■<フォスタ森林>・深部
「……ここか」
「ああ、王都から一番近い【ブラッディ・デミドラグタイガー】の縄張りはこの辺りだった筈だ」
王都東、<イースター平原>の先にある森林地帯<フォスタ森林>の奥地、亜竜級モンスターに加えて稀に純竜級モンスターも現れる様なその場所に6人のティアン冒険者パーティーがいた。
彼等は王都を拠点にしている冒険者の中でも全員が上級職に就いている選りすぐりのパーティーであり、リーダーの男に至ってはメインジョブに希少な【
彼等は冒険者ギルドからのクエストとして『王都周辺に現れた【ブラッディ・ドラグタイガー】の原因調査』を受けて、王都近辺にある【ブラッディ・デミドラグタイガー】の縄張りである<フォスタ森林>深部の様子を調べに来たのだ。
「しかし、王都周辺のモンスターの生息域の調査とかは普通騎士団の仕事じゃありませんかねぇ」
「仕方なかろう、先月からの<マスター>の増加とこっちの常識が通用しない<マスター>の奇行への対応に騎士団は手一杯だ。王都を守る第一から第三までの騎士団は働き詰めと言う話だから、王都周辺に出た【ブラッディ・ドラグタイガー】の原因調査が冒険者ギルドに回ってきたんだ」
「教会の方でも【
「冒険者ギルドも忙しそうだし、今後も<マスター>が増えると俺らティアンの冒険者はどうなるんでしょうかねぇ」
メンバーである【
無論、そうしている間にもベテラン冒険者である彼等は周囲の警戒を怠ってはおらず、スキルで周辺のモンスターの位置を探っている【
「<マスター>は定期的に別の世界に飛ばされるから長期的な護衛などの任務には不向きだ。故にティアンの冒険者には今後<マスター>には不向きな依頼が優先して回されるかもしれないとアイラさんは言っていたな。王都周辺に出た【ブラッディ・ドラグタイガー】を始末したのも彼女だそうだ」
「超級職なら純竜も単独始末は余裕か。決闘引退しても実力は衰えてないらしい。元冒険者現受付嬢の大ファンなリーダーだから情報も集めてるな」
「いい加減俺らのパーティーに誘うのは無理でも食事にぐらい誘ったりしないの?」
「<マスター>増加で埋もれているが王都周辺に純竜級モンスターが現れると言うのは十分に異常事態だから、それについての情報も集めただけだ。それに“あの事件で婚約者だった【
真面目系リーダーである【剣聖】の厄介ファン度に苦笑する壁役の【
彼等は間違いなく王国ティアンの中でも上澄みの実力者達、亜竜級モンスターを幾度も討伐し純竜クラスの討伐部隊にも参加した事がある歴戦の冒険者パーティー故にその動きに澱みはない。
「モンスターを探知するスキルで周囲を探ったが反応は下級モンスターだけ。少なくとも<フォスタ森林>深部に亜竜級以上にモンスターは殆どいない」
「俺の地属性魔法にも地面を動く動体反応は小型の生き物と思われるもんばかりだ。亜竜以上と思われる反応はなかったぞ」
「
情報を聞いたリーダーの判断はこの場からの即時撤退であった。一見臆病にも見える指示だが彼等はティアンの冒険者として上澄みであり、同時に“上級職止まりのティアン”と言うこの世界の中で見るなら下の方の実力しか持ち得ていない。
歴戦の冒険者故にその事実を熟知しているパーティーメンバーはリーダーの判断に口を出す事なく、むしろ明らかな異常事態からは即時撤退する事こそが自分達の命を繋ぐと理解しているので即座に行動に移した。
……何度も言うが間違いなく彼等は優秀な冒険者でありスキルによる偵察の後に即時撤退の判断も決して間違ってはいないが、スキルによる探知より前、彼等が森に入った時には既に
「……ん、なんだ? ……げっ、ヒルかよ」
まず違和感を感じたのは【大盗賊】の男、自分の腕に何か着いた感触があったので見てみるとそこには一匹の“ヒル”が腕に食い付いており、森によく居るモンスターでもないヒルに噛まれたと思った男は短剣でさっさと処理しようとした。
