アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
ベルーナドーム最大の特徴である屋根とスタンド席の間の隙間。
そこから飛び出ていってしまった
リングには対戦相手を失ってしまったメケメケZ、そばには取り残された仲間であるチェック・メイト、そして救出対象であるにもかかわらず放置されたマサオくん。
ぽかーん……とした間がしばらく続き、やがてチェック・メイトが口を開く。
「い、いなくなってしまった。イリューヒンが、試合会場であるここベルーナドームから……」
超人レスリングの試合中にいなくなる正義超人など前代未聞。
チェック・メイトは目の前の現実が信じられず放心していた。
「もしかして、メケメケZが強すぎて逃げちゃったんじゃ……」
マサオくんがつぶやく。
チェック・メイト自身、内心もしかしたら……と思ってしまった可能性ではある。
メケメケZの実力はそれほど圧倒的だった。
いかに“赤き死のママリオート”と恐れられたイリューヒンでも……。
「フハハハハ!! まさか反撃と見せかけて敵前逃亡とはな。だが仕方あるまい。力の差は歴然……超人といえど命は惜しかろう」
敵が逃げたことを笑い、展開させていたブラックビームボールを解除するメケメケZ。
睨みつけるべき相手がいなくなったので、その視線は勝者の景品とされていたマサオくんに向ける。
「これでおまえを助ける者はいなくなったなぁ、オサル大臣マッキッキ」
悪の首領が放つ無機質な眼光に射竦められ、マサオくんはまた泣いた。
「そ……そんなぁ~~っ!」
正義の味方に見捨てられる――子供からしてみればトラウマ必至の出来事だろう。
メケメケZは顔面蒼白となるマサオくんから視線を移し、今度はベルーナドームの巨大モニターを見た。
そこには春日部スタジアムから試合をレフェリングしている濃い顔の超人、イケメン・マッスルが映っている。
「さあ、宇宙超人委員会とやらよ! もはや勝敗は決した! さっさとメケメケZ様の勝利をコールしてもらおうか!」
審判であるイケメンの表情にも動揺が見て取れる――そう思われた。
だが、彼は口を真一文字に結び、手に木槌を持ちはすれどゴングを叩こうとはしない。
訝しむメケメケZに対し、イケメンは言う。
「……我々は厳格なルールに則り、超人たちの闘いを正しくジャッジする義務がある。それが正・悪の抗争ともなれば、なおさら判断を誤ることは許されない」
ここでゴングを鳴らせば身内である正義超人が負けてしまうと駄々をこねているわけではない。
これは偉大なる父、前任である元宇宙超人委員会委員長ハラボテ・マッスルから受け継ぎし信念に基づく行為。
「ジャッジマンとして言わせてもらおう、メケメケZ! 試合はまだ……終わっていない!」
ブラックメケメケ団の首領に対し、イケメンは勇ましくそう言い放つ。
「なに?」
メケメケZは呆れた様子で返し――次の瞬間。
彼の身が宙に浮いた。
「ウオッ!?」
脇の下になにかが引っかかり、両腕が強制的に持ち上げられる。
両足はキャンバスから離れ、その高度はどんどん上がっていった。
実況アナウンスはメケメケZの状態を客観的に告げる。
『あ――っとイリューヒンだ! 戦闘機状態のイリューヒンがメケメケZの背後から飛来し、その背中をキャッチして天高く上昇している~~っ!』
メケメケZの両腕を持ち上げているのは、MIG-23フロッガーの両翼である。
「イリューヒン!」
メケメケZ、チェック・メイト、そしてマサオくんの3人の声が重なる。
いやしかし――とメケメケZは脚をばたつかせながら叫んだ。
「バカな!? 貴様はドームの外へ飛んでいったはず! なぜ私の後ろにいる!?」
仮にまたドームに戻ってきたのだとしても、やはり屋根とスタンド席の隙間から戻って来るしかないはず。
まさかそれを気取れぬはずがない。いつの間にか背後を取るなど不可能だ。
「その答えはここ、ベルーナドームの特徴にある! 他のドーム球場と比べても特徴的なその形状にな!」
イリューヒンはメケメケZを捕らえ上昇しながら言う。
背後――いやそうか、背後だからこそ。
「あ、あああ~~っ! そうか、そういうことか――っ!」
メケメケZは真実に気づき、驚愕の声を上げた。
「気づいたようだな! ベルーナドームの屋根は全周囲スタンド席との間に隙間が設けられている! 鳥や虫が入り込むことも日常茶飯事な、出入り自由の天然ドアだ!」
ベルーナドームに設けられている隙間は、一方向だけではなく全周囲。
いくらメケメケZといえど、顔の後ろに目はついていない。
こうなる直前、己はモニターのイケメンを見ていた――その後ろ側にも、もちろん隙間はある。
「オレは一度外へ出たあと、外周をぐるりと周り……反対側からもう一度ドーム内へ入ったのだ! メケメケZ! おまえの背後を取るためにな――っ!」
あえて敵前逃亡を匂わせ、油断を誘う。
ジェット超人イリューヒン……なんというクレバーな闘い方をする男か!
