2330年某日、日本列島は地球とは異なる世界へ転移した。
空気は呼吸できる。海があり、植物があり、動物がいる。重力も一日の長さも地球とほとんど変わらず、日本人は少なくとも日常生活そのものを送ることができた。
しかし空を見上げれば、地球ではないことは明らかだった。
見慣れない星空。異なる天体。そして日本の西の海の向こうには、地球には存在しなかった巨大な陸地が横たわっていた。
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『地球によく似ていて、地球ではない』
転移先の世界には豊かな生態系が存在する。植物や動物の多くは、日本人から見ても直感的に理解できる姿をしている。
馬に似た動物。鳥に似た生物。魚のように泳ぐ生物。
しかし、詳しく調べれば地球の生物そのものではない。地球で絶滅した生物を思わせるものもいれば、地球では存在しなかった体つきや生態を持つ生物もいる。
見慣れた世界に似ている。それなのに、どこかが違う。
日本の研究者たちは、そんな世界を少しずつ調べ始めることになる。
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『「魔法」が存在する』
さらに、日本が地球で知らなかった現象が存在した。現地の人々は、それを「魔法」と呼ぶ。
風を操る。火を起こす。身体能力を高める。傷を癒す。遠くのものを感じ取る。
そうした現象は迷信でも手品でもなく、実際に起きている。しかも一定の規則性を持ち、訓練によって扱うことができる。
日本側にとって、それが何なのかはまだ分からない。既存の科学理論だけでは説明できない。それでも、観測することはできる。
その事実だけでも、2330年の科学者たちには十分だった。魔法は「科学では説明できないから存在しない」のではなく、まだ説明できていない自然現象として研究対象になっていく。
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『西の海の向こう』
日本の西方には、大きな亜大陸が存在する。そこには多数の人々が暮らし、王国、都市、港、農村、交易路が存在している。
日本が最初に知る範囲では、その文明の多くは地球史でいう鉄器時代から中世・近世程度に見える。帆船が海を行き交い、馬や荷車が陸路を進み、城壁都市と王侯貴族が存在する。一方で、そこには地球史には存在しなかった魔法が、社会の一部として組み込まれている。
ただし、日本が最初に見るこの地域が、この世界全体を代表しているわけではない。
転移直後の日本には、まだそれを知る方法すらなかった。
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『最初の相手――ヴァレシア王国』
日本に最も近い地域の一つが、亜大陸東端のヴァレシア王国である。
半島と海に囲まれた人口約190万人の小王国で、農業と海運を基盤とし、複数の港湾都市を持つ。政治体制は封建王国だが、都市自治や商業活動も比較的発達している。周辺の大国に比べれば決して強国ではなく、外交によって独立を維持してきた国でもある。
そしてその東端にある地方港が、リヴァーノである。
人口約1万8,000人。運河、石畳、倉庫、商館、造船工房、市場、酒場が並ぶ、小さな港町である。
日本とこの世界の最初の接触は、王宮でも戦場でもなかった。この港の漁民が、「東の海に、見たこともない巨大な白い船がいる」と報告したことから始まる。
確認へ向かったのは、リヴァーノのベテラン船長ガルディオと、36名の乗組員を乗せた帆船《セルカ》。そして海上で彼らが出会ったのが、日本の海上保安庁巡視船だった。
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この世界について、日本はまだほとんど何も知らない。
どれほど広いのか。どれほど多くの国があるのか。魔法とは何なのか。海の向こうには何があるのか。
その答えを最初から知っている者はいない。
日本も、異世界側も、互いを知らないところから物語が始まる。