春の陽射しが、雄英高校の演習棟を明るく照らしていた。
個性把握テストを終えてから数日。
1年A組の教室には、少しずつ打ち解け始めた空気が流れていた。
そんな中――
ガラリ。
勢いよく教室の扉が開く。
「私が来た!!」
聞き慣れた力強い声。
教室中が一斉に振り向く。
「おぉぉぉ!!」
「オールマイトだ!」
「本物だ!」
「今日の授業、オールマイトなんだ!」
歓声に包まれる教室。
オールマイトは豪快に笑いながら教壇へ立つ。
「今日は――」
大きく親指を立てた。
「屋内戦闘訓練だ!!」
「おぉーーー!!」
一段と大きな歓声が響く。
オールマイトは教室を見渡し、満足そうに頷いた。
「そして!」
「今日は諸君が自ら考え、サポート会社へ製作を依頼したヒーローコスチュームを着用してもらう!」
その一言で教室の空気がさらに熱を帯びた。
「やっと届いた!」
「楽しみにしてた!」
「早く着たい!」
オールマイトは笑顔のまま手を広げる。
「では、更衣室へ!」
「着替えた者から演習場へ集合!」
「PLUS ULTRA!!」
数十分後。
演習場。
ヒーローコスチュームへ身を包んだ一年A組が、次々と姿を現す。
「おぉ!」
「かっこいい!」
「すげぇ!」
自然と歓声が上がる。
「飯田くん、それ機械みたい!」
芦戸が目を輝かせる。
飯田は少し照れながら眼鏡を押し上げた。
「ありがとうございます!
機動力を活かせるよう設計しました!」
「切島、それめっちゃ男らしい!」
上鳴が笑う。
切島も豪快に笑い返した。
「漢ならこれだろ!」
「麗日さん、かわいい!」
葉隠が飛び跳ねる。
「えへへ。」
麗日は照れ笑いを浮かべた。
それぞれが、自分だけのヒーロー像を形にしている。
制服姿とはまるで違う。
その姿に、自然と胸が高鳴った。
「爆豪!」
切島が手を振る。
「やっぱ迫力あるな!」
黒を基調とした戦闘服。
巨大な手榴弾型ガントレット。
鋭いマスク。
オレンジ色のアクセント。
誰が見ても一目で分かる。
攻撃に特化したヒーロー。
まさに爆豪勝己そのものだった。
勝己は鼻を鳴らす。
「当然だ。」
「ははっ!」
切島が笑う。
「その自信、お前らしいぜ!」
周囲も思わず笑う。
"爆豪らしい"
そんな納得が自然と広がっていった。
その時だった。
更衣室の扉が静かに開く。
自然と周囲の視線が集まる。
一歩。
また一歩。
ゆっくりと姿を現した一人の少女。
「……。」
誰も言葉を発さない。
そして。
「……わぁ。」
芦戸が思わず声を漏らした。
緑谷出久だった。
深い緑色を基調とした戦闘服。
その上には白いタクティカルベスト。
腰には赤いベルトと左右のホルスター。
右太腿にはレスキューポーチ。
胸元や腰回りには用途ごとに整理されたポーチが並ぶ。
動きやすさを重視したブーツ。
派手さはない。
それでも目を奪われる。
まるで災害現場へ真っ先に駆け付けるレスキュー隊員のような、安心感を与えるコスチュームだった。
「緑谷ちゃん!」
芦戸が笑顔で駆け寄る。
「めっちゃかっこいい!」
耳郎もゆっくり近付いた。
「でも……。」
「ヒーローっていうより。」
少し考えてから笑う。
「レスキュー隊みたい。」
出久は少し照れくさそうに笑った。
「うん。」
「実は、それを少し意識したんだ。」
興味津々といった様子でクラスメイトが集まってくる。
「そのポーチって?」
芦戸が指差す。
「これは応急処置セット。」
「じゃあこれは?」
「捕縛ロープ。」
「こっちは?」
「手錠。」
「そのホルスターは?」
「伸縮警棒。」
「今は護身用だけどね。」
「へぇ……。」
耳郎が感心したように頷く。
「全部ちゃんと意味があるんだ。」
芦戸もベストを見つめながら笑う。
「全部、助けるためなんだね。」
出久は嬉しそうに頷いた。
