アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
両腕を飛行機の主翼に、両脚を尾翼に変形させ、旅客機へと“変身”するイリューヒン。
ジャンプした勢いをそのままにベルーナドームの広大な空間を飛行し、メケメケZを驚かせる。
『あ――っとイリューヒンの姿が旅客機に変身し、ベルーナドームを飛んだ――っ!』
「なに!? 飛行機に変形だと!?」
これには百戦錬磨の悪の首領、メケメケZも目を見開いた。
超人レスラーという存在が人間を超越していることは学習済みだったが、まさか人間型からそのまま本物のジェット旅客機へ完全変形してみせるとは、夢にも思わなかったのだ。
「高速戦闘の使い手はおまえだけではない! さあ、空を舞うオレの動きが見切れるかな!?」
イリューヒンの飛行速度はまさしく本物の旅客機のそれだ。
メケメケZはリングから飛行する対戦相手を見上げ続ける。
『縦横無尽に空を飛ぶイリューヒン! 翼を持たないメケメケZは立ち尽くし目で追うことしかできない~~っ』
上空から獲物を狙う鷹のように、急降下体制に入る機体。
「フン」
しかし、メケメケZは不遜に鼻を鳴らす。
わずかに腰を落とし、イリューヒンの接近に備えた。
「くらえ――っ! デス・ママリオート――――ッ!!」
鋭利な翼と化した腕で、相手の胴体を真っ二つにするイリューヒンの必殺技。
ジェット飛行の速度を乗せたその一撃は並のラリアットとは比較にならない。
ふたりの影が重なり合う――
『あ……あああ~~っ!?』
こだましたのは、実況の驚愕の声。
メケメケZの胴は……分断されてはいない。
デス・ママリオートは不発に終わっていた。
『な、なんと~~っ!? メケメケZ、飛来したイリューヒンの顔面に正拳突きを叩き込んだ――っ!』
イリューヒンが降下してきたその瞬間、メケメケZが彼の正面に位置取りし両翼による斬撃から逃れたのである。
それだけにとどまらず、旅客機の機首――むき出しの顔面に、パンチを繰り出すカウンターまで仕掛けた。
「その変形フォルムと動きを見れば、貴様が両翼での斬撃を狙っているのは読める。ならばあとはその丸わかりなウィークポイントを狙い迎撃してやればいいだけだ」
超スピードによる突進は、そのままカウンターの威力を倍増させた。
イリューヒンの姿が旅客機から元に戻り、崩れ落ちる。
「イリューヒンの
敵ながらお見事、と感嘆の声を上げるチェック・メイト。
気分を良くしたメケメケZは追撃に出る。
「どれ、私も少しプロレスに付き合ってやるとしよう」
ふらつくイリューヒンに背を向け、彼の顎下に自身の左肩を持っていく。
そのまま左腕で首をロックし、軽くジャンプ。尻もちをついて落下した。
『メケメケスタナーだ――っ!』
イリューヒンの顎に衝撃が伝わり、脳に激震が走る。
「ガハッ……」
それでもダウンはするまい、と膝立ちで耐えるイリューヒン。
メケメケZはそんなイリューヒンの背後に回り、脇下に腕を通した。
「さ~て、次はドラゴン・スープレックスでも決めてやるか」
『メケメケZ、イリューヒンをフルネルソンに固めた――っ』
後ろからの羽交い締めの姿勢。
狙うのは、この状態から後ろへの反り投げだ。
「甘い」
腕を極められたイリューヒンだが、その瞳に焦りの色はない。
彼はこの状態からでも抗える方法を持っている。
「飛行機遺伝子!」
「グオッ!?」
両腕を飛行機の主翼に変形させ、羽交い締めにしていたメケメケZの腕を裂く。
『固められたイリューヒンの両腕が鋭利な翼に変形し、メケメケZの両腕を斬り裂いた――っ』
たまらず飛び退くメケメケZ。
イリューヒンはその隙に飛び上がり、得意技を再発動させる。
「続けて飛行機遺伝子!」
再び飛行機へと変身していくイリューヒン――だが、今度のフォルムは旅客機ではない。
変身が進むにつれ、イリューヒンの姿がぼやけていく。
「き……消えた!?」
その光景を目で追っていたメケメケZは、思わずまぶたをこすりたくなった。
『再び空へと舞い上がったイリューヒンですが……その姿がこつ然と消えてしまった~~っ!』
変身途中での謎の消失……もしやイリューヒンは飛行機と言いつつ本当は透明人間に変身したのか?
