ネオン父に転生したのでふんわりした未来知識で成り上がる   作:パラレル・ゲーマー

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第9話 ネオンの父、新しい文明を見つけてしまう

 鑑定室の空気は、鉛のように重く沈殿していた。

 モラウの低く絞り出すような一言が落ちてから、しばらくの間、誰も声を発しなかった。

 

「……これ、自然現象で海に沈んだんじゃねえぞ」

 

 防音の壁に囲まれた室内には、未だにアーネストの荒い呼吸音だけが微かに響いている。

 ライトはテーブルの上の金属片を見つめた。

 頭の中で『転移』というSFじみた単語が点滅しかけたが、すぐに押し込める。突拍子もない結論に飛びつく前に、まずは手元にある事実を確定させなければならない。

 

「……一旦、整理しましょう」

 ライトが静寂を破り、部屋の隅にあったホワイトボードの前に立った。マーカーを手に取り、盤面を大きく二つの列に分ける。

 

『確認できたこと』

 ・金属片は人工物。

 ・過去には、陸上らしき場所の構造物に固定されていた。

 ・周囲には人間の生活圏が存在した。

 ・念を使う人物が複数確認された。

 ・同系統の黒灰色金属が、確認できた一区画の複数箇所に使用されていた。

 ・謎の『白光』の直後、周囲の環境が深海へ急変した。

 

『分からないこと』

 ・場所。

 ・年代と文化圏。

 ・都市の規模。

 ・金属片の用途。

 ・白光の正体。

 ・深海へ移った原因。

 ・環境変化が及んだ範囲。

 ・現在の遺構と、過去に見えた場所が完全に同一地点なのか。

 ・アーネストが見た情景を、どこまで史実として扱えるのか。

 

 マーカーの音だけが響く中、ライトは箇条書きを終えて振り返った。

「現時点では、このくらいですね」

 

「アーネスト。一つ確認するぞ」

 モラウが腕を組んだまま、静かに口を開いた。彼の視線は、まだ疲労の色が濃いサイコメトラーへ向けられている。

「お前の能力は、対象物に『何も起きてねえ時間』はすっ飛ばして過去を遡るんだったな」

「……飛ばす」アーネストは水を一口飲み、短く答えた。

「じゃあ、街が何時間もかけて海に沈んでいく途中を、お前の能力が単に飛ばして再生しただけって可能性はねえのか?」

 

 アーネストはすぐには答えず、自分の脳裏に残る感覚を慎重に辿った。

 しばらくして、ゆっくり口を開く。

「……ないとは言わねえ」

 アーネストはまず、断定を避けた。

「だが、可能性としてはかなり薄い」

 

 彼は自身の能力の性質について、少しだけ口を開いた。

「俺の能力じゃ、物に残った痕跡の『強度』が肌感覚として分かる。暗い海底で長期間放置されていたような時間は、痕跡が薄いから映像もすぐ飛ぶ。逆に、衝撃、破壊、大量のオーラの接触、急激な環境変化……そういう強烈な出来事は、異常なほど濃く残る」

 アーネストはテーブルの上の金属片を指差した。

「今回は、あの『白光』から、いきなり『海中の水圧』、そして『金属片が引きちぎられる破断の衝撃』までが、一つの極端に強い『塊』として残っていた」

 

 もし間に何時間もの地盤沈下や、街を飲み込むほどの津波があったなら、金属片にも別の強い変化や破壊の痕跡が挟まる可能性が高い。

「少なくとも俺には、その間があったようには感じなかった。光の直後に、全てが海底にあった」

 それが、アーネストの見た範囲で言える限界だった。

 

 モラウがさらに食い下がる。

「戻る時……つまり現在から過去へ遡っていく映像の中でも、その光は見えたのか?」

「ああ、見えてた」

 ライトが少し驚いてアーネストを見た。

「言ってませんでしたよね」

「あの時は映像が何百年分も高速で逆再生されてたからな。視界が一瞬白く飛んだ程度にしか思わなかった。だが、順方向で時間を追って同じ場所で同じ白飛びが起きた時、初めてそれが異常な出来事だと認識したんだ」

