【異世界版】ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になって色んな世界に転移・召喚される話   作:ポップ

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番外編(ロモス)第九話:バニー「…それに、こっちからもお願いしたい事があったから」バーン「ほう。余に頼みがあると?」

ネイル村の教会では、バニーが泊めてもらっている部屋で、帰る為の術式を考えていた。

 

机の上に広げた紙には幾つもの文字が並び、その脇には、書き損じて丸めた紙も転がっている。前に組んだものを思い出しながら書いてはみたが、これをそのまま使うだけでは、オラリオに戻れるとも限らない。

 

「う~ん……やっぱり中々簡単じゃないわねぇ」

 

ペンを置いて背伸びをしたところで、神父が扉の向こうから声を掛けてきた。

 

「バニー様。お客様がお見えなのですが」

 

「私に?お客様ってことは村の人じゃないのよね。ロモスのお城の人?」

 

「いえ。村の外から来られた方の様なのですが、バニー様にお伝えしたい事があるそうです」

 

そう言われて部屋を出ると、教会の入り口近くで一人の女性が待っていた。

 

落ち着いた色の外套を纏い、こちらに気付くと丁寧に頭を下げてくる。見た目だけなら旅の女性と変わらないが、バニーは近付くにつれて、少しだけ表情を引き締めた。

 

普通の人間とは、感じられる気配が違う。

 

「バニー様でいらっしゃいますね。我が主より、御言葉をお預かりして参りました」

 

「……そう。じゃあ、こっちで聞きましょうか」

 

神父に礼を言ってから、自分の部屋に女を案内する。扉を閉じ、机の前に戻ったところで、バニーは改めて相手に目を向けた。

 

「あなた、人間じゃないわよね?」

 

女は隠し立てするつもりもないらしく、静かに頷いた。

 

「はい。私は魔族です。ただ、本日は主の言葉をお伝えする為に伺っただけで、バニー様に敵対する意志は御座いません」

 

「ふ〜ん。それで、その主っていうのは誰なの?」

 

バニーが尋ねると、女は主の名を告げた。

 

「大魔王バーン様です」

 

「……えっ?」

 

流石にその名は予想していなかった。以前対峙した時の姿が脳裏をよぎり、バニーの動きが一瞬止まる。

 

しかし、使者の女はそんな反応を気にするでもなく、懐から一通の封書を取り出した。

 

「是非、一度お会いして、直接お話を伺いたいとの事で御座います」

 

受け取ったバニーは、中に収められた手紙に目を通す。

 

そこに書かれている内容も、使者の説明と殆ど同じだった。直接会って話をしたいという、短い招待の文面である。

 

「何の話かまでは、聞いてないの?」

 

「はい。詳しくは、バーン様自らお話しになるとの事です」

 

バニーは手紙から顔を上げ、暫く考え込んだ。

 

あの、かなりカリスマとかありそうだった大魔王が、わざわざ自分を呼んでいる……というか、あのお爺ちゃん、この時代の大魔王だったのね。

 

思い当たるとすれば、やはりパプニカで使ったカイザーフェニックスだろうか。あれだけ大勢の前で使ったのだから、噂くらいは届いてしまったのかもしれない。

 

勿論、気軽に「はいそうですか」と会いに行ける相手でない事は、バニーとしても分かっているつもりだ。

 

ただ、今回は話をしたいと言ってきているのだ。以前の様に、いきなり戦っている場面に出てしまった訳ではないし、あれだけ貫禄のある大魔王が、騙し討ちでどうこうしてくるとも思えない。

 

それに、直接会えるのであれば、こちらからも聞いておきたい事がある。

 

折り畳んだ手紙を机に置くと、バニーは使者に向き直った。

 

「いいわ。行ってやろうじゃない」

 

「……お越し頂けるのですか?」

 

「あなたが誘いに来たんでしょ?神父様には出掛けるって言ってくるから、ちょっと待ってて」

 

そう言って部屋を出ていくバニーを、使者として訪れた魔族の女は、何とも言えない気持ちで見送っていた。

 

大魔王バーン。

 

