「自称」何がなんでも死にたくない系TS主人公   作:ルヴレ

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十三 異変

 

 

 黒い闇の中にいた。どこまでもどこまでも闇は続いていて、光ひとつなかった。

 俺は怖くて、誰か助けが欲しくて、もがいて、手を伸ばした。

 誰か、誰か助けてくれ。ひとりにしないで。息ができない。首がしまって呼吸が止まる。それなのに、死ねない。ああそうだ、俺には死の概念がない。

 

 闇の中を駆ける。何かにぶつかる。助けを呼びながら殴り、蹴り、一人で暴れた。そしてやがて、突然目の前が真っ白になり———。

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだよ夢かよ!」

 

 寝起き最悪である。嫌な夢を見てしまった。というか、夢を見ること自体、この世界では初めてだ。俺は、横に置いていた瓶を眺め見た。今回のは、少なからず効いていたってことでいいのか? 眠りが浅かったし。またヤフォダに頼もうっと。

 

 おっと、それどころじゃないな。

 

 やれやれだぜ。てっきり死ぬかと思ったが、なんか運良く生きちまった。俺である。

 

 えーっと、なんで生きてんの? 

 

 これは最初に目覚めた時に思ったことである。あ、ここ地獄なのか、とか思ったけど違ったし。

 心臓刺されてたよな、俺? ゾンビだったりする? 

 ま、俺は生きているわけで。あれから一か月くらい経つが、傷はほとんど塞がっている。治るの早いって? なんか俺の体質なのか、傷治るの結構早いんだよな。丈夫なんだろう。

 

 さて、そんなこんなでほとんど傷は塞がったし、今日からは職務復帰ってやつだ。

 

 俺は気合いを入れて部屋を見渡して、ゲンナリした。

 最近、俺は寝相が悪い。いや、寝相が悪いなんてレベルじゃない。絶対、寝てる間ほっつき歩いて暴れてる。

 だって、部屋がぐっちゃぐちゃなんだぞ? しかもアイノに直してもらったばかりのドア、めちゃくちゃ丈夫な鉄製にしてもらったはずなんだが、あちらこちらボコボコだ。

 ヤフォダにアドバイスしてもらって、新しく作ってもらったのに……。

 

「なんなんだよ……」

 

 俺はぶつくさ呟きながら、物を片して、頭にリボンをつけた……ところで、ドアの前に気配がしたので、ドアを開く。いや、開こうとする。なんか開かない。

 

「イルーガ! 開けてくれってば」

「す、みませ、ん」

 

 ようやく開くようになったドアを開ければ、なぜか途切れ途切れで息も絶え絶えなイルーガが、謝ってきた。

 俺が心臓を刺されてから、なぜか毎日家まで来てくれる。お見舞いだとか言って、ほとんど治ってもなんか食い物持ってきてくれたし。心配性な奴である。

 

 俺としては集合しないでいいから助かるんだが、イルーガの負担が大きくなってしまって申し訳ない。ということでお礼の品を渡すとしよう。

 

「いつもありがとな。お礼に昨日作った、俺特製激甘クルムカケをやろう」

「ありがとうございます……? あと動いちゃダメって言いましたよね?」

「やめてくれ、おかんモードになるなイルーガ」

 

 疑問系でお礼を言われた。ついでにお小言も貰ってしまった。だって暇なんだよ。カードゲームでも買ってみようかな、とか思ったけど高いし。

 

「さて、早速仕事するか」

「君は、もう少し休んでいてもいいんですよ?」

「いやいや、もう十分休んだし」

 

 心配性がすぎるってば。もう治ったし、なんなら見せてやる——のは流石にできないが。

 俺はナイフとランプを確認してから、イルーガの心配をよそにいつも通り偵察をすることにした。

 

 

 正直、特に異変もなくいつも通りに終えてしまった。ちえっ、久しぶりの仕事なのにヒルチャールの形跡ひとつすらない。

 どうやらヒルチャールは最近姿を現していないらしく、被害もないらしい。

 

 ということをイルーガは鍋で食材を煮詰めながら、言った。イルーガのスープの味は、俺の大好物だ。

 

「そういえば、なんか変な夢見たんだよ」

「どんな夢ですか?」

 

 みじん切りにはしなくなったが、不恰好な人参をイルーガに手渡した。人参が鍋へと次々と浮いていく。

 

「なんか真っ暗闇の中閉じ込められるって夢でさ。夢の中でひとりにしないで、とか急にヒステリックになって叫んで暴れてて、それで気づいたら朝になってた。初めて見た夢がコレとか、運悪いなぁ」

「えっ、夢を見たことがなかったんですか?」

「ない。今日は眠りが浅かったんだよ。ヤフォダがくれた薬のおかげかな」

「なんの薬ですか」

 

 イルーガは、真剣な顔でこちらに詰め寄ってきた。な、なんだよ、そんな気になることか? 

