2330年日本国、異世界へ   作:水野芽生

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第6話:沖合の白船

 

 翌朝。リヴァーノの東方監視塔が最初に「いわみ」を発見したころ、日本側はまだ上陸するつもりなどなかった。

 

 巡視船「いわみ」は、港から十分に離れた沖合で速力を落としていた。朝日を受けて、白い船体が輝いている。昨日ガルディオたちと接触した海域よりは西へ進んでいるが、リヴァーノ湾に入るにはまだ遠い位置だ。

 

「沿岸まで、距離八・四海里」

 

 艦橋で神谷玲司が報告した。

 

「予定位置です」

 

 船長の三浦直哉が頷いた。

 

「停止。対地速力ゼロ近傍で維持しろ」

 

「了解」

 

 推進出力が落ち、百メートル近い巡視船が、ゆっくりと海上で足を止めた。

 

 これ以上は進まない。理由は単純だった。

 

 ――まだ、招かれていないからである。

 

          ◇

 

「昨日の三人は、領主に報告すると言っていたな」

 

 三浦が確認した。

 

「はい」

 

 言語担当官が答える。

 

「最後の会話では、“リヴァーノの領主に報告する”“再び話したい”というところまでは、かなり高い確度で取れています」

 

「正式な入港許可については?」

 

「ありません」

 

「なら、待つ」

 

 神谷が海岸方向の映像を見た。

 

「向こうは、こちらを把握しています」

 

「そりゃあ、これだけ目立つ船だからな」

 

 望遠映像の中には、港の塔や城壁、建ち並ぶ屋根、そして海岸沿いを走り回る人々が映っていた。高倍率の光学系なら、岸壁でこちらを指差している群衆の姿まで見て取れる。

 

 だが、「いわみ」は動かない。

 

 三浦は、昨日の接触で得た情報を思い返していた。ヴァレシア王国、リヴァーノ、領主、国王、貴族、魔術師――そして、複数の知的種族。

 

 理解できる言葉は増えた。それでも、社会そのものについては、まだほとんど何も分かっていない。

 

「こっちの感覚で港に入ると、危ないな」

 

 三浦が言った。

 

「軍事的に、ですか?」

 

「外交的に、だ」

 

 神谷の問いに三浦が答えると、高瀬千尋が柔らかく続けた。

 

「向こうからすれば、昨日会ったばかりの正体不明の巨大船が、翌朝いきなり港まで突っ込んでくるわけですからねぇ」

 

「巨大ってほどでは」

 

「向こうの船と比べてみなさい」

 

「……巨大ですね」

 

 「いわみ」は、二十四世紀の日本では標準的な大型巡視船にすぎない。しかし、リヴァーノの港に出入りする船から見れば、十分すぎるほど巨大だった。まして、帆もなく沖合で静止しているのだ。その事実だけでも、向こうには理解不能だろう。

 

          ◇

 

 実際、理解不能だった。

 

「止まっています」

 

 東方監視塔の上で、監視員が報告した。港務官は望遠鏡を覗き込む。

 

「本当にか?」

 

「先ほどから、位置がほとんど変わっていません」

 

「錨を下ろしたのか?」

 

「見えません」

 

「風は?」

 

「南東から、弱く」

 

「潮は?」

 

「北寄りです」

 

 港務官は、再び望遠鏡を構えた。

 

 白い船は動かない。少なくとも、帆船のように風に流されている様子はなかった。

 

「昨日の報告通りか」

 

「はい」

 

「帆がなくても進める」

 

「はい」

 

「そして、帆がなくても止まれる」

 

「……はい」

 

 港務官は黙り込んだ。考えてみれば当然のことなのだが、実際に目の前でやられると気味が悪い。

 

 そのころ、領主館では別の攻防が続いていた。

 

          ◇

 

「見に行くだけだ」

 

「なりません」

 

「塔までなら」

 

「なりません」

 

「港務所は?」

 

