夕暮れ。
緑谷家の玄関が静かに開いた。
「ただいま……。」
少し疲れた声に、台所にいた引子が顔を上げる。
「おかえり、出久。」
その姿を見た瞬間、引子は目を見開いた。
制服には土埃がつき、頬には小さな擦り傷がある。
「出久!?」
「どうしたの!?」
慌てて駆け寄り、肩や腕に怪我がないか確かめる。
「大丈夫?」
「痛いところはない?」
出久は少し照れくさそうに笑った。
「大丈夫だよ、お母さん。」
「商店街でヴィラン事件があってね。」
その一言で、引子の表情が変わる。
出久はゆっくりと今日の出来事を話した。
勝己がヴィランと戦っていたこと。
自分は避難誘導や救助をしたこと。
最後はオールマイトが助けてくれたこと。
引子は最後まで黙って聞いていた。
話が終わると、そっと出久を抱きしめる。
「本当に……。」
「無事でよかった。」
その声は少し震えていた。
出久も静かに抱き返す。
「心配かけて、ごめんね。」
「いいの。」
「帰ってきてくれたことが、一番嬉しいから。」
しばらく穏やかな時間が流れる。
やがて引子が尋ねた。
「……勝己くんは?」
出久は笑顔でうなずく。
「うん。」
「最後まで戦ってた。」
引子はほっと息をついた。
「勝己くんも無事でよかった。」
そして、優しく微笑む。
「本当に頼もしい子になったね。」
出久も嬉しそうに笑った。
「うん。」
「すごかったよ。」
引子は娘の頭を優しくなでる。
「出久も、とっても頑張ったね。」
その言葉に、出久は少し照れながら笑った。
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一方、爆豪家。
玄関の扉が勢いよく開く。
「ただいま。」
勝己が入ってくると、光己がすぐに振り向いた。
「勝己!」
制服の汚れを見た瞬間、顔色が変わる。
「あんた何やってきたんだい!」
すぐに近寄り、怪我がないか確認する。
「怪我は?」
「してねぇ。」
「その格好で説得力あると思ってんのかい。」
勝己は少しだけ目をそらした。
「商店街でヴィランが出た。」
「俺も巻き込まれた。」
光己の表情が一瞬で険しくなる。
「ヴィランですって!?」
「……でも、もう終わった。」
「オールマイトも来た。」
光己は胸に手を当て、大きく息をつく。
「まったく……。」
「無事だったから良かったものの。」
そう言いながらも、どこか安心したように笑った。
「出久ちゃんは?」
勝己は短く答える。
「無事。」
「助けてた。」
光己はほっと肩の力を抜いた。
「そうかい。」
「出久ちゃんも無事でよかった。」
そして勝己の額を軽く小突く。
「あんたねぇ。」
「出久ちゃんを怪我させちゃ駄目だよ。」
勝己は少しむっとしたように答える。
「……してねぇ。」
光己は満足そうにうなずいた。
「当たり前だよ。」
「あんたの大事な幼なじみなんだから。」
勝己は照れくさそうに鼻を鳴らす。
「……うるせぇ。」
光己は思わず笑った。
「はいはい。」
「ご飯できてるから、手ぇ洗ってきな。」
「分かってる。」
勝己はぶっきらぼうに返事をしながら洗面所へ向かった。
その背中を見送り、光己は小さく微笑んだ。
「二人とも、無事でよかった。」
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翌朝。
中学校は朝から昨日の事件の話題で持ちきりだった。
「ニュース見た!」
「田等院商店街のヴィラン事件!」
「爆豪と緑谷じゃない?」
「SNSでも話題になってたよ!」
教室へ入ると、二人はあっという間にクラスメイトに囲まれる。
「爆豪!」
「ヴィランと戦ったんだって?」
「すげぇな!」
勝己はいつものように席へ座る。
「うるせぇ。」
短い返事に、教室は笑いに包まれた。
一方、出久にも次々と声が掛かる。
「緑谷さん!」
「避難誘導してたって本当?」
「ニュースで見たよ!」
「すごかったね!」
出久は慌てて手を振る。
「そんな……。」
「できることをしただけだから。」
その時だった。
「緑谷。」
担任が教室へ入ってくる。
「少し職員室まで来なさい。」
「はい。」
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先生は一通の封筒を差し出した。
「学校へ届けられた。」
「助けてもらった女の子の保護者の方からだ。」
「制服を覚えていて、学校へ届けてほしいと。」
出久は驚きながら封を開く。
中には、一枚の手紙。
そして、クレヨンで描かれた一枚の絵。
笑っている女の子。
その隣で笑うお母さん。
そして、優しく手を差し伸べる出久。
幼い文字で書かれていた。
『おねえちゃんへ
たすけてくれてありがとう。
おおきくなったら
わたしも
おねえちゃんみたいな
ヒーローになります。』
読み終えた瞬間。
出久の目から涙がこぼれた。
「……私みたいな。」
先生は静かに微笑む。
「立派な手紙だな。」
出久は何度もうなずいた。
「はい……!」
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教室へ戻る。
目元を赤くした出久を見て、勝己が声を掛ける。
「泣いたのか。」
「ち、違うよ。」
そう言いながらも涙は隠せない。
出久は封筒の中の絵を勝己へ見せた。
勝己は黙って眺める。
しばらくして、小さく口を開いた。
「良かったな。」
たった一言。
その言葉だけで、出久はまた笑顔になった。
「うん。」
「すごく嬉しい。」
勝己は照れくさそうに目をそらす。
「なら。」
「もっと頑張れ。」
出久は力強くうなずいた。
「うん!」
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その夜。
雄英高校。
静かな執務室で、オールマイトは事件報告書へ目を通していた。
そこには二人の中学生の記録が記されている。
一人は、最後までヴィランと戦い続けた少年。
一人は、最後まで人々の安全を守り続けた少女。
オールマイトは静かに資料を閉じる。
窓の外へ目を向け、小さく微笑んだ。
「戦う力。」
「守る力。」
「どちらも、ヒーローには欠かせない。」
春の夜風が木々を優しく揺らしている。
「若い芽は、着実に育っている。」
穏やかな声だった。
「未来は、明るいな。」
その表情には、一人のヒーローとしての喜びが静かに浮かんでいた。