【異世界版】ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になって色んな世界に転移・召喚される話 作:ポップ
ネイル村の教会では、バニーが泊めてもらっている部屋で、帰る為の術式を考えていた。
机の上に広げた紙には幾つもの文字が並び、その脇には、書き損じて丸めた紙も転がっている。前に組んだものを思い出しながら書いてはみたが、これをそのまま使うだけでは、オラリオに戻れるとも限らない。
「う~ん……やっぱり中々簡単じゃないわねぇ」
ペンを置いて背伸びをしたところで、神父が扉の向こうから声を掛けてきた。
「バニー様。お客様がお見えなのですが」
「私に?お客様ってことは村の人じゃないのよね。ロモスのお城の人?」
「いえ。村の外から来られた方の様なのですが、バニー様にお伝えしたい事があるそうです」
そう言われて部屋を出ると、教会の入り口近くで一人の女性が待っていた。
落ち着いた色の外套を纏い、こちらに気付くと丁寧に頭を下げてくる。見た目だけなら旅の女性と変わらないが、バニーは近付くにつれて、少しだけ表情を引き締めた。
普通の人間とは、感じられる気配が違う。
「バニー様でいらっしゃいますね。我が主より、御言葉をお預かりして参りました」
「……そう。じゃあ、こっちで聞きましょうか」
神父に礼を言ってから、自分の部屋に女を案内する。扉を閉じ、机の前に戻ったところで、バニーは改めて相手に目を向けた。
「あなた、人間じゃないわよね?」
女は隠し立てするつもりもないらしく、静かに頷いた。
「はい。私は魔族です。ただ、本日は主の言葉をお伝えする為に伺っただけで、バニー様に敵対する意志は御座いません」
「ふ〜ん。それで、その主っていうのは誰なの?」
バニーが尋ねると、女は主の名を告げた。
「大魔王バーン様です」
「……えっ?」
流石にその名は予想していなかった。以前対峙した時の姿が脳裏をよぎり、バニーの動きが一瞬止まる。
しかし、使者の女はそんな反応を気にするでもなく、懐から一通の封書を取り出した。
「是非、一度お会いして、直接お話を伺いたいとの事で御座います」
受け取ったバニーは、中に収められた手紙に目を通す。
そこに書かれている内容も、使者の説明と殆ど同じだった。直接会って話をしたいという、短い招待の文面である。
「何の話かまでは、聞いてないの?」
「はい。詳しくは、バーン様自らお話しになるとの事です」
バニーは手紙から顔を上げ、暫く考え込んだ。
あの、かなりカリスマとかありそうだった大魔王が、わざわざ自分を呼んでいる……というか、あのお爺ちゃん、この時代の大魔王だったのね。
思い当たるとすれば、やはりパプニカで使ったカイザーフェニックスだろうか。あれだけ大勢の前で使ったのだから、噂くらいは届いてしまったのかもしれない。
勿論、気軽に「はいそうですか」と会いに行ける相手でない事は、バニーとしても分かっているつもりだ。
ただ、今回は話をしたいと言ってきているのだ。以前の様に、いきなり戦っている場面に出てしまった訳ではないし、あれだけ貫禄のある大魔王が、騙し討ちでどうこうしてくるとも思えない。
それに、直接会えるのであれば、こちらからも聞いておきたい事がある。
折り畳んだ手紙を机に置くと、バニーは使者に向き直った。
「いいわ。行ってやろうじゃない」
「……お越し頂けるのですか?」
「あなたが誘いに来たんでしょ?神父様には出掛けるって言ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言って部屋を出ていくバニーを、使者として訪れた魔族の女は、何とも言えない気持ちで見送っていた。
大魔王バーン。
その名を聞いて、何も知らずに頷いた訳ではあるまい。先程の反応からしても、自分の主がどういう存在なのかは知っている様だった。
それでも、会いに行くというのだ。
度胸があるのか、それともただの馬鹿なのか。
判断がつかないまま待っていると、戻ってきたバニーが早速出発しようと声を掛けてきた。
「お待たせ。それじゃあ、案内をお願いするわね」
◇ ◇ ◇
そうして、使者の案内で辿り着いたのは、大魔王の居城だった。
長い廊下を進む間、バニーは黙って周囲を見ていたが、大きな扉の前まで来ると、流石に一度足を止めた。向こうから感じられる気配に、以前戦った時の事が思い出される。
(……殺されたりしないわよね?)