……次の瞬間、ヒルに噛まれていた男の腕はまるでいきなり水分を全部失ったかの様に一瞬でミイラの様に干からびていき、それに比例して数センチもなかったヒルが一瞬で1メテル程度まで肥大化した。
「うわあああああああああああああ!!! な、なんだこビュッ!?」
「どうしッ!?《レーザーブレード》!」
『KYUSYAAA!?』
その光景に猛烈な恐怖を覚えた【大盗賊】は叫びながらも短剣を巨大ヒルに刺そうとするが、それよりも早く全身の血を巨大ヒルによって吸い尽くされて一瞬で【失血】を通り越して全身を干からびさせてしまう。
そんな仲間の異常に真っ先に気が付いた【剣聖】は即座に奥義による光の剣で【大盗賊】に纏わりつく巨大ヒルを斬り裂くも、大量の血液を失った【大盗賊】は既に死亡しておりその証の様に斬り裂かれた巨大ヒルからは大量の血が噴出していた。
「キース!?」
「ヒル型のモンスター!?【ブラッディ・リーチ】か!?」
「探知スキルは切らしてなかったぞ!?」
「気を付けろ! コイツは単なるモンスターじゃ『KYUSYA!!!』ッ!?」
直ぐに巨大ヒルをモンスターとして認識した彼等は戦闘態勢を取るが、同時に巨大ヒルから噴き出した血が集まり鋭い爪を持った腕の様な形状となって彼等へと振るわれる。
咄嗟にパーティーの
「ぐっ!? コイツの攻撃力は純竜クラスか!」
「一体なんなんだよテメェは!《グランド・ホールダー》!」
「《ハンティング・アロー》!」
「《サンダー・スラッシュ》!」
そこに【黒土術師】が《詠唱》を載せた地属性魔法で土石で出来た腕を形成、サイズを下げた代わりに発生速度を重視した拘束魔法は巨大ヒルを掴み取り、更に【大狩人】の矢が突き刺さり【剣聖】の電撃を纏った剣が巨大ヒルを斬り裂こうとする。
だが、巨大ヒルは身体から血を更に噴き出させながら血液で出来た腕をもう一本形成、電撃を纏った剣を受け止めて通電に苦しみながらも受けたダメージを“修復”しながら更に血で両足までも作って土魔法の拘束を蹴り飛ばして破壊してしまう。
その姿は巨大なヒルの頭部に血で出来た異形の手足を有する全長5メテル程度の
「【凝血蛭子 ドランクリーチ】!? <
『KYUSYAAAaaaaaa!!!』
その巨大ヒルの正体は逸話級<UBM>【凝血蛭子 ドランクリーチ】、この世界において一体しか存在しない空前絶後のボスモンスターの一体であり凡ゆる生物の血液を吸い取りその血液によって自らの血肉を構築する<UBM >。
血の匂いに敏感故にその脅威に気が付いて先んじて逃げた【ブラッディ・デミドラグタイガー】などを除く、<フォスタ森林>深部にいた
◇◇◇
□<イースター平原> 【
「わー!はやーい! やっぱ移動手段があると便利だね! 今日はパーティーを組んでくれてありがとうアミタリアさん!」
「まあレントには割りのいいクエストを紹介してくれた貸しがあるからね。それにせっかく第三形態でパーティーで乗れる船になったんだからねぇ」
今日、俺達は珍しくいつもの三兄妹以外、俺が魔術師ギルドの“<マスター>調査”クエスト繋がりで知り合った3人<マスター>とパーティーを組んで、魔術師ギルドからの依頼で受けた薬草採取のジョブクエストを受けて<フォスタ森林>へと向かっていた。
そして今はその内の1人【
「やはりデンドロの広大極まりないフィールドを移動する為の手段は必要だな。このゲームの検証の為にどれだけ移動せねばならんか分からん」
「確かにいつもの狩りでもフィールド移動が億劫だからこういうチャリオット系<エンブリオ>が羨ましい」
そして他2人はまず【魔術師】の男性<マスター>アット・ウィキ、名前通りゲームシステムの検証が趣味らしく将来的にはデンドロwikiを作りたいらしい。魔法検証の為に魔術師ギルドでクエストを受けていた所で知り合った。
もう1人は大体女子高校生ぐらいで黒髪黒目の<マスター>【魔術師】アオイ・ヒュウガ、2日目ぐらいにジョブ無しでフィールドを歩いていた所をモンスターに襲われていた所を助けた人の1人で、その縁もあって魔術師ギルドのクエストを紹介して知り合った<マスター>だ。