その名を聞いて、何も知らずに頷いた訳ではあるまい。先程の反応からしても、自分の主がどういう存在なのかは知っている様だった。

 

それでも、会いに行くというのだ。

 

度胸があるのか、それともただの馬鹿なのか。

 

判断がつかないまま待っていると、戻ってきたバニーが早速出発しようと声を掛けてきた。

 

「お待たせ。それじゃあ、案内をお願いするわね」

 

◇ ◇ ◇

 

そうして、使者の案内で辿り着いたのは、大魔王の居城だった。

 

長い廊下を進む間、バニーは黙って周囲を見ていたが、大きな扉の前まで来ると、流石に一度足を止めた。向こうから感じられる気配に、以前戦った時の事が思い出される。

 

(……殺されたりしないわよね?)

 

案内役の女が取次ぎを済ませ、扉が開く。

 

その先にいた老人は玉座ではなく、豪奢なテーブルの傍に置かれた椅子に腰掛けていた。向かい側にも席が用意されており、卓上には酒瓶と二つの杯が並んでいる。

 

「よく来たな、古の賢者バニーよ。余が大魔王バーンだ」

 

「初めまして……っていうのも、私からするとちょっと変な感じなんだけど、まぁ挨拶は大事ね。バニーよ。今日はお招き有難う」

 

近付いて挨拶をすると、バーンは軽く笑って、向かいの椅子を勧めてきた。

 

「そうであったな。そなたにとっては、初対面ではなかったか」

 

バニーが椅子に腰を下ろすと、バーンは部屋に控えている二人を紹介する。

 

「この者達は余の側近で、ミストバーンとキルバーンだ」

 

白い衣を纏った男が、僅かに頭を下げた様に見えた。その隣では、仮面を着けた男が肩に小さな使い魔を乗せたまま、軽く片手を上げている。

 

「よろしく、バニー。僕も、君に会えるのを楽しみにしていたんだ」

 

「……どうも。お手柔らかにお願いするわね」

 

二人にも挨拶を返すと、案内役の女がテーブルに近付き、バニーの杯に酒を注いでくれる。それを終えて一礼すると、主の指示を受けて部屋を出ていく。

 

彼女の姿が見えなくなったところで、バニーは目の前の老人に向き直った。

 

「それで、魔界の大魔王様が、しがない遊び人相手に何の用なのかしら?」

 

「くくっ……しがない遊び人とは、よく言ったものよな」

 

バーンは手にした杯をテーブルに置き、面白そうにバニーを見る。

 

「パプニカでの催し、見事であったぞ」

 

「えっ、見てたの?」

 

「うむ。悪魔の目玉を通してな」

 

噂を聞いたどころか、本人に見られていたらしい。続くバーンの説明によれば、2匹の悪魔の目玉を通す事で、遠く離れた場所の様子をリアルタイムで映し出せるのだという。

 

なるほど……それなら、わざわざ使者を寄越してまで話を聞きたがる理由も分かる。

 

バーンからすれば、一度も会った覚えのない人間の女が、自分と戦った事があると話していたのだ。勇者達を逃がした時に呪文を覚えたとまで言われ、実際にそれを使ってみせられたのだから、事情を確かめたくもなるだろう。

 

バニーが少し気まずそうに頬を掻いていると、バーンは構わず話を続けた。

 

「ベホマズンの使い手が現れたというだけでも興味はあったが、そなたはそれ以上のものを見せてくれたな」

 

「……カイザーフェニックスの事よね?ぶっちゃけ本家本元の人から見てどう?自分としては、結構上手く出来てるんじゃないのかなって思ってるんだけど」

 

バーンは再び杯を手に取り、中の酒を揺らしながら、楽しそうに答えた。

 

「うむ。余の呪文を、ましてや人間の娘が、あれほど見事に再現出来るとは思わなかったぞ。威力は余のものに今一歩及ばぬが、その完成度には素直に感心した」

 

どうやら、怒っている訳ではないらしい。

 

勝手に真似をした事を咎められる可能性も考えていたので、バニーはその言葉を聞いて、少しだけ肩の力を抜く。

 

