翌朝、ヴァレシア王国の視察団が最初に向かったのは、病院だった。
◇
「城ではないのですか」
医師代表が言った。
「病院です」
「……本当に?」
「はい」
日本側の担当者は、昨日から、この種の質問に慣れ始めていた。
大きく、明るく、清潔な建物。それだけなら、まだ理解できる。ヴァレシアにも、王侯や裕福な商人のための療養院なら、それなりのものがある。
だが、入口を通っていく人々が違った。老人、子供、働き盛りの人々、母親、職人らしい服装の男、学生。誰一人として、貴族らしくは見えなかった。
「ここにいる全員が」
ヴァレシアの医師が尋ねた。
「ここで、診てもらえるのですか?」
「基本的には」
「料金は」
説明が始まった。公的な医療、保険、自己負担、高額な治療、社会保障。翻訳はできた。だが、理解するには少し時間がかかった。
「つまり」
医師が言った。
「金がないから診察を受けられない、ということは」
日本側の医師は、少し考えてから答えた。
「制度の上では、それをできるだけ起こさないようにしています」
「できるだけ?」
「完全ではありません」
その答えに、医師は少し安心した。
「日本にも、失敗はあるのですね」
「山ほどあります」
即答だった。
◇
診療区域で、最初の衝撃があった。
「この方は」
ヴァレシアの医師が、一人の男性に目を留めた。
「患者さんですか」
「はい」
「お歳は」
本人の許可を取ってから、通訳が尋ねる。
「八十九歳です」
「……」
男性は、普通に歩いていた。杖もつかず、看護師と言葉を交わしながら。
「何のご病気で?」
「膝の関節を治療した後の、経過の確認です」
「膝?」
「軟骨の再生治療を受けているんです」
医師の顔が、止まった。
「再生?」
「はい」
「薬で?」
「細胞を使った治療も含みます」
「軟骨を」
「ある程度は」
「生やす、と?」
「簡単に言えば、そうです」
医師は、自分の膝に目を落とし、それから八十九歳の患者を見た。
「……八十九」
「はい」
「それで、歩いている」
「はい」
「膝を治して」
「はい」
それは、昨日の「普通」という言葉とは、また違う種類の恐怖だった。
◇
「人間というのは」
ヴァレシアの医師は、案内役の医師に聞いた。
「日本では、何歳まで生きるのです」
「平均寿命でしたら、百歳を少し超えます」
数字としては、聞いていた。
「健康なままで?」
「健康寿命は、九十五歳前後です」
これも、聞いていた。
だが昨日は、街を歩く老人を見た。そして今日は、八十九歳の人が自分の足で病院に来ている。数字が、人間の姿になったのだ。
「九十五まで」
医師は言った。
「働くのですか?」
「人によります」
「九十でも?」
「いますよ」
「兵士も?」
「それは、また別の話です」
「農民は」
「職業と、ご本人次第でしょうね」
「医師は?」
「いますよ」
ヴァレシアの医師は、しばらく黙り込んだ。
「私は、五十四歳です」
「はい」
「日本でなら」
「はい」
「若い方ですか?」
日本側の医師は、少し困った顔をした。
「若者とは言いません」
「そこまでではない、と」
「でも」
彼は笑った。
「引退を考えるような年齢では、ありませんね」
ヴァレシアの医師は、深く息を吐いた。
「妻に、聞かせてやりたい」
◇
次は、治療の設備だった。
映像、血液、臓器、骨、細胞。病気を、体の外から──あるいは体の中から見ることができる。魔法ではない。
「透視ですか?」
魔術師の代表が尋ねた。
「似ている部分はあります」
「魔力なしで?」
「はい」
「人体の中を?」
「はい」
「切らずに?」
「はい」
魔術師は、しばらくその機械を見つめていた。
「これは」
「はい」
「治療魔法より、便利な部分がありますね」
日本側の医師は、少し嬉しそうな顔をした。
「逆の部分も、ありそうですね」