「しかし俺含めて【魔術師】系ばっかでパーティーバランス悪いな。分かってた事だがミカ達を連れて来て正解だったか」
「まあ魔術師ギルドのクエストで知り合ったんだからメインジョブが【魔術師】になるのはしゃーないでしょ。妹さん達を誘って前衛を増やしてくれたりとレントには世話になりっぱなしだね」
「魔術師ギルドで<マスター>調査のクエストが流行らせたのもレントらしいからな」
「フィールドに出にくい時期だったから報酬も美味しかったです。【ジェム】作成クエストで小銭稼ぎとか出来たし」
「俺が流行らせたと言うより【
厳密にはメリアさんが個人的にやっていた<マスター>調査のクエストに【大賢者】氏が援助した事を知ったその徒弟達が『ならば自分達も調べよう』となって<マスター>にクエストを依頼、それを【大賢者】氏が後から徒弟達にも援助し出したって感じらしいが。
メリアさん曰く『【大賢者】さま的にはここまでする気はなかったけど、徒弟達の行動を止める必要もなかったから追認した感じじゃないかなぁ』とも言っていたが、兎に角魔術師志望<マスター>には割りの良いクエストがあると広まって結構な数の<マスター>が受けている現状だ。
俺もあれから幾度もメリアさんが提示したクエストを受け、更に上級職の【賢者】に転職出来てからは<マスター>が使う上級魔法の調査クエストも行って《
「しかし、俺達は未だに【魔術師】をカンストも出来ていないのにレントは既に上級職の【賢者】に就いているとはな。どうすればそんな簡単に上級職に就けるんだ? 上級職の使い心地は?」
「俺の<エンブリオ>は経験値獲得のスキルがあるからな。【賢者】転職条件の【魔術師】カンストと合計レベル一定以上を早めにクリア出来ただけだ。他の条件である三大属性及び回復補助魔法適正は<マスター>なら問題ないし、三大属性魔法の使用に関する条件もクエストや亜竜相手の戦闘で魔法を使っていれば達成出来た。使い心地に関しては色々な属性の上位魔法を覚えられるから使いやすいが、亜竜以上相手だと決め手に欠けるぐらいか」
魔術師派生上級職の【賢者】転職の最大のネックは転職条件に三大属性の魔法資質を要求される事であり、資質に個人差があるティアンの場合はそこがネックで就けない人も多く魔法最強な【大賢者】氏の影響もあって王国では就ければ将来安泰な凄いジョブ扱いされているらしい。
だが、万能の適正がある<マスター>であれば適正問題は無視出来るので、他の簡単な条件を達成するだけで転職出来るから魔法系上級職では最も就きやすいジョブになってるんだよな。
まあ、簡単ではない条件を達成して上級職に就いた<マスター>、もとい戦士系統のレア上級職に就いたミカもいるから【賢者】に就けた事は余り自慢にはならないが。
「ちなみに私も【
「戦士系統上級職は【
「
ここで言う武器系アクティブスキルとは【
そもそも【戦士】は武器系のパッシブスキルを色々覚えるジョブであり、ミカはアクティブスキルを使わずともモンスターを倒せる攻撃力を有していたから就けた感じか。
「まだ就いたばかりでスキルは通常武器攻撃の攻撃力を上げるパッシブ《ベーシック・アタック》ぐらいしか解放されてないけど、ステータスが物理ステ特化で上がってくれるから私の<エンブリオ>とも相性はいいね」
「やはり下級職と上級職では能力は雲底の差と言えるのか。所でパーティーのステータスを見たんだがミュウ君のMPが非常に高いのも上級職に就いたからなのか?」
「いえ、私のはサブに【
「そんなジョブが……!」
wiki作成検証班を目指すアットだからか今の段階で上級職に就いた<マスター>の意見は非常に興味深いものらしく、態々隠す意味もないと言うかジョブに関しては時間が立てば広く知られるだろうなので質問に答えていく。
そう言えばスタートダッシュイベントのメダル交換アイテムにも【リソース・チャージャー】があったが交換レートが高過ぎたな。ボスマラソンのお陰で交換出来なくもなかったがメダルをほぼ全部使いそうだったし、使えそうな装備やアクセサリーを幾つか交換する方を選んだが。