「そう言ってもらえると嬉しいわね。あれ、形だけ似せても全然意味ないし、これでも結構練習したんだから」

 

「そうであろうな。だからこそ、確かめておきたい事がある」

 

バーンはバニーから目を離さず、先程よりも静かな声で尋ねる。

 

「そなたは地上で、勇者達を大魔王から逃がした時に、あの呪文を見たと話していた。それは、余と相対した事があるという意味で、間違いないな?」

 

バニーは少し考えたが、すぐにその説明を始める事はせず、胸の前で腕を組んでから答えた。

 

「その話をする前に、一つだけ約束してほしいの」

 

「ほう。何かな」

 

バーンは表情を変えず、話の続きを促す。

 

「私は、大魔王を相手に駆け引きしてどうにか出来ると思ってるほど、自分を買いかぶってるつもりはないわ。だから、本当の事を話す」

 

そこで少し間を置き、バーンの目を見ながら続ける。

 

「その代わり、用が済んだからって、後で命を奪うとかは無しにしてよ。話が終わったら、ちゃんとネイル村に帰してくれるっていう保証がほしいの」

 

バーンは暫くバニーを見つめていたが、やがて低く笑う。

 

「あのゾーマを倒したという、勇者一行の賢者とは思えぬ弱気な言葉よな」

 

「だって一人で倒した訳じゃないんだもの。ちゃんと準備して、仲間達と一緒に戦ったから勝てたのよ」

 

バニーはそこを強調してから、少し困った様に眉を寄せる。

 

「自分に出来る事と出来ない事くらい、分かってるつもりよ。相手が誰でも勝てると思い込んで強がるより、ちゃんと現実を見た方がいいでしょ?」

 

「……確かにな」

 

その返答は、バーンにとっても悪くないものだったらしい。笑みを残したまま、椅子に深く座り直す。

 

「余を前にして、恐怖に身を竦ませたり、虚勢を張ろうとする者はいるが、どうやらそなたは違う様だな」

 

そして、バニーの願いに答えた。

 

「よかろう。話が終われば、無事に村まで帰すと約束しよう。用が済んだからといって、決して命を奪ったりはせぬ。このバーンが保証する」

 

ミストバーンとキルバーンにも視線を向け、その約束を聞かせてから、改めてバニーに問い掛ける。

 

「これでよいかな?」

 

「えぇ。その約束があれば十分よ」

 

バニーはそこでようやく、息を吐いた。

 

目の前の大魔王に対して緊張がなくなった訳ではない。だが、向こうも本当に話を聞くつもりで自分を招いたのだという事は、今のやり取りで確かめられた。

 

「それじゃあ、最初に会った時の事から話すわね」

 

◇ ◇ ◇

 

「その時、私はオラリオっていう、別の世界の都市にいたのよ」

 

バニーは、元の世界に帰る方法を考えていた事から話し始めた。

 

移動する呪文を元にして、自分で術式を組み上げた事。最初は実験のつもりだったので、一定の時間が経てば、出発した場所に戻される様にしていた事も説明すると、バーンは頷き、続きを待つ。

 

「ところが、使ってみたらあなた達が戦ってるところに出ちゃってね。周りはボロボロだし、男の子が炎に包まれてるし、私も何が起こってるのか分からなかったわ」

 

「余が、その者達と戦っていたのか」

 

「そう。向こうは随分やられてたみたいだけど、あなたは涼しい顔をしてたわよ。それで、あの強そうなお爺ちゃんは誰って聞いたら、大魔王バーンだって教えてもらったの」

 

バーンは特に口を挟まなかったが、キルバーンはそこで小さく笑っていた。よりにもよってそんな場面に現れるとは、つくづく面白い人間である。

 

その声にバニーが顔を向け、何かを思い出した様に声を掛けた。

 

「そういえば……えっと、キルバーンだっけ?」

 

自分に話が向くとは思っていなかったのか、キルバーンは少し首を傾けた。

 

「うん?僕がどうかしたのかい?お嬢さん」

 

「私がバーンとその子達の間に現れた時、あんたに言われた事があるのよ」

 

