無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第六章 夢への助走

 

季節は巡り、街には冷たい風が吹き始めていた。

 

校庭の木々は葉を落とし、中学校生活も残りわずか。

 

教室には、どこか受験を意識した空気が流れ始めていた。

 

---

 

ホームルーム。

 

担任教師が一枚の用紙を配っていく。

 

「進路希望調査票です。」

 

「現時点での希望を書いてください。」

 

教室が少しだけざわついた。

 

「もうそんな時期か。」

 

「受験生って実感するな。」

 

「進路、まだ迷うなぁ。」

 

それぞれが将来について話し始める。

 

「俺は普通科かな。」

 

「私はサポート科も気になってる。」

 

「親と相談しないと。」

 

そんな会話の中、一人の男子生徒が勝己へ声を掛けた。

 

「爆豪は決まってるよな。」

 

「もちろん雄英だろ?」

 

勝己は迷いなく答える。

 

「当たり前だ。」

 

その一言に、誰も驚かない。

 

「だよな。」

 

「爆豪なら当然だ。」

 

教室に笑いが広がる。

 

すると今度は、一人の女子生徒が出久を見た。

 

「緑谷さんも雄英なんだよね?」

 

教室の視線が自然と集まる。

 

出久は優しく微笑んだ。

 

「うん。」

 

「雄英を目指してるよ。」

 

少しの沈黙。

 

けれど、その空気は中学へ入学した頃とは違っていた。

 

「あの事件見て思ったよ。」

 

一人の男子生徒が言う。

 

「緑谷ならいけるって。」

 

別の生徒もうなずく。

 

「ニュースでも避難誘導してたって紹介されてたし。」

 

「冷静だったよね。」

 

「無個性とか関係なく、すごいと思った。」

 

教室のあちこちから、自然とうなずく声が聞こえた。

 

出久は少しだけ目を丸くする。

 

中学へ入学したばかりの頃。

 

「無個性で雄英って大変じゃない?」

 

そう言われた教室。

 

今は違う。

 

周りの目は、確かに変わっていた。

 

「ありがとう。」

 

出久は少し照れながら笑った。

 

その笑顔は、以前よりずっと自信に満ちていた。

 

---

 

放課後。

 

いつもの帰り道。

 

吐く息が白く染まる。

 

二人は並んで歩いていた。

 

勝己が前を向いたまま口を開く。

 

「書いたか。」

 

「雄英。」

 

出久は笑顔でうなずく。

 

「うん。」

 

「迷わなかったよ。」

 

勝己は小さく鼻を鳴らした。

 

「そうか。」

 

少しだけ沈黙が流れる。

 

やがて勝己は静かに言った。

 

「だったら受かる。」

 

短い一言。

 

けれど、その言葉には幼い頃から積み重ねてきた信頼が込められていた。

 

出久は嬉しそうに笑う。

 

「うん。」

 

「絶対受かろう。」

 

「当たり前だ。」

 

二人はまた歩き始める。

 

歩幅は自然と揃っていた。

 

---

 

その夜。

 

机の上には、一冊のノート。

 

『雄英高校合格作戦』

 

出久はゆっくりとページをめくった。

 

幼い頃に書いた夢。

 

小学生の頃に始めた努力。

 

中学生になって書き加えた知識や経験。

 

一ページ、一ページに、自分が歩んできた時間が詰まっていた。

 

静かに最後のページを開く。

 

鉛筆を握る。

 

そして、ゆっくりと書き始めた。

 

『ここまで来た。』

 

少しだけ考える。

 

そして、もう一行。

 

『あとは、受かるだけ。』

 

書き終えると、そっとノートを閉じた。

 

幼い日に交わした約束。

 

小学生の頃から積み重ねた努力。

 

中学生になって学んだ知識。

 

人を助けた経験。

 

そのすべてが、この一冊に詰まっていた。

 

出久は静かに微笑む。

 

「頑張ろう。」

 

窓の外では、冬の夜風が静かに木々を揺らしていた。

 

---

 

やがて季節は巡り――。

 

春。

 

桜が咲き始めた朝。

 

出久は制服へ袖を通し、玄関で靴紐を結ぶ。

 

引子が優しく微笑んだ。

 

「行ってらっしゃい。」

 

出久も笑顔で振り返る。

 

「行ってきます!」

 

家を飛び出す。

 

待ち合わせ場所には、もう勝己が立っていた。

 

「遅ぇ。」

 

「ごめん、ごめん!」

 

「まだ約束の時間前だよ?」

 

「なら走れ。」

 

「もう!」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

そして並んで歩き始める。

 

向かう先は、一つ。

 

雄英高校。

 

幼い日に交わした約束。

 

小学生の頃から積み重ねた努力。

 

中学生になって学んだ知識。

 

人を助けた経験。

 

そのすべてを胸に。

 

二人は、試験会場へ向かって歩いていく。

 

夢は、もう憧れではない。

 

ここからは、自分たちの力でつかみ取る未来。

 

春風が二人の背中を優しく押していた。

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