「え? ミュウって月夜とも知り合いになったの? 大丈夫変な事されなかった?」
「フレンド登録しただけで変な事はされてませんよ。月夜さんはとても優しそうな人でしたし」
「え?…………え?(二度聞き)」
そんな風に道中色々と話が弾む中でなんかアオイがミュウちゃん相手に凄い顔をしていた。驚愕と心配が混ざった様な表情なので害意はなさそうだけど。
「いやそれは猫被ってるだけだからね。もし無理矢理何かされそうになったら言ってね、焼くから」
「うーん、司祭のクエストで月夜さんが治療するティアンの人に向ける気遣いに嘘はなかったと思いますよ。教会の人には何か探る様な態度を隠しながら接してましたけど」
「……あー、ミュウって
最終的にが2人はフレンド登録するぐらいには仲良くなったみたいなので良しとしようか。……そろそろ目的地の<フォスタ森林>に着くな。
「改めて確認するが今回のクエストは<フォスタ森林>に生えてる幾つかの薬草の採取だ。採取対象に薬草及びその群生地の情報はギルドから貰っているし、俺は《鑑定眼》を使えるから見つける事は出来るだろう」
「目的の薬草はあれば便利だが必須ではなく、王都近辺だと亜竜級のモンスターがいる<フォスタ森林>にしか生えていないから採取も面倒で塩漬けになっていたクエストだったな。普段は別の街から輸入しているが今はそれが滞ってるとも聞いた」
「だからか割と報酬も良かったしねぇ。まあ【魔術師】だけで亜竜と戦えるのかが問題だったけど、そこはレントの妹さん2人が前衛が出来るって呼んでくれたからどうにかなりそうだ。……ああ、森では第三形態は動かし難いから別の形態を使うよ。この形態移動音が大きいからモンスターが寄ってくるし」
そういう訳で<フォスタ森林>に着いた俺達は【プリドゥエン】から降りて、各々装備を確認してから森の中の薬草採取クエストをスタートするのだった。
◇◆◇
□■<フォスタ森林>
『GYURYUUUUAAAAAA!!!』
「【
地中から現れた巨大な百足の様なモンスター【亜竜甲蟲】に対してミカが即座に反応してハンマーを振るい、甲蟲モンスターが有する物理ダメージの防御系スキルを《
怒った【亜竜甲蟲】が牙を剥き出しにして襲い掛かるがその行動は“直感”に優れたミカには読まれており、上級職になった事で得たステータスもあって余裕を持って回避されつつハンマーの一撃で足の一本を砕かれる。
「さて、じゃあ空いた穴にぶち込めば良いな。《ヒート・ジャベリン》」
「ミメ、相手のAGIは低いので上書きはSTRだけで十分です。《ウェポン・フラグメント》《剛健の構え》《拳気》」
『オッケー、亜竜相手に集団戦なら節約戦術で十分だね。《オーバーライト・アビリティ》STR1443。《オーバーライト・インパクト》セット!』
『GYUAAA!?』
そうして動きが鈍った【亜竜甲蟲】の甲殻の穴に向けてレントが【賢者】最大の炎属性魔法の炎の槍を撃ち込み内部を焼き、それで怯んだ隙に懐に潜り込んだミュウがSTRを上書きした上でSTRバフと拳の攻撃力強化のスキル、そして【亜竜甲蟲】自身の攻撃力を重ねた拳を甲殻が薄い腹部に叩き込む。
生贄MP特化理論のお陰でMPに余裕はあるが、それでも連戦の可能性を考慮してミュウは出来る限りMPの節約を行ないながら亜竜と戦う技術を身に付けていた。
『GYURYUUUUAAAAAAAAA!!!』
「ダメージ軽減系スキルのせいか思ったより通りませんね」
『防御は抜ける様になったけど、そもそもSTRより防御力が高い相手だとカウンターも通りにくいか』
怒り狂って懐に潜り込んだミュウを巨体で押し潰そうとする【亜竜甲蟲】だったが、それらの攻撃をミュウは相手の動きの予兆を捉えて先読みしながら回避しつつ離脱する。
