無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

21 / 21
第六章 夢への助走

 

季節は巡り、街には冷たい風が吹き始めていた。

 

校庭の木々は葉を落とし、中学校生活も残りわずか。

 

教室には、どこか受験を意識した空気が流れ始めていた。

 

---

 

ホームルーム。

 

担任教師が一枚の用紙を配っていく。

 

「進路希望調査票です。」

 

「現時点での希望を書いてください。」

 

教室が少しだけざわついた。

 

「もうそんな時期か。」

 

「受験生って実感するな。」

 

「進路、まだ迷うなぁ。」

 

それぞれが将来について話し始める。

 

「俺は普通科かな。」

 

「私はサポート科も気になってる。」

 

「親と相談しないと。」

 

そんな会話の中、一人の男子生徒が勝己へ声を掛けた。

 

「爆豪は決まってるよな。」

 

「もちろん雄英だろ?」

 

勝己は迷いなく答える。

 

「当たり前だ。」

 

その一言に、誰も驚かない。

 

「だよな。」

 

「爆豪なら当然だ。」

 

教室に笑いが広がる。

 

すると今度は、一人の女子生徒が出久を見た。

 

「緑谷さんも雄英なんだよね?」

 

教室の視線が自然と集まる。

 

出久は優しく微笑んだ。

 

「うん。」

 

「雄英を目指してるよ。」

 

少しの沈黙。

 

けれど、その空気は中学へ入学した頃とは違っていた。

 

「あの事件見て思ったよ。」

 

一人の男子生徒が言う。

 

「緑谷ならいけるって。」

 

別の生徒もうなずく。

 

「ニュースでも避難誘導してたって紹介されてたし。」

 

「冷静だったよね。」

 

「無個性とか関係なく、すごいと思った。」

 

教室のあちこちから、自然とうなずく声が聞こえた。

 

出久は少しだけ目を丸くする。

 

中学へ入学したばかりの頃。

 

「無個性で雄英って大変じゃない?」

 

そう言われた教室。

 

今は違う。

 

周りの目は、確かに変わっていた。

 

「ありがとう。」

 

出久は少し照れながら笑った。

 

その笑顔は、以前よりずっと自信に満ちていた。

 

---

 

放課後。

 

いつもの帰り道。

 

吐く息が白く染まる。

 

二人は並んで歩いていた。

 

勝己が前を向いたまま口を開く。

 

「書いたか。」

 

「雄英。」

 

出久は笑顔でうなずく。

 

「うん。」

 

「迷わなかったよ。」

 

勝己は小さく鼻を鳴らした。

 

「そうか。」

 

少しだけ沈黙が流れる。

 

やがて勝己は静かに言った。

 

「だったら受かる。」

 

短い一言。

 

けれど、その言葉には幼い頃から積み重ねてきた信頼が込められていた。

 

出久は嬉しそうに笑う。

 

「うん。」

 

「絶対受かろう。」

 

「当たり前だ。」

 

二人はまた歩き始める。

 

歩幅は自然と揃っていた。

 

---

 

その夜。

 

机の上には、一冊のノート。

 

『雄英高校合格作戦』

 

出久はゆっくりとページをめくった。

 

幼い頃に書いた夢。

 

小学生の頃に始めた努力。

 

中学生になって書き加えた知識や経験。

 

一ページ、一ページに、自分が歩んできた時間が詰まっていた。

 

静かに最後のページを開く。

 

鉛筆を握る。

 

そして、ゆっくりと書き始めた。

 

『ここまで来た。』

 

少しだけ考える。

 

そして、もう一行。

 

『あとは、受かるだけ。』

 

書き終えると、そっとノートを閉じた。

 

幼い日に交わした約束。

 

小学生の頃から積み重ねた努力。

 

中学生になって学んだ知識。

 

人を助けた経験。

 

そのすべてが、この一冊に詰まっていた。

 

出久は静かに微笑む。

 

「頑張ろう。」

 