「あります」
「例えば?」
「魔力の循環に関わる障害については」
魔術師は答えた。
「あなた方は、まだほとんど何もご存じない」
「その通りです」
あまりにも素直な返事だった。魔術師は、少し拍子抜けした。
「反論なさらないのですか」
「知らないことは、知らないので」
「……」
「教えていただけるのなら、助かります」
昨日の魔術師は、日本を、何でも知っている国だと思いかけていた。だが、違った。この国は、知らないことを、妙に怖がらないのだ。
◇
「老いというものを」
アレシナが尋ねた。
「治せるのですか」
医師は、すぐに首を横に振った。
「そこまではできません」
「でも、百歳まで」
「老化は、します」
髪は白くなり、筋力も落ち、回復も遅くなる。病気も増えていく。
「ただ」
「ただ?」
「悪くなったところを、昔よりも直せるようになったんです」
血管、関節、目、臓器、免疫、筋肉、骨。
「全部を、新しく?」
「そんなに都合よくはいきません」
「若返る薬は?」
「限定的なものなら」
「二十歳に戻れる?」
「無理です」
アレシナは、なぜか少し安心した。
「では」
「はい」
「百歳の人は、百歳のまま?」
「百歳です」
「ただ」
「昔の百歳よりも」
医師は言った。
「元気でいられる期間が、長いんです」
◇
「元気でいられる、期間」
ヴァレシアの医師は、その言葉を、何度も小さく繰り返していた。
◇
病院を出るころには、彼の手帳は半分近く埋まっていた。
だが、最後に書き留めたのは、高度な治療法のことではなかった。
『病気になってから治すだけではない』
そして、その下に。
『病気にならない時間を、伸ばす』
◇
次の視察先は、学校だった。
◇
「子供が、多いですね」
当たり前の感想だった。
「学校ですから」
日本側の担当者が答えた。
「そういう意味ではなく」
学者代表は、少し困った顔をした。
「全員が、ですか?」
「何がです?」
「学んでいるのは」
「はい」
「全員?」
「基本的には」
昨日、同じやり取りを何度繰り返しただろう。
◇
ヴァレシアにも、学校はある。
教会、都市、魔術師ギルド、貴族の家、商人の組合。学ぶ場所は、珍しくはない。文字の読める者も、周辺の国々と比べれば多い方だ。
だが、国中の子供たちが当たり前のように学校へ通う、という意味ではなかった。
「農村でも?」
「はい」
「漁村でも?」
「はい」
「山の中でも?」
「はい」
「貧しい家でも?」
「はい」
「娘も?」
「もちろんです」
学者は、一瞬アレシナを見た。
「殿下」
「何?」
「今の質問は、お忘れください」
「覚えておくわ」
◇
教室に入ると、子供たちが視察団を見つめた。視察団も、子供たちを見つめた。互いに、相手が珍しかった。
日本の子供たちにとっては、異世界から来た王女と魔術師。ヴァレシアの人々にとっては、ごく普通に読み書きをし、数字を扱い、世界地図を見ている、庶民の子供たち。
◇
「これは」
学者が、教材を手に取った。
「何歳向けのものです?」
答えを聞いて、彼は黙り込んだ。もう一度、教材を見る。
「……本当に?」
「はい」
計算、自然、社会、言語、歴史。ヴァレシアであれば、専門教育に入り始める年齢になって、ようやく初めて扱う内容もある。
もちろん、日本の子供たちが全員天才というわけではない。分からない子もいれば、間違える子もいる。隣の子と話していて教師に注意される子もいるし、眠そうにしている子までいる。
そのことが、逆に、学者には恐ろしかった。選ばれた神童ではない。普通の子供たちなのだ。
◇
「教師は」
学者が尋ねた。
「これを全部、覚えているのですか?」
「全部、というと?」
「これほど多くのことを」
「教師にも、それぞれ専門があります」
「では、子供一人に対して、何人もの教師を?」
