アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
春日部スタジアムを舞台にした“超人レスラー”アクション仮面のデビュー戦。
アクション仮面vsケビンマスクの試合は今、決着のときを迎えた。
勝利したのはケビンマスク。しかし、ケビンマスクは傷つきリングに伏している。
敗北したのはアクション仮面。しかし、アクション仮面は勝利のポーズで高笑い。
勝者と敗者の構図が、完全に逆転していた。
『春日部スタジアムに集った観客たちもこれには声が出ないか――っ。大人も子供も皆、戸惑いの表情でリングに視線を送っている――っ』
セコンドのジェロニモがアクション仮面優位にも関わらずタオル投入による降参を示したこと、正義の味方であるアクション仮面が本気でケビンマスクを殺害しようとしたこと、アクション仮面が禁断の力であるカピラリア七光線を使用したこと……とにかく飲み込めないことが多すぎる。
ゆえの沈黙が、会場内に静寂をもたらしていた。
「どうしたみんな!? ルール上、試合に負けはしたが、悪はこのアクション仮面が倒した! いつものように私の名をコールしてくれていいんだぞ!?」
アクション仮面は盛り下がってしまった皆に声をかけるが、あがる声援はない。
「ウウ……」
唯一反応を示したのは、いまだ倒れた状態のケビンマスク。
アクションビームを受けながら絶命寸前で窮地を逃れた彼は、しぶとくも意識があるようだった。
「……やはり、完全に悪が消えなければ皆も安心できないか」
アクション仮面は苦々しく吐き捨て、一歩を踏み出す。
『アクション仮面が倒れ伏すケビンマスクのもとへ向かいます。いったいどうするつもりだ――っ?』
勝者が敗者に近寄る……否。今回に限って言えば、敗者が勝者に近寄る。
試合の一部始終を見届けたキン肉万太郎は、これから先の展開を予想した。
「正義超人は試合が終わればノーサイド。普通に考えたら助け起こすつもりだろうけど……」
そういう場面は何度だって見てきたし、自分自身もそうしてきた。
だがなんだ、胸に渦巻くこの不安は。
本当にアクション仮面はケビンを助け起こすのか? このまま黙って見ていていいのか?
そんな疑問を抱いていた、次の瞬間。
アクション仮面の背中に衝撃が届いた。
『あ――っと、ジェロニモだ! セコンドであるジェロニモが突如リングに飛び入り、アクション仮面にドロップキックを食らわせた~~っ!』
老いなど感じさせないダイナミックな一撃が、アクション仮面の体をよろめかせる。
キックを放ったジェロニモは軽やかに着地し、剣呑な様子でアクション仮面に問うた。
「アクション仮面……貴様、今ケビンマスクにトドメを刺そうとしただな?」
敵意を持った質問は、そうせざるをえないと判断したためだ。
アクション仮面はジェロニモに蹴られた背を向けながら、しばし黙る。
ややの間を置き、微笑とともに振り向いた。
「フフッ……さすがは百戦錬磨のレジェンド、元祖“リアル超人レスラー”ジェロニモ先生だ。殺気を気取ったようですね」
バレてしまってはしょうがない――そんなセリフすら出てきそうな、ワルっぽい笑みだった。
「バカな真似はよせ! 何度も言うが、ケビンマスクは同じ正義超人……それを過去の過ち憎さで殺すなど、とんでもねえことだ!」
師としてアクション仮面の蛮行を非難するジェロニモ。
だがアクション仮面は悪びれる素振りもなく反論する。
「ジェロニモ先生こそ、何度も言わせないでください。ケビンマスクは悪行・正義超人……真・正義超人である私とは違う」
21世紀の現代、超人の属性は大きく、正義超人と悪行超人のふたつに二分される。
悪行・正義超人だの真・正義超人だの……ジェロニモには弟子が世迷言を言っているようにしか思えなかった。
「そんなカテゴリーはねえ~~っ! アクション仮面! おめぇはサタンになにかされちまったんだ――っ!」
もはや言葉での問答では埒が明かない。
そう判断したジェロニモは大きく飛び上がり、リングの上空に躍り出た。
「オラが弟子の目を覚まさせてやる――っ!」
右腕を手刀の形に構え、大きく振りかぶる。
大木をなぎ倒し、多くの超人の骨を砕いてきたジェロニモの
『ジェロニモ、大ジャンプからのトマホーク・チョップでアクション仮面に襲いかかる――っ!』
まさかお世話になった師が、
しかし、アクション仮面に走った衝撃は一瞬。
すぐさま切り替え、自らも飛び上がる。
「トアタ――――ッ!」
トマホーク・チョップをまったく恐れぬ急接近。
これにはジェロニモのほうが驚き、つい振り下ろすべき手刀が止まってしまった。
そうしている間に、アクション仮面とジェロニモの体が空中でぴったり重なる。
『あ――っとしかしアクション仮面、自らチョップの間合いに飛び込みジェロニモをダイレクトキャッチ――ッ!』
ジェロニモ必殺のトマホーク・チョップは不発。
恩師の体を抱えたアクション仮面は空中ではなにもせず、そのまま着地して彼を下ろした。
「老体で無茶をしないでください、ジェロニモ先生。あなたとは争う理由がない」
頑固な年寄りに言い聞かせるような口調。
「グウ……」
ジェロニモは悔しそうに唸り、アクション仮面と見つめ合った。
ケビンマスクを罵る際のワルっぽい表情とは違う。きちんとこちらを目上の者として扱っている。
もしサタンに操られているだけなら誰彼構わず暴行を働くはずだ。
ケビンの過去は彼にとってそれほど許せないことなのか?
明確な態度の違いに思考を巡らせるジェロニモだったが――
「……いや、あなたにも罪はありましたか」
「な、なんだと?」
不意に、アクション仮面の表情が変わった。
口の端を苦々しく歪め、穏やかだった視線は刺々しいものに。
アクション仮面が言う。
「人間から超人になったデビュー戦である“宇宙超人タッグ・トーナメント”。あなたはその入場セレモニーの際、なんの罪もない人間の子供を殴りましたね」
語られたのは、34年前の出来事。
ジェロニモはその日、確かに人間の子供を殴った――アクション仮面の語るとおり、“宇宙超人タッグ・トーナメント”の入場セレモニー中のことだ。
あのときのジェロニモは人間から超人になったばかりで、有り余るパワーを制御しきれていないところがあった。
「あ、あれはあの子供がオラの体に触ったから……それに、そんな昔の話……」
アクション仮面が生まれるよりも前の、ちょっとした不祥事である。
そんな小事件を掘り起こされ糾弾されるなど思いもせず、ジェロニモは面食らってしまった。
だがアクション仮面は烈火のごとく怒り出し、ジェロニモに罵声を浴びせる。
「超人の悪行に時効などという概念はない! 悪行・正義超人ジェロニモよ! 貴様もこのアクション仮面が成敗してやろう!」
偉大なる伝説超人、自分に道を示してくれた恩師を前にして、悪行・正義超人と罵る。
それだけに終わらず、アクション仮面はその前髪の鬱陶しい顔面に向けて鉄拳を放ったのだ。
『ア……アクション仮面、なんと恩師であるはずのジェロニモを殴り飛ばした――っ』