無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第五章 私が来た

 

USJの奥へ進む。

 

勝己と切島は、遠くから響く大きな音を聞いていた。

 

爆発。

 

何かが崩れる音。

 

そして。

 

「……あっちだな」

 

勝己が足を速める。

 

「おう!」

 

切島も続く。

 

角を曲がった、その先。

 

「……!」

 

勝己の足が止まった。

 

視線の先。

 

そこには。

 

倒れている相澤の姿があった。

 

「相澤先生!」

 

切島が叫ぶ。

 

勝己も拳を握る。

 

「先生!」

 

相澤は動かない。

 

その周囲には、何人ものヴィランがいる。

 

そして。

 

その前に立つ男。

 

身体中に手を貼り付けた、異様なヴィラン。

 

「……」

 

勝己の目が細くなる。

 

その隣には。

 

黒い霧のような姿をしたヴィランが立っている。

 

「……行くぞ!」

 

切島が走り出す。

 

勝己も続く。

 

だが。

 

「……チッ!」

 

思ったより遠い。

 

二人のいる場所と、相澤のいる場所。

 

その間には、大きな水路がある。

 

簡単には渡れない。

 

「クソッ!」

 

勝己が爆発を放つ。

 

身体を前へ飛ばす。

 

着地。

 

さらに爆発。

 

だが。

 

まだ届かない。

 

「爆豪!」

 

切島が叫ぶ。

 

「分かってる!」

 

勝己は走る。

 

もう一度。

 

爆発。

 

それでも。

 

間に合わない。

 

「先生……!」

 

切島が歯を食いしばる。

 

相澤が、ゆっくりと顔を上げた。

 

その姿を見て。

 

勝己は拳を握り締める。

 

「……立てよ」

 

小さく。

 

誰にも聞こえない声。

 

「相澤先生……!」

 

だが。

 

届かない。

 

あと少し。

 

ほんの少しなのに。

 

その距離が。

 

今は、あまりにも遠かった。

 

その頃。

 

別の場所。

 

出久たちも、同じ音を聞いていた。

 

「今の……!」

 

麗日が振り向く。

 

蛙吹も周囲を見る。

 

「大きな音ね」

 

「うん」

 

出久は耳を澄ます。

 

さっきから聞こえていた音。

 

けれど。

 

今の音は違う。

 

何かが。

 

大きく壊れた。

 

「……行こう!」

 

出久が走り出す。

 

「緑谷ちゃん!」

 

蛙吹と麗日も続く。

 

角を曲がる。

 

その先。

 

出久の目に飛び込んできたもの。

 

「……!」

 

倒れている相澤。

 

その周囲を取り囲むヴィラン。

 

そして。

 

立っている、手を貼り付けた男。

 

「相澤先生!」

 

出久が叫ぶ。

 

「先生!」

 

麗日も声を上げる。

 

出久は走る。

 

けれど。

 

「……!」

 

遠い。

 

こちら側と、相澤のいる場所。

 

間には大きな水場がある。

 

簡単には渡れない。

 

出久の足が止まる。

 

「そんな……」

 

出久は周囲を見る。

 

何かないか。

 

渡る方法は。

 

助けに行く方法は。

 

考える。

 

考える。

 

けれど。

 

「……間に合わない」

 

その言葉が、口から漏れた。

 

「出久ちゃん……」

 

麗日が出久を見る。

 

「どうしよう……」

 

出久は答えられなかった。

 

相澤先生が。

 

目の前で。

 

傷ついている。

 

助けたい。

 

助けなければ。

 

そう思うのに。

 

間に合わない。

 

「……先生」

 

その時。

 

手を貼り付けた男が、一歩。

 

相澤へ近づいた。

 

出久の背筋が凍る。

 

「やめて……」

 

届かない。

 

「先生から離れて!」

 

声を張る。

 

けれど。

 

距離がある。

 

届かない。

 

そして。

 

男が手を伸ばす。

 

「――っ!」

 

出久が走り出す。

 

「緑谷ちゃん!」

 

蛙吹の声。

 

麗日の声。

 

それでも。

 

走る。

 

間に合わない。

 

そう思った。

 

その瞬間。

 

――轟音。

 

空気が震えた。

 

次の瞬間。

 

目の前の空間を。

 

何かが一気に駆け抜ける。

 

ヴィランたちが吹き飛ぶ。

 

手を貼り付けた男の身体も、大きく弾かれる。

 

そして。

 

相澤の前に。

 

一人の男が立っていた。

 

「もう大丈夫」

 

「私が来た」

 

---

 

出久は足を止める。

 

見覚えのある背中。

 

何度も。

 

何度も見てきた。

 

誰もが知っている。

 

誰もが憧れる。

 

その背中。

 

「……オールマイト」

 

麗日が呟いた。

 

出久の目が大きく開く。

 

「オールマイト……」

 

本物。

 

本当に。

 

ここにいる。

 

その瞬間。

 

胸の奥に張り付いていた恐怖が。

 

すっと。

 

消えていった。

 

さっきまで。

 

どうすればいいのか分からなかった。 

 

先生を助けたい。

 

でも。

 

届かなかった。

 

怖かった。

 

怖くて。

 

何もできない自分が悔しかった。

 

なのに。

 

今は。

 

「……大丈夫」

 

出久の口から、自然に言葉が漏れた。

 

「あの人がいる」

 

麗日が出久を見る。

 

「出久ちゃん?」

 

出久は、オールマイトの背中を見る。

 

「……大丈夫だよ」

 

なぜか。

 

そう思えた。

 

別の場所。

 

勝己もまた。

 

突然現れた人影を見ていた。

 

「……!」

 

オールマイト。

 

その姿を見た瞬間。

 

勝己の目が変わる。

 