案内役の女が取次ぎを済ませ、扉が開く。
その先にいた老人は玉座ではなく、豪奢なテーブルの傍に置かれた椅子に腰掛けていた。向かい側にも席が用意されており、卓上には酒瓶と二つの杯が並んでいる。
「よく来たな、古の賢者バニーよ。余が大魔王バーンだ」
「初めまして……っていうのも、私からするとちょっと変な感じなんだけど、まぁ挨拶は大事ね。バニーよ。今日はお招き有難う」
近付いて挨拶をすると、バーンは軽く笑って、向かいの椅子を勧めてきた。
「そうであったな。そなたにとっては、初対面ではなかったか」
バニーが椅子に腰を下ろすと、バーンは部屋に控えている二人を紹介する。
「この者達は余の側近で、ミストバーンとキルバーンだ」
白い衣を纏った男が、僅かに頭を下げた様に見えた。その隣では、仮面を着けた男が肩に小さな使い魔を乗せたまま、軽く片手を上げている。
「よろしく、バニー。僕も、君に会えるのを楽しみにしていたんだ」
「……どうも。お手柔らかにお願いするわね」
二人にも挨拶を返すと、案内役の女がテーブルに近付き、バニーの杯に酒を注いでくれる。それを終えて一礼すると、主の指示を受けて部屋を出ていく。
彼女の姿が見えなくなったところで、バニーは目の前の老人に向き直った。
「それで、魔界の大魔王様が、しがない遊び人相手に何の用なのかしら?」
「くくっ……しがない遊び人とは、よく言ったものよな」
バーンは手にした杯をテーブルに置き、面白そうにバニーを見る。
「パプニカでの催し、見事であったぞ」
「えっ、見てたの?」
「うむ。悪魔の目玉を通してな」
噂を聞いたどころか、本人に見られていたらしい。続くバーンの説明によれば、2匹の悪魔の目玉を通す事で、遠く離れた場所の様子をリアルタイムで映し出せるのだという。
なるほど……それなら、わざわざ使者を寄越してまで話を聞きたがる理由も分かる。
バーンからすれば、一度も会った覚えのない人間の女が、自分と戦った事があると話していたのだ。勇者達を逃がした時に呪文を覚えたとまで言われ、実際にそれを使ってみせられたのだから、事情を確かめたくもなるだろう。
バニーが少し気まずそうに頬を掻いていると、バーンは構わず話を続けた。
「ベホマズンの使い手が現れたというだけでも興味はあったが、そなたはそれ以上のものを見せてくれたな」
「……カイザーフェニックスの事よね?ぶっちゃけ本家本元の人から見てどう?自分としては、結構上手く出来てるんじゃないのかなって思ってるんだけど」
バーンは再び杯を手に取り、中の酒を揺らしながら、楽しそうに答えた。
「うむ。余の呪文を、ましてや人間の娘が、あれほど見事に再現出来るとは思わなかったぞ。威力は余のものに今一歩及ばぬが、その完成度には素直に感心した」
どうやら、怒っている訳ではないらしい。
勝手に真似をした事を咎められる可能性も考えていたので、バニーはその言葉を聞いて、少しだけ肩の力を抜く。
「そう言ってもらえると嬉しいわね。あれ、形だけ似せても全然意味ないし、これでも結構練習したんだから」
「そうであろうな。だからこそ、確かめておきたい事がある」
バーンはバニーから目を離さず、先程よりも静かな声で尋ねる。
「そなたは地上で、勇者達を大魔王から逃がした時に、あの呪文を見たと話していた。それは、余と相対した事があるという意味で、間違いないな?」
バニーは少し考えたが、すぐにその説明を始める事はせず、胸の前で腕を組んでから答えた。
「その話をする前に、一つだけ約束してほしいの」
「ほう。何かな」
バーンは表情を変えず、話の続きを促す。
「私は、大魔王を相手に駆け引きしてどうにか出来ると思ってるほど、自分を買いかぶってるつもりはないわ。だから、本当の事を話す」
