色のない世界で君と   作:もちもち。

7 / 7
5.5/笑わない君を知りたくて

6時間目は小テスト。初歩的な問題が並んだ問題用紙と、前からぶにょんぶにょんと奇妙な音。

あのタコのような生物に慣れた生ぬるい教室。

 

そして、俺が一番驚いたのは、あの日病院で出会った少女が、隣の席に座っていたこと。

チラリと彼女の方を見ると、相変わらずその目は暗くて、だけど、初めて会った時よりもほんの少しだけ表情があるようにも見えた。

 

「よぉ、カルマぁ、あのバケモン怒らせてどーなっても知らねーぞ」

「またおうちにこもってた方が良いんじゃなーい」

 

反対側から聞こえるのは不愉快な声。

 

「殺されかけたら怒るのは当たり前じゃん、寺坂。しくじってちびっちゃった誰かの時と違ってさ」

 

「な、ちびってねーよ!!」

 

ドン、と響いた、寺坂の机を叩く音。

反対から短く息が漏れたのが聞こえて、あの子の方を見たかったけれど、殺せんせーに「こらそこ!テスト中に大きな音立てない!」と、注意を受けた。

 

「ごめんごめん、殺せんせー。俺もう終わったからさ、ジェラート食って静かにしてるわ」

 

そう言って、職員室で冷やしていたジェラートをペロリと舐める。

 

「ダメですよ、授業中にそんなもの。まったくどこで買ってきて…」

 

初めは俺に注意をしていた殺せんせーは、手の中にあるジェラートを見て、ハッと驚くような表情を浮かべた。

 

「そっ!それは昨日、先生がイタリア行って買ったやつ!」

 

「あ、ごめーん。教員室で冷やしてあったからさ」

 

「ごめんじゃ済みません!溶けないよう苦労して寒い成層圏を飛んできたのに!」

 

……こいつが、嫌だと思うことをしよう。

そうすれば、こいつの本性が見れるから。

 

「へー……で、どうすんの?殴る?」

 

「殴りません!残りを先生が舐めるだけです!!」

 

そう言ってバカ正直にこちらに向かってくる殺せんせー。

バカだなあ、何も仕掛けていない訳ないじゃん。

 

「!!」

 

また、殺せんせーの触手が弾けるように溶けた。

 

「あっはー!まぁーた引っかかった」

 

続けて銃を発泡するが、それは全て避けられる。

だけど、殺せんせーの動揺は透けるように簡単に見えた。

 

「何度でも、こういう手使うよ。授業の邪魔とか関係ないし……それが嫌なら、俺の親でも殺せばいい」

 

銃を下ろして、ゆっくりと殺せんせーに近付く。

そして右手に持っていた食べかけのジェラートを、ナイフみたいに突き刺した。

 

「でも、その瞬間から…もう誰もあんたを先生とは見てくれない。ただの人殺しのモンスターさ。あんたという"先生"は俺に殺されたことになる」

 

殺すことは何も、命を奪うだけじゃない。

 

「はいテスト、多分全問正解。じゃあね"先生"。明日も遊ぼうね」

 

ぽい、と投げつけるように小テストを手渡す。そしてそのまま教室から出た。さて、明日は何をしようか。なんて、考えながら。

 

 

***

 

 

結局、何も浮かばないまま、駅の近く。飲み物を飲みながら、ある人物を待っていた。殺せんせーについて、ちょっと詳しいらしい人物を。

 

「……赤羽、くん?」

 

そこに、鈴のように優しい声がふってきた。

 

「まさか同じクラスだったなんてね。しかも隣の席とか。あの時はボロボロだったのに、すっかり元気そうじゃん」

 

あの時は、血の通っていないように真っ白だったその顔は、ほんのり血色の入ったピンク色をしていた。

相変わらず何を考えているのか分からないその目は、彷徨うことはなく俺を見ているのに、反応はなかった。

 

「ちょっとなに、無視?それとも――覚えてない?」

 

自分が思ってるよりも、焦った声が出た。

別に、他人なんて関係ないのに。それなのに、なんで、こんなに気になるのだろう。

 

「……あ、……病院では、ありがとうございました。えと、花宮 秋といいます。よろしく、お願いします、ね?」

 

「おっけー、秋ちゃんね。俺のことも、カルマでいいよ」

 

秋ちゃんという不思議な女の子はそれに困ったように、俯いて。そして、彼女の目が一瞬、外へ向けられる。そこに見えたのは渚君で。俺が待っていた人物でもあった。

 

「うっわ最悪。マジ死んでもE組に落ちたくねーわ」

 

頭の悪そうな奴が、渚君にそう言っていた。

俺は空き瓶を手に持って、それをそいつに向かって叩きつけた。

 

「えー、死んでも嫌なんだ……じゃ、今死ぬ?」

 

渚君にからんでいた生徒は「あっ、赤羽!!」「うわぁっ!」と言って逃げていく。

そういえば、去年、同じクラスで見たことあったような気がしたが、今となってはまるで興味がない。

 

「渚くん、……だ、大丈夫でしたか?」

 

心配そうな声で、秋ちゃんは渚君に話しかけて、手を差し伸べている。

それを横目に、気にしていない素振りで俺は笑いながら、口を開いた。

 

「あはは、殺るわけないじゃん」

 

「…花宮さん、カルマ君」

 

「ずっと良いオモチャがあるのに、また停学とかなるヒマないし」

 

あの"先生"を殺して。でも、殺したら、どうなるんだろう。何が変わるんだろう。

 

 

駅のホームに向かう途中、俺は本題に入った。

 

「でさぁ、渚君。聞きたいことあるんだけど、殺せんせーのこと、ちょっと詳しいって?」

 

