弟に代わってクリプタるのはいいんだけど 作:クリプター活躍求む
知らない内に日刊ランキング載ってて恐怖。
申し訳ない……しばらく週一ペースなんだ……忙しくて……エタらないようにがんばるから……
魔力を使ったせいか、それともストレスのせいか。ズキズキと痛みを訴える頭を無視しながら、静かな廊下をアナスタシアと歩く。
それに気付いている彼女は、ワタシの背中をそっと撫でながらワタシを部屋へと連れて行こうとしていた。
「あー、待って。大丈夫、そこまでじゃないよ」
「嘘おっしゃいな。顔、真っ青よ。下手に倒れられたら溜まったものじゃないわ。マスターなんだから、ちゃんとしてちょうだい。私にまで影響が出て困るの」
少し冷たい言葉とは裏腹に、彼女はワタシの手を優しく握って眉を曲げている。温かい青の瞳が不安げに揺れていて、やっぱり優しい子だ、と思わず笑みが溢れた。
「笑えるような状態じゃないのだけれど?」
「どんなときでも、きみに好意を示したって構わないだろ?」
「そういう問題じゃないわっ」
「ふふ、ごめんごめん。後でちゃんと休むからさ」
いつかのように顔を赤らめながらワタシを引っ張る彼女のおかげで、崩れかけていた平常心が再び戻り始めたのを感じる。あの子たちと戦ってからというものの、どうも本調子じゃなかったようだ。
それまで敵対すると考えていたとはいえ、実際にやるとなるとどうしても心は負けてしまうらしい。それでもこうして落ち着いていられるのは、きっと彼女が
もし、ワタシ一人だったとしたら。
その時は
そう考えると、やっぱり──
「──やっぱり、きみが私のサーヴァントで良かったよ」
小さいながらも、どこまでも大きくて温かいその背中に。
無性に縋りつきたくなって、そのままそっと抱きしめて、思う。
このまま、彼女の背中を追えるなら。側にいられるというのなら。
ワタシはまだ、大丈夫だ。
「……私だって、あなたがマスターで良かったわ」
突然抱きついたにも関わらず、嬉しそうに受け入れてくれたアナスタシアがくるりと回って、正面から再びワタシを抱きしめてそう言った。するりと首に腕を回されたので、そのまま喜んで受け入れると、顔がぐっと近づいているのに気付く。
彼女が顔をワタシの肩に埋めている中、彼女の耳がかわいらしく赤らんでいるのを見て、つい悪戯心が疼いた。
「お揃い、だね?」
「ッ?! ぅ、ええ」
なるべく低めの声で囁くように言えば、アナスタシアは肩を飛び上がらせてから同意してくる。
一瞬で赤くなった顔がかわいらしくて、これからもたまにやろうか、なんて思った時。
どこか遠く──
「そういえば、マカリー司祭が囚えたヤガを
ふっと抱きしめていた手を離して、顔を少し歪めながら部屋の方を見るアナスタシア。
早く行きましょうと言わんばかりにワタシの服の袖を引っ張る彼女を置いて、ワタシはふと思い出す。
囚えたヤガ。
それは確か、これからあの子たちの支えになってくれるもの。
あれほどの悲鳴だと、どれほど恐怖したのだろうか。心が完全に折れてはいないだろうか。
──もし、かれがしょうらいあのこたちについていかなかったら。
「……はぁ。やっぱりあなた、心配性にも程がないかしら?」
呆れたように言い放った彼女がワタシの手を勢い良く掴む。それはびっくりするほど温かくて、自分の手が今どれほど冷えてしまったのかを理解させた。
「しっかりしなさい。記憶を信じるのはいいけれど、それからズレる可能性なんていくらでもあるものよ。それくらい受け入れなさい。そもそもあなたがしようとしていることは何?」
「それ、は」
「ええそうよ、分かってるじゃない。覚悟はもう決めたのでしょう? ならしゃんとしてちょうだい」
全く、と彼女は握りしめていた手を離して歩き始める。
結局のところ、ワタシはずいぶん心が弱いらしい。たかがヤガの悲鳴一つで、ここまで揺らいでしまうとは。いや、やっぱりあの子たちとの戦闘が尾を引いているのかもしれない。
だとしてもどちらにせよ情けないだろ、とつい自嘲する。先へと進んでいくアナスタシアの後を追おうと思って、ふとやめた。
「アナスタシア。少し、彼と話してくるよ。ほら、砦の構造とかちゃんと直接知りたいし」
「あなたね……いえ、いいわ。大丈夫そうだし、さっさと行きなさい」
じっと彼女の目を見つめながら言えば、一瞬呆れたアナスタシアはあっさり許してくれる。
そんなに呆れるほど信頼されてないとは、よっぽどさっきのワタシが酷かったんだな。つい顔が引きつりかけたのをなんとか堪えて、笑う。