「うん。」
「戦うことだけを考えるなら、もっと違う形もあったと思う。」
少しだけ空を見上げる。
そして優しく微笑んだ。
「でも。」
「誰かを助けるなら、この形が一番だと思ったから。」
静かな空気が流れる。
その言葉を聞いた誰もが、自然とそのコスチュームへもう一度目を向けた。
「……やっぱり緑谷ちゃんらしい。」
芦戸が笑う。
「うん。」
耳郎も頷く。
「見てるだけで安心する。」
麗日も優しく微笑んだ。
「すごく素敵や。」
その時だった。
オールマイトが静かに口を開く。
「なるほど。」
出久が顔を上げる。
オールマイトは優しく微笑んだ。
「君らしいコスチュームだ。」
その一言に、出久は少しだけ目を丸くした。
そして、嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!」
少し離れた場所。
勝己は腕を組んだまま、その様子を見ていた。
出久と視線が合う。
「……どうかな?」
少しだけ不安そうな笑顔。
勝己は一度だけ頷いた。
「似合ってる。」
短い一言。
それだけだった。
それだけで十分だった。
出久の表情がぱっと明るくなる。
「ありがとう。」
春風が二人の間を優しく吹き抜ける。
それぞれが思い描いたヒーロー。
その第一歩が、今ここから始まろうとしていた。
---
オールマイトはゆっくりと一年A組を見渡した。
それぞれ異なる理想を形にしたコスチューム。
その姿に満足そうに頷く。
「よし!」
力強い声が演習場へ響く。
「では、これより屋内戦闘訓練を開始する!」
生徒たちの表情が一斉に引き締まる。
演習場中央の大型モニターへ建物の見取り図が映し出された。
「今回の訓練は、市街地でのヴィラン事件を想定した実戦形式だ!」
「ヒーロー側は建物内に設置された模擬爆弾を確保、またはヴィランを無力化すれば勝利!」
「ヴィラン側は制限時間十五分、爆弾を守り切れば勝利となる!」
「もちろん、安全には十分配慮している!」
「だが、実戦を意識して全力で挑んでほしい!」
生徒たちは真剣な眼差しでモニターを見つめる。
オールマイトはポケットからカードを取り出した。
「では、チーム分けを発表する!」
一枚目。
二枚目。
カードがめくられるたび、教室から歓声や驚きの声が上がる。
そして。
「次!」
オールマイトが一枚のカードを掲げた。
「ヒーローチーム!」
「爆豪少年!」
「緑谷少女!」
勝己は腕を組んだまま小さく頷く。
出久も静かに返事をした。
「はい!」
続いて、オールマイトはもう一枚のカードを掲げる。
「ヴィランチーム!」
「飯田少年!」
「八百万少女!」
「よろしくお願いします。」
飯田が丁寧に一礼する。
「よろしくお願いいたします。」
八百万も穏やかに微笑んだ。
勝己は二人を見据え、小さく口角を上げる。
出久も静かに視線を向けた。
オールマイトは満足そうに笑う。
「各チームには準備時間を設ける!」
「十分後、訓練開始!」
「それぞれ控室へ移動!」
生徒たちはそれぞれの持ち場へ向かって歩き始める。
すれ違いざま。
飯田は勝己へ視線を向ける。
「爆豪君。」
「正々堂々、よろしく頼む。」
勝己は歩みを止めることなく答えた。
「手加減はしねぇ。」
短い一言。
しかし、その声には確かな闘志が宿っていた。
飯田は真っ直ぐ頷く。
「望むところだ。」
その横で、八百万と出久も小さく会釈を交わす。
「よろしくお願いします、緑谷さん。」
「うん。」
出久は柔らかく笑った。
「よろしくね。」
四人は、それぞれ反対方向へ歩き出す。
その背中を見送りながら、オールマイトは静かに微笑む。
「さて。」
「どんなヒーロー像を見せてくれるかな。」
演習場の空気が、静かに張り詰めていく。
戦いの幕が、今まさに上がろうとしていた。