アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
「イリューヒンとチェック・メイトが負けたら、21世紀の宇宙超人委員会最高責任者であるこのわたし……みんなのイケメン・マッスルがブラックメケメケ団の怪人に改造されてしまうだって~~っ!?」
ベルーナドームの巨大モニター越しに、イケメン・マッスルが目玉を飛び出さんばかりにして金切り声をあげる。
しかしリング下に立つふたりの
むしろ決意を新たにしたように力強く頷き合った。
「望むところだ――っ!」
「イケメンの犠牲……無駄にはしない!」
春日部スタジアムの本部席でドデ~ンとずっこけるイケメン。
挑戦者たちの勇ましい言葉に、メケメケZも大声量で応える。
「大した覚悟だ! ではこの男がブラックメケメケ団入りしたら、カオデカ怪人エセイケメンの名を与えてやろう!」
すでに改造後のネーミングまで決めているようだった。
着々と進むイケメン・マッスル怪人化計画に、本人が抗議の悲鳴を上げる。
「ちょっとキミたち~~っ! わたしは一言もいいとは言っていないぞ――っ!?」
せっかく父ハラボテ・マッスルに代わり、妹のジャクリーン・マッスルをも押しのけて宇宙超人委員会委員長の座に就任したというのに、悪の組織に転職などたまったものではない。
イリューヒンとチェック・メイトには悪いが、負ける可能性が1パーセントでもある以上、試合開始前にそんなバカげたルールは撤回してもらわないと――
慌てふためくイケメンの後ろで、ジャクリーンが巨大ハンマーを構えていた。
「潔く覚悟を決めなさ~い!」
「はい――っ!」
イケメンが見苦しいままでは話が進まないとばかりに、ハンマーで叩いて黙らせる恐ろしき妹。
昔から妹に頭が上がらない兄は塔のように膨らんだたんこぶをさすり、背筋を正す。
「で……では、この試合に勝利したほうがわたしとマサオくんを好きにできるということで……」
「おじさんも大変なんだね……」
囚われのマサオくんにすら同情される哀れなイケメンだった。
「まったく賑やかな連中だ」
茶番劇に呆れ果てたのか、メケメケZはどこからか取り出したタバコに火をつける。
これから死闘を繰り広げようという相手を前に、一服を始めたのだ。
「こら――っ! タバコはやめなさい!」
「ハア?」
チェック・メイトにその行為を注意され、メケメケZは口から煙を吐きながらも首を傾げた。
「ここベルーナドームは全席禁煙……ただでさえマサオくんがすぐそばにいるというのに、そんなに煙を吐くなど信じられない~~っ」
「そうだ! 子供が受動喫煙でもしたらどうする!」
まるで平成後期か令和のような価値観でメケメケZに喫煙マナーを説くチェック・メイトとイリューヒン。
メケメケZはフンと鼻で笑うと、吸いかけのタバコをリングのキャンバスへ無造作に投げ捨てた。
「ほざけ! 悪の組織の親玉が、ガキの健康など気にしていられるか!」
ジュッ、と足裏でポイ捨てしたタバコを踏み火を消す。
「あいつ、神聖なリングの上にポイ捨てを」
「許せん」
超人レスラーにとっての聖地を汚されたふたりの眼光が激しく燃え上がる。
メケメケZは腰に両手を当て、尊大な態度で言う。
「茶番はここまでにしよう。さあ、リングに上がり私と闘うのはどちらだ?」
超人レスリングの試合は基本的に1対1。
メケメケZがこちらの流儀に従うというのであれば、こちらもふたりがかりというわけにはいかなかった。
チェック・メイトはイリューヒンに目配せする。
「イリューヒン。あなたは先の対“
激戦の記憶新しいイリューヒンに無理をさせるわけにはいかない、とチェック・メイトが前に出た。
「ありがたいが……」
イリューヒンは友の配慮を嬉しく思う。
その上で、彼を制し己が前に出た。
「それでも、ここはオレだ」
「イリュー!」
チェック・メイトの目をまっすぐに見つめながら、イリューヒンは小声で言う。
「あのメケメケZなる男、どうにも信用ならん。オレたちの流儀に従う素振りを見せているが、どこまで本気か」
警戒の色が濃い声音に、チェック・メイトがハッとする。
周囲にはメケメケZの手下である戦闘員が百人規模で待機している……いざとなれば、彼らをけしかけてくる可能性もあった。
「熱くなりやすいオレよりも、冷静沈着なおまえが外にいたほうが状況に対処しやすい。ここは任せてくれ」
イリューヒンが言うのは、そういう想定外の事態が起きた際の状況判断。
仲間の意図を察し、チェック・メイトが頷く。
「そういうことなら……わかりました」
イリューヒンも頷き返し、ひとりリングへと向かっていく。
ロープを潜り、白いキャンバスへと足を踏み入れる。どうやら用意されたリングにおかしな点はないようだ。
宇宙超人委員会の飛ばしたドローンカメラがその姿を収めると、春日部スタジアムにいるイケメン・マッスルが開戦のゴングを鳴らす。
「ウウウ~~ッ、本当は始めたくないが……試合開始~~っ!」
カァァァァァン!