そうして【亜竜甲蟲】の注意がミュウに向いた隙に再接近したミカが足の一本をへし折り、同じく接近したレントが雷属性魔法《スパーク・ショット》を近距離から【亜竜甲蟲】の頭部に叩き込んで電撃による【麻痺】で動きを一瞬止める。
「はい、麻痺ったので【魔術師】組一斉砲撃お願いなー」
「何というか作業感が凄いな。《フリーズランス》!」
「あの3人が強過ぎて私らは魔法発射係にしかなってないねぇ。《ウィンド・カッター》!」
「パーティー魔法職の役割としては正しいけど。《ファイアーボール》!」
『GYURYUUAAA!?』
そこに後方で待機していたアット、アミタリア、アオイの3人がそれぞれ《詠唱》で威力を上げた氷の槍、風の刃、火球を放って【亜竜甲蟲】に大きなダメージを与える。
そしてダメージによって動きが鈍った【亜竜甲蟲】に対してウィステリア三兄妹が容赦ない追撃を見舞い、最後にはミカのハンマーで頭部を叩き潰されて【亜竜甲蟲】は光の塵になり【宝櫃】を残したのだった。
「お疲れー、ドロップアイテムの【宝櫃】はここで開けとく?」
「野良パーティーでのドロップアイテムの扱いはよく分からないんですよね。いつも身内パーティーだったので」
「う、うむ、とりあえず中身を見てみて中身を全部売って代金を山分けしたり、必要な人が居れば他のパーティーメンバーに売った時の代金を支払って貰ったり、後はクジやジャンケンという手もあるが」
「その辺りは同じクランとかの親しいパーティー用じゃないかい?」
「とりあえず中身を見てから考えたら?」
アオイの言葉通り中身を開けたら【亜竜甲蟲の全身鎧・ネイティブ】と換金アイテムが出て来て、全身鎧はレベル制限的に装備出来る人間がレントしか居らず、そのレントも好みの装備じゃないから要らないと言う事ので売りに出して代金を山分けする事になった。
さて、そもそも薬草に<フォスタ森林>に入った彼等が何故【亜竜甲蟲】と戦う事になったのかのかと言うと、単純に予定の薬草の群生地が先に草食系モンスターに食われたのか亡くなっており別の森の奥にある別の群生地に向かっていたら途中で遭遇してしまったからだったりする。
「この<フォスタ森林>はかなりの広さで西側ならそこまで強いモンスターは居ないが、東に行く程に亜竜クラス以上のモンスターが現れると聞いたが」
「亜竜自体はこのパーティーなら普通に倒せるから大丈夫じゃない? 運がいいのか純竜クラスには遭遇しないしねぇ」
「流石に次の群生地に目的の薬草がなかったら引き返すって事でいいだろう」
「そうだねー、後“なんとなく”だけど奥に行った方がいい気がする!」
「そうですか姉様」
ミカの“その言葉”を理解しているレントとミュウは他のメンバーに気付かれないレベルで警戒を1段階引き上げながら先に進み、漸く目当ての薬草が生えている場所に到着した。
今度はちゃんと目的の薬草が生えている事を《鑑定眼》で確認した彼等はモンスターが寄って来ないウチに迅速に薬草を回収し、魔術師ギルドから貸して貰った薬草保存用アイテムボックスに入れて遂にクエストの目的の薬草全品目を集め終わったのだった。
「やっと薬草を全種集め終わったな。思った以上に時間が掛かった」
「デミドラに合わなければもう少し早く終わったのに」
「まあ【宝櫃】も手に入れられたし、後はアタシの【プリドゥエン】で王都まで……」
「……待って、森の奥から何かあれば来るよ」
「本当だな、モンスターじゃなくて人間みたいだが」
そうしてホッとするアット達だったがミカとレントが森の奥を見ながら言った警戒の言葉を聞いて、彼等が《危険察知》や《殺気感知》のスキルを持っていると知らされていたアット達は警戒体制を取る。
尚、実際にはまだレベルが低いジョブスキルよりも本人達のセンススキルによる気配読みの方が機能しているのだが、とにかく他者接近を感知出来る事には変わりなくそのすぐ後に森の奥から3人の人影が現れた。
「……ハァーッ! ハァーッ!……ひ、人か?」
「《看破》……【剣聖】【大狩人】【司教】か。左手に紋章はないしティアンみたいだ」
「でも凄いボロボロだけど。ミュウちゃん」
