BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十八章 八千流

 

人斬りと呼ばれるようになってからも、俺は歩き続けた。

 

最初の頃は強い者の居場所を聞いて回っていたが、いつの間にか、その必要もなくなった。

 

町へ入ればこちらを見る者がいる。

 

目を逸らす者。道を空ける者。戸を閉める者。

 

そして時々、刀へ手をかける者。

 

「お前が清子か」

 

「はい」

 

「勝負しろ」

 

「はい」

 

それで始まる。

 

俺を倒して名を上げたい者もいれば、仲間を斬られた者や、ただ腕を試したい者もいた。

 

理由は違っても、刀を抜けば同じだった。

 

相手を見て、間合いへ入り、斬る。

 

それだけだった。

 

 

さらに月日が流れた。

 

いくつ季節が過ぎたのか、途中から数えなくなった。

 

髪は伸び、刀も何度か変わった。着物も血で駄目になり、身体も数え切れないほど斬られた。

 

深く斬られ、何日も刀を握れなかったこともある。

 

それでも傷が塞がれば、また歩いた。

 

そして、剣も変わっていった。

 

 

ある日、三人の男に囲まれた。

 

一人は正面。

 

二人は左右。

 

「やれ!」

 

同時に来る。

 

以前なら、一人ずつ見ていただろう。

 

今は違う。

 

正面の男が踏み込み、その身体の陰で右の男が動く。

 

身体が自然に前へ出た。

 

正面の刃から外れながら斬る。

 

――ザッ。

 

一人目が倒れるより早く刀を返し、右から来た刃を流す。

 

そのまま懐へ入った。

 

「ぐっ――」

 

二人目が崩れる。

 

背後から気配が来た。

 

振り向かず、一歩だけ前へ出る。

 

背中を狙った刀が空を切った。

 

そこで振り返ると、最後の男が止まっていた。

 

「来ないのですか」

 

「…………化け物」

 

男は刀を落とした。

 

戦わないのなら、斬る理由はない。

 

刀を納めると、男は逃げていった。

 

追わなかった。

 

 

その夜、一人で刀を振った。

 

――ヒュッ。

 

もう一度。

 

――ヒュッ。

 

「…………」

 

昔は、足や腰、肩の動きまで一つずつ意識していた。

 

今は何も考えていない。

 

それでも刀は走る。

 

身体が勝手に動き、必要な場所へ刃が通る。

 

もう一度振る。

 

今度は少し踏み込み方が変わった。

 

自分で変えようとしたわけではない。

 

これも、どこかで見た誰かの動きだった気がする。

 

けれど、誰だったのかは思い出せなかった。

 

「…………」

 

まあ、いいか。

 

刀はきちんと振れている。

 

それだけ確認して、刀を納めた。

 

 

強い者を探すことも、次第に難しくなった。

 

評判を聞いて訪ねても、期待したほどではない。

 

以前なら驚いただろう技も、どこかで似たものを見ている。初めて見る構えでも、刀を合わせる前から何を狙っているのか分かることさえ増えた。

 

それでも戦った。

 

もしかすると、自分の知らない何かを持っているかもしれない。

 

その期待だけで刀を抜く。

 

だが、期待が外れるたび、少しずつ何かが足りなくなっていった。

 

 

「この先にゃ行かねえ方がいい」

 

山道へ入る前、老人に言われた。

 

「なぜでしょう」

 

「賊がいる」

 

「強いのですか」

 

「…………」

 

老人が黙った。

 

「何人も殺してる」

 

「剣を使いますか」

 

「知らん」

 

「そうですか」

 

なら、見ればいい。

 

歩き出すと、老人に呼び止められた。

 

「おい。死ぬぞ」

 

「はい」

 

それだけ答えて、山へ入った。

 

 

賊は十人以上いた。

 

刀だけではない。槍も斧もあり、弓まである。

 

「女一人か」

 

男たちが笑った。

 

俺は少し嬉しくなった。

 

一人ずつではない。

 

全員。

 

同時なら、どこまでできるだろう。

 