 それを聞いて、モラウも無言で頷いた。

 

「実況の記録についてですが」

 ライトがテーブルの端に置いていた小型のカセット録音機を指差した。

「エドガーの筆記とは別に、音声も録音してあります。まずこの録音の複製を作りましょう」

 

 原本は保管し、複製版を文字起こしや専門家への資料として回す。

 エドガーの逐語筆記、能力解除直後に記憶が薄れる前に行った追加の聞き取り、そこで得た補足を元に描いたスケッチも一つのファイルへまとめる。

 ライトは資料の複製数と、誰へ渡したかまで記録するよう窓口担当へ指示した。

 

「これ、どこまで外部の人間へ見せていいです?」

 ライトは所有者であるモラウと、能力者であるアーネストへ確認を取った。

「再調査に必要な専門家までだ。それ以外には漏らすな」モラウが答える。

「俺の能力の細かい発動条件や弱点は、外へ出すなよ。見えた内容だけなら構わん」アーネストも釘を刺した。

「了解しました。外向けの資料には、『特殊な念能力による来歴調査の結果』とだけ記載します。検証に直接関わる専門家には、必要な範囲だけ守秘を前提に共有しましょう」

 アーネストはそれで構わないと頷いた。

 

「今日はここまででいいでしょう。アーネストさん、ゆっくり休んでください」

 ライトが労うと、アーネストは深く息を吐き出した。

「助かる」

 アーネストの疲労は目に見えていた。今回の一次鑑定については、彼への鑑定料五千万ジェニーと、能力者探索や施設・記録要員の手配を含むノストラードへの特殊案件手配料五百万ジェニーで処理済みだ。追加の専門家を使う場合は、その分を別途明細化することになる。

 

 ◇

 

 翌日。

 ノストラードが手配した会議室に、限定された検証チームが集められた。

 参加者は、ライト、モラウ、記録係のエドガー。そして、事前に金属片と現地の海洋調査を担当した『金属材料の専門家』と『海洋考古学者』。

 さらに今回、ライトがもう一人だけ新規の専門家を招集していた。

 

 エレノア=グレイブス。五十五歳。

 ある大学で古代都市史と比較考古学の教授を務める女性だ。念能力者ではない。

 ライトがエドガーの伝手で彼女を呼んだのには理由がある。彼女は極めて厳格な現実主義者であり、オカルトや超常現象に簡単に飛びつかず、映像や証言よりも『物証』を重んじる学者だったからだ。モラウのようなハンターにも、ライトのようなマフィアにも遠慮しない。

 

 エレノアは、ライトが用意した分厚い資料──アーネストの実況記録とスケッチ──を読み終えると、眼鏡を外して第一声を発した。

 

「面白いですね」

「信じますか?」ライトが素直に聞く。

「いいえ」

 

 エレノアは即答し、涼しい顔で周囲を見渡した。

「映像の記録が本物かどうかということと、その映像から何を読み取れるかということは、全くの別問題です。誰か個人の主観的な幻視だけで、歴史の前提をひっくり返すわけにはいきません。物証と照合しましょう」

 そのまま彼女は資料の最初のページを開いた。

 

「検証その一。金属片について」

 エレノアが金属材料の専門家へ視線を向ける。

「黒灰色の合金。既知の元素の組み合わせではありますが、特殊な配合と表面処理が施されています。実況記録によれば、陸上にあった時代からすでに同じ外観をしていたとのこと。つまり、長年の海水による変質でこの色になったわけではありません」

 エレノアは次に、アーネストの能力について検証用に開示された資料を確認した。

「確認できた視界は、金属片を中心に最大でも二十メートルほどですね。では、『街の至る所』とは言えません。正確には、その一区画だけで建物の壁、道路脇、水路など複数箇所に同じ金属が確認された。ここまでです」

「その範囲だけでも、建材にしては妙です」金属の専門家が答えた。「強度を持たせるだけなら、もっと安価な製法があるはずです。用途は依然として不明です」

 