「へぇ~?何を言われたのか、気になるねぇ」

 

この娘にキルバーンが何と語りかけたのか。バーンとミストバーンも、二人のやり取りに耳を傾ける。

 

「確か……『ここは僕たち魔王軍の居城、大魔宮(バーンパレス)の奥深くなんだけど……最初から隠れていたなんて事はあり得ないし、仮に『ルーラ』でやって来たとしても、ここにはバーン様の強力な結界がある。普通の魔法じゃ絶対に入れないはずなんだけどもねぇ』とか、そんな感じだったわ」

 

キルバーンは、すぐには言葉を返さなかった。

 

大魔宮の結界にまで話が触れている上に、その言い回しは確かに自分のものだった。仮面の奥からバニーを見直す隣で、ミストバーンも主に目を向けたが、バーンは娘の話を遮らずにいる。

 

「その後に、一緒に戦ってたっぽい女の子から『あれは、この地上を消し去ろうとしている大魔王バーンよ!』って言われてね。それで私が『大魔王……バーン?あれ、大魔王ってゾーマじゃないの?魔王なら他にもいたけど、大魔王なんてゾーマ以外にもいたんだ』って話したら……」

 

そこで、バニーはバーンに向き直った。

 

「あなたが『余がまだ一人の若い魔族であった頃に、世界をその手中に収めようとしていた伝説の大魔王の名だ』って言ってたと思うわ。というか、今あの時を思い出しながら喋ってるけど、私って記憶力抜群じゃない?多分、殆ど合ってると思うわよ」

 

自分の記憶力に感心しているバニーを前に、バーンは笑みを残したまま、今の話を考えていた。

 

ゾーマが生きていたのは、確かに自分がまだ若い魔族だった頃である。娘が語る様な場面であれば、自分がそう答えたとしても、何もおかしくはない。

 

ミストバーンも、今の話を聞いた主の反応を窺っていた。娘の言葉を否定する様子はなく、むしろ話が具体的になるにつれ、バーンの関心も深まっている様に見える。

 

「その時初めて、私は自分が生まれた時代から、ずっと未来に来ちゃったんじゃないかって思ったのよね」

 

バニーは当時の驚きを思い返しながら、説明を続ける。

 

「それで、私もそのゾーマを倒した勇者一行の賢者だって話したんだけど……あなた、全然信じてくれなかったのよねぇ」

 

「ふふっ……そなたは今と同じ姿であったのであろう?」

 

「そうだけど……こっちは本当の事を言ってたのに」

 

バニーが口を尖らせると、バーンは楽しそうに杯を傾けた。

 

「そんなやり取りをしてたら、正体を見せろって、いきなりあなたが魔法を使ってきたの」

 

「ふむ……ちなみに、そなたはそれをどう凌いだのだ?」

 

「最初の炎はマヒャドで打ち消したわ。まさかあの小さな火が、見た目通りただのメラだって言われた時は驚いたけどもね。それで、次にカイザーフェニックスが飛んで来たんだけど……」

 

そこまで言って、バニーは目の前の老人を見た。

 

あの時の事を思い出すと、よく生き延びられたものだと、改めて実感させられる。

 

「マホカンタで跳ね返したら、あなたがそれを片手で払いのけちゃって、それで流石にこれはマズイと思って、私も【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を使って本気モードになったって訳」

 

話しているうちに、バニーの声も普段の調子に近付いていた。

 

バーンはそれを面白がっている様だったが、ミストバーンは、自分の主とその様なやり取りをする娘を、黙って見ている。

 

「自分に各種強化魔法をかけて、そっちにはルカニとかボミオスをかけてみたんだけども、それらはこれっぽっちも効かなかったのよねぇ……ほんと、やんなっちゃうわ」

 

それまでは、強化と弱体化の呪文を組み合わせる事で、数々の相手を倒してきたバニーだが、バーン相手には全く通用せず、それだけでも格の違いが見てとれたのである。

 