渚君は歯切れ悪そうに「…う、うん。まあ、ちょっと」と肯定をした。

 

「あの先生さあ、タコとか言ったら怒るかな」

 

だけど返ってきたのはむしろタコがトレードマークだという回答。

だけど、ふっと笑みが溢れる。それは、すごくくだらないことを思いついたからだった。

 

「……カルマ君、次はなにを企んでんの?」

 

「俺さあ、嬉しいんだ。ただのモンスターならどうしようかと思ってたけど、案外ちゃんとした先生で」

 

ちゃんとした先生だから。

 

「ちゃんとした先生を殺せるなんてさ、前の先生は自分で勝手に死んじゃったからさ」

 

――殺しちゃったら、どうなるんだろう。

 

 

***

 

 

帰る方面の電車に乗ると、目の前には秋ちゃんがいて。混んでる車内の中、俺たちは向き合うように立っていた。

触れるか、触れないかギリギリの距離。上から見える小さくて細い身体が、揺れに反応して倒れそうにも見えた。

 

「混んでるけど、大丈夫?」

 

「え、と、はい……大丈夫、です」

 

緊張を含んだその声に、胸が少し痛くなる。

彼女はずっと下を向いていて、俺とは目が合わない。

 

「……俺のこと、怖い?」

 

怖いと言われたらどうしようか。

彼女の目の前で何度も、暴力を振るっている。普通の女の子なら、怖いと言われても仕方ない。

 

――だけど、彼女は予想もしない行動をした。

はじめて会った時と同じように、ふわりと俺の手を包み込む、小さい手。その手は氷のように冷たかった。

 

「……暴力は、嫌いです」

 

下を向いていたその顔が、こちらを向いた。

少し怯えたように揺れる瞳。震える手。

だけど、真っ直ぐにこちらを見る、秋ちゃんの瞳。

 

「……だけど、赤羽くんは、誰かを守れる人、だから……優しい赤羽くんは、怖くないです」

 

誰かを守れる。優しい。怖くない。

はじめてもらった評価に、どう受け取ったらいいか分からない。俺が優しいなんて言うのはきっと、この子は最初で最後だろう。

 

だけど、嘘に聞こえないその声と真っ直ぐに俺を見る目が、俺を離さない。

俺に似合わない言葉のはずなのに、秋ちゃんに言われると、心がくすぐったい。

 

「やっぱ、カルマって呼んでよ。秋ちゃんには、そう呼ばれたい」

 

だから、もっと近付きたいと思った。

もっとこの子を知りたくて、無表情以外の顔が見たい。笑わない君の笑顔が、見たい。

 

「……か、カルマ、くん」

 

小さくて、か細い声。

だけど、確かに届いた俺の名前を呼ぶ声が嬉しくて、思わず口角が上がっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

私はヒューマギア(作者:雨風歌)(原作:仮面ライダーゼロワン)

元、人間である「沙耶」はヒューマギア「サヤ」として復活を果たす。▼機械の体を手に入れた彼女はA.I.M.Sの一員として不破諫のサポートヒューマギアして新たな人生を送ることに。▼失った人間の記憶を取り戻すためにサヤは今日も自身の使命と向き合いながら仕事を行う。▼


総合評価:26/評価:-.--/連載:22話/更新日時:2026年09月10日(木) 00:31 小説情報

両親が転生者の無印イナズマイレブン(作者:双葉ヒカリ.com)(原作:イナズマイレブン)

両親が転生者の主人公神風双花(かみかぜ・そうか)が無印時代の雷門中で頑張る話。▼双花は一度見た技をコピーできる能力を持っていて(すべてコピーできるわけではない)両親がよくGOの技を使うので双花もGOの技をよく使う。▼そんなちょっとチートな力を持つ主人公と主人公をなるべく守るために原作どうりに進めようといろいろ頑張る親の話。


総合評価:49/評価:-.--/連載:6話/更新日時:2026年06月25日(木) 23:16 小説情報

藤襲山の巫女鬼 きめつ隠れ里噺(作者:chikuwabu)(原作:鬼滅の刃)

慶応四年。呪いを祓う力を持った幼い巫女が、鬼にされた挙げ句に「最終選別」で知られる藤襲山に放り込まれ。▼なんやかんやで呪いを自力で解き、鬼とは違う存在となって、相棒の手鬼とともに藤襲山に自分たちだけの隠れ里を作り、最終選別にちょっかいを出したり、鱗滝一門を曇らせたり、蜂蜜を舐めたり、眷属を作って里を開拓したりで、第三勢力としてまったりゆったり過ごしていくお話…


総合評価:2080/評価:8.8/連載:51話/更新日時:2026年09月15日(火) 23:00 小説情報

転生者『虚飾の魔女』(なお中身)(作者:白金の絹糸)(原作:BLEACH)

『虚飾の魔女』パンドラの身体で転生した一般リゼロオタク女子の話。斬魄刀はイマジナリーエキドナ。▼ なお、ブリーチの事は全然知らないものとする。▼↓扉絵風イラスト▼【挿絵表示】▼


総合評価:14101/評価:8.62/連載:35話/更新日時:2026年08月16日(日) 18:00 小説情報

境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー(作者:女にだって二言はないぜ?)(原作:鋼の錬金術師)

エドの双子の妹でアルの姉である主人公。▼幼い頃父、ヴァン・ホーエンハイムに連れられ兄弟と別れた少女が、約十年ぶりにエドとアルと再会する話。▼※旧アニメではなく原作をベースにして書いております。▼ オリジナル解釈、原作改変等多々ありますのでなんでも許せる方のみどうぞ。


総合評価:1767/評価:8.22/連載:12話/更新日時:2026年08月27日(木) 19:51 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>