「そういうことになりますね」
「……贅沢だ」
学者は、素直に言った。日本側の教師が、少し笑う。
「教育には、お金がかかります」
「それでも、ですか?」
「必要なことですから」
短い答えだった。
◇
端末、映像、立体表示、一人ひとりに合わせた学習支援、AI。そこでも、ヴァレシアの人々は驚いた。
だが、学者が一番長く見つめていたのは、機械ではなかった。教師だった。
一人の子供が、問題を間違えた。教師が説明し、子供はもう一度考え、また間違えた。
教師は、怒鳴らなかった。答えを教えることもしなかった。別の方法で説明し直したのだ。
そして三度目、子供は自分の力で答えを出した。
「なるほど」
学者が呟いた。
「何が?」
アレシナが聞いた。
「昨日」
「ええ」
「誰がこの国を作ったのか、と申し上げました」
「そうね」
「少しだけ」
学者は、教室を見渡した。
「その答えが、分かりました」
◇
学校を出ると、校庭から子供たちの声が聞こえてきた。アレシナは、少し立ち止まった。
「父上が」
「はい」
「国の強さは、兵士の数だけでは決まらない、と言っていたことがあります」
学者は頷いた。
「正しいと思います」
「なぜ?」
「兵士は」
学者は言った。
「一世代で、死んでいきます」
「……」
「でも」
彼は、校舎を見上げた。
「教育は」
一拍、置いて。
「次の世代にも、残るのです」
◇
午後、一行は都市を離れた。
◇
「ここからが、私の出番です」
農業代表が、少し元気を取り戻した。
病院も学校も、彼にとっては専門外だった。だが、畑なら自分の世界だ。
日本がどれほど進んでいようと、土と水と種と太陽、そして作物。そこだけは変わらないはずだ──彼は、そう思っていた。
◇
「……人は?」
最初に出てきた言葉が、それだった。
◇
広い平野だった。耕地が、規則正しく続いている。
だが、農民の姿がほとんど見えない。代わりに、機械が動いていた。大きなものも、小さなものもある。人の乗っていないもの、低く飛ぶもの、地面を走るもの、作物の列に沿って進んでいくもの。
「今日は」
農業代表が言った。
「お休みなのですか?」
「いいえ」
「では」
「作業中です」
「誰がです」
日本側の担当者は、畑に目をやった。
「機械が、です」
◇
農業代表は、しばらく何も言わなかった。
◇
土壌、水分、栄養、病気、害虫、生育の具合、天候、収穫の時期。すべてが測られ、必要な場所に、必要なだけの水と肥料と防除が施される。
人間は判断し、計画し、監督し、修理をする。だが、何十人もの人が腰を曲げて、広大な土地を歩き回るわけではない。
「一人で」
農業代表が聞いた。
「どれだけの広さを見るのです」
「昔より、かなり広い範囲を管理できます」
日本側の農業関係者は、具体的な面積ではなく、そう答えた。数字を、まだ勝手に独り歩きさせないためだった。
だが、ヴァレシア人にとっては、それで十分だった。
「だから」
彼はまた、その言葉を口にした。
「八千三百万人を──」
◇
昨日、港で、彼は同じ言葉を呟いた。だが今日、その意味は少しだけ変わっていた。
◇
「しかし」
彼は、少し安心したように言った。
「これは、平地だからできることでしょう」
「そうですね」
「山では、無理でしょう」
「同じ方法では、難しいです」
「やはり」
初めて、勝ったような顔をしていた。アレシナは、嫌な予感を覚えた。
◇
一行は、移動した。
◇
着いたのは、中山間地域だった。
畑は小さく、曲がりくねっている。段差があり、斜面があり、道も狭い。ここなら、ヴァレシアにも似ている。
「ほら」
農業代表が、少し嬉しそうに言った。
「機械は、入れない」
「大型の機械は、入りにくいですね」
日本側の担当者が答えた。
「でしょう」
「ですので」
向こうから、人が歩いてきた。
──いや、違った。