そこで少し間を置き、バーンの目を見ながら続ける。
「その代わり、用が済んだからって、後で命を奪うとかは無しにしてよ。話が終わったら、ちゃんとネイル村に帰してくれるっていう保証がほしいの」
バーンは暫くバニーを見つめていたが、やがて低く笑う。
「あのゾーマを倒したという、勇者一行の賢者とは思えぬ弱気な言葉よな」
「だって一人で倒した訳じゃないんだもの。ちゃんと準備して、仲間達と一緒に戦ったから勝てたのよ」
バニーはそこを強調してから、少し困った様に眉を寄せる。
「自分に出来る事と出来ない事くらい、分かってるつもりよ。相手が誰でも勝てると思い込んで強がるより、ちゃんと現実を見た方がいいでしょ?」
「……確かにな」
その返答は、バーンにとっても悪くないものだったらしい。笑みを残したまま、椅子に深く座り直す。
「余を前にして、恐怖に身を竦ませたり、虚勢を張ろうとする者はいるが、どうやらそなたは違う様だな」
そして、バニーの願いに答えた。
「よかろう。話が終われば、無事に村まで帰すと約束しよう。用が済んだからといって、決して命を奪ったりはせぬ。このバーンが保証する」
ミストバーンとキルバーンにも視線を向け、その約束を聞かせてから、改めてバニーに問い掛ける。
「これでよいかな?」
「えぇ。その約束があれば十分よ」
バニーはそこでようやく、息を吐いた。
目の前の大魔王に対して緊張がなくなった訳ではない。だが、向こうも本当に話を聞くつもりで自分を招いたのだという事は、今のやり取りで確かめられた。
「それじゃあ、最初に会った時の事から話すわね」
◇ ◇ ◇
「その時、私はオラリオっていう、別の世界の都市にいたのよ」
バニーは、元の世界に帰る方法を考えていた事から話し始めた。
移動する呪文を元にして、自分で術式を組み上げた事。最初は実験のつもりだったので、一定の時間が経てば、出発した場所に戻される様にしていた事も説明すると、バーンは頷き、続きを待つ。
「ところが、使ってみたらあなた達が戦ってるところに出ちゃってね。周りはボロボロだし、男の子が炎に包まれてるし、私も何が起こってるのか分からなかったわ」
「余が、その者達と戦っていたのか」
「そう。向こうは随分やられてたみたいだけど、あなたは涼しい顔をしてたわよ。それで、あの強そうなお爺ちゃんは誰って聞いたら、大魔王バーンだって教えてもらったの」
バーンは特に口を挟まなかったが、キルバーンはそこで小さく笑っていた。よりにもよってそんな場面に現れるとは、つくづく面白い人間である。
その声にバニーが顔を向け、何かを思い出した様に声を掛けた。
「そういえば……えっと、キルバーンだっけ?」
自分に話が向くとは思っていなかったのか、キルバーンは少し首を傾けた。
「うん?僕がどうかしたのかい?お嬢さん」
「私がバーンとその子達の間に現れた時、あんたに言われた事があるのよ」
「へぇ~?何を言われたのか、気になるねぇ」
この娘にキルバーンが何と語りかけたのか。バーンとミストバーンも、二人のやり取りに耳を傾ける。
「確か……『ここは僕たち魔王軍の居城、大魔宮(バーンパレス)の奥深くなんだけど……最初から隠れていたなんて事はあり得ないし、仮に『ルーラ』でやって来たとしても、ここにはバーン様の強力な結界がある。普通の魔法じゃ絶対に入れないはずなんだけどもねぇ』とか、そんな感じだったわ」
キルバーンは、すぐには言葉を返さなかった。
大魔宮の結界にまで話が触れている上に、その言い回しは確かに自分のものだった。仮面の奥からバニーを見直す隣で、ミストバーンも主に目を向けたが、バーンは娘の話を遮らずにいる。