「何笑ってやがる」

 

「申し訳ありません。少し、楽しみで」

 

刀を抜くと、笑い声が止まった。

 

 

最初の矢を避けてからは、ほとんど考えなかった。

 

刀が来れば外れながら斬り、槍なら懐へ入る。後ろから来れば位置を変え、空いた場所へ刀を通す。

 

誰から覚えた動きなのかも考えない。

 

身体が、その場で必要なものを勝手に使う。

 

その中に、一人だけ妙に上手い男がいた。

 

こちらの刀を外し、すぐに返してくる。

 

速い。

 

身体を沈めると、刃が髪を切った。

 

「…………ふふ」

 

「何がおかしい!」

 

久しぶりだった。

 

少しだけ、分からない。

 

だから嬉しい。

 

男が続けて刀を振る。

 

一つ目を外れ、二つ目を流す。

 

三つ目。

 

そこへ入った。

 

――ザンッ。

 

男が倒れる。

 

もっと見たかった。

 

だが、もう次が来ていた。

 

 

気づいたとき、立っている者はいなかった。

 

何人かは動いている。

 

何人かは、もう動かない。

 

こちらも斬られていた。腕から血が流れ、脇腹も痛む。

 

それでも、足りなかった。

 

十人以上いた。

 

武器も違った。

 

囲まれ、矢まで飛んできた。

 

それなのに。

 

宗玄と向かい合ったときの方が、怖かった。

 

その事実に気づいたとき、胸の奥に妙な空洞ができた。

 

 

長く歩いていれば、人ではないものにも出会った。

 

白い仮面。

 

胸に空いた穴。

 

人の何倍もある身体。

 

「…………」

 

虚。

 

知っている。

 

この世界へ来る前から。

 

けれど、実物を見るのは初めてだった。

 

「本当にいるのですね」

 

思わず、そんな言葉が出た。

 

虚が吼える。

 

空気が震え、巨体から伸びた腕が振り下ろされた。

 

横へ外れると、地面が大きく砕ける。

 

剣ではない。

 

構えも、足運びも、刀の軌道もない。

 

代わりに腕や爪、牙、身体そのものが武器だった。

 

「…………ふふ」

 

面白い。

 

もう一度振り下ろされた腕を避け、懐へ入る。

 

胴へ斬りつけた。

 

――ザンッ。

 

「…………」

 

浅い。

 

人とは違う。

 

なら、もっと深く斬ればいい。

 

振り向いた虚の爪を潜り、そのまま首へ刀を走らせる。

 

――ザンッ。

 

巨体が揺れた。

 

それでも倒れない。

 

「なるほど」

 

刀を握り直した。

 

 

それからも何度か虚と出会った。

 

四足で走るもの。

 

空から襲うもの。

 

異様に腕の長いもの。

 

刀がなかなか通らないもの。

 

こちらの動きを見て、考えるように戦うものまでいた。

 

剣は使わない。

 

それでも戦いには流れがある。

 

どこを見るか。

 

いつ入るか。

 

何を避けるか。

 

どこなら斬れるか。

 

人だけを相手にしていては知ることのできなかったものがあった。

 

だから虚も斬った。

 

見て、戦って、覚えた。

 

それもまた、少しずつ俺の中へ残っていった。

 

 

それからも歩き、戦い、斬った。

 

負けることもあった。

 

深手を負い、何日も動けなくなったこともある。死にかけたことさえ一度ではない。

 

それでも死ななかった。

 

傷が塞がり、身体が動けば、また刀を握った。

 

いつしか、斬られることそのものを気にすることも少なくなっていた。

 

 

ある夜、一人で刀を振った。

 

――ヒュンッ。

 

何の型だったのか、自分でも分からない。

 

ただ、そこに相手がいるつもりで振った。

 

そうすれば、身体が勝手に動く。

 

「…………」

 

宗玄の剣。

 

新太の剣。

 

旅で見た剣。

 

力で叩き潰す剣。

 

待つ剣。

 

左から来る剣。

 