『さぁ~~っ、ここベルーナドームで始まりますは正義超人イリューヒンvsブラックメケメケ団首領メケメケZ! 異色の対決は果たしてどのようなドラマを生むのか――っ!?』
リング中央で対峙する両者。
先に仕掛けたのはイリューヒンである。
「得体の知れない相手とはいえ、警戒しすぎるのも悪手。ゆえに、ここは大胆に切り込ませてもらう!」
タイミングをわずかにズラした駆け込みからの、跳躍。
空中で体を捻りながら足を突き出した。
『イリューヒン、先制のフライングニールキックだ――っ!』
メケメケZは棒立ちだ。もちろん直撃――と思いきや。
イリューヒンの足は空を切り、何者にも触れることなくまたキャンバスについた。
『あ――っとしかし空振り……えっ!? メ、メケメケZの姿が消えた――っ!?』
標的が忽然と姿を消した。ゆえの空振り。
着地したイリューヒンはメケメケZを探して頭を振るが――
「ここだよ」
消えた張本人は自ら声を発し場所を知らせた。
その身はリングの隅にある。
『な……なんとメケメケZ、いつの間にかコーナーポストに身を預け、余裕の態度で腕組みしている~~っ!』
コーナーポストによりかかった上で腕組みなど、試合中に取るべきポーズではない。
あれではどうしても次のアクションが遅れてしまうし、逃げ場もないではないか。
「自らコーナーに行くなど……素人だな、メケメケZ!」
イリューヒンは上半身を前傾に倒し、コーナーにいるメケメケZめがけて突進する。
『今度はスピアー! コーナーを使ってメケメケZをサンドイッチにするつもりか――っ!?』
退路はない。つまりは直撃コースだ。
イリューヒンの肩が標的にぶつかり、激突音を奏でたが――それは肉を打つ音ではなかった。
「い……いない! メケメケZが!」
イリューヒンの肩が捕らえたのは、メケメケZの先にあったコーナーポストである。
バカな、やつはどこに消えたんだ――とイリューヒンが体勢を変えたその瞬間。
「遅いのだよ」
声と共に、ピタッ、と音が成った。
「ピタッ?」
イリューヒンが訝しむ。
頭頂部になにかが触れる感覚……そして、重みも。
視線を上に上げずとも、なにが起こったかは実況が教えてくれる。
『メ……メケメケZはイリューヒンの頭上だ――っ!』
メケメケZはイリューヒンの頭の上に乗っていた。
それも不遜に腕組みをし、狭い足場であるにもかかわらず器用に二本足でだ。
驚くべきバランス感覚。などと褒めている場合ではない。イリューヒンは身を振るう。
「降りろ!」
メケメケZはイリューヒンに振り落とされるよりも先に跳び、宙返りする余裕すら見せてキャンバスに着地。
「イリューヒン。貴様に私の動きが捉えられるかな?」
歯噛みするイリューヒンにそう言いながら、四方八方リング内を駆け回る。
攪乱作戦か。体力の消耗を考えないとはやはり素人――と、一瞬そう思ったイリューヒンはすぐに己の過ちを悟った。
リング内を駆け回るメケメケZの速度が……尋常ではない!
