無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第三章 伝えるということ

 

黒い霧に包まれた瞬間。

 

勝己の視界が、一気に暗くなった。

 

「出久!」

 

伸ばした手。

 

その先にいたはずの幼馴染。

 

けれど。

 

次に視界が開けた時には――。

 

「……チッ」

 

そこに出久はいなかった。

 

代わりに。

 

「爆豪!」

 

振り向く。

 

そこにいたのは、切島だった。

 

「無事か!」

 

「問題ねぇ」

 

勝己は周囲を見渡す。

 

瓦礫。

 

崩れた建物。

 

そして。

 

こちらを取り囲む複数のヴィラン。

 

「……数が多いな」

 

「だな!」

 

切島が拳を構える。

 

「どうする?」

 

勝己も構えを取った。

 

出久以外と組む。

 

それが難しいことは、分かっていた。

 

戦闘訓練の時。

 

相澤からも言われている。

 

――これからは、誰とでも連携できるようになれ。

 

自分でも、その必要性は理解していた。

 

ただ――。

 

「……まさか、ここでとはな」

 

小さく呟く。

 

「何か言ったか?」

 

「何でもねぇ」

 

勝己が前を見る。

 

ヴィランが迫ってくる。

 

「行くぞ」

 

「おう!」

 

切島が飛び出す。

 

勝己も続く。

 

――ドンッ!

 

爆発。

 

正面のヴィランが吹き飛ぶ。

 

その横から別の一人が迫る。

 

勝己が身をひねり、拳を避ける。

 

「切島!」

 

「分かってる!」

 

切島が硬化した腕で攻撃を受け止める。

 

「こいつは俺が止める!」

 

「なら――」

 

勝己が別のヴィランへ向かう。

 

――ドンッ!

 

一人。

 

二人。

 

次々と敵を吹き飛ばしていく。

 

強い。

 

それは間違いない。

 

勝己も。

 

切島も。

 

一対一なら、それぞれ十分に戦える。

 

だが。

 

「爆豪!」

 

切島が叫ぶ。

 

「次、どっちだ!」

 

「右!」

 

切島が動く。

 

「右って、どっちだよ!」

 

「……!」

 

勝己の足が止まる。

 

ほんの一瞬。

 

その隙にヴィランが切島へ襲いかかる。

 

「チッ!」

 

勝己が爆発で吹き飛ばした。

 

「助かった!」

 

「……別に」

 

切島が苦笑する。

 

「悪い。爆豪が何考えてるか、まだ分かんねぇ!」

 

「……」

 

勝己は黙る。

 

切島が悪いわけじゃない。

 

当然だ。

 

今まで一緒に戦ったことなど、ほとんどない。

 

分かるわけがない。

 

分かるわけがないのに。

 

「……クソ」

 

勝己は拳を握った。

 

出久なら。

 

「右」

 

それだけでいい。

 

それだけで。

 

出久は動く。

 

自分が何を考えているのか。

 

何を狙っているのか。

 

次に何をするのか。

 

全部。

 

「……」

 

勝己は歯を食いしばる。

 

自分は。

 

こんなにも伝えるのが下手だったのか。

 

その事実が。

 

妙に腹立たしかった。

 

「爆豪」

 

切島が声をかける。

 

「次はどうする?」

 

勝己はヴィランの位置を見る。

 

一度。

 

息を吐く。

 

「……俺が正面をやる」

 

「おう!」

 

「お前は右の奴を止めろ」

 

「分かった!」

 

勝己が踏み込む。

 

――ドンッ!

 

正面の二人をまとめて吹き飛ばす。

 

その隙に。

 

切島が右へ回る。

 

「こいつか!」

 

「そいつだ!」

 

「任せろ!」

 

切島が拳を叩き込む。

 

「一人やった!」

 

「その奥!」

 

勝己が叫ぶ。

 

「もう一人いる!」

 

「見えた!」

 

切島が振り向く。

 

そのまま突っ込む。

 

勝己も走る。

 

「俺が止める!」

 

切島が攻撃を受け止める。

 

「今だ!」

 

――ドンッ!

