無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第四章 個性把握テスト

 

春の風がグラウンドを吹き抜ける。

 

新しい体操服へ着替えた一年A組の生徒たちは、それぞれ緊張した面持ちで整列していた。

 

前に立つのは、担任・相澤消太。

 

「これから個性把握テストを始める。」

 

淡々とした声が響く。

 

「入学時の体力テスト八種目を、個性を使って測定する。」

 

「ヒーローに必要なのは、自分を正しく知ることだ。」

 

生徒たちは静かに聞き入る。

 

相澤は名簿へ目を落とした。

 

「まずはボール投げ。」

 

「一人ずつ前へ。」

 

---

 

最初の数人が個性を使い、それぞれの記録を出していく。

 

歓声が上がるたび、グラウンドは少しずつ熱を帯びていった。

 

やがて。

 

「緑谷。」

 

相澤が名を呼ぶ。

 

「はい。」

 

出久が一歩前へ出る。

 

相澤は名簿を見ながら確認した。

 

「個性は。」

 

出久は真っすぐ答えた。

 

「ありません。」

 

一瞬。

 

空気が止まった。

 

「……え?」

 

「あれ?」

 

「無個性?」

 

周囲がざわめく。

 

芦戸も思わず目を丸くした。

 

「えっ、本当に?」

 

耳郎も驚きを隠せない。

 

「雄英に無個性で?」

 

その時だった。

 

「だから何だ。」

 

短く響いた声。

 

勝己だった。

 

周囲が一斉に振り向く。

 

勝己は表情一つ変えない。

 

「ここにいるってことは。」

 

「受かったってことだ。」

 

それだけ言って視線を前へ戻した。

 

出久も少し照れくさそうに笑う。

 

「三年間。」

 

「自分にできることを、一つずつ積み重ねてきたんだ。」

 

「だから今日も、できることをやるだけ。」

 

その言葉に、ざわめきは少しずつ静まっていった。

 

相澤は何も言わない。

 

ただ静かにボールを差し出す。

 

「始めろ。」

 

「はい!」

 

---

 

出久はボールを握る。

 

大きく息を吸う。

 

助走。

 

踏み込み。

 

身体全体を使って腕を振り抜く。

 

ボールは高く弧を描き、グラウンドの向こうへ飛んでいった。

 

ピッ。

 

表示された記録に、数人が目を見開く。

 

「普通に飛んでる……。」

 

「無個性なのに?」

 

「いや。」

 

耳郎が首を振る。

 

「無個性とか関係なく、普通にすごくない?」

 

出久は小さく息を吐いた。

 

「よかった。」

 

勝己はそれを見て、小さく鼻を鳴らす。

 

---

 

テストは続く。

 

五十メートル走。

 

反復横跳び。

 

握力。

 

立ち幅跳び。

 

長座体前屈。

 

持久走。

 

一種目終わるたびに、周囲の反応は少しずつ変わっていった。

 

「また上位だ。」

 

「運動神経いいな。」

 

「ずっと鍛えてきたのかな。」

 

麗日は笑顔でつぶやく。

 

「いっぱい努力してきたんやね。」

 

切島は思わず拳を握る。

 

「すげぇ!」

 

「そういうの、かっけぇ!」

 

出久は照れくさそうに笑うだけだった。

 

特別なことをしたつもりはない。

 

今日の結果は、昨日まで積み重ねてきた毎日の延長だった。

 

---

 

すべての測定が終わる。

 

相澤は結果表へ目を通した。

 

「順位を発表する。」

 

生徒たちが息をのむ。

 

一人ずつ順位が読み上げられていく。

 

やがて。

 

「緑谷。」

 

相澤は結果表から視線を上げる。

 

順位を告げる。

 

一瞬。

 

数秒の沈黙が流れた。

 

「えっ?」

 

「本当に?」

 

「無個性で?」

 

「上位じゃん!」

 

驚きの声が広がる。

 

しかし今度は、否定する者はいなかった。

 

今日一日、その実力を全員が見ていたからだ。

 

相澤は騒ぎが落ち着くのを待ってから、静かに結果表を閉じた。

 

「悪くない。」

 

出久はほっと胸をなで下ろした。

 

だが、次の瞬間。

 

「満足するな。」

 

相澤の視線が真っすぐ向けられる。

 

「お前には、まだ伸びる余地がある。」

 

出久は姿勢を正した。

 

「はい!」

 

その返事に、相澤は小さくうなずく。

 

「それでいい。」

 

---

 

教室へ戻る帰り道。

 

生徒たちは思い思いに今日の結果を話している。

 

勝己と出久も並んで歩いていた。

 

しばらく沈黙が続く。

 

やがて。

 

勝己が前を向いたまま口を開いた。

 

「悪くねぇ。」

 

短い一言。

 

それだけだった。

 

出久は思わず笑みをこぼす。

 

「えへへ。」

 

「ありがとう。」

 

春風が二人の間を吹き抜ける。

 

無個性という言葉は、もう誰も口にしなかった。

 

それだけで、十分だった。

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