無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第二章 救助訓練

 

翌日。

 

雄英高校、ヒーロー科1年A組。

 

「今日は救助訓練を行う」

 

相澤の言葉に、教室の空気が少し変わった。

 

「救助訓練かぁ」

 

芦戸が机に頬杖をつく。

 

「戦闘訓練とは、また違う感じだね」

 

「当然だろう!」

 

すぐに飯田が反応した。

 

「ヒーローの活動は、ヴィランとの戦闘だけではない! 災害現場での救助も重要な任務だ!」

 

「朝から元気だなぁ、飯田」

 

瀬呂が苦笑する。

 

「当然だ!」

 

「まだ訓練も始まってないけどね」

 

耳郎が小さく笑った。

 

そんなやり取りを聞きながら、出久は窓の外を眺めていた。

 

救助訓練。

 

昨日、相澤からそう聞いた時から楽しみにしていた。

 

人を助ける。

 

それは、出久がヒーローを目指す理由の一つだった。

 

「USJって、どんなところなんだろうね」

 

出久が隣の勝己へ話しかける。

 

「災害救助訓練施設だろ」

 

「うん。火災とか、水難とか。いろんな状況を想定してるんだって」

 

「だったら、場所ごとにやることも違うだろ」

 

「そうだね」

 

出久は頷いた。

 

「楽しみだなぁ」

 

「出久、そういうの好きだよな」

 

「うん!」

 

迷いのない返事だった。

 

その声を聞いていた瀬呂が、ふと出久を見る。

 

「緑谷って、救助なら何が得意そう?」

 

「私?」

 

出久は少し考えた。

 

「……何でもできるようになりたいかな」

 

「何でも?」

 

「うん」

 

出久は自分の手を見る。

 

「私は個性がないから、これが得意っていうのはないんだけど」

 

そこで言葉を切る。

 

「だから、応急手当とか。避難誘導とか。道具の使い方とか。できることは全部覚えたい」

 

「なるほどな」

 

耳郎が頷く。

 

「救助って、個性だけでやるもんじゃないしね」

 

「うん」

 

出久が笑う。

 

「個性がなくても、人を助けられることはあるから」

 

その言葉に、周囲から驚くような反応はなかった。

 

入学してから。

 

まだそれほど日は経っていない。

 

それでも、出久が無個性であることを、クラスのみんなは少しずつ受け入れていた。

 

「じゃあ、爆豪は?」

 

上鳴が勝己へ話を振る。

 

「俺?」

 

「爆破って、救助にも使えそうじゃん」

 

「使い方次第だな」

 

勝己は窓の外を見ながら答えた。

 

「瓦礫をどかしたり、道を作ったりはできる」

 

「おお」

 

「ただ、下に人が埋まってんなら、好きに吹っ飛ばせねぇだろ」

 

「そりゃそうか」

 

「二次崩落もあるしね」

 

出久が続ける。

 

「だから、壊す場所は選ぶ」

 

勝己が頷いた。

 

「爆豪、ちゃんと考えてんだな」

 

瀬呂が感心したように言う。

 

「何だその言い方」

 

「いや、もっとこう……」

 

「どういう意味だ」

 

「何でもないです」

 

バスの中に笑いが起こった。

 

出久も笑う。

 

勝己も、少しだけ口元を緩めた。

 

そんな時間を過ごしながら。

 

バスは、目的地へ向かって進んでいった。

 

やがて。

 

「見えてきたぞ!」

 

飯田の声に、生徒たちが窓の外を見る。

 

巨大な施設。

 

その姿に、出久も思わず身を乗り出した。

 

「すごい……」

 

「これがUSJか」

 

「広っ!」

 

芦戸が声を上げる。

 

「本当にいろんな災害を再現できそうだね」

 

出久の目が輝く。

 

「うん」

 

その時。

 

施設の中から、一人のヒーローが歩いてきた。

 

「皆さん、ようこそUSJへ」

 

スペースヒーロー・13号。

 

生徒たちがざわめく。

 

「13号だ!」

 

「テレビで見たことある!」

 

13号は穏やかな声で、生徒たちを迎えた。

 

「今日は皆さんに、救助について学んでもらいます」 

 

生徒たちが静かになる。

 

「災害現場では、皆さんの個性が大きな力になるでしょう」

 

13号はゆっくりと話す。

 

「火災を消す。瓦礫を取り除く。人を運ぶ。水の中から救い出す」

 