「まだです」

 

「昨日は、港務所ならいいと言っただろう」

 

「安全を確認した“後”なら、です」

 

 忠臣の騎士は、今日も領主の前に立ちはだかっていた。領主は腕を組む。

 

「相手は沖で待っている」

 

「だからこそです」

 

「攻めてくる様子もない」

 

「それも確認中です」

 

「礼儀正しいではないか」

 

「その点については、同意します」

 

 横から娘が言った。領主が嬉しそうに振り向く。

 

「だろう?」

 

「だからといって、お父様が港へ走ってよい理由にはなりません」

 

「走らない。馬車で行く」

 

「言葉の問題ではありません」

 

 机の上には、朝一番に監視塔から届いた報告が置かれていた。白い大型船が湾外で停止。武器の使用なし。小舟の発進なし。信号らしき灯火あり――明らかに、こちらの反応を待っている。

 

 騎士は、その報告書を指で叩いた。

 

「相手は、待ってくれているのです」

 

「うむ」

 

「ならば、こちらも手順を踏みます」

 

「手順は大事だ」

 

「閣下がそれをおっしゃいますか」

 

          ◇

 

 結局、先に出港したのは領主ではなく、港務所の小型公用船だった。

 

 三十トンほどの二檣帆船で、船首にはリヴァーノ領の旗と交渉旗が掲げられている。乗っているのは港務所の次席官と書記、魔術師二名、護衛兵八名、それに昨日「いわみ」に乗ったネリオだった。

 

「なぜ私が」

 

 出港しながら、ネリオは呟いた。

 

「昨日、日本人と話したからだ」

 

 次席官が答えた。

 

「私以外にも、ファルネが」

 

「魔術師ギルドに連れていかれた」

 

「ああ……」

 

 ファルネは帰港直後から、ほとんど拘束に近い勢いで魔術師たちの質問攻めにあっている。

 

「ガルディオ船長は?」

 

「寝ている」

 

「……あの人」

 

「夜明けまで酒場で話していたらしい」

 

「領主閣下に先に報告するって言ってたのに!」

 

「報告した後だから問題ない、と本人は主張している」

 

 ネリオは頭を抱えた。

 

 船尾では、航海魔術師が《風走り》を使っていた。帆の周囲に空気が集められ、自然の風より一段強い風を受けて、公用船は沖へ向かって速度を上げていった。

 

          ◇

 

「小型船一隻、出港」

 

 「いわみ」のOICに、自動で表示が出た。

 

「こちらへ向かっています」

 

 神谷が映像を拡大する。帆船で、旗を掲げ、乗員は十数名だ。

 

「武装は?」

 

「小火器らしきものあり。長物が八。刀剣複数。砲は確認できません」

 

 高瀬が画面を眺めた。

 

「儀礼的な護衛でしょうかねぇ」

 

「油断はできませんよ」

 

「してませんよ」

 

「高瀬さん、いつもそう見えるんですよ」

 

「損な顔なんです」

 

「昨日の人物はいるか」

 

 三浦が割って入ると、AIが顔貌照合を開始した。

 

『一致候補あり。昨日同船した書記官と推定。信頼度九九・二パーセント』

 

「ネリオか」

 

 昨日一日で覚えた名前だった。

 

「なら、話は早そうだ」

 

「高速艇を出しますか?」

 

「いや」

 

 神谷の問いに、三浦は首を振った。

 

「向こうをこちらへ来させよう。船上へ招くかどうかは、先方の意思を確認してからだ」

 

「了解」

 

          ◇

 

 公用船は、「いわみ」から二百メートルほどのところで帆を落とした。ネリオは白い船を見上げた。

 

「昨日より、大きく見えるな」

 

「昨日も来たのか?」

 

 次席官が訊いた。

 

「乗りました」

 

「……よく乗ったな」

 

「私もそう思います」

 

 通信魔術師が、共鳴器を取り出した。

 

「これを使いますか?」

 