隙を見て攻撃を当てても、大した傷を負わせる事は出来ず、逆にバーンから放たれる呪文を凌ぐので精一杯だったと、バニーは当時の戦いを説明していく。

 

「ふふっ。まぁ、余はこれでも大魔王を名乗っているのでな。そのくらいはさせてもらおう」

 

話を聞きながら、バーンは確信を強めていた。この娘は、本当に自分と戦った事があるのだと。

 

「だから、あの時の勇者?とその仲間っぽい子達には、先に逃げてもらう事にしたのよ。私も勝てる気はしなかったけど、あの時の魔法陣には、時間が経てば元の場所に戻れる仕掛けを入れてたからね」

 

「時間を稼げば、自分も逃げられると考えた訳か」

 

「まぁね。だってそれしかなかったんだもの。あの子達もボロボロだったし、一緒に戦ってなんて言えないじゃない?そこで私まで逃げたら、あの子達、そのままやられちゃいそうだったから」

 

そして、最後には全身傷だらけの魔族の男が現れ、バーンに向かっていった。その間に帰還の術式が働いて、バニーも元の場所に戻る事が出来たのだという。

 

話を聞き終えたバーンは、杯を置いて顎に手を当てている。

 

「……その後、余とその者達がどうなったのかは知らぬのだな?」

 

「えぇ。私は元の場所に戻っちゃったから、その後あの子達がどうなったのかまでは知らないわ」

 

バニーの返事を聞き、バーンは暫く考えていたが、やがて手を顎から離した。

 

「なるほど。そなたが何故、余と戦う事になったのかは分かった」

 

「私が戦いたくて戦った訳じゃないのは、分かってもらえたかしら?」

 

「うむ。しかし、そなたも随分と間の悪いところに現れたものよ」

 

「それについては、何も言い返せないわね……」

 

これには、バニーも同じ思いである。今後は、レベル2になった時に選ばせてもらった『幸運』の発展アビリティに期待するしかないだろう。

 

話を終えて喉が渇いたのか、彼女は用意されていた杯を手に取り、ようやく酒を一口飲んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

「ところで、今あの姿に変わる事が出来るのであれば、あの時の装備も見せてもらえぬか?」

 

ひと息ついたところで言われ、バニーは杯から口を離した。

 

「パプニカで見せた、賢者の時のやつ?」

 

「そうだ。悪魔の目玉越しでは、細かなところまで確認出来なかったのでな。あれもゾーマと戦っていた頃に使っていた物なのだろう?」

 

「えぇ。旅をしながら集めた物よ。手に入れるの、とっても大変だったんだから」

 

バニーは椅子から立ち上がると、テーブルから少し離れた場所に移動した。

 

「見せるだけだからね。盗ったりしないでよ?」

 

「分かっておる。その様な盗っ人紛いの真似はせぬ」

 

それを聞いてから、バニーは目を閉じて【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を意識する。

 

身体を包む光が薄れると、黒いバニースーツに代わって『神鳥の法衣』が現れた。右手には『神鳥の杖』、左腕には『女神の盾』が備わり、頭のサークレットも淡く輝いている。

 

バーンは椅子から立ち上がり、バニーに近付いた。

 

それに対して、バニーはつい身構えてしまったが、老人が目を向けているのは手にした杖や法衣の様だった。

 

「……なるほどな」

 

長年生きてきた大魔王ともなれば、間近で見て分かる事も多いのだろう。バーンは暫く黙って眺めていたが、やがて満足した様に頷いた。

 

「ゾーマと戦った事があるというのも、これならば頷ける。中々の品を揃えておるな」

 

その言葉に、バニーも装備には自信があるのか、得意げに胸を張った。苦労して集めた自慢の品々を、あの大魔王に褒められたのだから、悪い気はしない。

 

バーンはそれらの装備にもう一度だけ目を向けると、椅子に戻り、バニーにも座る様に勧める。

 

「その姿に戻る力を与えたのが、異なる世界の神だと言っていたな」

 

「えぇ。ロキっていう神様よ。私、その神様のファミリアに入れてもらってるの」

 

「では、この地に来たのも、その神の命によるものか?」

 