 

勝己の爆発が直撃する。

 

ヴィランが吹き飛んだ。

 

「よし!」

 

切島が笑う。

 

「今の、いい連携だったな!」

 

「……ああ」

 

さっきより。

 

明らかに動きやすい。

 

「……なるほどな」

 

勝己が呟く。

 

言葉にすればいい。

 

当たり前のことだった。

 

自分が何をするのか。

 

相手に何をしてほしいのか。

 

それを伝える。

 

それだけだ。

 

「爆豪!」

 

切島の声。

 

またヴィランが迫ってくる。

 

「三人だ!」

 

勝己は即座に判断する。

 

「俺が右をやる!」

 

「おう!」

 

「お前は真ん中を止めろ!」

 

「任せろ!」

 

勝己が飛ぶ。

 

切島が走る。

 

――ドンッ!

 

――ガキンッ!

 

爆発と硬化した拳が、ほぼ同時に敵を捉える。

 

「真ん中やった!」

 

「まだだ!」

 

勝己が着地する。

 

「左が残ってる!」

 

「分かった!」

 

切島が向きを変える。

 

今度は迷わない。

 

勝己も。

 

「俺が前を開ける!」

 

「その隙に回れ!」

 

「了解!」

 

二人が動く。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

戦うほどに。

 

声を掛ける回数が増えていく。

 

そして。

 

それに合わせるように。

 

二人の動きも少しずつ噛み合っていった。

 

「逃げるぞ!」

 

ヴィランの一人が叫ぶ。 

 

「逃がすか!」

 

切島が追おうとする。

 

「追うな!」

 

勝己が止める。

 

「先にこっちだ!」

 

「わかった!」

 

切島が戻る。

 

勝己が前へ出る。

 

――ドンッ!

 

最後の一人が吹き飛んだ。

 

静かになった。

 

切島が周囲を見渡す。

 

「……終わったか?」

 

「ああ」

 

勝己も息を整える。

 

倒れたヴィランたち。

 

二人とも無傷ではない。

 

だが。

 

まだ動ける。

 

「なあ、爆豪」

 

「何だ」

 

「最初より、やりやすくなったな!」

 

「……そうだな」

 

切島が笑う。

 

「俺も、爆豪が何するか分かるようになってきた!」

 

「……」

 

勝己は少しだけ黙った。

 

「俺もだ」

 

「え?」

 

「お前に、どう伝えりゃいいか――分かってきた」

 

「なるほどな!」

 

切島が大きく頷く。

 

「じゃあ、次はもっと上手くやれそうだ!」

 

「ああ」

 

勝己は拳を握る。

 

まだ足りない。

 

出久となら。

 

もっと速い。

 

もっと自然だ。

 

それは変わらない。

 

だが。

 

だからといって。

 

他の奴と組めない理由にはならない。

 

「……行くぞ」

 

「どこへ?」

 

「相澤先生のところだ」

 

勝己が歩き出す。

 

「まだ終わってねぇ」

 

「ああ!」

 

切島も続く。

 

その先から。

 

大きな音が響いている。

 

爆発。

 

何かが崩れる音。

 

そして。

 

遠くから聞こえる声。

 

勝己は足を止めない。

 

ただ。

 

拳を握り直した。

 

もっと強く。

 

もっと速く。

 

そして。

 

誰とでも戦えるように。

 

「……出久」

 

小さく呟く。

 

今。

 

あいつもどこかで戦っている。

 

なら。

 

自分も負けていられない。

 

「行くぞ、切島」

 

「おう!」

 

二人は走る。

 

相澤先生のいる場所へ。

 

その先に待つものを。

 

まだ知らないまま。

 

USJの奥へと進んでいった。

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