「小癪な真似を! ええい、離せ!」
もがくメケメケZだったがフロッガーの両翼は外れず、空中では満足に脚も動かせない。
「無駄だ! 一度技の形に入ってしまえば脱出は不可能……それがオレの得意とする
メケメケZを捕らえたイリューヒンがベルーナドームの天井付近に到達し、次の仕掛けに移る。
機首を真下に向け、スピードを乗せた錐揉み飛行での急降下。
その間、イリューヒンの体にも変化が表れる。
『あ――っとイリューヒンのフロッガーボディが徐々に元のボディへと戻っていく――っ!』
戦闘機からヒト形へ戻ったイリューヒンは、メケメケZをフルネルソンに固めていた。
そのままメケメケZの脳天を一番下にする形でさらに加速。
凄まじい回転を加えながら、キャンバスへと叩きつけた。
「ザ・タービュレンス――――ッ!!」
激しい衝撃音がベルーナドームに響き渡り、リングが歪む。
「ゴハァッ!」
メケメケZが頭部をグシャグシャにしながら吐血。
イリューヒンは技を解き、回転の反動でぐるりと回転しながら体勢を立て直す。
片膝立ちでの着地。
一方、脳天串刺しとなったメケメケZは頭を軸にしてゆっくりと倒れ込んだ。
起き上がる気配は、ない。
「KOだ!」
春日部スタジアムにいるイケメンが嬉々として木槌を振り上げた。
壮絶な勢いでゴングを叩く。
カンカンカンカァ~~ン!
『試合終了~~っ! ロシアの精鋭イリューヒンがブラックメケメケ団首領メケメケZを打ち破り、
静かに腕を上げるイリューヒン。
その先の拳は固く握られている――勝利者ゆえのガッツポーズだ。
『最初はメケメケZの圧倒的実力の前になすすべなしと思われたイリューヒンでしたが、さすがは場数を踏んだ超人レスラー! 刹那のチャンスをものにし見事に必殺技を決めてみせました~~っ!』
仲間が見せた鮮やかな勝利に、闘いを見守っていたチェック・メイトもワッと沸く。
「やりましたね、イリューヒン!」
「ああ」
イリューヒンらしいスマートな受け答え。
反応からしても、狙いどおりの決着といったところなのだろう。
「しかし、まさか試合会場から飛び去ってしまうとは……あなたの狙いがわからず、一瞬本気で焦りましたよ」
相手の油断を誘うのは超人レスリングに限らず闘いの定石ではあるが、さすがに試合会場から飛び出すというのは前代未聞すぎた。
だがそんな大胆なことも平然とやってのけてしまうのがこのイリューヒンという男なのである。
「フッ、敵を欺くには味方からというやつだ」
ニヒルに笑い、イリューヒンはリング上に浮かぶ黒い球体に目をやる。
「心配させて悪かったなマサオくん。もう大丈夫だ」
檻の役割を果たすそれはまだ機能を失っていないようだ。
だがメケメケZが倒れた以上、囚われたマサオくんを救い出すのに障害はない。
「あ、ああ……」
イリューヒンが歩み寄るが――マサオくんの様子がおかしい。
「マサオ?」
助かったというのに、顔に安堵の色がないのだ。
むしろまだ怯えが強い。
無理もないか。
ブラックメケメケ団というテレビの中の悪の一団に捕らえられ、怪人に改造されようとしていたのだ。
心の傷が残らないよう最大限メンタルケアをしてあげなければ――とイリューヒンがもう一歩近づいた、そのときである。
「ダメだ……ダメだよイリューヒン! メケメケZはまだやられていない――っ!」