「通じるのか?」

 

「日本語には通じません」

 

「では、何のためだ」

 

「音を大きくします」

 

「なるほど」

 

 魔術師が術式を起動すると、ネリオの声が海上に大きく広がった。

 

「日本船『イワミ』!」

 

 日本側の外部マイクがその声を拾い、AIが即座に処理する。

 

『呼びかけ:日本船“いわみ”』

 

 艦橋に、少しだけ安堵の空気が流れた。

 

「もう、船名まで発音できるようになりましたねぇ」

 

「昨日、何度も言ったからな」

 

 高瀬にそう返して、三浦は外部スピーカーへ接続し、翻訳AIを介して答えた。

 

『こちらは、日本国の船、いわみです。あなた方の話を聞きます』

 

 現地語はまだ少し硬い。だが、昨日とはまるで別物だった。公用船の上で、次席官が目を見開く。

 

「……普通に喋ったぞ」

 

「昨日の夕方より、さらに上手くなってます」

 

 ネリオが呟いた。

 

「何だ、それは」

 

「だから、私にも分からないんです」

 

          ◇

 

 ネリオが巻物を開いた。領主府と港務所の印章が押された書状だ。

 

「リヴァーノ領主より、日本の者たちへ」

 

 彼はゆっくりと読み上げていく。

 

「昨日の海上での平和的な接触を、喜ばしく思う」

 

『昨日の平和的接触を歓迎する』

 

 「いわみ」のAIが、リアルタイムで翻訳していく。

 

「日本の代表者と、リヴァーノにて話し合いを行うことを希望する」

 

『日本側代表との会談を希望』

 

 神谷が三浦を見たが、三浦はまだ答えなかった。

 

「ただし、初めての訪問であるため、訪問の人数は小規模とすること」

 

『少人数での上陸を要請』

 

「武器は、護衛に必要なものを除き、持ち込まないこと」

 

『護衛用以外の武器を制限』

 

「案内なしに、港の区域の外へ出ないこと」

 

『行動区域の制限』

 

「互いの安全のため、病および毒その他の危険について、確認を行うこと」

 

 そこで、検疫官が反応した。

 

「向こうから、検疫の概念を出してきましたか?」

 

「“病気を持ち込まないこと”に近いですね。体系的な検疫制度まで意味しているかは不明です」

 

 言語担当官の答えに、三浦は小さく頷いた。

 

「十分だ」

 

 ネリオが、最後の一文を読み上げた。

 

「これらに同意するならば、リヴァーノは日本の使節を客人として迎える」

 

 しばらくのあいだ、海上は静かだった。

 

          ◇

 

「……普通ですね」

 

 神谷が言った。

 

「何がだ?」

 

「条件です。思ったよりずっと合理的です」

 

「人が社会を作っているんだ。合理性くらいあるさ」

 

「まあ、そうですけど」

 

 高瀬が微笑んだ。

 

「神谷君、剣と帆船を見て、中身まで昔の人だと思ったでしょう?」

 

「そこまでは」

 

「思いましたね?」

 

「……少しだけ」

 

 三浦は会議回線を開いた。これは「いわみ」だけで決められる話ではない。

 

 昨日の接触の後、日本政府側ではすでに、未知文明との接触に関する臨時方針がまとめられていた。沿岸のリヴァーノへ、少人数の調査・外交要員を送る案も準備されている。

 

 ただし日本側は、リヴァーノの領主館でどのような議論が行われたのかを知らない。誰が日本に好意的で、誰が警戒しているのか。領主がどんな人物なのか。何一つ分からない。分かっているのは、正式な招待が届いたということだけだった。

 

「本部へ」

 

 三浦が言った。

 

「リヴァーノ側より、正式な招待。上陸条件付き。内容を送る」

 

          ◇

 

 返答が来るまで、四十二分かかった。

 

 そのあいだ、リヴァーノの公用船は海上で待ち、「いわみ」も待った。双方とも、相手が何をしているのかよく分からないままだった。

 

