黒い霧に包まれた瞬間。
勝己の視界が、一気に暗くなった。
「出久!」
伸ばした手。
その先にいたはずの幼馴染。
けれど。
次に視界が開けた時には――。
「……チッ」
そこに出久はいなかった。
代わりに。
「爆豪!」
振り向く。
そこにいたのは、切島だった。
「無事か!」
「問題ねぇ」
勝己は周囲を見渡す。
瓦礫。
崩れた建物。
そして。
こちらを取り囲む複数のヴィラン。
「……数が多いな」
「だな!」
切島が拳を構える。
「どうする?」
勝己も構えを取った。
出久以外と組む。
それが難しいことは、分かっていた。
戦闘訓練の時。
相澤からも言われている。
――これからは、誰とでも連携できるようになれ。
自分でも、その必要性は理解していた。
ただ――。
「……まさか、ここでとはな」
小さく呟く。
「何か言ったか?」
「何でもねぇ」
勝己が前を見る。
ヴィランが迫ってくる。
「行くぞ」
「おう!」
切島が飛び出す。
勝己も続く。
――ドンッ!
爆発。
正面のヴィランが吹き飛ぶ。
その横から別の一人が迫る。
勝己が身をひねり、拳を避ける。
「切島!」
「分かってる!」
切島が硬化した腕で攻撃を受け止める。
「こいつは俺が止める!」
「なら――」
勝己が別のヴィランへ向かう。
――ドンッ!
一人。
二人。
次々と敵を吹き飛ばしていく。
強い。
それは間違いない。
勝己も。
切島も。
一対一なら、それぞれ十分に戦える。
だが。
「爆豪!」
切島が叫ぶ。
「次、どっちだ!」
「右!」
切島が動く。
「右って、どっちだよ!」
「……!」
勝己の足が止まる。
ほんの一瞬。
その隙にヴィランが切島へ襲いかかる。
「チッ!」
勝己が爆発で吹き飛ばした。
「助かった!」
「……別に」
切島が苦笑する。
「悪い。爆豪が何考えてるか、まだ分かんねぇ!」
「……」
勝己は黙る。
切島が悪いわけじゃない。
当然だ。
今まで一緒に戦ったことなど、ほとんどない。
分かるわけがない。
分かるわけがないのに。
「……クソ」
勝己は拳を握った。
出久なら。
「右」
それだけでいい。
それだけで。
出久は動く。
自分が何を考えているのか。
何を狙っているのか。
次に何をするのか。
全部。
「……」
勝己は歯を食いしばる。
自分は。
こんなにも伝えるのが下手だったのか。
その事実が。
妙に腹立たしかった。
「爆豪」
切島が声をかける。
「次はどうする?」
勝己はヴィランの位置を見る。
一度。
息を吐く。
「……俺が正面をやる」
「おう!」
「お前は右の奴を止めろ」
「分かった!」
勝己が踏み込む。
――ドンッ!
正面の二人をまとめて吹き飛ばす。
その隙に。
切島が右へ回る。
「こいつか!」
「そいつだ!」
「任せろ!」
切島が拳を叩き込む。
「一人やった!」
「その奥!」
勝己が叫ぶ。
「もう一人いる!」
「見えた!」
切島が振り向く。
そのまま突っ込む。
勝己も走る。
「俺が止める!」
切島が攻撃を受け止める。
「今だ!」
――ドンッ!
勝己の爆発が直撃する。
ヴィランが吹き飛んだ。
「よし!」
切島が笑う。
「今の、いい連携だったな!」
「……ああ」
さっきより。
明らかに動きやすい。
「……なるほどな」
勝己が呟く。
言葉にすればいい。
当たり前のことだった。
自分が何をするのか。
相手に何をしてほしいのか。
それを伝える。
それだけだ。
「爆豪!」
切島の声。
またヴィランが迫ってくる。
「三人だ!」
勝己は即座に判断する。
「俺が右をやる!」
「おう!」
「お前は真ん中を止めろ!」
「任せろ!」
勝己が飛ぶ。
切島が走る。
――ドンッ!
――ガキンッ!
爆発と硬化した拳が、ほぼ同時に敵を捉える。
「真ん中やった!」
「まだだ!」
勝己が着地する。
「左が残ってる!」
「分かった!」
切島が向きを変える。
今度は迷わない。
勝己も。
「俺が前を開ける!」
「その隙に回れ!」
「了解!」
二人が動く。
一度。
二度。
三度。
戦うほどに。
声を掛ける回数が増えていく。
そして。
それに合わせるように。
二人の動きも少しずつ噛み合っていった。
「逃げるぞ!」
ヴィランの一人が叫ぶ。
「逃がすか!」
切島が追おうとする。
「追うな!」
勝己が止める。
「先にこっちだ!」
「わかった!」
切島が戻る。
勝己が前へ出る。
――ドンッ!
最後の一人が吹き飛んだ。
静かになった。
切島が周囲を見渡す。
「……終わったか?」
「ああ」
勝己も息を整える。
倒れたヴィランたち。
二人とも無傷ではない。
だが。
まだ動ける。
「なあ、爆豪」
「何だ」
「最初より、やりやすくなったな!」
「……そうだな」
切島が笑う。
「俺も、爆豪が何するか分かるようになってきた!」
「……」
勝己は少しだけ黙った。
「俺もだ」
「え?」
「お前に、どう伝えりゃいいか――分かってきた」
「なるほどな!」
切島が大きく頷く。
「じゃあ、次はもっと上手くやれそうだ!」
「ああ」
勝己は拳を握る。
まだ足りない。
出久となら。
もっと速い。
もっと自然だ。
それは変わらない。
だが。
だからといって。
他の奴と組めない理由にはならない。
「……行くぞ」
「どこへ?」
「相澤先生のところだ」
勝己が歩き出す。
「まだ終わってねぇ」
「ああ!」
切島も続く。
その先から。
大きな音が響いている。
爆発。
何かが崩れる音。
そして。
遠くから聞こえる声。
勝己は足を止めない。
ただ。
拳を握り直した。
もっと強く。
もっと速く。
そして。
誰とでも戦えるように。
「……出久」
小さく呟く。
今。
あいつもどこかで戦っている。
なら。
自分も負けていられない。
「行くぞ、切島」
「おう!」
二人は走る。
相澤先生のいる場所へ。
その先に待つものを。
まだ知らないまま。
USJの奥へと進んでいった。