足場を使う剣。

 

二本の刀。

 

身体で刃を隠す剣。

 

見た。

 

受けた。

 

使った。

 

合わないものは捨てた。

 

残ったものも、いつの間にか誰から覚えたのか分からなくなった。

 

それでも消えたわけではない。

 

必要になれば、身体が勝手に使う。

 

そこで、ふと一つの言葉が浮かんだ。

 

八千流。

 

「…………」

 

知っている。

 

この世界へ来る前から知っていた名前。

 

いつか、この身体が名乗る名前。

 

あらゆる流派。

 

あらゆる刃の流れ。

 

その全てが我が手にある。

 

昔の俺は、数え切れない流派を修めたから八千流なのだと思っていた。

 

けれど、今なら少し違って見える。

 

この手で、どれほどの剣と戦っただろう。

 

どれほど見て、受け、使い、そして忘れただろう。

 

もう数えられない。

 

誰の剣だったのかも分からない。

 

それでも全部、この身体に残っている。

 

「…………」

 

そうか。

 

八千の流派を一つずつ覚えるという意味ではない。

 

あらゆる剣を見て、受けて、自分の中へ入れる。

 

そして、誰の剣だったのかさえ忘れる。

 

それでも、その全てがこの手の中にある。

 

あらゆる流派。

 

あらゆる刃の流れ。

 

我が手にあり。

 

言葉だけなら、ずっと知っていた。

 

けれど、その意味を知ったのは今が初めてだった。

 

月の光が刀の上を流れる。

 

「八千流」

 

口に出す。

 

昔、画面の向こうで知った名前とは、もう違って聞こえた。

 

これは原作の誰かから借りた名前ではない。

 

俺が歩き、斬り、斬られ、覚え、忘れた果てに辿り着いたものだった。

 

もう一度刀を振る。

 

――ヒュンッ。

 

何の型かは分からない。

 

誰の剣だったのかも分からない。

 

それでいい。

 

刀を納める。

 

「八千流」

 

今度は、自然に言えた。

 

知っていた名前に。

 

ようやく、俺自身が追いついた。

 

 

「名は」

 

ある男に聞かれた。

 

以前なら、迷わず清子と答えていただろう。

 

その日は少しだけ間が空いた。

 

「八千流」

 

「……八千流?」

 

「はい」

 

男が怪訝そうに眉を寄せる。

 

「変わった名だな」

 

「そうでしょうか」

 

「ああ」

 

「私は、気に入っています」

 

男が刀を抜く。

 

俺も抜いた。

 

八千流。

 

もう、借り物の名前ではなかった。

 

 

やがて、清子という名を知る者は少しずつ減っていった。

 

代わりに、八千流という名が俺より先に各地へ届くようになった。

 

強い者がいると聞けば現れる女。

 

相手が一人でも、十人でも刀を抜く女。

 

何の流派か分からない剣を使う。

 

人斬り。

 

化け物。

 

大罪人。

 

呼び方はいくつもあった。

 

俺には、どれもあまり興味がなかった。

 

ただ一つ。

 

八千流。

 

その名だけは、自分で選んだものだった。

 

 

ある夜、川辺に座って水面に映る月を眺めた。

 

長く歩いた。

 

たくさんの剣を見て、たくさんの人を斬った。

 

自分も数え切れないほど斬られた。

 

それでも傷は塞がり、また戦った。

 

そして、強くなった。

 

宗玄のところを出た頃とは、比べものにならない。

 

「…………」

 

だが、まだ足りない。

 

今の俺が宗玄と戦えば、どうなるのだろう。

 

あの頃のように何もさせてもらえないのか。

 

それとも今なら、一度くらい届くだろうか。

 

確かめたい。

 

けれど、戻る気にはならなかった。

 

まだ外には、俺の知らない剣がある気がする。

 

俺より強い者がいる気がする。

 

立ち上がり、刀を腰へ差した。

 

行く場所は決めていない。

 

ただ歩けば、いつか見つかる。

 

そう思っていた。

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