「……オールマイト」

 

「……チッ」

 

「……なんだよ」

 

勝己が呟く。

 

さっきまで感じていた焦り。

 

相澤を助けられない苛立ち。

 

それが。

 

ほんの少しだけ。

 

消えていく。

 

「あの人が来たなら……」

 

勝己は拳を握る。

 

「……大丈夫だ」

 

---

 

「随分と待たせてしまったようだね」

 

オールマイト。

 

その声。

 

その姿。

 

その存在。

 

USJにいた生徒たちの視線が、一斉に集まる。

 

「オールマイトだ……!」

 

「来てくれた……!」

 

安堵の声が漏れる。

 

オールマイトは、それを背に受けながら。

 

ヴィランたちを見渡した。

 

「さて」

 

笑う。

 

「私の生徒に、随分と好き勝手してくれたようだね」

 

手を貼り付けた男が、オールマイトを睨む。

 

その隣。

 

黒い霧のヴィランが静かに口を開いた。

 

「死柄木弔」

 

出久は、その名前を聞いた。

 

「……死柄木?」

 

初めて聞く名前だった。

 

黒い霧のヴィランが続ける。

 

「私たちの目的は、オールマイトの殺害です」

 

男――死柄木が、ゆっくりと前へ出る。

 

「そうだ」

 

その声に。

 

明らかな苛立ちが混じっていた。

 

「オールマイト……平和の象徴」

 

そして。

 

「こいつを殺す」

 

その横から。

 

巨大な影が現れた。

 

「……!」

 

出久は息を呑む。

 

巨大な身体。

 

異様な筋肉。

 

人間とは思えない姿。

 

そして。

 

何より。

 

そこに立っているだけで感じる異様な威圧感。

 

「何……あれ」

 

麗日が呟く。

 

黒い霧のヴィランが、その怪物を見る。

 

「脳無」

 

その名前を。

 

出久は聞いた。

 

脳無。

 

それが、この怪物の名前なのだと知る。

 

オールマイトが脳無を見る。

 

一瞬。

 

目が細くなった。

 

「なるほど」

 

それでも。

 

笑みは消えない。

 

「私への対策というわけか」

 

脳無が走る。

 

速い。

 

オールマイトへ一気に迫る。

 

「!」

 

拳が振り抜かれる。

 

――ドンッ!!

 

凄まじい衝撃。

 

だが。

 

脳無は倒れない。

 

「……!」

 

オールマイトの拳が。

 

受け止められている。

 

「オールマイトの攻撃が……!」

 

誰かが叫ぶ。

 

出久も息を呑む。

 

対策されている。

 

オールマイトの力を。

 

真正面から受け止めるために。

 

それでも。

 

オールマイトは。

 

一歩も退かなかった。

 

「そうか」

 

低く呟く。

 

「ならば――」

 

拳を握る。

 

「それ以上を出せばいい!」

 

――ドンッ!!

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

爆音のような拳が。

 

次々と叩き込まれる。

 

「まだだ!」

 

また拳。

 

また拳。

 

吸収される。

 

再生する。

 

それでも。

 

止まらない。

 

「すごい……」

 

出久が呟く。

 

オールマイトは。

 

一切迷っていない。

 

相手が自分の力を知っている。

 

自分を倒すための能力を持っている。

 

それでも。

 

「関係ない」

 

そう言うように。

 

ただ。

 

前へ進む。

 

さらに。

 

さらに。

 

さらに。

 

拳を重ねる。

 

脳無の身体が。

 

大きく後ろへ下がる。

 

「効いてる……!」

 

麗日が声を上げる。

 

「オールマイトが、押している」

 

蛙吹が呟く。

 

最後の一撃。

 

「Plus Ultra!!」

 

――轟音。

 

USJ全体が震えた。

 

脳無の巨体が。

 

吹き飛ぶ。

 

そのまま。

 

遠くへ。

 

何度も地面を跳ね。

 

やがて。

 

動かなくなった。

 

「……」

 

静寂。

 

オールマイトが。

 

死柄木の方を向く。

 

「これで終わりだ」

 

その姿を見て。

 

死柄木が歯を食いしばる。

 

「……くそ」

 

黒い霧が広がる。

 

「死柄木弔」

 

「分かってる」

 

死柄木はオールマイトを睨む。

 

「今日は、引く」

 

黒い霧が。

 

ヴィランたちを包んでいく。

 

「待て!」

 

オールマイトが叫ぶ。

 

だが。

 

間に合わない。

 

ヴィランたちの姿が。

 

次々と消えていく。

 

最後に。

 

死柄木が。

 

「……次は」

 

そう呟き。

 

黒い霧の中へ消えた。

 

そして。

 

静かになった。

 

USJに。

 

ようやく。

 

本当の静けさが戻ってきた。

 

出久は。

 

しばらく。

 

何も言えなかった。

 

ただ。

 

オールマイトの背中を見ていた。

 

オールマイトが来た。

 

それだけで。

 

怖くなくなった。

 

何とかなる。

 

そう思えた。

 

「……これが」

 

出久は小さく呟く。

 

「ヒーロー……」

 

遠く。

 

別の場所でも。

 

勝己がオールマイトを見ていた。

 

「……すげぇ」

 

それだけだった。

 

けれど。

 

その目は。

 

いつもより強く。

 

オールマイトの背中を追っていた。

 

そして。

 

二人とも。

 

同じことを思っていた。

 

もっと。

 

強くなりたい。

 

いつか。

 

自分たちも。

 

誰かが絶望している時に。

 

「あの人が来たから大丈夫」

 

そう思ってもらえるような。

 

そんなヒーローに。

 

なりたい。

 

――USJ襲撃事件は。

 

こうして。

 

幕を閉じた。

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