TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
ヒロインの親友。
様々なジャンルの娯楽作品において実に様々な役割を任せられるポジションであり、場合によってはヒロインを食ってしまうような人気を手にするキャラさえいる。
ヒロインを助け、導き、そして守る。また、その逆も然りであり、魅力的な親友キャラというものはヒロインの魅力を引き出し、そして親友キャラの魅力もまたヒロインによって引き出されていると言えるだろう。
つまるところ、親友キャラとは実質ヒロインであると言えるのかもしれない。
◇◇◇
私、鳳条咲良が千歳様の側に仕えるようになって早くも一年が経とうとしていた。この園城寺家での日々は悪くない当主様や奥様も私に対して優しくしてくださるし、私が仕える千歳様もお優しい方だからだ。
「千歳様。そろそろ朝餉の時間でございます。……今朝はどうでしょうか?」
だからこそ私は──毎朝こうお尋ねする度に心の臓が跳ねるような気持ちになる。
「……おはよう咲良。今朝は調子が良いわ、これならお父様達と一緒にご飯も食べられそう」
「それは何よりでございます」
「ふふっ、ありがとう。それに毎度毎度、咲良にこの部屋までお膳を運んでもらったら悪いもの」
「そのようにお気になさらずとも、それが私の役目ですから」
「咲良はいつまでも硬いのね。今は二人なんだからもっと気を楽にしてくれてもいいのに」
「毎度同じお言葉を返すようで申し訳ありませんが、私にも立場というものがありますから」
私がそう答えると千歳様は頬を膨らませて、如何にも不満ですといったような表情をされた。
興奮されているのか色味の薄い肌が少し朱に染まっており、精一杯膨らませていることが分かる。しかし、お顔が小さいこともあって、そのふくらみは小さなものでつんとついてみたくなるような可愛らしささえあった。もちろん、そのような無礼なことを私がするはずもないが。
「それでは朝の身だしなみ、お手伝いさせていただきます」
私がそうお伝えすると頬を膨らませながらも、私が髪を梳きやすいように御髪をこちらに向けてくださる姿に思わず声が漏れそうになるのを私も頬を膨らませることで何とか耐える。
「咲良どうかしたの?……咲良、私のことを揶揄ってる?」
「いえ、決してそのようなことは……」
私が自分と同じように頬を膨らませていることが、茶化されているように感じられたのだろう。益々、赤みを増し、膨らんだ頬はまるで桃のようだなと何と無しに私は思って、そしてそう思うとより笑みがこぼれてしまうのだった。
さらり、さらりと髪を梳る音が静まり返った室内に心地よく響く。千歳様の髪は白く、そして細い。日々のお手入れを欠かされていないこともあり、その白髪は美しくまるで朝霜のごとくである。しかし……。
「咲良、どう?少しは髪伸びてきているかしら」
「……そうですね。日ごとに櫛を梳く手も重く、大変になってまいりました」
「そう!早くお母様のような裾にかかる位の長さにならないかしら」
「それにはまだまだ時間がかかるでしょうが、このまま伸ばしていけばいずれは必ず奥様と同じようになられます。千歳様は奥様のお子なのですから」
「そうよね。……ありがとう、咲良」
千歳様の成長は遅い。これはその身に生来宿したあまりにも強烈な陰の気によるものだと当主様は仰られていた。
陰の気とは負であって短く、低く、深く、狭く、遅く、故に物事の歩みを遅らせ、活気を鈍らせ、流転を滞らせるという性質を持つ。
だから陰の気が悪いということではない、あくまでそういった性質を持っているというだけのことで、持っているだけでどうこうなるというものではない。それこそ私だってその身に陰の気を宿しているし、逆に正である陽の気だけを極端に濃く宿したものは陰の気とはまた別の方向でその身を蝕まれるという話も聞いたことがある。
多すぎず、さりとて少なすぎず何事も加減ということなのだろう。陰陽和合、陰陽の気が釣り合っているからこそ私達は健やかに生きられている。──千歳様はそうではない。
生き残れたのは奇跡的だと出産に立ち会った術師様は仰られていたらしい。陰の気とはありとあらゆるものを停滞させる。それはすなわち……その気の持ち主である自身の生命さえもだ。
陰の気が極端に濃く生まれてしまった子はそのほとんどが自身の陰の気によって、その命を産み落とされた瞬間に止めてしまう。
千歳様が生き残ったのは側に控えていた術師様が即座に自身の陽の気をもって陰陽の和合を成したこと。そして生まれたばかりの千歳様が、無意識的に自身の陰の気を制御したことによるらしい。気の制御を成すことはそう珍しいことではない。それこそ当主様のような術師様方は当然のように行えるし、そうでなくても武芸者の中にはそういった術を心得ている者もいるという。
そう珍しいことではないのだ、それが生まれたばかりの赤子でなければ。気の制御、掌握には多くの場合修練が必要となる、だからこそ、多くの赤子がこれまで命を落としてきたのだ。故に奇跡。天祐、神仏の加護があったとしか思えないと件の術師様は零していたとも当主様からお聞きした。
まさに天祐、加護であったのだろう。事実、千歳様は今現在、気の制御を行えていない。ご両親に心配をかけまいと必死に努力されているが、その成果は見えず。あまりにも夥しい陰の気は千歳様の身を蝕み続けている。
そもそも制御に成功したとしても陰の気の働きを弱められるというだけで、その対となるだけの同等の陽の気がなくては体は正常には立ち行かない。あくまでその働きを弱められるというだけのこと。赤子の頃の千歳様はそれこそ毎日のように当主様から陽の気を注がれ、それでもなお何度も黄泉道を彷徨ったとお聞きした。
これが臓腑の病に由来するものであれば、その臓腑を直しさえすれば気は自然と和合に至る。しかし、千歳様のこれは魂に染みついた宿命のようなもの。これが千歳様にとってはある意味平常な状態なのだ。陰陽の術を使う過程で、それぞれの気を高める技術は存在する。しかし、これほどの陰の気と伍するだけの陽の気などどうしたとしても……!