一瞬思い浮かんだ馬鹿げた可能性を、頭を振って否定する。
「私のように速すぎて消えたように見える……わけではないな。これは……」
メケメケZが思考を巡らせた――その瞬間である。
「ゲゲハッ!?」
突如、腹部に激痛が走り、鋭利なもので裂かれたかのような傷跡が走る。
血や内蔵は飛び出さなかったが、代わりに機械の部品のようなものと火花が散った。
『あ――っとメケメケZ、突然腹部に裂傷~~っ! これはまさか……カマイタチによるものか~~っ!?』
カマイタチ――つむじ風と共に現れ、人の皮膚を切り裂いていくという妖怪の伝承だ。
フィクションの世界でも、強力な風は斬撃を生み出すと解釈されることが稀にある。
しかしメケメケZは実況の発言を鼻で笑った。
「カマイタチなど非科学的な。この現象はもっと科学的に説明ができるはず」
虚空を睨みつけ、眼光を鋭く――いや、明らかな光源を備え発光させるメケメケZ。
さらに規則的に首を動かす動作。それはどこか、無機質なレーダーを思わせる。
やがてメケメケZの歯をむき出しにした口が開き、不気味な笑い声を発した。
「フフフ……フハハハハ! そうか、ステルス戦闘機だな!? 周囲の風景に溶け込み、さらにレーダーなどの索敵を弾く平面的ボディで姿を隠しているのだ」
言葉のみでイリューヒンが消えたカラクリ、そしてカマイタチの正体を見破ってみせるメケメケZ。
ハッタリとも思える――が、リングサイドに立つチェック・メイトは彼の推論が的中していることを知っていた。
イリューヒンの“飛行機遺伝子”は旅客機だけでなく、あらゆる飛行機に変身できる。
そして今彼が変身しているのは、ステルス戦闘機。
曲線を使わないダイモンドカットのごとき平面ボディは、レーダー波を横方向や斜め後ろにそらす機能を持っている。
戦場においても一切悟られることなく、いつの間にが敵陣の心臓部まで入り静かに破壊行動を完遂させていく“姿なき沈黙のジェット”。
イラクの強豪超人デストラクションの触覚レーダーすら無効化してみせたイリューヒンのステルス殺法を、メケメケZはいったいどうやって看破したというのか。
「メケメケZのあの傷……それにイリューヒンのステルス機能を見破ったりなど……もしかしてやつは、ロボ超人のような存在なのか?」
レーダーは効かないはずだが、正体がロボなら別の観測機器が搭載されているとも限らない。
出血を伴わない腹部の傷跡を見つめながら、チェック・メイトは考えを巡らせる。
一方、イリューヒンはメケメケZの言葉を受けても攻撃の手を緩めなかった。
「オレのステルス
カマイタチの正体は、先程のデス・ママリオートと同じく両翼での斬撃だ。
イリューヒンは引き続きメケメケZへ攻撃を仕掛けるタイミングを窺うが、
「ならばこれだ」
狙われている本人は無闇に動いたりはせず、静かに右手の人差し指を立てた。
「ブラックビームボール」
小声で技名を口にし、指先に黒く小さい光球を浮かべる。
それがひとつ、ふたつ、みっつ……無数に連続発生し、メケメケZを囲うように位置を変えていった。
「気をつけろ、イリューヒン! メケメケZは罠を張っている――っ!」
ハッとしたチェック・メイトが叫ぶ。
周囲を黒い光球で覆ったメケメケZは、不遜にも腕組みをして待機。
不可視のイリューヒンにはたしてチェック・メイトの声は届いているのか否か。
結果は――
「グワァアアア!?」
爆音、そしてイリューヒンの悲鳴という形で訪れた。
『な……なんだ~~っ!? リング上で突如、謎の爆発が!?』
爆発はメケメケZのすぐそばで起こり、しかし本人は腕組みしたままの仁王立ち。
被害を受けたのはただひとりである。
「ウ、ウウ……」
ステルス戦闘機の機能である光学迷彩が破れ、元の肉体に戻ったイリューヒンが激しくキャンバスに打ちつけられた。
『イ……イリューヒンだ――っ! 爆破をモロにくらったのか、イリューヒンが元の姿に戻りリングに倒れているぞ――っ!』
全身から煙を上げ、血を吐くイリューヒン。
「な、なにが……」
焼け焦げた上半身を起こしながら、必死に状況を分析しようとする。
メケメケZはクククと不気味な笑いを漏らしていた。
「これが私の必殺技、ブラックビームボールだ」
指先にひとつ、小さく黒く蠢くブラックビームボールを灯してみせるメケメケZ。
「アクション仮面のアクションビームのように、私もビーム技を持っているのだよ。これはそれを小さな球体に圧縮したもの。そしてそれを周囲に機雷のごとく浮かべることで、即席のバリアとしたのだ」
そうだ――これは春日部スタジアムでジ・アダムス、アポロンマン、ゴージャスマン、サムゥの4人を一網打尽にした技。
まさかそれを複数同時に行使し、バリアのように展開するとは。