「検証その二。海底遺構の石材について」

 エレノアはモラウが以前撮影した海底の写真と、地質分析のデータを示した。

「石材は現地海底の玄武岩とは異なっています。少なくとも、この遺構がある海底斜面で切り出された石ではありません。遠方から運ばれたものです。これ自体は、都市や大規模な建築物であれば当然あり得る話です」

 

「検証その三」

 エレノアが資料を一枚めくった。

「まず、一番馬鹿馬鹿しく見えて、一番単純な仮説から潰しましょう。……アーネスト氏が見たという映像が、『最初から深海の底にあった海底都市で、青空に見えたものは巨大な人工照明や人工空間だった』という可能性です」

 

「……そんなこと、あり得るんですか?」

 ライトが思わず口を挟むと、エレノアはライトを真っ直ぐに見た。

「あなたたちが『念能力』なんていう理不尽なものを持ち込んだんでしょう。不可能とは言わせませんよ」

 ライトは黙って続きを促した。

 

 エレノアは、能力解除直後に行われた追加の聞き取り資料を開いた。

「記憶が薄れる前に行った聞き取りでは、鳥、風、植物、時間とともに移動する日差しについても証言されています。人工空間でもそれらを再現できないとは言い切れませんが……決定的なのは植物と環境の痕跡です」

 エレノアはモラウを見た。

「現状の海底サンプルの採取データだけでは不十分です。もし本当に陸上だったのなら、遺構の深層の堆積物から、陸生植物の花粉や土壌の痕跡が出るはずです。再調査の際には、必ず深層のコアサンプリングを行ってください」

 モラウは無言で手元のメモへ書き加えた。

 

「検証その四。街の映像そのものが幻覚だった説」

 エレノアはさらに仮説を重ねる。

「金属片に、何らかの意図で『偽の記憶』が植え付けられており、能力者がそれを見せられただけの可能性です」

「そんなことまで疑うんですか?」ライトが呆れる。

「当然です」エレノアは揺るがない。「ですが、この説は少し弱いです。金属の材料分析、実在する海底遺構、金属片の物理的な破断、モラウ氏の現地写真と、実況内容が複数箇所で整合しています。偽の記憶だったとしても、現物に合わせて相当精密に作られたものになります」

 

 専門家たちによる会議は、安易な結論を許さなかった。

 彼らは「転移が確定した」とは決して言わない。

 現時点で共有できる結論は、『アーネストの記録は、既存の物証と複数箇所で矛盾なく整合する。本格的な学術調査を行う価値がある』という一点だった。

 

 エレノアは次に、エドガーがアーネストの証言を元に描いたスケッチの束を引き寄せた。

 アーネストの視界の限界である、半径二十メートル程度の街の一区画の風景。

 建物の窓の形状、石積みの工法、道路の舗装パターン、水路の構造、行き交う人々の衣服、装飾品、荷車の形、金属部品。

 

「……奇妙ですね」

 エレノアが、複数の既知文明の資料とスケッチを照らし合わせながら、眉間に皺を寄せた。

「この石積みの様式は、東方大陸の古い文化に少し似ています。ですが、人々の衣服の特徴は、全く別の地域の文化圏に近い」

 彼女は別のスケッチを手に取った。

「さらに厄介なのが年代です。既知文化の資料に当てはめれば、この水路の構造は二千年前ごろのものに近い。一方で、この装飾品に似た加工技術が確認されるのは、別の地域では千五百年前以降です。既存の年代区分をそのまま当てはめると、辻褄が合いません」

 

 既知文明の特徴と似た部分はある。

 しかし、一つの文化としてまとめようとすると、どこかで必ず無理が出る。

 エレノアは何度も資料を入れ替えながら、その不一致を確認していった。

「言語の資料が欲しいですね。音そのものは残っていないのですか?」エレノアがライトに尋ねる。

「実況中に、知らない古代語をそのまま復唱するのは困難だったようです」

「次に能力を使う機会があれば、可能なら言語学者にも立ち会ってもらいたいですね」

「本人と相談してみます。能力使用中に話しかけることはできませんが」

 