「咲良?」
「……ッ!申し訳ございません。少々考え事を」
「それは良いのだけど……大丈夫? どこか悪いとかではないのよね?」
「はい。問題ありません。本当にただの考えごとですから」
「そう。それなら良かったわ!私のこれで気分でも悪くなったのかと心配で」
「そんなこと思うはずがありません」
「……咲良は本当に優しいわね。ありがとう」
「いえ……。早く朝の準備を終わらせてしまいましょう、当主様や奥様をお待たせしてはいけませんから」
「そうね!今日の朝餉は何かしら」
あぁ……あぁ……。なぜこのお方なのだろう。なぜこの方がこうも悩み、苦しまなければならないのだろう……。
どうして、世界はこの方にこのような辛苦をお与えになられたのだろう。
「咲良」
「⋯申し訳ありません。直ぐに準備を」
「咲良、私ねとても幸せなの。お父様がいて、お母様がいて、皆がいて、そして咲良がいる。」
千歳様。
「恵まれているわ、本当に。だって、私はこうして今、咲良と笑って生きているんだもの。」
千歳様。
「だから、ね?そんな悲しい顔をしないで咲良。私はあなたと二人で笑っていたいの」
千歳様……!
「⋯⋯承知いたしました」
「やっぱり硬いわね。咲良は」
「性分ですので」
朝方の静かな室内に布擦れの音だけが響く。細く、小さく、軟いお体を傷つけてしまわないように衣を整える。
せめて、せめて健やかにと、この儚い玻璃の細工のような主のことを思いながら。
(陰の気って便利だよなぁ。お陰で身体の成長も芳しくないムーブも出来るぜ!陰だけにな!まあコントロール出来ないとヤバいけど、出来てるからセーフセーフ。あぁ〜咲良ちゃんの表情たまんねぇ〜〜!!!)
こんなところ読み飛ばして良いです。
園城寺 千歳
輪廻転生の際のバグか、それとも執念か、浄化の炎を乗り越え前世の記憶を有したまま新たな生へと転生を遂げた男の生まれ変わりたる少女。
死を経験したことを覚えている魂というバグの塊のような存在として転生したことで、陰陽のバランスが大幅に狂うという、この世界的には洒落にならない状態に陥ってしまう。
しかし、肉体という器から解き放たれたことによって、目に見えない何かに対する感覚が開花していたこともあり、奇跡的に気の扱いを会得。
あまりにも強力な陰の気をなんとか生命活動を維持できるレベルにまで落とし込むことで生存に成功した。
それでも本来ならば陰の気による生命活動への悪影響は免れないが、死そのものを一度経験したことによる陰の気に対する耐性を得た魂。
そしてそれに影響を受ける形で変性した、同じく陰の気に対する強い耐性を得た肉体によって健康体を維持している。
ちなみに定期的に行われる父親を筆頭とした術師達による気のバランス調整によって、体の方はむしろ並大抵の人間よりよほど健康な有様である。
つまりは今世はファインプレー&マッチポンプの末の変態プレイということである。
奇跡という言葉に謝ってほしい。
陰の気の特性を利用した体調&成長不良もヒロインムーブとして使いこなしており、調節することで自然な演技を可能としている。カス。
肉体と魂と気
この世界ではこれら3つを三才と呼び、相互に強く影響し合うと考えられている。事実、陰陽の気の特性を利用した術には再生、保存、破壊など肉体、魂に強く影響するものも多い。
そのため臓腑の病等も気を正せば快方に向かう。その逆もまた然りである。
園城寺千歳の肉体が陰の気に対する耐性を得たのも、魂による影響が強い。まあ、その魂のせいで陰陽のバランスが狂っているのだが⋯。
ちなみに本人はそのことに何も気づいておらず、陰の気をコントロールできてるから。ヨシ!と思っている。阿呆である。
鳳条 咲良
園城寺千歳の側仕えとなった少女。またの名を被害者である。年の頃は千歳より少し上で前髪は綺麗に切りそろえている。分かりやすく言うと現代日本では学級委員長をやっているようなしっかりとした少女。
その真面目さと優しさにつけ込まれ、この1年ですっかりたらし込まれてしまった。
一途に純粋に園城寺千歳という少女の幸せを願っている本当にいい子。幸せになって欲しい。
立ち振舞や言葉づかいからもわかるように、実家もそれなりに裕福なお家。
そのため本来ならば奉公になど出なくても良いような身分である。
しかし、外に出られず友人も作れない千歳ちゃんを不憫に思ったパパと、園城寺家と関係を深めたい鳳条家の当主の思惑が一致したこともあり、末の娘であった咲良ちゃんが側仕えという形で園城寺家に奉公に出された。
実家では末の娘であったが、千歳ちゃんのせいで姉属性を獲得しつつあり前髪ぱっつんお姉ちゃんに成長する素質を有する。
現在進行系で書いているので、もう何もないです。()