「つまりイリューヒン! 貴様はミサイルの配備されたフル防備基地に突っ込んでいったも同然! 撃墜されて当然なのだよ!」
撃墜――飛行機をモチーフとしたロボ超人であるイリューヒンにとって、これ以上の屈辱的な言葉はない。
「あ……あああ~~っ!」
ステルス機の特性を活かした死角からの攻撃すら見切られ、迎撃された。
完璧すぎる敵の防衛網に、イリューヒンは絶望の表情を浮かべる。
『つ……強い! 強すぎるぞメケメケZ! ブラックメケメケ団首領の名は伊達ではない――っ!』
「ひぃいい! イリューヒンが負けちゃう~~っ!」
黒い球体の中で、マサオくんが顔をクシャクシャにして泣き叫ぶ。
「マ……マサオ……」
子供が泣き叫ぶ姿を見て、イリューヒンはかつての闘いを思い出す。
記憶にも新しい“
悪魔超人メルトダウンを倒しボディパーツのひとつを奪還することには成功したが、イリューヒンは道半ばで力尽き、友たちに後を託すことしかできなかった。
あのときの悔しさが、また押し寄せてくる。
「立ってください、イリューヒン!」
精神面に大打撃を受けるイリューヒンの耳に、その友のひとりが声を放る。
立て、と。
「人間を……特に未来ある子供を守ることは我ら超人に与えられし使命! マサオくんを悪の手から救えるのはあなたしかいないんですよ――っ!」
対し、己はリングの上に立っている。
「そう……だな……」
ボロボロになりながらも、イリューヒンは膝に力を込め、ゆっくりと体を起こし始めた。
「祖国ロシアの栄光のために修練を積んできたオレが、こうも“ヒーロー”を求められるとは」
超人オリンピックの優勝を目指し、力をつけ技を磨いてきた。
その野望はケビンマスクというライバルに挫かれたが、イリューヒンは戦場に残り続けている。
ロシアの兵ではなく、正義超人の一員として闘い続けることを選んだのだ。
泣いている子供を助ける“ヒーロー”――望むところじゃないか。
『イリューヒン、立った――っ』
闘志みなぎる瞳を携え、イリューヒンは立ち上がる。
余裕の棒立ちを続けるメケメケZをひと睨みし、再度キャンバスを蹴った。
「オレの万策はまだ尽きていない! フロッガー
勇ましい声を上げ、新たな戦闘機へと体を変化させていく。
『イリューヒン、今度はロシアが誇る空軍戦闘機
イリューヒンが変身したのは、ターボジェットエンジンを搭載しマッハ2.3での高速飛行が可能なロシアの代表的戦闘機。
速度は先ほどまでの旅客機やステルス機を超える――が、メケメケZの態度は揺るがない。
「フン。戦闘機の種類を変えればバリアを掻い潜れるとでも思ったか!」
メケメケZは再びブラックビームボールを無数に展開し、隙のない迎撃体制を整える。
『メケメケZ、イリューヒンの突撃に備えるため再びブラックビームボールバリアを展開した――っ』
リング上空を飛び、突撃する角度を探るイリューヒン。
だがやはりこのブラックビームボールバリア……どこにも隙が見当たらない!
「さあどうするロシアの戦士よ! カミカゼでもしてみるか!?」
挑発的な物言いで自爆特攻を誘うメケメケZ。
「クッ……!」
もはやイリューヒンに為すすべなし。
しかし大和男子でないイリューヒンに神風特攻などという選択肢が浮かぶはずもなかった。
『あ――っとイリューヒン、ブラックビームボールの弾幕を避けるため大きく方向転換!』
結果、イリューヒンはメケメケZを避けるように飛行ルートを変える。
リングから離れ、さらに上昇していった。
『そのまま高度を上げ……』
ここ、ベルーナドームは屋内球場。
それは“半分正解”で“半分不正解”と言える。
ベルーナドームの屋根は、既存の屋外球場に後から屋根を取り付けた。
その際に完全に屋根でドームを覆うのではなく、屋根とスタンド席の間に壁を作らず――つまりは隙間を設け、外界の新鮮な空気が取り込めるようにしたのだ。
屋根がある球場でありながら、隙間を白球が越えれば場外ホームランがありえるという奇妙な球場。
しかし今日この日、屋根とスタンド席の隙間から出ていったのは打者の打ったボールではなく――
『ベルーナドームのスタンド席と屋根の隙間の空間から外に飛び出した――っ』
MIG-23フロッガー戦闘機。
すなわちイリューヒンである。
「えっ」
「えっ」
「えっ」
メケメケZが、チェック・メイトが、マサオくんが、順々に呆気に取られる。
飛行機に変身し空を飛んだイリューヒンが……そのままドーム内を飛び回り、最後には外に出ていってしまった。
戦場である四角いリングから遠く離れ、しばらく待つが……機影は見えず。
『外に出て、戻ってこない~~っ!? イリューヒンの姿がベルーナドームから消えてしまった――っ! いったいどこに行ってしまったんだイリューヒン~~~~ッ!?』