「ずいぶん時間がかかるな」

 

 次席官が言った。

 

「上の人と相談してるんでしょう」

 

「船長が決められないのか?」

 

「日本では、船長より上の人がいるらしいです」

 

「海の上なのにか?」

 

「国の船ですから」

 

 次席官は少し考えた。

 

「海軍のようなものか」

 

「本人たちは、海軍ではないと言っていました」

 

「では何だ?」

 

「……海の警備をする役所だとか」

 

「こんな船でか?」

 

「はい」

 

「では、軍艦はもっと大きいのか?」

 

 ネリオは答えなかった。知りたくない、と思ったからだ。

 

          ◇

 

 「いわみ」の臨時会議室には、先遣使節の候補者たちが集まっていた。

 

 使節団長を務める外務官、政治・地域分析の担当者、言語文化の担当者、そして未知現象――政府文書上はまだ「特異物理・生体現象」と呼ばれている――を扱う科学担当者の四人だ。それとは別に、検疫官が二名と、護衛要員が控えている。

 

「招待の受諾が決まりました」

 

 三浦が説明した。

 

「ただし、これは国交樹立の交渉ではありません」

 

「初期接触と、情報交換ですね」

 

 使節団長が頷いた。

 

「はい。相手側の主権と慣習を、最大限尊重してください」

 

「武器については?」

 

 護衛責任者が尋ねた。

 

「携行は認められます。ただし露出は最低限に。長物は原則として艇内に保管」

 

「了解」

 

「接触プロトコルは、昨日より一段緩和できます」

 

 検疫官が口を挟んだ。

 

「海水、大気、表面試料から、既知の即時的な危険は確認されていません」

 

「現地の人との直接接触は?」

 

「まだ避けます」

 

「握手も?」

 

「現段階では推奨しません」

 

「分かりました」

 

 三浦は一同を見渡し、少し間を置いてから続けた。

 

「そして――魔法らしき現象は、実在するものとして扱ってください」

 

 科学担当の目が輝き、反対に護衛責任者の顔は硬くなった。

 

「昨日の、帆の加速現象ですね」

 

「それだけではありません」

 

 三浦は答えた。

 

「詳細は、移動中に」

 

          ◇

 

 午前九時五十八分。海上に、再び日本語から変換された声が響いた。

 

『リヴァーノ領主からの招待に感謝します』

 

 ネリオは息を呑んだ。昨日よりも、ずっと自然な言葉だった。

 

『我々は、示された条件を尊重します。少人数の代表者を送りたいと考えます』

 

 次席官が頷き、ネリオが答えた。

 

「歓迎します」

 

 一瞬の間を置いて、返答が来る。

 

『歓迎を確認しました』

 

 もはや通訳というより、普通の会話に近づき始めていた。次席官は白い船を見上げた。

 

「どのくらいで来る?」

 

『準備に少し時間が必要です。一時間程度を希望します』

 

「構わない」

 

 やり取りは、それだけだった。

 

 公用船は進路を西に取った。リヴァーノへ戻り、使節を受け入れる準備を整えるために。

 

          ◇

 

 「いわみ」では、後部の搭載艇の点検が始まっていた。

 

 機関、通信、医療、非常装備、環境センサー、携行翻訳端末、無人観測機。乗り込むのは使節四名、検疫官二名、護衛六名の、合計十二名だ。

 

 神谷は、甲板でその準備を見守っていた。

 

「船長」

 

「何だ」

 

「本当に、十二人だけで行かせるんですか」

 

「向こうは、もっと少ないと思ってるかもしれんぞ」

 

「人口八千三百万の国の代表としては、少なすぎませんか?」

 

「だから、いいんだ」

 

 三浦は岸の方を見た。

 

「最初から大勢で行く意味はない」

 

「もし、何かあれば」

 

「そのために、君たちがここにいる」

 

