アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
春日部スタジアムは依然、緊張に包まれていた。
会場の中央に置かれた特設リング……そこに立つ、アクション仮面を筆頭とした“真・正義超人軍団”。
彼らの立つリングを取り囲む、21世紀を代表する正義超人軍団“
その上空で高みの見物を決め込む禍々しい顔の幻影、大魔王サタン。
そして観客席には、アクション仮面の超人レスラーデビュー戦を観に来たはずなのになんでこんなことに……と困惑が続いている一般客3万人。
アクション仮面のデビュー戦という余興はすでに終わった。
ここから大魔王サタンが新たな闘いをプロデュースする。
「数の面ではまだこちらが不利だが、正義に逆境はつきもの。あらためて、このアクション仮面率いる真・正義超人軍団が貴様たちエセ正義超人を叩きのめしてやろう!」
すなわち――真・正義超人軍vs新世代超人軍の対抗戦である。
「待った――っ!」
もちろん、悪魔の領袖の言葉などに唯々諾々と従うはずがない。
乱入者たちの身勝手を許すまいと、新世代超人の中でも正義に熱い面々が前に躍り出た。
アダムスキー型UFOを思わせるヘルメットを被る超人、ジ・アダムス。
全身各所に星のマークを盛り込んだゴージャス衣装の超人、ゴージャスマン。
頭にターバンを巻き胸に鳥のタトゥーを刻む超人、サムゥ。
巨大な胸当てを装備し額にサークレットをつけた長髪の超人、アポロンマン。
キン肉万太郎やテリー・ザ・キッドと同じく、21世紀に再始動したヘラクレス・ファクトリー一期生の超人たちである。
「これ以上の暴挙はヘラクレス・ファクトリー出身超人として見過ごすことができん!」
「アクション仮面! おまえの蛮行はオレたちが止めさせてもらう――っ!」
アポロンマンとゴージャスマンが勇ましく叫び、4人一斉にリングへと向かっていく。
『あ――っと新世代超人のジ・アダムス、ゴージャスマン、サムゥ、アポロンマンが飛び出した――っ』
血気盛んな4人の若者に対し、しかし真・正義超人軍の5人は誰も慌てる様子はなかった。
無表情かつ不動――唯一、メケメケZだけがわずかに指先を動かす。
「ブラックビームボール」
ぽそりとつぶやき、メケメケZの指先に小さな黒い光球が作り出される。
その正体は彼の必殺技“ブラックビーム”を小さく圧縮したもの――つまりは、触れただけで爆発する高密度破壊エネルギーだ。
メケメケZは大きな所作も必要なく、飛びかかってきた4人の中央付近で弾けさせた。
「ウワアアア――ッ!?」
リング手前で大爆発が起こり、そばにいた4人の超人が吹き飛ばされる。
「ジ・アダムス! ゴージャスマン! サムゥ! アポロンマン!」
仲間たちが叫ぶが、吹き飛ばされた4人は起き上がる気配がない。
サイズはビー玉ほどのものだったが、手練れの超人4人を一瞬で戦闘不能にする破壊力。
今まで闘ってきた悪行超人たちとは一味違う――そんな予感を感じ、誰もが足を止め息を呑んだ。
「ゲギョゲギョ……ザコが意気がるな。彼らも暇ではないのでな……闘うメンツはそれなりに選別してもらおうか」
「なにィ~~ッ」
同期を貶され、仲間思いのテリー・ザ・キッドが憤った様子を見せる。
しかしサタンはいちいち取り合ってはいられないとばかりに、キッドを無視して次なる仕掛けを発動させた。
「こういう趣向はどうだ? バハァ――ッ!」
顔型の幻影から、黒いモヤがアメーバ状に伸びる。
それらは真下にいる新世代超人を狙うのかと思ったらそうではなく、春日部スタジアムの観客席まで届いた。
「うわ~っ!?」
響いてきたのは、幼い悲鳴。
サタンの伸ばした黒いモヤに捕らえられた、子供たちの声だった。
「トオルちゃん!」
「マサオ!」
「ネネちゃん!」
「ボーちゃん!」
「ひまわり――っ!」
それぞれの親御さんたちが我が子の名を呼ぶ。
捕らえられたのは5人――風間トオル、佐藤マサオ、桜田ネネ、ボーちゃん、野原ひまわり。
いずれもアクション仮面のデビュー戦を観るために訪れた、春日部在住の幼児たちだった。
黒いモヤにまとわりつかれた子供たちはそのまま空中に引っ張られる。
そこでモヤは形を球状に変え、子供たちを中に閉じ込めるための黒色半透明のボールとなった。
サタンはできあがった5つの黒い球体を操作し、リング上空まで移動させる。
『あ~~っとなんということだ――っ! 観客席にいた5人の子供たちが大魔王サタンの作り出した黒い球体に閉じ込められ、真・正義超人軍団の頭上に連れ去れられてしまった~~っ!』
見ようによっては、空を飛ぶボール型アトラクションに乗っているようにも見える5人。
偶然にも5人全員と面識があった野原しんのすけは、悔しそうに声を張り上げた。
「ずるいゾみんな! オラもオラもーっ!」
「ばか! これが遊んでるように見えるのかよ!」
捕らえられたひとり、風間トオルくんは怯え半分でしんのすけを怒鳴りつける。
「やい! 子供たちをどうするつもりだ――っ!」
しんのすけを背中にひっつけたまま、万太郎は力強く叫んだ。
サタンは人質と化した子供たちを舐め回すように見ながら言う。
「ゲギョゲギョ……アクション仮面の闘いには人質救出が鉄板だ。彼の闘いは常に『助けてアクションかめーん!』の叫びから始まる。だがアクション仮面はいついかなるときもそんな逆境をひっくり返してきたのだ。おまえたちもそんなアクション仮面の正義を否定するというのであれば、同じシチュエーションで正義を為してみろ」