バニーは首を横に振り、賢者の姿のまま椅子に腰を下ろした。

 

「違うわよ。今ここにいる理由は、私にも本当によく分かってないんだから。その前まで、ロキのいるオラリオって街でお酒を飲んでて、気付いたら山で寝てたの」

 

「……なに?」

 

予想していた話と違ったのか、珍しくバーンが聞き返してくる。

 

「いや、本当だって。私がいる場所なんて、絶対誰も知らないんじゃないかしら。だから、なるべく早く帰ろうと思ってるんだけどもね」

 

バーンはバニーの顔を見たまま、少し間を置いた。

 

神の眷属であるという話を聞いていたので、何かの命を受けてこの地に現れたのだと思っていたが、大魔王を討つ為に送り込まれたのでもない。酒を飲んで眠り、気付けばここにいたという。

 

……その様な事があるか?

 

ミストバーンは無言だったが、キルバーンは肩を揺らして笑い始めていた。

 

「それなのに、バーン様の招きには応じるんだね。帰る前に、会えるなら会っておきたいと思っていたのかな?」

 

「まぁ、私に何の話があるのかは気になってたわよ。わざわざ村まで迎えを寄越してきたんだし。それに、こっちからもお願いしたい事があったから」

 

その答えに、バーンが興味を示す。

 

「ほう。余に頼みがあると?」

 

バニーは頷いたが、その前に、と自分の法衣を見下ろした。

 

「もう見終わったなら、こっちは戻してもいいかしら?これ、時間が来ると解けちゃうんだけど、話してる途中で消えるのもなんだしね」

 

バーンが頷くのを確かめてから変身を解くと、杖や盾が消え、元のバニースーツに戻っていく。

 

それから改めて、大魔王に話を持ち掛けた。

 

◇ ◇ ◇

 

「私は、地上への侵略を全部やめろなんて言うつもりはないわ。大魔王相手に、そんなお願いが通るとも思ってないし」

 

バニーはそこで一度言葉を切り、バーンの様子を確かめる。

 

「でも、出来ればネイル村には手を出さないでほしいのよ」

 

「ふむ……そなたが暮らしている村か」

 

「そう。行く当てもなかった私を泊めてくれたし、村の人達にも色々良くしてもらってるの。だから、あそこが襲われるのは困るわ」

 

世界を守るつもりはないが、だからといって、今世話になっている村が焼かれても、全く構わないという話ではない。

 

『聞いてもらえたらラッキー』くらいの気持ちで持ち掛けたお願いだったのだが、バーンから返ってきたのは、予想していたものとは少し違う答えだった。

 

「なるほど……だが、そなたは一つ勘違いをしている様だな」

 

「えっ?」

 

何を勘違いしているのか分からず、バニーは不思議そうにバーンを見る。

 

「今、地上を攻めているのは魔王ハドラーだ。余が直接、あやつの軍を動かしている訳ではない」

 

バニーはその名を聞いて、ロモスで兵士に教えてもらった事や、フローラに頼まれた話を思い出していた。

 

「あぁ、ハドラーね。その名前は何度か聞いたわ。でも、そいつはあなたの部下じゃないの?」

 

「いや。余の配下ではない」

 

バーンはそう答えると、何かを思い付いた様に口元を緩めた。

 

「言いたい事があるなら、そなた自身でハドラーに言ってみればよかろう」

 

「えっ、私が直接?」

 

「うむ。会う場なら、余が設けてやる」

 

思っていたものとは、随分違う方向に話が進み始めた。

 

バニーは暫く考えたが、各地を侵略している悪名高い魔王が、一人の遊び人から村を襲わないでほしいと頼まれて、素直に聞き入れるとは思えない。

 

「多分、普通に言っても聞いてくれないと思うわよ」

 

「そうかもしれぬな」

 

バーンは、その反応も分かっているとばかりに笑っている。

 

バニーも、ただお願いするだけで済むとは考えていない。腕を組み、少し首を傾げながら、先に確認しておく事にした。

 

「……なら、話しても駄目だったら、普通にボコっちゃうかもしれないけど。それでもいいの?」

 