「治療します。《サードヒール》」
その3人は全身に傷を負いHPも残り数割程度まで削られたティアンであり、その装備から冒険者か何かで《看破》で見えたジョブは上級職で合計レベルも今の自分達よりも上の手練だとレントは判断した。
同時に殺意や害意の類はないとしたミュウは【司祭】のジョブスキルで応急処置を行うが、傷が少し治った事で落ち着きを取り戻した【剣聖】の男が焦った様子で後ろを振り向く。
「き、君達は<マスター>か?……は、早くここから逃げるんだ! 早く逃げないとあの<UBM>【ドランクリーチ】が来る! 俺たちもそいつにやられたんだ!!!」
「<UBM>?」
「周囲にはモンスターの気配はないが、嘘を言っている感じではなさそうだな」
そう、彼等は<フォスタ森林>深部で森の調査を行いそこで<UBM>【凝血蛭子 ドランクリーチ】と遭遇した冒険者パーティーであり、その後の交戦の結果パーティーの半分を失いながら辛うじて此処まで逃げて来たのだ。
だが【剣聖】の男達が来た方向を見てもそこには<UBM>どころかモンスターの影も見当たらず、その様子を見ていたアット達は困惑しつつもボスモンスターにやられたティアンが逃げて来て、そのボスは追って来てはいないだけだと考えた。
……だが、そもそも【剣聖】達は【ドランクリーチ】からは逃げ切れておらず、既に【ドランクリーチ】はレント達と言う新たな獲物を狙って気付かれない様に接近していた。
『………………KYUSYA』
この【ドランクリーチ】の特性は“血液操作”であり強力な吸血能力や吸い取った血液を溜める
このスキルは全長数メテルの巨大蛭である【ドランクリーチ】を数センチの普通の蛭サイズまで縮小可能であり、縮小によるSTRやENDなどの低下は多少発生する代償として最小サイズなら<UBM>としての気配を完全に隠蔽する隠密操作能力も不随する。
戦っていたティアンの冒険者パーティーに逃げられた【ドランクリーチ】は暫く追跡した後に戦闘用の血液義体《血戦躰》を解除、自らを縮小化しつつ彼等の流した血の匂いを追って追跡していたのだ。
『……KYUSYA!』
そして最小状態で変わらないAGIで獲物に気付かれない様に食らいつき、亜竜級モンスター程度であれば一瞬で体内の血を吸い尽くす《血流収奪》による【失血】によって仕留めるのが【ドランクリーチ】の初手奇襲戦術である。
血を吸うと《血抜縮小》が解除されるデメリットもあるが大量の血を抜かれれば生物は死に、獲物が複数居ても数を減らした上で戦闘に入れば優位に戦えると言う強力な戦術で<フォスタ森林>のモンスターを借り尽くしたのがこの<UBM>。
そして冒険者パーティーとの戦闘で味方を回復させる【司教】が厄介と知った【ドランクリーチ】はまず回復役、ティアンに回復魔法を使っているミュウに狙いを定めて飛び掛かり。
「……ああ、そこだね」
『KYUA!?』
その途中で【ドランクリーチ】は持ち前の“直感”と言うセンススキルで奇襲を察知したミカの掌によって受け止められたが、既に噛み付いている事には変わりないと【ドランクリーチ】はそのまま《血流収奪》でミカの血を吸い尽くそうとして……吸えない。
それも当然、今【ドランクリーチ】が噛み付いているのは彼女の
「こいつが敵かな。《瞬間装備》」
『KYUSYAAA!!?』
自慢の奇襲戦術が通じなかった事で掌の中で動揺する【ドランクリーチ】をそのままミカは握り潰そうするが、それに気付いた【ドランクリーチ】は慌てて肉体に血液を戻して《血抜縮小》を解除して戻ったSTRで腕を振り解くが、同時にミカがもう片方の手に装備された片手剣を一閃して【ドランクリーチ】を斬り裂く。
それにより血が噴き出りが【ドランクリーチ】には溜め込んだ血液を消費してHPと【出血】を癒す《凝血再生》のスキルがあり、今もミカから全力で離れながら噴き出した血液を操って傷を塞ぎHPを回復させ様とするが、その直前に血が噴き出す傷口に向けて何かが投擲された。