 エレノアは長時間、スケッチと資料を無言で見つめ続けていた。

 やがて、彼女はゆっくりと眼鏡を机に置いた。

 

「……これらを無理やり既知の文化圏へ押し込む方が、不自然ですね」

 静かな声だった。

「どういう意味です?」ライトが問う。

「まだ断定はできません。ですが……」エレノアは慎重に言葉を選んだ。「独立した未知の文化──場合によっては、私たちの歴史の記録にない『文明』を見つけた可能性があります」

 

 モラウの目が鋭くなった。

「文明?」

「ええ」エレノアは頷く。「都市規模での生活圏が存在していたことが確認できれば、そう呼んで差し支えないでしょう」

 会議室が、しばらく静まり返った。

 

 エレノアがふと、視線を上げた。

「ところで、この遺構を最初に見つけたのはどなたですか?」

「俺だ」

 モラウが短く答える。

「この金属片も?」

「そうだ」

「なぜ持ち帰ったんですか?」

「周りの遺構と材質が明らかに違った。海のゴミにも見えなかったからな」

 ただ、それだけ。

 

 エレノアは少しの間、モラウを見た。

「なるほど」

 それ以上は何も言わず、発見経緯の欄へ書き込んでいった。

 

「いずれにせよ、正式な報告書を作成する必要があります」

 エレノアが資料を閉じて言った。

「これは私たち個人のネットワークだけで調べる規模を超えています」

「ハンター協会か?」モラウが尋ねる。

「最低でもそこには通すべきでしょうね」

 

 海底遺跡。未知の文明の疑惑。複数の念使用者が生活していた痕跡。そして、原因不明の異常な海没。

 次に必要なのは、憶測を増やすことではなく、現地から物証を増やすことだった。

 

「なら、正式な報告書の作成はこちらで引き受けましょう」

 ライトが言った。

 集まった資料一式を整理し、事実と推測を分け、再調査で確認すべき項目を添える。

 一次鑑定以降に追加した専門家の実費と事務費についても、モラウへ出す精算書へ項目ごとに記載された。

 

 数時間後、タイプライターで打たれた草案がライトの元へ上がってきた。

 ライトは項目をチェックしていく。

『発見主体:ノストラード組/モラウ=マッカーナーシ』

 ライトは眉をひそめ、担当者を呼んだ。

「ここ、直してくれ」

「どこです?」

「発見者だ。ノストラードの名前は要らない」

 ライトは赤ペンで線を引いた。

「発見者は『モラウ=マッカーナーシ』の単独名。ノストラードは後ろの『初期調査・鑑定調整協力』の欄へ入れろ」

 

 修正された草案を、ライトはモラウへ渡した。

 モラウは報告書に目を通し、発見者の欄と協力者の欄を交互に見た。

「お前の名前はこれだけか?」

「俺、海底に潜ってませんし」

 ライトが答えると、モラウは鼻で笑った。

「マフィアってのは、もっと人の手柄まで自分の財布に突っ込むもんだと思ってたぜ」

「手柄を財布に入れても、銀行じゃ換金できないでしょう」ライトは涼しい顔で答えた。「俺は、手柄より請求書の方が好きなんですよ」

 

 ライトは、自分のデスクの横に置いていた薄いファイルを引き寄せた。

「その請求書なら、こっちです」

 

 中身は、ここまでの一次調査に関する精算書だった。

 アーネストへの鑑定料五千万ジェニー。ノストラードの特殊案件手配料五百万ジェニー。追加で招集した各専門家への謝礼、会議と資料複製にかかった実費。それぞれが分けて記載されている。

 モラウは一枚目から順に目を通した。

「……しっかり取ってんじゃねえか」

「だから、請求書の方が好きだって言ったでしょう」

 

 数日後。

 ハンター協会の地方支部へ、完成した分厚い報告書が持ち込まれた。

 担当者は最初、「海底遺跡の追加報告ですね」と軽い事務処理のつもりで受け取ったが、ページをめくるうちに顔色を変えた。

 アーネストによる来歴調査の記録。材料分析。モラウの地図と写真。専門家による検証結果。

「……これは、こちらだけで処理する案件ではありません」

 担当者が言う。

「そうでしょうね」ライトは頷いた。

「ただちに、協会本部へ回します」

 