そうしてワタシは
***
喉が焼けるように熱い。このロシアの酷く冷たい空気が余計に気管を刺激して、つい息をすることを拒みかけてしまう。
なんとか膝を押さえて立ち止まり、荒れた息のまま正面にいるであろう神父とヤガを想像して、にんまりと笑う。
「っは、っは……や、マカリー。ちょっといいかな?」
「ふむ、君か。今はこの通り忙しいのだが」
顔を上げれば、死んだ魚のような目をした神父が、虚ろに涙を流しながら立つ一人のヤガを拘束している。
間違いない、パツシィだ。
「ちょうどそのことだよ。それ、ワタシに任せてほしくてね。きみには
「ほう、疲れていると。それは君ではなく?」
「まさか。だったらワタシは今頃そこで寝っ転がってるだろ?」
いつものような嫌味というか、なんというか。やっぱりコイツは苦手だな、と内心苦笑いしながら鼻で笑って言い返す。
と、あっさり神父は納得したようにして頷いた。
「それもそうか。いいだろう。ミノタウロスの場所は分かるかね。仮にも彼の主たる身だ、いくらあの時拒絶されたからとはいえど、私がいなくとも大丈夫だろう?」
相変わらず虚空のような瞳で笑う彼から、パツシィのことを奪い取るように引き寄せる。
どこか子ども相手のような態度でついこめかみに力が入るが、深呼吸してなんとか落ち着かせた。
「冗談。彼とは良好な関係を築けるに決まってるさ。きみこそ
「心外だな。皇女には良くしていると思うが」
「きみねぇ……そう思うなら、せめてその胡散臭さを無くせよ。皮肉もやめとけ」
そんなことないが、と言わんばかりに立つ神父につい眉間を揉みたくなる。なんなんだこいつ。このまま話した所で埒が明かない。
盛大に溜息を吐きながら、ワタシはにまにまと不気味な顔で笑う神父を置き去りにするのだった。
***
「ここ、だよな……あの神父、趣味わっるいなこれ……」
薄暗い地下の奥の奥。
地下牢とも言えるその部屋には寒気が立ち込めていて、魔術で保護されているにも関わらず鳥肌が立つようだった。
いくら
わざとこうして彼を怪物たらしめんとしているに違いない。多分半分くらい、いや七割くらいは愉悦目的なはずだ。
彼はそんな存在じゃないだろうに。
記憶にある温かな笑顔の
そういうのは失礼だろうと思い直した。目の前にいるのはあちらの
「聞こえてるかな、ミノタウロス? 一つ、お願いがあるんだ」
ごぅん、と地下特有の不気味な音がする中、ずしんと重たい足音が近づいてくる。
右の方でワタシが抑えているパツシィは、こんな状況の中でも未だに呆然と虚空を見ていた。
「ウゥ……? ダレダ、オマエ。ニンゲン? ニンゲンカ! ドッカイケ! クッチマウゾ!」
「覚えているかな、一応
「……ドウデモイイ。ナンノヨウダ?」
「彼を迷宮に入れてほしくてね。せいぜいインテリアが増えたと思えばいいさ」
そうやってパツシィの方に顎を向けて答えると、ミノタウロスは無言で迷宮を開き、そのままどこかへと行ってしまった。
どうせならもう少しコミュニケーションを取りたかったところだけど。
後でまた出る時に話せばいいだろう、と判断して、パツシィを連れ迷宮へと足を踏み入れた。びゅう、と妙に湿った居心地の悪い風が吹き付けてくる。
「いや、こりゃあ。とっとと出ていけたらいきたいけど……」
入ったはいいものの、あんまりにもパツシィがぼんやりしている。このままだと何も反応せずに、ただそこに立ち続けるばかりだろう。下手をすると、餓死しかねないのでは。
流石にそれはまずいだろう、と彼のその毛に覆われた身体を揺さぶるが、何も反応しない。目の前で手を振るも、それを追うような瞳の動きはなかった。
「おぉい、きみ。ヤガの。確か、パツシィくん?」
「ぁ……ぁぁ」
「ちょっと、しっかりしてくれって。ねぇ、怖かったのは分かるけどさ!」
それほどこの世界に生きる
改めてこれから敵対する相手の強大さを実感しながらも、少し焦る。このまま戻ってくれなければ、この先で詰みかねない。最悪、立香が死ぬだろう。
だったら。
「ああもう、仕方ないな! ガンドォ!」
「ッあ?!」
控えめな威力のガンドを打ち込むと、パツシィが声を上げて跳ねる。ワタシまでカルデアに染まっているのかもしれない。けど、仕方ないだろう。よっぽどの刺激がなければ覚醒しないだろうし、ヤガは頑丈だから大丈夫なはずだ。
案の定、パツシィはしばらく痺れたように身体を震わせた後、凄く怖いですと言わんばかりに叫んだ。