窓の外では、冬の夜風が静かに木々を揺らしていた。

 

---

 

やがて季節は巡り――。

 

春。

 

桜が咲き始めた朝。

 

出久は制服へ袖を通し、玄関で靴紐を結ぶ。

 

引子が優しく微笑んだ。

 

「行ってらっしゃい。」

 

出久も笑顔で振り返る。

 

「行ってきます!」

 

家を飛び出す。

 

待ち合わせ場所には、もう勝己が立っていた。

 

「遅ぇ。」

 

「ごめん、ごめん!」

 

「まだ約束の時間前だよ?」

 

「なら走れ。」

 

「もう!」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

 

そして並んで歩き始める。

 

向かう先は、一つ。

 

雄英高校。

 

幼い日に交わした約束。

 

小学生の頃から積み重ねた努力。

 

中学生になって学んだ知識。

 

人を助けた経験。

 

そのすべてを胸に。

 

二人は、試験会場へ向かって歩いていく。

 

夢は、もう憧れではない。

 

ここからは、自分たちの力でつかみ取る未来。

 

春風が二人の背中を優しく押していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

なんかしらんけど原作壊れてたので、ヴィランデクにして王にします。(作者:ジールライ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

TS転生してヴィラン『ジョーカー』が、見守っていたら何故か原作が壊れたので、デクを拾って『ヴィランデク』を作ろうと思います。▼ジョーカーの立ち絵が完成しました▼【挿絵表示】▼R18▼https://syosetu.org/?mode=write_novel_submit_view&nid=425831


総合評価:1658/評価:7.95/連載:5話/更新日時:2026年09月08日(火) 08:26 小説情報

僕の超電磁ヒーローアカデミア【完結済】(作者:アールエー)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼無個性の烙印を押されて、人生に絶望する緑谷出久君。▼その前に、人生の転機となる空手家が現れた!▼空手家は出久君に大器の片鱗有りと感じ、徹底的に超甲殻空手、そして超電磁空手を叩き込むのだった。▼ほとんど生きたまま魔改造された出久君は、ヒーローとしての道を歩む!!▼え?生身で超電磁空手使えるのかって?それはほら、あれだ、何かの個性じゃね?▼あの世界ってか、ジャ…


総合評価:558/評価:8.91/完結:48話/更新日時:2026年09月08日(火) 12:00 小説情報

性癖と原作を崩壊させる俺のヒーローアカデミア(作者:エンディングハンター)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼死柄木弔は、最終決戦の後遂にオール・フォー・ワンを緑谷出久の手によって自身の精神から追い出した。▼オール・フォー・ワンが持っていた個性がなくなっていき、自分の体が崩壊していく。▼そしてその結末を見届けながら……死んだ“はずだった”。▼自分が目覚めると、真っ暗闇の世界にいた。▼そしてその空間で過ごす内に、自分の本当の気持ちを吐露する。▼本当は自分も、学校に行…


総合評価:836/評価:8.21/連載:9話/更新日時:2026年08月18日(火) 12:00 小説情報

緑谷出久は秩序の守護者と共にヒーローを目指す。(作者:KMヒロ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ポケモン世界の秩序ポケモン、ジガルデが自身のメガシンカに至るために使い手を探す為にヒロアカの世界へ行き緑谷の個性として共にヒーローへ目指す物語▼


総合評価:289/評価:7.55/連載:9話/更新日時:2026年08月24日(月) 17:06 小説情報

私、ヴィランを目指します!(作者:Sano / セイノ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

人生二週目の女の子。彼女の瞳に映るのは、ヒーローたちが華々しく活躍し、悪逆非道なヴィランたちが跋扈するヒロアカの世界。これは、彼女が最強で最凶で最恐のヴィランになるまでの物語。▼※pixivでも閲覧できます(https://www.pixiv.net/users/1542351)


総合評価:935/評価:7.28/連載:74話/更新日時:2026年09月03日(木) 19:37 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>