言葉が、胸の中へ静かに残った。

 

---

 

夜。

 

夕食を終え、お風呂にも入り、家の中は静かな時間に包まれていた。

 

出久は自分の机へ向かう。

 

机の上には、一冊の真っ白なノート。

 

第一章の終わりに見つけた、あのノートだった。

 

出久はそっと表紙を開く。

 

真っ白なページ。

 

鉛筆を握る。

 

けれど。

 

「うーん……。」

 

何を書けばいいんだろう。

 

しばらく考え込む。

 

ふと、今日見たヒーローの姿が頭に浮かんだ。

 

泣いていた子ども。

 

抱き上げるヒーロー。

 

そして。

 

安心して笑った顔。

 

出久はゆっくりと鉛筆を動かし始める。

 

丸い顔。

 

大きな笑顔。

 

両手を広げたヒーロー。

 

まだ幼い絵だった。

 

でも、その絵には出久の憧れがいっぱい詰まっていた。

 

絵の横へ、小さな文字を書き添える。

 

『たすける。』

 

少し考えて、もう一つ。

 

『えがお。』

 

それだけだった。

 

出久はそのページを静かに見つめる。

 

やがて、小さく微笑んだ。

 

「できた。」

 

真っ白だった一冊のノート。

 

その最初の一ページには、小さな夢が書き留められた。

 

窓の外では、春の夜風が静かに木々を揺らしている。

 

その夢は、これから少しずつページを重ねながら、大きく育っていく。

 

翌朝。

 

春の陽射しが教室へ差し込み、子どもたちの元気な声が響いていた。

 

「おはよう!」

 

「おはよー!」

 

ランドセルを置いた出久は、自分の机へ向かう。

 

ランドセルの中から、大切そうに一冊のノートを取り出した。

 

昨日、初めて描いたヒーローノート。

 

何度も見返したせいか、表紙には少しだけ温もりが残っているようだった。

 

「かっちゃん!」

 

出久は嬉しそうに勝己の席へ駆け寄る。

 

「ん?」

 

勝己が顔を上げる。

 

出久は少し照れくさそうに笑いながら、ノートを差し出した。

 

「これね。」

 

「昨日、おうちで描いたの。」

 

勝己は首をかしげる。

 

「……ノート?」

 

「うん!」

 

「ヒーローノート!」

 

その言葉に、勝己は興味を引かれたようにノートを受け取る。

 

ゆっくりと一ページ目を開く。

 

そこには、大きな笑顔のヒーロー。

 

そして、小さな文字で書かれた言葉。

 

『たすける。』

 

『えがお。』

 

勝己はしばらく黙ってページを見つめていた。

 

「どう……かな。」

 

出久が少しだけ不安そうに尋ねる。

 

勝己はノートを閉じると、出久へ返した。

 

「いいじゃん。」

 

短い一言だった。

 

けれど、その言葉だけで十分だった。

 

出久の顔がぱっと明るくなる。

 

「ほんと!?」

 

「あぁ。」

 

勝己は少し照れくさそうに鼻を鳴らした。

 

「いっぱい描け。」

 

その一言に、出久は何度もうなずく。

 

「うん!」

 

「いっぱい描く!」

 

その様子を見ていた近くの男の子が、不思議そうにのぞき込む。

 

「なにそれ?」

 

「ヒーローの絵?」

 

出久は嬉しそうにノートを開いた。

 

「うん!」

 

「ヒーローが助けてくれたこととか。」

 

「かっこいいなって思ったこととか。」

 

「忘れたくないから。」

 

男の子は「へぇー」と感心したようにうなずく。

 

「おもしろそう!」

 

先生もその声に気づき、優しく近寄ってきた。

 

「出久ちゃん。」

 

「自分だけのノートなの?」

 

出久は大切そうに抱きしめる。

 

「うん!」

 

「ヒーローのこと、いっぱい描くの!」

 

先生はにっこりと微笑んだ。

 

「素敵だね。」

 

「きっと、世界に一冊だけの宝物になるよ。」

 

その言葉に、出久は嬉しそうに笑った。

 

「うん!」

 

授業が始まり、ノートはランドセルの中へしまわれる。

 

まだ一ページしか埋まっていない。

 

それでも出久にとっては、大切な一冊だった。

 

---

 

放課後。

 

いつもの帰り道。

 

出久はランドセルを揺らしながら歩いていた。

 

「かっちゃん。」

 

「ん?」

 

「今日ね。」

 

「先生にも褒めてもらえた!」

 

勝己は少し笑う。

 

「よかったな。」

 

出久は嬉しそうにノートを抱きしめる。

 

「うん!」

 

「これから、いっぱい描く!」

 

春風が優しく吹き抜ける。

 

まだ真っ白なページがたくさん残っている。

 

その一ページ、一ページに。

 

夢も。

 

憧れも。

 

いつか誰かを助けたいという願いも。

 

少しずつ書き留められていくのだろう。

 

この日、生まれた一冊のノート。

 

それは、未来のヒーローを支える、大切な宝物の始まりだった。

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