「その後に、一緒に戦ってたっぽい女の子から『あれは、この地上を消し去ろうとしている大魔王バーンよ!』って言われてね。それで私が『大魔王……バーン?あれ、大魔王ってゾーマじゃないの?魔王なら他にもいたけど、大魔王なんてゾーマ以外にもいたんだ』って話したら……」
そこで、バニーはバーンに向き直った。
「あなたが『余がまだ一人の若い魔族であった頃に、世界をその手中に収めようとしていた伝説の大魔王の名だ』って言ってたと思うわ。というか、今あの時を思い出しながら喋ってるけど、私って記憶力抜群じゃない?多分、殆ど合ってると思うわよ」
自分の記憶力に感心しているバニーを前に、バーンは笑みを残したまま、今の話を考えていた。
ゾーマが生きていたのは、確かに自分がまだ若い魔族だった頃である。娘が語る様な場面であれば、自分がそう答えたとしても、何もおかしくはない。
ミストバーンも、今の話を聞いた主の反応を窺っていた。娘の言葉を否定する様子はなく、むしろ話が具体的になるにつれ、バーンの関心も深まっている様に見える。
「その時初めて、私は自分が生まれた時代から、ずっと未来に来ちゃったんじゃないかって思ったのよね」
バニーは当時の驚きを思い返しながら、説明を続ける。
「それで、私もそのゾーマを倒した勇者一行の賢者だって話したんだけど……あなた、全然信じてくれなかったのよねぇ」
「ふふっ……そなたは今と同じ姿であったのであろう?」
「そうだけど……こっちは本当の事を言ってたのに」
バニーが口を尖らせると、バーンは楽しそうに杯を傾けた。
「そんなやり取りをしてたら、正体を見せろって、いきなりあなたが魔法を使ってきたの」
「ふむ……ちなみに、そなたはそれをどう凌いだのだ?」
「最初の炎はマヒャドで打ち消したわ。まさかあの小さな火が、見た目通りただのメラだって言われた時は驚いたけどもね。それで、次にカイザーフェニックスが飛んで来たんだけど……」
そこまで言って、バニーは目の前の老人を見た。
あの時の事を思い出すと、よく生き延びられたものだと、改めて実感させられる。
「マホカンタで跳ね返したら、あなたがそれを片手で払いのけちゃって、それで流石にこれはマズイと思って、私も【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を使って本気モードになったって訳」
話しているうちに、バニーの声も普段の調子に近付いていた。
バーンはそれを面白がっている様だったが、ミストバーンは、自分の主とその様なやり取りをする娘を、黙って見ている。
「自分に各種強化魔法をかけて、そっちにはルカニとかボミオスをかけてみたんだけども、それらはこれっぽっちも効かなかったのよねぇ……ほんと、やんなっちゃうわ」
それまでは、強化と弱体化の呪文を組み合わせる事で、数々の相手を倒してきたバニーだが、バーン相手には全く通用せず、それだけでも格の違いが見てとれたのである。
隙を見て攻撃を当てても、大した傷を負わせる事は出来ず、逆にバーンから放たれる呪文を凌ぐので精一杯だったと、バニーは当時の戦いを説明していく。
「ふふっ。まぁ、余はこれでも大魔王を名乗っているのでな。そのくらいはさせてもらおう」
話を聞きながら、バーンは確信を強めていた。この娘は、本当に自分と戦った事があるのだと。
「だから、あの時の勇者?とその仲間っぽい子達には、先に逃げてもらう事にしたのよ。私も勝てる気はしなかったけど、あの時の魔法陣には、時間が経てば元の場所に戻れる仕掛けを入れてたからね」
「時間を稼げば、自分も逃げられると考えた訳か」
「まぁね。だってそれしかなかったんだもの。あの子達もボロボロだったし、一緒に戦ってなんて言えないじゃない?そこで私まで逃げたら、あの子達、そのままやられちゃいそうだったから」