唐突に、マサオくんがそう叫んだのだ。
「えええ~~っ!?」
イリューヒンとチェック・メイトが揃って驚きの声を上げる。
即座に倒れているメケメケZを注視するが、やはりその身が動き出す前兆は感じられない。
「な……なにを言うんだマサオ。ここにいるメケメケZは完全に失神してしまっている。決着のゴングも鳴らされ、試合は終了したんだぞ」
宇宙超人委員会の裁定は絶対。一度鳴ったゴングが覆ることはない。
チェック・メイトも頷き同意する。
「そうですよ、マサオくん。ボスが倒されたためか、周囲にいるブラックメケメケ団の戦闘員たちもすっかり沈黙してしまっている。仮に暴れ出したとしても、わたしたちが必ず君を守りますから安心してください」
おそらくマサオくんは恐怖心からネガティブになりすぎているのだ。
イリューヒンとチェック・メイトは引き続きマサオくんを安心させようと言葉を選ぶが、
「違うんだ……」
マサオくんは青ざめた顔で首を振り、
「そのメケメケZは……ニセモノなんだよ~~っ!」
衝撃の一言を発した。
「な、なんだって!?」
イリューヒンが再度驚きを見せた、そのとき。
倒れていたメケメケZの体がカッと光り出し――木っ端微塵に爆発した。
「ドワァアアアアアアア――ッ!?」
爆風の余波を受けたイリューヒンが宙を舞う。
リングの外まで吹き飛ばされ、ゴロゴロとグラウンドを滑った。
「イ、イリューヒン!」
チェック・メイトが咄嗟に駆け寄り、力なく倒れるイリューヒンの身を起こす。
リングは炎上こそ免れたものの、砕け散ったメケメケZの体から黒煙を噴き上げていた。
『あ――っとなんということだ――っ!? メケメケZの体が突如爆発し、イリューヒンを巻き込んで粉々に爆散してしまった~~っ!?』
その衝撃の光景は春日部スタジアムの観客たちにも伝わっている。決着を言い渡したイケメンなど顎が外れかねない勢いで大口を開けていた。
「無事ですか、イリューヒン!?」
チェック・メイトが声をかけると、イリューヒンは口元を震わせながら声を絞り出す。
「だ……大丈夫だ。ダメージは大きいが……なんとか動ける」
どうやら意識ははっきりとしているようだ。
動けるというのも強がりではないらしく、チェック・メイトを制し自らの脚で立ち上がる。
「グッ……しかし、なぜメケメケZの体が爆発など」
すぐそばには、イリューヒンと同じく吹き飛んだのであろうメケメケZの生首が転がっていた。
頚椎の切断面からは配線のようなものが見える。やはりメケメケZはロボ超人だったのか。
いや……ロボ超人でももう少し生身の部分があるもの。
目の前の生首は、あまりにも“ロボすぎる”。
「それは私のレプリカロボットさ!」
疑問を抱くふたりの耳に、つい先ほど爆散したはずの男の声が響き渡った。
周囲に立っていたブラックメケメケ団の戦闘員たち……その奥から、ゴールドの右半身とパープルの左半身を持つドクロ頭が歩み出る。
それは紛れもなく、ブラックメケメケ団首領メケメケZであった。
「メ……メケメケZが!」
「もうひとりだと~~っ!?」
チェック・メイトとイリューヒンの顔色が驚愕に染まり、悪の首領は愉快げにタバコを吹かす。
本当の“悪”との闘いは、ゴングのひとつでは終わらない。