 「いわみ」のセンサーは、港を見張り続けている。さらに遠方では、日本側の別の海空戦力も待機していた。だが、それを見せつける必要はない。

 

「相手が昨日、何を考えたのかは分からん」

 

 三浦は言った。

 

「日本を歓迎したのか。恐れたのか。利用しようとしているのか。全部かもしれん」

 

 神谷は黙った。

 

「だから、話しに行くんだ」

 

          ◇

 

 同じころ、リヴァーノの港務所では、戻ってきた公用船から次席官が飛び降りていた。

 

「受諾した!」

 

 その一言で、港務所が一斉に動き出した。

 

 警備兵、港湾労働者、魔術師、書記、教会の関係者が総出で、指定の岸壁から一般の人々を下がらせていく。とはいえ、完全に締め出すことなどできるはずもない。屋根の上、窓辺、運河沿い、橋の上――ありとあらゆる場所に、人が集まり始めていた。

 

 噂は、もう街中を駆け巡っていた。

 

 東の異国人が来る。昨日まで、この世界にいなかった国の人間が来る――。

 

「どんな顔だ?」

 

「ガルディオは、普通の人間だって言ってた」

 

「角は?」

 

「ないらしい」

 

「全員?」

 

「知らん」

 

「魔法が使えないって本当か?」

 

「そんな人間がいるか?」

 

「船は魔法なしで動くそうだぞ」

 

「だったら余計におかしいだろ!」

 

 港じゅうが、ざわめいていた。

 

          ◇

 

「受諾したそうです」

 

 領主館で、娘が報告した。領主が立ち上がる。

 

「では――」

 

「まだです」

 

 騎士が言った。

 

「私はまだ何も言っていないぞ」

 

「港へ行こうとなさいました」

 

「……君は最近、私の心を読みすぎではないか?」

 

「二十年近くお仕えしておりますので」

 

「百歩だったな」

 

「何がです?」

 

「岸壁からの距離だ」

 

 騎士は、一瞬言葉に詰まった。

 

「覚えておいででしたか」

 

「私は約束は守る」

 

「では、百歩です」

 

「九十では」

 

「百です」

 

 領主は不満そうに外套を手に取った。娘も立ち上がる。

 

「私も参ります」

 

 今度は、領主の方が振り返った。

 

「危険だぞ?」

 

 娘は無言で父を見つめた。騎士までもが、じっと領主を見ている。

 

「……何だ、その顔は」

 

「いいえ」

 

 娘は微笑んだ。

 

「よくお分かりですね、お父様」

 

          ◇

 

 午前十一時七分、「いわみ」後部。

 

「搭乗完了」

 

「全員確認」

 

「通信正常」

 

「環境モニター正常」

 

 艇長が艦橋へ報告を上げる。三浦は、カメラ越しに十二人の顔を見た。

 

「無理はするな」

 

『了解』

 

「分からないことを、分かったふりするな」

 

『了解』

 

「相手の文化を笑うな」

 

『了解』

 

 最後に、三浦は少し考えてから付け加えた。

 

「できれば、楽しんでこい」

 

 使節団長が笑った。

 

『善処します』

 

 搭載艇が海面へと降ろされ、推進装置が静かに起動する。小さな艇は白い「いわみ」から離れ、西へと向きを変えた。

 

 遥か前方には、リヴァーノの街が見える。石造りの建物、塔、帆柱、運河――そして、岸壁を埋め尽くすほどの人影。

 

 十二人の日本人は、まだ知らない。

 

 その街の領主が、昨日から質問を書き溜めていることも。彼を港へ出すかどうかで、家臣団が何度も揉めたことも。岸壁から百歩のところで、本人が待ち構えていることも。

 

 日本側が知っているのは、ただ一つ。

 

 ――招待された。

 

 それだけだった。

 

 艇が速度を上げる。

 

 今度こそ、日本人が初めて、異世界の都市へ向かって進み始めた。

 

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