「傷口を抉るのは化け物相手の戦いの基本だ」
『KYUGYAAAAA!?』
「後ダメ押し、《グランド・ホールダー》」
レントが投擲したのは【ジェムー《ブレイズ・バースト》】、魔術師ギルドのクエスト報酬として貰ったアイテムであり、内包されているのは【
奥義である《クリムゾン・スフィア》程の火力はないがより広範囲を焼き尽くすタイプの魔法であり、解放された爆炎は【ドランクリーチ】の傷口に入り込み内側を含めてその全身を焼き尽くしていく。
絶叫を上げる【ドランクリーチ】に対してレントは《詠唱》を上乗せした地属性魔法を発動、地面から土で出来た腕を生やして【ドランクリーチ】を掴んで押さえ込んだ。
「さて、これで暫く時間が稼げるか?……アミタリア、悪いがティアンの人達を連れて王都に行ってくれないか。薬草を入れた保存用アイテムボックスも持って行ってくれ。ここでデスペナになったらクエスト達成出来ないし、こういう“イベント”ならティアンを死なせない方がいいだろ」
「いやまあティアンを助ける突発イベントって話なら構わないけど、この様子ならすぐにアイツを倒せるんじゃ……」
「うーん、私とお兄ちゃんが与えたダメージも全部回復してるから直ぐに倒すのは無理かな?」
ミカの言葉通り【ドランクリーチ】はこれまで吸血して蓄積した大量の血液を消費して負ったダメージを回復、同時に血液で義体を作る自己強化スキル《血戦躰》によって純竜クラスのスペックがある肉体を作り《グランド・ホールダー》を破壊しようとしていた。
……【ドランクリーチ】は<フォスタ森林>深部のモンスターを全滅させるレベルで血を吸い尽くしながら狩っており、蓄積された血液はその身体を何十回と再生させても余りある程の量がある。
「クエスト達成とティアンの生存には誰かがアレを足止めしないとダメみたいだしな。とりあえず俺は足止めに回るけど」
「私もお兄ちゃんと一緒に残るね」
「私も兄様と姉様と残るのです。命を掛けるなら死なない<マスター>がやるべきでしょうし」
「そうか、ならオレも残ろう。デンドロに一種一体しかいない<UBM>と戦える機会を逃したくはない」
「じゃあ私も折角のボスだし残ろうかな。デスペナしたらそれまでって事で諦めるから私を守る必要はないよ」
「いやアタシ以外全員戦う気じゃないか。まあ移動手段があるアタシが王都に行かないとティアン生還とクエスト達成は無理か」
そんな【ドランクリーチ】が再び動き出す前に<マスター>が乗り気になりやすい様に敢えて“ゲーム“的な用語を使ったレントの提案が上がり、それを受けて他の<マスター>達も自分達の行動を直ぐに決めた。
「さて、悪いけどアタシの<エンブリオ>は森の中じゃ他人を乗せられないからね。森から出るまでは自分で歩いてくれよ」
「分かった。……済まない<マスター>達、後は頼む! アイツは森の奥のモンスターの殆どを殺し尽くしたい相手だ!」
「私達の攻撃も碌に効かない上にダメージを与えても回復されました!」
「仲間もアイツに血を吸われてやられた!」
ティアンの冒険者パーティーも最初は下級職が多いパーティーに<UBM>の相手をさせるのに遠慮があったが、既に自分達が戦える状態ではない事と何より<エンブリオ>に選ばれた不死身の<マスター>であればと言う想い【ドランクリーチ】の僅かな情報を言い残してからアミタリアと共に森の外に向かった。
「俺の<エンブリオ>の状態異常耐性スキルはミカとミュウを対象にすればいいんだな?」
「前衛で戦うのは私とミュウちゃんだからね。状態異常を使って来るかは分からないけど」
「今回は私も温存していた“蓄積分”を使うよ。回数制限はあるけど大威力の魔法は打てる」
「ステータスが上がった様なので私が前に出るのです。消費MPを考えると数分程度しか戦えませんが」
「前衛はミカとミュウちゃん、アットとアオイは後衛で俺が中衛になってフォローする。……さて、足止めはいいが別にアレを倒してしまっても構わないんだろう?」
『KYUSYAAAAA!!!』