その言葉に、バーンは声を立てて笑った。

 

自分と話をする前には身の安全を求めた女が、地上の魔王については、その様な事を言う。相手が魔王というだけでは、特に恐ろしいとも感じないらしい。

 

「構わぬ。ハドラーには、そなたの力を見せてやるがよい。ただし、殺すな」

 

バニーはすぐには頷かず、何とも渋い顔をしてバーンを見る。

 

「いや、向こうは絶対私を殺すつもりで来るのに、こっちだけ殺しちゃ駄目って言われても困るんだけど」

 

「心配せずともよい。あやつにも、そなたを殺すなと伝えておく。会わせるのは余の前だ。その条件は守らせる」

 

相手が地上の魔王であろうと、自分の前で勝手な真似はさせない。静かに言い切るその口調には、そうした大魔王の威厳が滲んでいた。

 

バニーは少し考えてから頷く。

 

「なら、それでいいわ。私も別に、会った事もない奴を魔王だからって殺したい訳じゃないもの。村に手を出さないって約束さえしてもらえれば十分よ」

 

そして、話が決まったのならと、早速尋ねた。

 

「ちなみに、そのハドラーって奴は今日来られるの?」

 

「いや。少し時間をもらおう」

 

バーンは杯を持ち上げながら、何でもない事の様に付け加える。

 

「余も、あやつとはまだ面識が無いのでな」

 

「……えっ、そうなの?さっきの言い方だと、すぐ呼べる相手なのかと思ったじゃない」

 

あれだけ自信ありげに言っていたのだから、既に何度も会っているものだと思っていた。

 

バニーが呆れた様な顔をしても、バーンは気にするでもなく、酒を一口飲んでから答える。

 

「以前から目は掛けていた。こちらから声を掛けるのは、もう少し先でもよいと思っていたのだがな」

 

そうして、楽しげな視線をバニーに向けた。

 

「待っている間は、ここでもてなしてやってもよいが、どうする?」

 

「有難いけど、とりあえず帰るわ。神父様にも、ちょっと出掛けてくるって言っただけだし」

 

流石に、このまま大魔王の城に泊まり込む気にはなれなかった。

 

出してもらった酒は美味しいが、酒だけを理由に長居するには、少々怖過ぎる相手である。

 

バーンも引き留める事はせず、傍らのミストバーンに声を掛けた。

 

「ミストよ。ネイル村まで送ってやれ」

 

「はっ」

 

白い衣の男が進み出るのを見て、バニーも椅子から立ち上がった。

 

「それじゃあ、ハドラーの話が決まったら知らせてね。あっ、村には呼ばないでよ?」

 

「分かっておる。余の城で会わせよう」

 

バーンは席に着いたまま答え、ミストバーンと共に扉に向かうバニーを見送る。

 

部屋を出る直前、彼女が振り返った。

 

「今日はお酒も御馳走様。今度も話だけで済むといいんだけどね」

 

「それは、そなた達次第であろうな」

 

楽しそうに返す大魔王を見て、バニーは少しだけ苦笑すると、案内役の後について部屋を出ていった。

 

◇ ◇ ◇

 

バニーを村の近くまで送り届け、ミストバーンが戻ってきた時には、キルバーンも既に部屋を出ていた。

 

バーンは一人、テーブルの向かい側に残された杯を眺めている。先程までそこに座っていた娘は、話が一段落してから、勧められるまま何度か酒をお代わりしていた。

 

「ネイル村まで、無事に送り届けました」

 

「うむ」

 

ミストバーンは一礼した後、主の様子を確かめる様に尋ねる。

 

「……如何でしたか、あの娘は」

 

「面白い」

 

返事には、少しの迷いもなかった。

 

「神の眷属と聞いて、どの様な者かと思っていたが……余の予想を裏切ってきおったわ」

 

バーンは椅子の背に身体を預け、会談での言葉を思い返していた。

 

「己の力を過信する愚か者ではない。余に勝てぬ事も、よく分かっておる。それでいて、自分の望みは口にするのだからな」

 

ミストバーンも、その点については同意していた。

 