そして、最後には全身傷だらけの魔族の男が現れ、バーンに向かっていった。その間に帰還の術式が働いて、バニーも元の場所に戻る事が出来たのだという。
話を聞き終えたバーンは、杯を置いて顎に手を当てている。
「……その後、余とその者達がどうなったのかは知らぬのだな?」
「えぇ。私は元の場所に戻っちゃったから、その後あの子達がどうなったのかまでは知らないわ」
バニーの返事を聞き、バーンは暫く考えていたが、やがて手を顎から離した。
「なるほど。そなたが何故、余と戦う事になったのかは分かった」
「私が戦いたくて戦った訳じゃないのは、分かってもらえたかしら?」
「うむ。しかし、そなたも随分と間の悪いところに現れたものよ」
「それについては、何も言い返せないわね……」
これには、バニーも同じ思いである。今後は、レベル2になった時に選ばせてもらった『幸運』の発展アビリティに期待するしかないだろう。
話を終えて喉が渇いたのか、彼女は用意されていた杯を手に取り、ようやく酒を一口飲んだ。
◇ ◇ ◇
「ところで、今あの姿に変わる事が出来るのであれば、あの時の装備も見せてもらえぬか?」
ひと息ついたところで言われ、バニーは杯から口を離した。
「パプニカで見せた、賢者の時のやつ?」
「そうだ。悪魔の目玉越しでは、細かなところまで確認出来なかったのでな。あれもゾーマと戦っていた頃に使っていた物なのだろう?」
「えぇ。旅をしながら集めた物よ。手に入れるの、とっても大変だったんだから」
バニーは椅子から立ち上がると、テーブルから少し離れた場所に移動した。
「見せるだけだからね。盗ったりしないでよ?」
「分かっておる。その様な盗っ人紛いの真似はせぬ」
それを聞いてから、バニーは目を閉じて【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を意識する。
身体を包む光が薄れると、黒いバニースーツに代わって『神鳥の法衣』が現れた。右手には『神鳥の杖』、左腕には『女神の盾』が備わり、頭のサークレットも淡く輝いている。
バーンは椅子から立ち上がり、バニーに近付いた。
それに対して、バニーはつい身構えてしまったが、老人が目を向けているのは手にした杖や法衣の様だった。
「……なるほどな」
長年生きてきた大魔王ともなれば、間近で見て分かる事も多いのだろう。バーンは暫く黙って眺めていたが、やがて満足した様に頷いた。
「ゾーマと戦った事があるというのも、これならば頷ける。中々の品を揃えておるな」
その言葉に、バニーも装備には自信があるのか、得意げに胸を張った。苦労して集めた自慢の品々を、あの大魔王に褒められたのだから、悪い気はしない。
バーンはそれらの装備にもう一度だけ目を向けると、椅子に戻り、バニーにも座る様に勧める。
「その姿に戻る力を与えたのが、異なる世界の神だと言っていたな」
「えぇ。ロキっていう神様よ。私、その神様のファミリアに入れてもらってるの」
「では、この地に来たのも、その神の命によるものか?」
バニーは首を横に振り、賢者の姿のまま椅子に腰を下ろした。
「違うわよ。今ここにいる理由は、私にも本当によく分かってないんだから。その前まで、ロキのいるオラリオって街でお酒を飲んでて、気付いたら山で寝てたの」
「……なに?」
予想していた話と違ったのか、珍しくバーンが聞き返してくる。
「いや、本当だって。私がいる場所なんて、絶対誰も知らないんじゃないかしら。だから、なるべく早く帰ろうと思ってるんだけどもね」
バーンはバニーの顔を見たまま、少し間を置いた。
神の眷属であるという話を聞いていたので、何かの命を受けてこの地に現れたのだと思っていたが、大魔王を討つ為に送り込まれたのでもない。酒を飲んで眠り、気付けばここにいたという。
……その様な事があるか?