◇
「……人、か?」
◇
二本の足に、二本の腕。頭と胴がある。人間に近い姿だが、人間ではない。それは荷物を抱えて、畑の畝を進んでいた。その隣には、高齢の農家の人が歩いている。
「何です、あれは」
魔術師が言った。
「人形?」
「作業用のロボットです」
農業代表が、黙り込んだ。
「魔法の人形ですか?」
「魔法は使っていません」
「ゴーレム?」
「違います」
「では」
「機械です」
昨日から、「機械」という言葉が、何にでも出てくる。
◇
ロボットは畑で箱を運び、作物の具合を確かめていた。人間が指示を出すと、別の作業に移っていく。
動きは、人間そのものではない。だが、斜面でも、狭い場所でも、車輪で走る大型の農機よりはるかに柔軟だった。
「これを」
農業代表が尋ねた。
「農家が一軒ずつ持っているのですか?」
「必ずしも、そうではありません」
「では」
「共同で利用することも多いですね」
「共同で?」
「地域や事業者で保有して、必要なときに借りるんです」
「借りる?」
「はい」
「高価だからですか?」
「個人で何台も持つより、効率がいいので」
「これは」
彼は、ロボットを見つめた。
「ものすごく、高価なのでは」
「高性能なものは高いですが、農作業用の一般的な型なら、比較的安価ですよ」
沈黙が落ちた。
◇
「比較的」
農業代表は、ゆっくりと繰り返した。
「何と、比べて?」
日本側の担当者は、困った顔をした。
「……他の、ロボットと?」
アレシナは、顔を伏せた。笑ってしまいそうだった。
◇
高齢の農家の人が、通訳を介して、視察団に説明してくれた。
昔、中山間地域では、人が減ると農地を維持できなくなるという問題があった。大きな機械は入りにくく、若い働き手も少ない。そこで、小型の機械や無人機、そして人型のロボットを、地域で共有するようになったのだという。
「あなたは」
農業代表が聞いた。
「お幾つなのですか」
農家の人は、七十代だと答えた。
ヴァレシアの人々は全員、少しだけ反応した。昨日なら、驚いていただろう。だが今日は、病院を見た後だった。
「まだ、お若い」
誰かが呟いた。
今度は、日本人の方が変な顔をした。
◇
「この人形が」
農業代表は、まだロボットのことを人形と呼んでいた。
「もし、なかったら」
「もっと大変でしょうね」
「何人分の働きをするのです?」
「作業によります」
「疲れないのですか?」
「充電は必要です」
「食事は」
「しません」
「眠りは?」
「しません」
「文句は」
日本の農家の人は、一瞬考えた。
「故障すると、ある意味で、かなり文句を言いますね」
「喋るのですか?」
「警告を出すんです」
「なるほど」
ヴァレシアの農業代表は、なぜかそこだけ納得した。
◇
畑の端には、小さな建物があった。農産物の加工設備があり、販売もしていて、配送も手がけている。観光客向けの商品や、食事まで出していた。
「農家、なのですよね?」
アレシナが尋ねた。
「はい」
「お店も?」
「はい」
「加工も?」
「しています」
「運送も?」
「一部は、外部に委託しています」
「……いったい、何屋さんなの?」
日本側の担当者が、少し笑った。
「それは昔から、日本でも議論があるんです」
◇
農業代表の手帳も、埋まり始めていた。だが、彼が最後に書き留めたのは、機械の名前ではなかった。
『広い土地では、巨大な機械』
その下に。
『狭い土地では、人の形をした機械』
そして少し考えてから、さらに一行。
『土地を捨てないために、方法を変える』
◇
帰りの列車の中で、視察団は昨日よりも静かだった。
驚き疲れた、というのもある。だが、それだけではなかった。
昨日見たものは、大きく、速く、便利なものだった。今日見たものは、違っていた。
◇
「殿下」
学者が言った。
「何?」
「日本は」