 協会からの反応は迅速だった。

 モラウ本人への確認が入り、『発見地点へ再び案内できるか』『潜水調査の現地責任者をお願いする可能性がある』という打診があった。

 モラウは「場所を知ってるのは俺だからな」と、当然のように引き受けた。

 

 協会へ送られた報告書にも、発見者の欄には『モラウ=マッカーナーシ』と単独で記載された。

 ノストラードの名前は、その数ページ後にある初期調査・鑑定調整協力の欄に収まっている。

 ライトは控えを確認すると、そのままファイルを閉じた。

 

「民間のスポンサー候補もいますよ」

 ライトはモラウに提案した。協会だけでは、細かな資金や学術ネットワークの編成に時間がかかる可能性がある。

「誰だ?」

「セオドア=マインツ」

「知らねえな」

「古代文明の未解読の石板一枚に、九百万ジェニーを払った富豪です」

 

 モラウは少し考えた。

「……そいつに見せたら、後々面倒じゃねえか?」

「間違いなく面倒でしょうね」

 ライトの返事に、モラウは煙管を指先で弄んだ。

「ただ、発見者はモラウさんです。彼に連絡していいかどうかは、そちらで決めてください。うちは勝手に動きません」

「金と人員は必要になる」モラウはしばらく考えた。「なら、話だけは聞く」

 ライトは頷き、それ以上は何も進めなかった。

 

 アーネストへの確認も済んでいる。

 実況記録の学術研究への利用は許可された。ただし、公開できるのは能力で確認された内容までで、本人の能力の詳細な条件は伏せる。

 そして彼は「次にまた得体の知れない遺物を見つけたら、呼べ」と言い残して帰っていった。

(五千万ジェニー……最初は高いと思ったけど)

 ライトは今回得られた情報の量を思い返した。

(あれは、安かったな)

 

「俺はもう一度、あの海に潜る」

 モラウが金属片をケースにしまいながら言った。

「そうでしょうね」

「お前は?」

「行きませんよ」

 ライトは迷わず返した。

「早えな」

「水深七百メートルの暗い海底に、マフィアの経営者が行って何をするんです?」

「違いねえ」モラウが笑う。

 

「俺の役割は、第二次調査に必要な裏方を揃えることです。必要な物と人間が決まったら、まとめてこちらへ回してください」

「……お前、本当に裏方が好きだな」

「適材適所ですよ」ライトは答えた。「それに、裏方の方が死ににくいので」

 

 夜のノストラード事務所。

 タイプライターで清書された最終報告書が、ライトのデスクに置かれている。

 

 タイトル。

『ベレノス海東部・未確認海底遺構に関する第一次調査報告』

 まだ、その文明に仮称はつけられていない。文字も固有名詞も分かっていないからだ。

 

 ページをめくる。

 発見者:モラウ=マッカーナーシ。

 協力:ノストラード組、他各専門家。

 

 モラウがその報告書を手に取り、最後の確認をして、ペンを走らせて自らの署名を書き入れた。

 

 ライトがその報告書を受け取る。

「で、お前は何を取るんだ?」

 モラウが煙管の煙を吐き出しながら尋ねた。

 

「これです」

 ライトは、報告書の横に伏せて置いてあった、一際分厚いファイルの束を叩いた。

 

 モラウが怪訝な顔をする。

「……何だこれ」

「第二次調査のための見積書です。調査船のチャーター、深海機材、現地の倉庫、機材輸送、研究者の保険。まだ概算ですけどね」

 

 モラウは呆れたように、その見積書を一枚、二枚とめくった。

「お前、俺がもう一回潜るって言う前から、これ作ってただろ」

 ライトは何も答えず、見積書をモラウの前へ押し出した。

 

「潜らないんですか?」

 

 モラウは鼻で笑い、大きく息を吸い込んだ。

 

「潜るに決まってんだろ」

 




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