ミストバーンは無言だったが、キルバーンは肩を揺らして笑い始めていた。
「それなのに、バーン様の招きには応じるんだね。帰る前に、会えるなら会っておきたいと思っていたのかな?」
「まぁ、私に何の話があるのかは気になってたわよ。わざわざ村まで迎えを寄越してきたんだし。それに、こっちからもお願いしたい事があったから」
その答えに、バーンが興味を示す。
「ほう。余に頼みがあると?」
バニーは頷いたが、その前に、と自分の法衣を見下ろした。
「もう見終わったなら、こっちは戻してもいいかしら?これ、時間が来ると解けちゃうんだけど、話してる途中で消えるのもなんだしね」
バーンが頷くのを確かめてから変身を解くと、杖や盾が消え、元のバニースーツに戻っていく。
それから改めて、大魔王に話を持ち掛けた。
◇ ◇ ◇
「私は、地上への侵略を全部やめろなんて言うつもりはないわ。大魔王相手に、そんなお願いが通るとも思ってないし」
バニーはそこで一度言葉を切り、バーンの様子を確かめる。
「でも、出来ればネイル村には手を出さないでほしいのよ」
「ふむ……そなたが暮らしている村か」
「そう。行く当てもなかった私を泊めてくれたし、村の人達にも色々良くしてもらってるの。だから、あそこが襲われるのは困るわ」
世界を守るつもりはないが、だからといって、今世話になっている村が焼かれても、全く構わないという話ではない。
『聞いてもらえたらラッキー』くらいの気持ちで持ち掛けたお願いだったのだが、バーンから返ってきたのは、予想していたものとは少し違う答えだった。
「なるほど……だが、そなたは一つ勘違いをしている様だな」
「えっ?」
何を勘違いしているのか分からず、バニーは不思議そうにバーンを見る。
「今、地上を攻めているのは魔王ハドラーだ。余が直接、あやつの軍を動かしている訳ではない」
バニーはその名を聞いて、ロモスで兵士に教えてもらった事や、フローラに頼まれた話を思い出していた。
「あぁ、ハドラーね。その名前は何度か聞いたわ。でも、そいつはあなたの部下じゃないの?」
「いや。余の配下ではない」
バーンはそう答えると、何かを思い付いた様に口元を緩めた。
「言いたい事があるなら、そなた自身でハドラーに言ってみればよかろう」
「えっ、私が直接?」
「うむ。会う場なら、余が設けてやる」
思っていたものとは、随分違う方向に話が進み始めた。
バニーは暫く考えたが、各地を侵略している悪名高い魔王が、一人の遊び人から村を襲わないでほしいと頼まれて、素直に聞き入れるとは思えない。
「多分、普通に言っても聞いてくれないと思うわよ」
「そうかもしれぬな」
バーンは、その反応も分かっているとばかりに笑っている。
バニーも、ただお願いするだけで済むとは考えていない。腕を組み、少し首を傾げながら、先に確認しておく事にした。
「……なら、話しても駄目だったら、普通にボコっちゃうかもしれないけど。それでもいいの?」
その言葉に、バーンは声を立てて笑った。
自分と話をする前には身の安全を求めた女が、地上の魔王については、その様な事を言う。相手が魔王というだけでは、特に恐ろしいとも感じないらしい。
「構わぬ。ハドラーには、そなたの力を見せてやるがよい。ただし、殺すな」
バニーはすぐには頷かず、何とも渋い顔をしてバーンを見る。
「いや、向こうは絶対私を殺すつもりで来るのに、こっちだけ殺しちゃ駄目って言われても困るんだけど」
「心配せずともよい。あやつにも、そなたを殺すなと伝えておく。会わせるのは余の前だ。その条件は守らせる」
相手が地上の魔王であろうと、自分の前で勝手な真似はさせない。静かに言い切るその口調には、そうした大魔王の威厳が滲んでいた。
バニーは少し考えてから頷く。
「なら、それでいいわ。私も別に、会った事もない奴を魔王だからって殺したい訳じゃないもの。村に手を出さないって約束さえしてもらえれば十分よ」
そして、話が決まったのならと、早速尋ねた。
「ちなみに、そのハドラーって奴は今日来られるの?」