「ええ」
「なぜ、強いのでしょう」
アレシナは、すぐには答えなかった。
「船かしら」
「違うと思います」
「兵器?」
「それも、結果でしょう」
「人口?」
「それだけなら──」
学者は、窓の外を見た。農地、住宅、遠くの町。
「八千三百万もの人が、百年近く健康に生きる。ほぼ全員が学ぶ。少ない人数で、広い土地を耕す。そして、それを」
少し考えてから、彼は言った。
「何世代にもわたって、続けている」
アレシナも、窓の外を見た。
「父上が、言っていたわ」
「何と?」
「弱い王国に、自由も独立もない、と」
「はい」
「私は」
一拍、置いて。
「強い国というのは、大きな砲をたくさん持っている国のことだと思っていた」
「今は?」
「分からなくなったわ」
◇
「私は、少し違います」
前の席から、医師代表が会話に加わった。
「何が?」
「強い国というのは」
彼は、自分の手帳を閉じた。
「人が、簡単には死なない国なのかもしれません」
「食えなくならない国」
農業代表が言った。
「知らないままにしない国」
学者が言った。
「知らないことを、認められる国」
魔術師が言った。
そして最後に、商人代表が言った。
「それでいて」
「何?」
「金を払って、外国の食べ物を買いたがる国」
数秒の静寂の後、アレシナが笑った。全員も、少し遅れて笑った。
◇
その夜、アレシナは、王都へ送る中間報告を書いた。
何から書くべきか、迷った。病院、学校、農業。どれも重要だった。何度か文章を書いては、消した。
最後に、冒頭にこう記した。
──日本国の力を、保有する兵器のみから判断することは適切ではない。
一行、空ける。
──彼らの強さは、日常の生活を維持する能力そのものにある可能性が高い。
また、手が止まる。それから、続けた。
──高齢者を長く健康に保つ医療。
──国民に広く行き渡った教育。
──人口が減る中でも、農地を維持する自動化。
──そして、それらを一部の富裕層の特権としてではなく、社会の制度として、広く運用していること。
そこまで書いて、アレシナは思った。
これを、父はどう読むだろう。
◇
同じころ、ヴァレシアの王宮では、アルヴェリオ三世が、まだ届いていない報告を待ちながら、別の文書を読んでいた。
ベルカディア、ヴァルガニア、東海岸、商人、諸侯。日本が現れてから、紙が増えた。
「陛下」
宰相が言った。
「王女殿下は、今ごろ」
「驚いているだろうな」
「何に、でしょう?」
アルヴェリオは、少し考えた。
「軍艦ではないと思う」
「では」
「分からん」
王は、机の上の日本関係の資料を見つめた。
「だから」
一度、息を吐く。
「行かせたのだ」
◇
その答えの要旨が届いたのは、翌朝のことだった。
王は報告の最初の数行を読むと、しばらくのあいだ動かなかった。
「何と?」
宰相が尋ねた。アルヴェリオは、紙から目を離さずに言った。
「やはり」
「はい」
「船では、なかった」
◇
ヴァレシアの人々は、日本へ来る前、八千三百万という数字に驚いた。その人口を養う国力に、恐怖した。「いわみ」を見て、その技術に驚いた。宇宙の話を聞いて、理解することを諦めた。
だが、実際に日本を歩いてみて、少しずつ、違うものが見え始めていた。
日本の強さとは、一隻の船ではない。一機の航空機でも、一門の砲でもない。
百歳近い人が、朝、自分の力で起きる。子供が、当たり前に学校へ行く。広い平野を、少ない人数で耕す。山あいの小さな畑を、機械と老人が守る。水が出て、列車が走り、病院が開き、学校が始まり、畑に作物が育つ。
そして翌日も、同じことが続いていく。それを八千三百万人分、何十年も、何百年も続けてきたのだ。
それが国家というものなのだとしたら、ヴァレシア王国が日本から本当に学ぶべきものを、視察団はまだ、何一つ持ち帰れてはいなかった。