無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第五章 受け継がれるもの

 

夕暮れ。

 

緑谷家の玄関が静かに開いた。

 

「ただいま……。」

 

少し疲れた声に、台所にいた引子が顔を上げる。

 

「おかえり、出久。」

 

その姿を見た瞬間、引子は目を見開いた。

 

制服には土埃がつき、頬には小さな擦り傷がある。

 

「出久!?」

 

「どうしたの!?」

 

慌てて駆け寄り、肩や腕に怪我がないか確かめる。

 

「大丈夫?」

 

「痛いところはない?」

 

出久は少し照れくさそうに笑った。

 

「大丈夫だよ、お母さん。」

 

「商店街でヴィラン事件があってね。」

 

その一言で、引子の表情が変わる。

 

出久はゆっくりと今日の出来事を話した。

 

勝己がヴィランと戦っていたこと。

 

自分は避難誘導や救助をしたこと。

 

最後はオールマイトが助けてくれたこと。

 

引子は最後まで黙って聞いていた。

 

話が終わると、そっと出久を抱きしめる。

 

「本当に……。」

 

「無事でよかった。」

 

その声は少し震えていた。

 

出久も静かに抱き返す。

 

「心配かけて、ごめんね。」

 

「いいの。」

 

「帰ってきてくれたことが、一番嬉しいから。」

 

しばらく穏やかな時間が流れる。

 

やがて引子が尋ねた。

 

「……勝己くんは?」

 

出久は笑顔でうなずく。

 

「うん。」

 

「最後まで戦ってた。」

 

引子はほっと息をついた。

 

「勝己くんも無事でよかった。」

 

そして、優しく微笑む。

 

「本当に頼もしい子になったね。」

 

出久も嬉しそうに笑った。

 

「うん。」

 

「すごかったよ。」

 

引子は娘の頭を優しくなでる。

 

「出久も、とっても頑張ったね。」

 

その言葉に、出久は少し照れながら笑った。

 

---

 

一方、爆豪家。

 

玄関の扉が勢いよく開く。

 

「ただいま。」

 

勝己が入ってくると、光己がすぐに振り向いた。

 

「勝己!」

 

制服の汚れを見た瞬間、顔色が変わる。

 

「あんた何やってきたんだい!」

 

すぐに近寄り、怪我がないか確認する。

 

「怪我は?」

 

「してねぇ。」

 

「その格好で説得力あると思ってんのかい。」

 

勝己は少しだけ目をそらした。

 

「商店街でヴィランが出た。」

 

「俺も巻き込まれた。」

 

光己の表情が一瞬で険しくなる。

 

「ヴィランですって!?」

 

「……でも、もう終わった。」

 

「オールマイトも来た。」

 

光己は胸に手を当て、大きく息をつく。

 

「まったく……。」

 

「無事だったから良かったものの。」

 

そう言いながらも、どこか安心したように笑った。

 

「出久ちゃんは?」

 

勝己は短く答える。

 

「無事。」

 

「助けてた。」

 

光己はほっと肩の力を抜いた。

 

「そうかい。」

 

「出久ちゃんも無事でよかった。」

 

そして勝己の額を軽く小突く。

 

「あんたねぇ。」

 

「出久ちゃんを怪我させちゃ駄目だよ。」

 

勝己は少しむっとしたように答える。

 

「……してねぇ。」

 

光己は満足そうにうなずいた。

 

「当たり前だよ。」

 

「あんたの大事な幼なじみなんだから。」

 

勝己は照れくさそうに鼻を鳴らす。

 

「……うるせぇ。」

 

光己は思わず笑った。

 

「はいはい。」

 

「ご飯できてるから、手ぇ洗ってきな。」

 

「分かってる。」

 

勝己はぶっきらぼうに返事をしながら洗面所へ向かった。

 

その背中を見送り、光己は小さく微笑んだ。

 

「二人とも、無事でよかった。」

 

---

 

翌朝。

 

中学校は朝から昨日の事件の話題で持ちきりだった。

 

「ニュース見た!」

 

「田等院商店街のヴィラン事件!」

 

「爆豪と緑谷じゃない?」

 

「SNSでも話題になってたよ!」

 

教室へ入ると、二人はあっという間にクラスメイトに囲まれる。

 

「爆豪!」

 

「ヴィランと戦ったんだって?」

 

「すげぇな!」

 

勝己はいつものように席へ座る。

 

「うるせぇ。」

 

短い返事に、教室は笑いに包まれた。

 

一方、出久にも次々と声が掛かる。

 

「緑谷さん!」

 

「避難誘導してたって本当?」

 

「ニュースで見たよ!」

 

「すごかったね!」

 

出久は慌てて手を振る。

 

「そんな……。」

 

「できることをしただけだから。」

 

その時だった。

 

「緑谷。」

 

担任が教室へ入ってくる。

 

「少し職員室まで来なさい。」

 

「はい。」

 

---

 

先生は一通の封筒を差し出した。

 

「学校へ届けられた。」

 

「助けてもらった女の子の保護者の方からだ。」

 

「制服を覚えていて、学校へ届けてほしいと。」

 

出久は驚きながら封を開く。

 

中には、一枚の手紙。

 

そして、クレヨンで描かれた一枚の絵。

 

笑っている女の子。

 

その隣で笑うお母さん。

 

そして、優しく手を差し伸べる出久。

 

幼い文字で書かれていた。

 

『おねえちゃんへ

 

たすけてくれてありがとう。

 

おおきくなったら

 

わたしも

 

おねえちゃんみたいな

 

ヒーローになります。』

 

読み終えた瞬間。

 

出久の目から涙がこぼれた。

 

「……私みたいな。」

 

先生は静かに微笑む。

 

「立派な手紙だな。」

 

出久は何度もうなずいた。

 

「はい……!」

 

---

 

教室へ戻る。

 

目元を赤くした出久を見て、勝己が声を掛ける。

 

「泣いたのか。」

 

「ち、違うよ。」

 

そう言いながらも涙は隠せない。

 

出久は封筒の中の絵を勝己へ見せた。

 

勝己は黙って眺める。

 

しばらくして、小さく口を開いた。

 

「良かったな。」

 

たった一言。

 

その言葉だけで、出久はまた笑顔になった。

 

「うん。」

 

「すごく嬉しい。」

 

勝己は照れくさそうに目をそらす。

 

「なら。」

 

「もっと頑張れ。」

 

出久は力強くうなずいた。

 

「うん!」

 

---

 

その夜。

 

雄英高校。

 

静かな執務室で、オールマイトは事件報告書へ目を通していた。

 

そこには二人の中学生の記録が記されている。

 

一人は、最後までヴィランと戦い続けた少年。

 

一人は、最後まで人々の安全を守り続けた少女。

 

オールマイトは静かに資料を閉じる。

 

窓の外へ目を向け、小さく微笑んだ。

 

「戦う力。」

 

「守る力。」

 

「どちらも、ヒーローには欠かせない。」

 

春の夜風が木々を優しく揺らしている。

 

「若い芽は、着実に育っている。」

 

穏やかな声だった。

 

「未来は、明るいな。」

 

その表情には、一人のヒーローとしての喜びが静かに浮かんでいた。

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