猿猴は月に愛を為す   作:ユズキあむ

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第12話 魔女とミンク族

 

 

 

「う……ん……」

 

重い瞼を開けると、木漏れ日のような柔らかい光が

差し込んできた。

 

見覚えのない天井を見つめ、ロダストが口を開きかけたその時——。

 

「ヒーーヒッヒッヒッヒ! ハッピーかい、ボウズ! あたしゃ医者さ!」

 

甲高い高笑いと共に現れたのは、派手な服を着た

奇抜な老婆だった。

 

「Dr.くれは……ドクトリーヌと呼びな」

 

「くれはばあちゃん。ここはどこだ?」

 

バキッ!!

 

「誰がばあちゃんだいっ!!」

 

「それで、若さの秘訣かい!? 」

 

凄まじいスピードで拳を叩き込まれ、ロダストの

頭にみるみる立派なたんこぶが盛り上がる。

 

しかしロダストは痛がる素振りすら見せず、

たんこぶを頭に乗せたまま平然と言葉を続けた。

 

「くれはばあちゃん、興味はあるけど、場所が

知りたいんだよ。ここはどこだ?」

 

バキッ

 

「……怒る気力も失せるバカ正直だねぇ。ここは

ドラム王国にあるあたしの家さ。海に流れ着いてた

お前を村人が見つけてねぇ……傷も衰弱も酷くて、

丸一週間寝てたんだよ。命があっただけでも

感謝するんだね」

 

「そうか……助けて貰ったのか。ありがとう、

くれはばあちゃん! 助けてくれた村の人にもお礼を

言わないとな。この恩は必ず返すぞ!」

 

真っ直ぐな瞳で感謝を述べるロダストに、くれはは

呆れたように肩をすくめた。

 

「ヒーヒッヒ! 医者が患者を治すのは

当たり前だろう? だが治療費はしっかり貰うよ。

そうさね……お前が今持ってる財産の半分。あとは

治ったら、あたしの雑用でもして貰おうかね」

 

「おう! 半分だな! 海に流されたから少なく

なってるかもしれないけど、その分肉体労働なら任せてくれ! 体は丈夫なんだ! 恩はちゃんと返す!」

 

「……要求してる側が引くくらい素直だねぇ。バカ

正直というか何というか……。まぁ、それも

治ってからの話さ。身体を診せな。…驚いたね、もう

傷が塞がりかけてる。だが、二日は安静にしてな」

 

「うん、分かった。おやすみ……」

 

そう言うと、ロダストは再び気持ちよさそうに

眠りについた。

 

二日後。

 

「治ったーっ!!」

 

ベッドから飛び起きたロダストは、全身を動かして、飛び跳ねてこれでもかと完全復活をアピールした。

 

「本当に完治かい……恐ろしい回復力だねぇ。

それじゃ、さっそく治療費の金と、あたしの足代わり兼付き添いでもして貰おうかね」

 

「おう! 任せとけ!」

 

準備をしながら、くれはは煙草をくわえてロダストをしげしげと観察した。

 

「そういえば、身体を診た時に気になったんだが……あんた、人間じゃないね? ミンク族かい?」

 

「うおっ、くれはばあちゃん分かるのか!?」

バキッ

 

「医者だからね。患者の骨格も肉質も分からずに医者なんてやってられるかい」

 

「すごいな〜! うん、そうだよ。猿のミンクだ!

ドラム王国じゃ珍しいか? 新世界以外じゃあんまり

見かけないし、それに普段は人にしか見えないだろ?

隠してるわけじゃないけど、教えるほどの事でも

ないからな。知っといて欲しい人には教えるけどさ、たまに俺も忘れるけど。」

 

「ふん。言われてみれば確かに骨格の強靭さや筋肉の柔軟さに獣の面影があるねぇ。それに尻尾もね。

だが、今のあんたは言われなきゃただの人間にしか

見えないがね」

 

「あぁ、元々は猿のミンクの先祖返りで、もっと

あちこちに獣の名残があったんだけど……ここまで

人間に近い姿になったのは『悪魔の実』を

食べてからかなぁ」

 

「悪魔の実かい?」

 

「うん」

 

「どんな能力なんだい?」

 

「分からん!」

 

「自分の能力の正体も分からずによく生きてるもんだねぇ……もう少し自分の能力くらい研究しな」

 

それから一週間。ロダストはくれはの足代わりとしてドラム王国を駆け回り、村の力仕事も片っ端から

手伝った。

 

「くれはばあちゃ〜ん! 村の人たちにもちゃんとお礼言えたし、持ってた宝物も残り半分助けてくれた

代わりに渡してきたぞ!

 

それじゃ、次の島に行ってくる! 本当にお世話に

なりました!ありがとうな〜!」

 

荷物をまとめたロダストが

勢いよく飛び出そうとすると、くれはが小さな袋と

腕輪のようなものを投げつけてきた。

 

「ちょいと待ちな! 餞別だよ。服と食いもの、

それから永久指針(エターナルポース)さ。港には

小舟を一隻用意してあるから勝手に乗っていきな」

 

「えっ、服と食料だけじゃなくてエターナルポースと小舟まで!? 良いのかー!? ありがとう、

くれはばあちゃん!」

 

ボコンッ

 

「気をつけて行きな。死に損ないの患者がまた運ばれてくるのはゴメンだからね」

 

「うん、行ってくる! いつか絶対恩は返すからな〜!」

 

小さくなっていくロダストの後ろ姿を見送りながら、くれはは煙草の煙をくゆらせた。

 

「必要ないって言ってるのに、頑固なボウズだねぇ……。恩ならあたしじゃなく、あの村人たちに

返してやりな、それも十分だと思うけどねぇ」

 

くれはが用意してくれた小舟を押し出し、手にした

エターナルポースが示す先を見つめながら、降りしきる雪を突いてドラム王国を後にするロダスト。

 

白く煙る海原を見つめながら、その脳裏に浮かぶのは「金獅子のシキ」との死闘だった。

 

(……悔しいけど、確実に負けてたな。攻撃は綺麗に見切られてたし、空中の手数は完全に相手が上だった……)

 

シキの放ったあの圧倒的な一撃と、自身の見聞色の

甘さを思い知らされた。全身の痛みが消えた今も、

その敗北感だけは胸の奥で鋭くうずいていた。

 

「……次は絶対に負けない」

 

ロダストは冷たい雪風の中で、固く拳を握り締めた。

 

「もっと強くなって、見聞色も鍛え直してやるっ!!」

 

強者との出会いを糧に、さらなる高みを目指す瞳を

輝かせながら、ロダストは次なる目的地へと力強く舵を切るのだった——。

 

 

 

 

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