娘は確かに緊張していた。身の安全を求めたのも、主の力を知っていればこそだろう。しかし、約束を得てからは、以前戦った時の不満まで本人に向かって話していたのである。

 

そこまで言って、バーンは低く笑った。

 

「中々、あの様な人間には会えぬものよ」

 

「ハドラーへの使いは、如何致しましょうか?」

 

ミストバーンの問いに、バーンは頷いた。

 

「うむ。予定より少し早いが、あやつにもこちらを知ってもらうとしよう。地上の魔王に伝えよ。魔界の大魔王が会いたがっているとな」

 

「御意」

 

命を受けたミストバーンが退くと、バーンは残っていた酒を飲み干した。

 

かつてゾーマを倒した勇者一行の賢者と、今、地上を侵略している魔王。

 

引き合わせた時に、ハドラーが何を言うのか。あの娘が、実際にどれほどの力を見せるのか。

 

杯を置いた大魔王の口元には、まだ笑みが残っていた。

 

「ネイル村を守りたくば、その望み、己の力で地上の魔王に認めさせてみよ、バニー」




やっと出来たー(TдT)

9/16はお休みだったんですが、めっちゃお話考えてましたわー!

口調とか違和感あったらすいません。

あと、もし宜しければ、感想や評価などもどうぞ宜しくお願いします。

僕のモチベーションが上がれば、この作品や他の作品、新しい作品の執筆にも意欲が湧くと思いますので(笑)

ポップがオラリオに来たり、バニーがオラリオに来て色々しちゃう話も面白いよ~

では寝ます!

おやすみなさい。
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ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ(作者:ポップ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ドラクエ3で勇者一行の一員だった女賢者さんが、大魔王ゾーマを倒した後に遊び人になって、お酒を飲んでいたらダンまち世界に転移してきた話。▼[2026.09.11]▼ChatGPTの画像生成機能が凄くなったと聞いたので、ちょっとバニーのイメージ画像を作ってみました。お酒飲んでたり、魔法使ってたりするシーンなど。gifは動きが付いているので、スマホで見ると出てくる…


総合評価:5650/評価:8.02/連載:59話/更新日時:2026年09月09日(水) 18:21 小説情報

大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び!(作者:ポップ)(原作:ダイの大冒険)

大魔王バーンを倒してから10年後のポップが主人公(25歳)のお話です。勇者ダイの帰還、仲間達のそれぞれの道、そして大魔王なき後に変わり始めた魔界の勢力図。バーンという絶対的な存在を失った魔界では、各勢力の争いが激化し、普通に暮らしていた住民達にも被害が広がっていた。▼そんな中、魔界のエルフ達から地上へ助けを求める声が届く。その願いに応えたのは、かつての臆病な…


総合評価:2746/評価:8.68/連載:10話/更新日時:2026年08月01日(土) 12:22 小説情報

ダンまち世界に闇の福音に転生して人類を導くのは間違っているだろうか(作者:魔法少女(偽))(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

令和を生きたアニメやマンガが好きで多少の武道の心得がある社会人がトラ転して前世の武術やアニメの技術を教えたりして色々やらかしたり助けたりして超有名人になっていく▼※他作品のキャラや武器が登場したりします


総合評価:1335/評価:6.94/連載:14話/更新日時:2026年07月16日(木) 09:45 小説情報

竜神王でダイ大世界(作者:色々残念)(原作:ダイの大冒険)

ドラクエ8の竜神王になっていた誰かがダイの大冒険世界で、生きていく話


総合評価:1622/評価:7.92/完結:12話/更新日時:2026年07月25日(土) 10:30 小説情報

オラリオで娯楽革命を(作者:寝心地)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

オラリオでテレビゲームとか携帯ゲームとかカードゲームとか作って売っちゃう話。▼ダンまちにゲームキャラが転生とかゲームキャラで転生とかはあるけどゲームその物がオラリオにあるのって見ないなぁ〜と思って作りました。▼


総合評価:3204/評価:7.19/連載:122話/更新日時:2026年07月20日(月) 10:00 小説情報


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