 俺は疑問に思いつつも、「ほら、眠気覚ましの薬だよ。月見たいって言っただろ? ネフェルさんから買ったんだ」

 と話したが、それだけでは満足してなさそうな顔だった。家へと戻り、薬の瓶をイルーガに手渡す。

 イルーガは、やけに食い入るように薬の瓶を眺めている。

 

「本当にこれ、普通の薬なんですか? 見たこともない文字ですけど」

「カーンルイア? よくわかんないけど、そんなのがなんとかだとか言ってたような」

「よくそんな怪しいものを飲めますね」

「俺は勇気があるからな」

 

 いつも通りに返しつつ、イルーガの様子を伺う。

 なんかイルーガ、最近様子が変なような。こちらを見てないのをいいことに、顔をじろじろ眺めていれば、目の下に隈があった。寝れてないのだろうか。

 ……それにしても関係ないけど、顔二次元みたいだな。俺がこの顔だったらさぞかしモテてただろうに——。

 

 くだらない思考に移行しかけたところで、鍋の音にようやく気づいた。

 

「イルーガ! 鍋が煮えてる!」

「わっ、見てませんでした!」

 

 イルーガは、火を弱めて鍋をかき混ぜた。

 俺と半分ずつ出し合って買ったスープ皿に、スープをよそう。俺はイルーガにも渡してから、スプーンで具を掬って、口に放り込んだ。

 うん、やっぱ美味い。

 

「イルーガは悪夢とか見てないか?」

 

 遠回しに寝不足の原因を探ってみる。

 イルーガは、「み、見てません」と言いながらわかりやすく目を逸らした。見てるな、コレは間違いなく。

 

 それなら、やることはひとつだよな。

 

「寝れてないなら一緒に昼寝でもするか? あ、でもベッド一個しかないわ。二人寝れるかな」

「遠慮しておきます。それと、そういうところは直した方がいいと思います」

「え?」

 

 そういうところって? 

 俺は大袈裟に肩をすくめてみせた。

 

「じゃあ、膝枕でもしてやろうか?」

 

 え、とイルーガは固まった。そんな顔をされるとは思わなかったので、俺も固まってしまった。しばらく、謎の見つめ合いが起こった。イルーガは、どんどんと眉を吊り上げていく。

 

「僕を、揶揄ってますよね!?」

「えへへ」

「えへへ、じゃありません!」

 

 すっかりと怒らせてしまった。ジョークだってば、ジョーク。

 

 結局、イルーガは怒って帰る時まで口を聞いてくれなかったので、イルーガを休ませる作戦は失敗した。

 イルーガ帰ってから、俺は鍋を家の中にしまい、そのままベッドに横になった。

 

 寝たふりをする。そして、イルーガがまた近寄ってくる気配がした。家の前に何かを置いて、離れていく。

 

 

 

 気配感知に優れた俺が、イルーガが何をしているのか気づかないわけがなかった。

 何日か経った頃、イルーガが家の前に岩を置いて、夜間に俺を閉じ込めているのには気づいていた。だが、イルーガの目的がわからない。

 

 まるで、俺が夜の間何かをしているみたいだ。

 

 ——俺は夜の間、自分が何をしているのかはわからない。しかし、最近寝相が妙に悪いのだ。いいや、寝相なんて代物じゃない。化け物が暴れた後みたいなんだ。

 

 夜の間の俺は、暴れてしまっているのか? だからイルーガは俺を閉じ込めている? そこまでの脅威になるのか? 

 いやいや、たかが、俺だ。俺は弱い。

 そもそも、どうして俺に言わない。何か、やましいことでもあるのか? 

 

「……人殺しは、してない。よな?」

 

 自分で言っておいて、そんなことはわからないだろうなと思う。夜の間は完全に意識がないのだから。

 

 夕日が窓の隙間から差し込む。

 

 俺は嫌な汗が全身を流れていくのを感じていたが、眠気には抗えない。

 日が沈み、最後の足掻きのように赤く光ったのを最後に、俺の意識は、落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

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