そんなレントの有名な殿のセリフに他の<マスター>は苦笑いを浮かべるが、その直後に拘束を脱した【ドランクリーチ】が血液で出来た義体《血戦躰のを纏って二足歩行で凶悪な爪や尻尾を生やした映画に出て来る
そうして目の前の“獲物ではない敵”を抹殺すべく直接戦闘形態へと移行した逸話級<UBM>【凝血蛭子 ドランクリーチ】と、<エンブリオ>を持つ<マスター>達によるボスバトルが幕を開けたのだった。
◯冒険者ティアン
(@_@)<全員上級職でパーティー単位なら亜竜級を問題なく討伐出来て純竜クラスとも戦える王国でも上位の冒険者達
(@_@)<ただ【ドランクリーチ】相手だと初手でパーティーメンバーを減らされて更に有効な攻撃手段もなかったので敗走
(@_@)<ちなみに【剣聖】のリーダーは冒険者時代のアイラが所属していたパーティーの箱推しだった
◯【
(@_@)<戦士派生上級職の二次オリジョブで近接武器で鬼の様に長時間戦場で戦い続ける感じのジョブ
(@_@)<【
(@_@)<主なスキルは通常攻撃の威力を上げる《ベーシック・アタック》や近接武器装備状態での戦闘時にHPを自動回復する《バトルヒーリング》
(@_@)<奥義はスキルレベルに応じて装備した近接武器へのダメージ・負荷・損耗・劣化を減らすパッシブスキル《ハードウェポン》
(@_@)<他にも《持久力強化》などの汎用パッシブを覚える徹底的な近接長期戦型ジョブ
(@_@)<ステータスもHP・STR・AGI・ENDの物理ステータスが【大戦士】より伸びるがパッシブと通常攻撃メインなのでMPとSPがほぼ死んでる
(@_@)<サブジョブのアクティブスキルが使えない訳ではないがSPが伸びないので使用回数は限られて転職条件も厳しいので【大戦士】より人気がない
(@_@)<超級職は【
◯アミタリア
(@_@)<デンドロを試しにやってみようと初日から初めて面白かったので今も続けている一般<マスター>の1人
(@_@)<<エンブリオ>はアーサー王伝説の船とも言われる盾をモチーフにしたTYPE:チャリオッツ・アームズの【盾風満帆 プリドゥエン】
(@_@)<能力特性は『風による移動』で本編のホバークラフトは第三形態で1人乗りサーフボードの第一形態と盾になる第二形態がある
(@_@)<サーフボードの時は1人乗りだが高速で動けて飛行も可能であり盾形態だとノックバック効果が強い暴風を発射するスキルが使える
(@_@)<ホバークラフト形態は最大6人まで乗せられるが飛行は出来ず速度も遅めの馬力重視と形態によって能力が変わるタイプの<エンブリオ>
(@_@)<移動も戦闘も出来る普通に有能な<マスター>でちゃんと冒険者ティアンを無事に王都まで送り届けている
◯アット・ウィキ
(@_@)<後の<wiki編纂部・アルター王国支部>のオーナーな原作キャラ
(@_@)<今は魔法を中心にデンドロ検証をしているが1人でwikiが作れるレベルのゲームじゃないと察して検証仲間を探している
◯アオイ・ヒュウガ
(@_@)<父親が医療法人としての月世の会に所属していてその伝手でキツネーサンと面識がある
(@_@)<リアルでは先天的なアルビノであり日光を浴びれば肌が焼け爛れる体質でデンドロではリアルでは味わえない日中を楽しんでいる
(@_@)<尚現在の技術なら日中に家を出なければ普通に過ごせるのでそこまで現世を悲観しておらず宗教としての月世の会には所属していない
◯【凝血蛭子 ドランクリーチ】
(@_@)<その辺にいた蛭型モンスターが落ちていた“何か”を食べて変異した逸話級<UBM>
(@_@)<縮小化からの奇襲吸血と血による義体を使った直接戦闘の二段構えで獲物を狩るハンター
(@_@)<奇襲に気付けないと体のサイズ次第で吸血による失血死、吸血に耐えても血を抜かれた失血状態で戦う羽目になる
(@_@)<奇襲に対しては徹底的に強い妹のせいで直接戦闘に持ち込まれたがそれでも逸話級<UBM>として十分な能力を有する