無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第四章 信じて任せる

 

黒い霧に包まれた瞬間。

 

出久の視界が、一気に暗くなった。

 

「かっちゃん!」

 

伸ばした手。

 

けれど。

 

その手は届かなかった。

 

次に視界が開けた時。

 

「……ここは?」

 

出久は周囲を見渡す。

 

瓦礫。

 

崩れた建物。

 

そして。

 

こちらへ向かってくる複数のヴィラン。

 

「緑谷ちゃん!」

 

声に振り向く。

 

そこにいたのは、蛙吹梅雨。

 

そして。

 

「麗日さん!」

 

「出久ちゃん!」

 

麗日お茶子もいた。

 

「二人とも、無事だったんだね!」

 

「うん!」

 

麗日が頷く。

 

「ケロ」

 

蛙吹も頷いた。

 

出久は二人の姿を確認する。

 

怪我はない。

 

なら。

 

次に考えるべきことは――。

 

「……ここから、どうするかだね」

 

出久は周囲を見渡した。

 

ヴィランは多い。

 

正面に三人。

 

右に二人。

 

さらに後方にも気配がある。

 

逃げ道は――。

 

「左は?」

 

麗日が尋ねる。

 

「……塞がってる」

 

出久は即座に答えた。

 

「でも、向こうに少し開けた場所がある」

 

「じゃあ、そこまで行けば――」

 

「待って」

 

出久が手を上げる。

 

「右の二人が動いた」

 

「え?」

 

「こっちに来る」

 

出久はヴィランの動きを見る。

 

そして。

 

二人を見る。

 

蛙吹。

 

麗日。

 

蛙吹は舌を使える。

 

機動力も高い。

 

麗日は、触れたものを無重力にできる。

 

自分には、救助用の装備がある。

 

捕縛用のロープ。

 

伸縮式の警棒。

 

簡単な応急処置道具。

 

戦うこともできる。

 

「……三人なら」

 

出久が呟く。

 

「やれる」

 

そう判断する。

 

ヴィランが迫ってくる。

 

出久は一歩前へ出た。

 

「蛙吹さん」

 

「ケロ」

 

「右のヴィランを――」

 

そこで。

 

言葉が止まった。

 

右。

 

その先には別のヴィランもいる。

 

蛙吹が動けば。

 

その隙に後ろから来るかもしれない。

 

もし。

 

自分の指示で。

 

怪我をしたら。

 

「出久ちゃん?」

 

麗日が出久を見る。

 

「……」

 

ヴィランが近づいてくる。

 

「緑谷ちゃん」

 

蛙吹が声をかける。

 

「どうする?」

 

出久は考える。

 

考えて。

 

考えて。

 

そして。

 

「……」

 

分かる。

 

何をすればいいのか。

 

どこに動けばいいのか。

 

どうすれば三人で戦えるのか。

 

全部。

 

頭の中にはある。

 

ただ。

 

自分が指示を出したことで。

 

二人が傷つくかもしれない。

 

その可能性が頭から離れない。

 

「……私が」

 

出久が小さく呟く。

 

「緑谷ちゃん」

 

蛙吹の声が、もう一度響く。

 

「緑谷ちゃんの指示に合わせるわ」

 

「え?」

 

「私は、緑谷ちゃんが見ているものを全部は見られない」

 

蛙吹は周囲を見る。

 

「だから、教えてほしい」

 

麗日も頷く。

 

「私も」

 

そして。

 

「出久ちゃんを信じるよ」

 

その言葉に。

 

出久は二人を見る。

 

信じる。

 

そう言ってくれた。

 

だったら。

 

自分も。

 

二人を信じなければならない。

 

「……分かった」

 

出久が立ち上がる。

 

一度だけ、深く息を吸う。

 

そして。

 

「蛙吹さん!」

 

「ケロ!」

 

「前の二人を止めて!」

 

「分かったわ!」

 

蛙吹が飛び出す。

 

舌が伸びる。

 

「捕まえた!」

 

二人の動きが止まる。

 

「麗日さん!」

 

「はい!」

 