「な、なんだよ?!」
「おうおう、起きたね。こんにちは、パツシィ。かの皇帝陛下はどうだったかな?」
「っひ、あ、あれは……」
どうやら
面倒臭いなぁ、ともう一度ガンドの構えを取ると、「っあ、やめろやめろ! 大丈夫、もう大丈夫だよ!」、と全力で拒否された。
そうしているうちに冷静になったらしい彼は、ワタシから少しずつ距離を置いて、じっと睨みつけてきた。
「ッテメェ、誰だよっ」
「忘れてない? きみ、今捕虜なんだけど。というか聞いたことあるでしょ。旧人類の宮廷魔法師がいるーって。分かるかな、カルデアの敵って言えば」
「! アイツの姉か……」
なんてことだ、パツシィにもワタシのこと話してるらしい。この感じだと相当ワタシについては向こうで話されているな、と今の状況の不利さを思う。色々使える手段が筒抜けなのだ、元がいくら有利でも流石に厳しいものがある。どうせならどこまでワタシのことを知っているか、話させるべきだろう。
とはいえ、特にもう彼に用事はない。
結局のところ、終着点は同じであるし、ある程度流れは同じな筈だ。何かここで話して手を加えるような必要はない。
だから、まぁ。
「もうそろそろ行くんだけどさ、ちょっときみと話したいんだよね」
──これは、蛇足というやつなんだろう。
***
「──うん、それだけ。ありがとね、話聞いてくれて」
「なぁ、待てよ。おい、なぁ、そんなの。ふざけんな、ふざけんなよ! なぁ、待てよ! 待てって言ってんだろ、なぁ!」
一方的に捲し立てるように語ったままに、彼を無視して歩く。
いずれまた彼とは会うだろうし、今これ以上語ることはない。
パスの繋がる方へと歩いていくうちに、彼の悲鳴ともとれる叫び声はだんだんと聞こえなくなっていった。
いつの間にかワタシは迷路のような通路から、神殿のようなサイズの大部屋へとたどり着いていた。
恐らくパスの通りだと、彼はここにいるのだろう。
「いるかな、ミノタウロス」
「……デルノカ?」
「それもそうだけど、少しきみとも話したくて」
大部屋の奥、暗闇の深い方へと大声で呼びかけると、のそりと真っ白な巨体が姿を表す。
その姿に、きっと彼が
「これからの作戦について、共有したいんだ。いいかな」
下手な同情は、ただの痛みでしかないから。
だったら、せめて対等な関係でいるのがいいだろう。それが例え、将来彼が倒されることを前提としていて、それを伝えないものだとしても。
ミノタウロスは肯定するようにこちらへとゆっくり歩み寄ってきている。
その姿に、上手く作戦が働いてくれたらしいことに安心して、一先ず息を吐いた。
「まずね、ここの人たちを捕らえてほしいんだ。特にこの……」
持ってきた地図を広げて、なるべく分かりやすく説明する。
ある程度話し終えたところで、
「まぁ、色々お願いすることになるから。取り敢えずの、臨時収入みたいな?」
「……ニク」
「味が合わなかったらごめんよ。あんまり魔獣の肉とか触らないもんだからさ」
そういいながら私はドスンと座って、自分で作った小さめのジャーキーもどきを噛みちぎる。やはり、野生の味がした。
料理とも言えない、適当に作ったものだったけれど。
案外、ミノタウロスはどこか嬉しそうに食べてくれた。
「あー、どうかな」
「マァ、ワルクナイ」
「そりゃありがたいこった」
一通り食べ終わったミノタウロスの口周りをタオルで拭き取ってやると、驚いたように固まる。
こうしてみると、やはり子どもなんだよなぁ、とつい頬が緩みかけた。
「ナンデ、オレヲソンナメデミル?」
「そんな目って何かな?」
「……シラナイ」
未知との遭遇、不安、恐れ。
そんな感情を表すように、割れた仮面から覗く瞳がゆらゆらと頼りなく揺れている。結局のところ、
あちらの
「私はきみを尊重するよ。
「コワクナイノカ?」
「まったく。だったら、人に拒絶されるほうがよっぽどだね。むしろきみは
初めの一回、神父が連れてきた時は、
ただ、その時は驚くほど拒絶された。まるで、それが嘘だと分かっているように。
もしかすると、彼はそういったことに敏感なのかもしれない。
ミノタウロスという仮面を押し付けられた彼。
「なんせ、
そうやって笑いかけると、彼は歪に口角を上げて、今までよりずっと柔らかく瞳を細めるのだった。
「……ニク、ウマカッタ。アタタカカッタ。マタ、クイタイ。
アイツ、オレヲコワガラナカッタ。ドウシテ……アア、ナンダ。
──ニタモノドウシ、カ」