目で追うのは困難。どうにか目の端に姿を捕捉しても像がブレている。
『な、なんというスピードだ――っ!? メケメケZ、残像が残るほどの速さでリング内を縦横無尽に駆け回っている~~っ』
前にいたと思ったら後ろにいる、後ろにいると思ったら横にいる。
超人レスラーとして並外れた動体視力を持つイリューヒンでも、メケメケZの動きは捉えられなかった。
「こいつ、スピードタイプのファイターか!?」
イリューヒンはそう判断するが、
「無意味なカテゴライズはやめてもらおうか!」
メケメケZからのお叱りが飛ぶ。
残像の中から突如として現れた本体の拳が、イリューヒンの胸を打ち抜いた。
そのコンマ数秒後、今度は左脇腹が。
さらには背中にも衝撃が走った。
「スピードとはパワー! パワーとはスピードだ! 速ければ力は増し、また力が強ければ動きは速くなるもの……さあ、この攻撃が見切れるかな!?」
連続する打撃音、そして連続する鈍痛。
殴られているのはわかる――しかし、どこを?
答えはざっくり、全身。
攻撃箇所の認識すら追いつかないほどの連続攻撃が繰り出されていた。
「ガッ!? グアッ!?」
残像を伴うほどの超高速の連続打撃。
狙われている箇所はもちろんタイミングもわからないのだから、防御も回避も反撃も不能。
イリューヒンにはうめき声を上げることしかできなかった。
『ボコボコにされるイリューヒン! メケメケZの猛攻に手も足も出ないか~~っ』
顔面、腹部、喉元へと打ち込まれる超絶的なラッシュ。
全身に激痛が走り、意識が眩みそうになる。
「クッ……!」
その過程で、ようやく気づけた。
先ほどから攻撃を加えられている箇所が、すべて上半身であることに。
それならば――と、イリューヒンは上体を後方へ極限まで反らす。
『あ――っとイリューヒン、ブリッジでメケメケZのパンチを回避した――っ!』
メケメケZが初めてパンチを空振る。
その勢いのままメケメケZは距離を取り、ブリッジの体勢でキャンバスに手をつけるイリューヒンを見て愉快げに笑った。
「フハハハハ、ブリッジか。プロレスならではの動きで想定できなかったよ」
すぐさま体勢を戻し、ファイティングポーズを取るイリューヒン。
メケメケZもそれを真似るように構え、すぐに攻撃を再開するようなことはしなかった。
『メケメケZ、ここで動きを止めたが……開幕から凄まじい実力を見せつけた――っ! まさかあの超人オリンピックセミグランドファイナル進出者、イリューヒンをスピードで圧倒するとは~~っ」
目まぐるしい攻防に、チェック・メイトは息を呑む。
「これまで数多くの強豪超人を見てきましたが、残像が残るほどの高速戦闘の使い手などいなかった」
ブラックメケメケ団首領、メケメケZ。
アクション仮面を苦しめた宿敵とはこれほどまでに強いのか。
「メケメケZ……もしかしたら、5人の真・正義超人軍団の中でも最強かもしれない」
チェック・メイトのぼやきをしっかり耳にし、リング上のメケメケZがクックと笑う。
「嬉しい評価だね、チェック・メイト。しかし褒めすぎではないか? お仲間のイリューヒンにプレッシャーがかかってしまうぞ」
そう指摘され、軽率なことを口走ってしまったと後悔するチェック・メイト。
「ウウッ」
超人レスリングはメンタルも重要だ。仲間を不安にさせるような言動など取ってはならない。
「心配するな、チェック・メイト」
しかし、リング上のイリューヒンの心は折れていないようだった。
「メケメケZのスピードはたしかに驚嘆に値するが……やつの動きは所詮2D。超人レスリングの闘いは3Dだってことを教えてやるぜ」
2D、そして3D――二次元と、三次元。
チェック・メイトはイリューヒンがなにを言いたいかを瞬時に理解する。
そして逆に、この世界の者ではないメケメケZは知らないはずだ。
その無知が、この試合における大きな勝機となるかもしれない。
イリューヒンがキャンバスを蹴り、跳ぶ。
「