それぞれの生徒を見渡す。

 

「皆さんの個性には、それぞれ違った可能性があります」

 

出久は黙って聞いていた。

 

「ですが――」

 

13号の声が少しだけ低くなる。

 

「個性は、人を救うためだけの力ではありません」

 

空気が静まった。

 

「使い方を間違えれば、人を傷つけることもできる」

 

勝己の視線が、わずかに動く。

 

「強い力ほど、扱う人間には責任が伴います」

 

13号は続ける。

 

「だからこそ、自分の個性で何ができるのか」

 

「何をしてはいけないのか」

 

「そして、その力をどう使えば人を救えるのか」

 

一人ひとりに語りかけるような言葉だった。

 

出久は、静かにその言葉を受け止める。

 

個性がある。

 

個性がない。

 

それだけではない。

 

持っているものを、どう使うのか。

 

それを学ぶ場所なのだ。

 

出久は周囲を見る。

 

自分とは違う力を持つ仲間たち。

 

そして、その中にいる勝己。

 

強力な爆破の個性を持つ彼も。

 

その力を、どう使うのかを考えている。

 

「では、これから――」

 

13号が説明を続けようとした。

 

その時だった。

 

「……あれ?」

 

誰かが呟いた。

 

USJの中央。

 

何もなかったはずの場所に。

 

黒い霧が現れていた。

 

「何だ、あれ?」

 

「煙?」

 

黒い霧が、ゆっくりと広がっていく。

 

一人。

 

また一人。

 

霧の中に、人影が浮かび始めた。

 

「これも訓練なのか?」

 

誰かが口にする。

 

しかし。

 

出久は違和感を覚えた。

 

多すぎる。

 

訓練にしては、人数が多すぎる。

 

そして。

 

出久は相澤を見る。

 

いつもの気だるそうな表情が消えていた。

 

「……」

 

相澤が一歩前へ出る。

 

「動くな」

 

低い声。

 

空気が変わった。

 

「全員、一かたまりになれ」

 

生徒たちが戸惑いながら集まる。

 

「相澤先生……?」

 

「13号」

 

相澤が前を向いたまま告げる。

 

「生徒を守れ」

 

「分かりました」

 

13号が生徒たちの前へ出る。

 

その直後。

 

黒い霧が大きく膨らんだ。

 

――ドッ。

 

霧の中から。

 

次々と人影が現れる。

 

一人。

 

二人。

 

十人。

 

それどころではない。

 

あっという間に、USJの中央が人で埋め尽くされていく。

 

「……!」

 

出久が息を呑む。

 

「ヴィラン……?」

 

誰かが震えた声を漏らした。

 

その中から。

 

身体中に手を貼り付けた男が歩いてくる。

 

その隣には。

 

黒い霧そのもののような姿をした男。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか」

 

黒い霧が静かに口を開く。

 

「先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが……」

 

出久の表情が変わる。

 

オールマイト。

 

その名前が出た。

 

ヴィランたちは、雄英の情報を知っている。

 

つまり。

 

これは偶然ではない。

 

身体中に手を貼り付けた男が呟く。

 

「せっかく大衆を引き連れてきたのにさ……」

 

その視線が、USJを見渡す。

 

「オールマイト……平和の象徴……」

 

そして。

 

「いないなんて……」

 

「子どもを殺せば来るのかな?」

 

出久の背筋を、冷たいものが走った。

 

これは訓練じゃない。

 

本物のヴィランだ。

 

相澤がゴーグルを下ろす。

 

「13号」

 

「はい」

 

「ここは任せる」

 

相澤が一歩前へ出た。

 

その姿を見て。

 

出久は息を呑む。

 

勝己も拳を握る。

 

「相澤先生!」

 

誰かが叫んだ。

 

だが。

 

すでに遅かった。

 

黒い霧が、一気に広がる。

 

「出久!」

 

勝己の声が響いた。

 

「かっちゃん!」

 

出久も手を伸ばす。

 

「大丈夫だ!」

 

勝己が叫ぶ。

 

「かっちゃん!」

 

あと少し。

 

届きそうだった。

 

けれど。

 

二人の間へ、黒い霧が入り込む。

 

「出久!」

 

「かっちゃん!」

 

伸ばした手は――。

 

届かない。

 

黒い霧が、二人の姿を包み込む。

 

「かっちゃん――!」

 

その声だけを残して。

 

二人の姿は――消えた。

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