「いや。少し時間をもらおう」
バーンは杯を持ち上げながら、何でもない事の様に付け加える。
「余も、あやつとはまだ面識が無いのでな」
「……えっ、そうなの?さっきの言い方だと、すぐ呼べる相手なのかと思ったじゃない」
あれだけ自信ありげに言っていたのだから、既に何度も会っているものだと思っていた。
バニーが呆れた様な顔をしても、バーンは気にするでもなく、酒を一口飲んでから答える。
「以前から目は掛けていた。こちらから声を掛けるのは、もう少し先でもよいと思っていたのだがな」
そうして、楽しげな視線をバニーに向けた。
「待っている間は、ここでもてなしてやってもよいが、どうする?」
「有難いけど、とりあえず帰るわ。神父様にも、ちょっと出掛けてくるって言っただけだし」
流石に、このまま大魔王の城に泊まり込む気にはなれなかった。
出してもらった酒は美味しいが、酒だけを理由に長居するには、少々怖過ぎる相手である。
バーンも引き留める事はせず、傍らのミストバーンに声を掛けた。
「ミストよ。ネイル村まで送ってやれ」
「はっ」
白い衣の男が進み出るのを見て、バニーも椅子から立ち上がった。
「それじゃあ、ハドラーの話が決まったら知らせてね。あっ、村には呼ばないでよ?」
「分かっておる。余の城で会わせよう」
バーンは席に着いたまま答え、ミストバーンと共に扉に向かうバニーを見送る。
部屋を出る直前、彼女が振り返った。
「今日はお酒も御馳走様。今度も話だけで済むといいんだけどね」
「それは、そなた達次第であろうな」
楽しそうに返す大魔王を見て、バニーは少しだけ苦笑すると、案内役の後について部屋を出ていった。
◇ ◇ ◇
バニーを村の近くまで送り届け、ミストバーンが戻ってきた時には、キルバーンも既に部屋を出ていた。
バーンは一人、テーブルの向かい側に残された杯を眺めている。先程までそこに座っていた娘は、話が一段落してから、勧められるまま何度か酒をお代わりしていた。
「ネイル村まで、無事に送り届けました」
「うむ」
ミストバーンは一礼した後、主の様子を確かめる様に尋ねる。
「……如何でしたか、あの娘は」
「面白い」
返事には、少しの迷いもなかった。
「神の眷属と聞いて、どの様な者かと思っていたが……余の予想を裏切ってきおったわ」
バーンは椅子の背に身体を預け、会談での言葉を思い返していた。
「己の力を過信する愚か者ではない。余に勝てぬ事も、よく分かっておる。それでいて、自分の望みは口にするのだからな」
ミストバーンも、その点については同意していた。
娘は確かに緊張していた。身の安全を求めたのも、主の力を知っていればこそだろう。しかし、約束を得てからは、以前戦った時の不満まで本人に向かって話していたのである。
そこまで言って、バーンは低く笑った。
「中々、あの様な人間には会えぬものよ」
「ハドラーへの使いは、如何致しましょうか?」
ミストバーンの問いに、バーンは頷いた。
「うむ。予定より少し早いが、あやつにもこちらを知ってもらうとしよう。地上の魔王に伝えよ。魔界の大魔王が会いたがっているとな」
「御意」
命を受けたミストバーンが退くと、バーンは残っていた酒を飲み干した。
かつてゾーマを倒した勇者一行の賢者と、今、地上を侵略している魔王。
引き合わせた時に、ハドラーが何を言うのか。あの娘が、実際にどれほどの力を見せるのか。
杯を置いた大魔王の口元には、まだ笑みが残っていた。
「ネイル村を守りたくば、その望み、己の力で地上の魔王に認めさせてみよ、バニー」
やっと出来たー(TдT)
9/16はお休みだったんですが、めっちゃお話考えてましたわー!
口調とか違和感あったらすいません。
あと、もし宜しければ、感想や評価などもどうぞ宜しくお願いします。
僕のモチベーションが上がれば、この作品や他の作品、新しい作品の執筆にも意欲が湧くと思いますので(笑)
ポップがオラリオに来たり、バニーがオラリオに来て色々しちゃう話も面白いよ~
では寝ます!
おやすみなさい。