「今!」

 

麗日が走る。

 

「二人に触れて!」

 

「分かった!」

 

麗日がヴィランに触れる。

 

「無重力化!」

 

二人の身体が浮き上がる。

 

「そのまま、あっちへ!」

 

「任せて!」

 

麗日がヴィランを運ぶ。

 

出久はロープを取り出す。

 

「麗日さん、そこで止めて!」

 

「うん!」

 

出久がロープを固定する。

 

「これで大丈夫」

 

宙に浮いたまま。

 

ロープでしっかり拘束されている。

 

「動けないわね」

 

蛙吹が確認する。

 

「うん!」

 

出久が頷く。

 

だが。

 

「まだ来る!」

 

出久が叫ぶ。

 

後方から、別のヴィランが迫っていた。

 

---

 

出久が指示を出す。

 

蛙吹が飛び出す。

 

麗日が触れる。

 

ヴィランの身体が浮く。

 

麗日が運ぶ。

 

出久がロープで拘束する。

 

一人。

 

二人。

 

三人。

 

確実にヴィランを無力化していく。

 

だが。

 

「出久ちゃん!」

 

麗日の声。

 

「上!」

 

出久が顔を上げる。

 

天井。

 

そこから別のヴィランが飛び降りてくる。

 

「――っ!」

 

出久が前へ出る。

 

警棒で攻撃を受け止める。

 

重い。

 

「緑谷さん!」

 

「大丈夫!」

 

踏ん張る。

 

押される。

 

けれど。

 

出久が身を引く。

 

ヴィランの体勢が崩れる。

 

「麗日さん!」

 

「うん!」

 

麗日が駆ける。

 

「触れた!」

 

ヴィランの身体が浮く。

 

「そのまま!」

 

出久がロープで拘束する。

 

「……これで」

 

「……終わった?」

 

麗日が周囲を見る。

 

「うん」

 

出久が答える。

 

蛙吹も確認する。

 

「もういないわ」

 

「……よかった」

 

出久が息を吐く。

 

「出久ちゃん」

 

麗日が笑う。

 

「すごかったね!」

 

「え?」

 

「すごく動きやすかった」

 

蛙吹も頷く。

 

「分かりやすかったわ」

 

「……本当?」

 

「うん!」

 

麗日が笑う。

 

「最初は少し迷ってたけど」

 

「……」

 

出久は苦笑する。

 

「やっぱり、分かっちゃった?」

 

「分かるよ」

 

「ケロ」

 

蛙吹も頷く。

 

「でも」

 

麗日が続ける。

 

「私たちに任せてくれたから、ちゃんと動けたんだと思う」

 

「……」

 

任せる。

 

出久は、その言葉を噛みしめる。

 

仲間がいるなら。

 

その仲間を信じる。

 

そして。

 

自分が見えているものを伝える。

 

それも。

 

ヒーローとして必要なことなのだ。

 

「……ありがとう」

 

出久が笑う。

 

「私も、もっと上手くできるようになるね」

 

「私たちも!」

 

麗日が答える。

 

「ケロ」

 

蛙吹も頷いた。

 

その時。

 

――ドンッ!!

 

遠くで大きな音が響いた。

 

三人が振り向く。

 

「今の……」

 

「向こうからね」

 

蛙吹が言う。

 

出久は耳を澄ます。

 

まだ戦っている。

 

誰かが。

 

「……行こう!」

 

出久が立ち上がる。

 

麗日が頷く。

 

「うん!」

 

蛙吹も続く。

 

「ケロ」

 

三人は走り出した。

 

USJの奥へ。

 

その先で。

 

何が待っているのか。

 

まだ知らない。

 

ただ。

 

出久は走りながら思っていた。

 

仲間を信じて。

 

仲間に任せる。

 

そして。

 

自分も。

 

仲間から任せてもらえる人間になる。

 

「……勝己」

 

小さく呟く。

 

きっと。

 

あの人も。

 

どこかで戦っている。

 

だったら。

 

自分も負けていられない。

 

三人の足音が。

 

USJの奥へと響いていった。

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