たしかに、アクション仮面は人質を取られた状態で敵と闘うシチュエーションが多い。
だからといってこんな外道な行為が正当化されるはずもなし。
万太郎とキッドのふたりが代表して憤りをぶつける。
「屁理屈言いやがって~~っ! 結局やってるのは卑怯な悪党のそれじゃないか!」
「アクション仮面! おまえはそれで正義のヒーローを名乗るっていうのか――っ!?」
マスクを黒一色に染め上げたアクション仮面は、真顔でそれを受け止める。
「正義とは私。私こそが正義。そんな言葉になど惑わされるものか!」
やましいところなど一片もなし。確固たる意志を持って、サタンの提案する趣向を受け入れた。
あの正義のヒーロー、アクション仮面が幼い子供たちを人質に取る……それを見ていた者たちの衝撃は大きい。
唯一、召喚された4人の仲間たちだけが愉快そうに笑っていた。
「ヒュー」
パラダイスキングは口笛を吹き、
「あら、ステキ」
ハイグレ魔王はうっとりとした声を出し、
「フハハハ……堕ちたな、アクション仮面」
メケメケZは美味そうにタバコを吸い、
「…………」
灰色マントの男は喋らないものの微かに肩を揺らす。
正義を愛するあまり、人間の身を捨て超人になった戦士がこうも豹変してしまうとは。
ミートくんはすべての元凶である悪魔の領袖を見上げながら、顔面の冷や汗を拭う。
「ア……アクション仮面は完全に正義の心を暴走させてしまっています。いきすぎた正義は誰かにとっての悪……まさかジェネラル・ストーンをこんなふうに使うだなんて。大魔王サタン。なんという策士なんだ」
おぞましさすら感じるサタンの策謀。
バッファローマンやアシュラマン等、伊達に数々の忠臣たちに裏切られてきた経験があるわけではない。
そのサタンの幻影がニヤリと口角を上げ、次なる行動に移る。
『あ――っと、アクション仮面たちの後方に怪しげな黒い歪みが生まれた――っ』
突如として中空に出現した、黒く渦を巻く歪み。
直感的に、それはどこか別の場所へと繋がるワープホールだと認識できた。
であるならば、サタンの狙いは――
「この穴は我が用意した特製のバトルフィールドに繋がっている。子供たちを助けたくば、勇気を出して飛び込んでくるのだな」
新世代超人を挑発し、次なる闘いの舞台へいざなうこと――!
万太郎をはじめとした歴戦の勇士たちに緊張が走る。
「おっと、しかしザコが大群で押し寄せてきても困る。ここは各バトルフィールドに定員2名までとさせていただこうか――っ」
身勝手な制約を告げながら、ケタケタと笑う大魔王。
血の気の多いスカーフェイスは我慢の限界と言わんばかりに身を乗り出す。
「勝手にルールなんぞ設けやがって、何様だ!」
「待て! 下手に逆らったら子供たちに危害が及ぶおそれが!」
傍らのジェイドがそれを止め、万が一の事態を回避する。
人質を取られている以上、状況は圧倒的にこちらが不利。
テレビの中のアクション仮面はいつもこんな苦境を強いられていたのか――と新世代超人たちが痛感する中、当の本人は高らかに笑う。
「ワハハハハ! 実に名案だ。この方法ならばより多くの人々に我々こそが真の正義と納得してもらえるだろう」
破綻した論理を口にしながら、真上に浮かぶ黒い球体に目をやる。
くいっ、と指を動かすと、球体はアクション仮面の意思に呼応するように下降していった。
「一番小さい赤ん坊の女の子は私が面倒を見よう」
アクション仮面は野原ひまわりちゃんが捕らえられた球体を抱え、
「ホホホ、ならあたしはこの利発そうな男の子を」
ハイグレ魔王は風間トオルくんが捕らえられている球体を撫で、
「私はこのおにぎりボウズにしておこうか」
メケメケZは佐藤マサオくんが捕らえられている球体を掴み、
「俺はこのハナタレ小僧だ」
パラダイスキングはボーちゃんが捕らえられている球体を指先に止め、
「…………」
灰色マントの男は桜田ネネちゃんが捕らえられている球体を手のひらに載せた。
5人の真・正義超人軍が5人の人質をひとりずつ確保し、5つのワープホールをそれぞれ見やる。
「アクション仮面……ひま……」
まだ5才のしんのすけは呆然とすることしかできない。
人が変わってしまったかのようなアクション仮面……人質として捕らえられた妹や友達……これらを目の前にして、ただの幼稚園児にできることはなかった。
「さあ、愚鈍なる新世代超人共よ! 自分たちこそが正義というのであれば、我々を倒しそれを証明してみせるのだな――っ!」
挑発的なセリフを吐きながら、アクション仮面がひまわりと共に飛び上がる。他の4人もすぐに続いた。
黒い渦を巻く歪みはやはりワープホールなのか、アクション仮面たちを飲み込みこの場より消失させる。
「ゲギョゲギョ……これは見ものだな。真・正義超人軍vs新世代超人軍。軍配が上がるのはどちらかなぁ~~っ?」
大魔王サタンは下卑た笑い声を発しながら、霧散するように消えていく。
空を覆っていた暗雲も散り、さわやかな青空を覗かせた。
嵐が去った――とは、とても言えない。
本日の主役であったはずのアクション仮面は消え、春日部に住む5人の子供たちがさらわれた。
残された新世代超人たちは皆一様に言葉を失い、宙に浮かぶワープホールを見つめていた。