もふもふをひろったら家がダンジョンになりました 作:一宮 千歳
もくもく木曜日。さすがに午後休取った分の仕事をする。
「三浦さん、ほんと申し訳ないんですけど、金曜も休みもらって大丈夫です?」
「いいよー。あと、有休消化はどうするの?」
「あー。25日くらいあるんですよね。買取とかないですか」
「違法だからねえ」
「ホワイト企業じゃダメですよねえ」
「いや、どこでもだめだよ」
そりゃそうだ。
「そんじゃ、三月まるまる休みます」
「うん。そうしな。じゃあ二月二六日が最終かな?」
「はい。おせわになりました」
「ちょっと早いよ」
ちょっと笑った。
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そして金曜。市役所に向かう。
「ダンジョン業開業とダンジョンの拡張の報告がありまして」
「はあい。番号札3番でお待ちください」
市公認vtuberのパネルの前の椅子に座る。
この子も長いよな。何年目だっけ。
「3番のかたー」
「はあい」
呼ばれて席に着く。
「ええと、まずダンジョン業開業届ですね」
「はい。書類はここに」
「通販サイトでのダンジョン物品販売、それと……ダンジョン地下フロアの探索者への解放ですか」
「はい。地上階は安全なのですが、地下は危険になる予定なので」
「きけんになるよてい」
「といっても、探索者にとっては問題ないレベルになるはずなんです。その……訓練施設、みたいな形で開放できないかと」
「くんれんしせつ」
「……行けそうですかね?」
「私では判断しかねるので、上のものを呼びます。お待ちいただいてもよろしいですか?」
「あ、はい」
まあ、めんどくさい案件ではあるよな。
「お待たせしました、担当の
「あ、どうも、真野と申します」
「端的に言えば、開業届、難しいです」
「はあ」
「というのも、前例がないんですよね、ダンジョンを最初から訓練場として開業するというのは」
「なるほど」
「お隣の高岡市、あそこの古城公園は魔力反応を見たところ、どうも地上もダンジョンらしい。一応モンスターが出ないことから一般開放されてるダンジョンですが、地下はそうではない」
「はい」
「あと、これ三級以上の立ち入り推奨ってなってるでしょう。いけませんよ」
「いけませんか」
「露骨に『ここは危険なダンジョンです』と言ってるようなもんですよ。これを業に用いるというのは、ちょっと難しい」
「あー」
「五級が立ち入り可能、とするなら多分行けます。ただ、真野さんがそれでいいかというと……」
よくないんだよな。桜木ちゃんみたいな子がダンジョンに入ることになる。ポテトはそれを望んでない。
「よくなさそうですよね」
「大変申し訳ないですが、はい」
「危険ダンジョンで申請しちゃって、業に使わない、という手がありますが」
「うーん。実態として人が入るのであれば、それはそれで構わないんですが」
「……制度上とは異なる、何か別のことを気にしてらっしゃる?」
「うーん、ダンジョンマスターの意向ですね」
「ふむう。それはなかなか……」
んー。まてよ、これならどうだ。
「……今思いついたんですが、三級持ち対象の時間貸しのレンタルスペースにするのはどうです?」
「あ、それはアリですね」
「アリなんだ!? レンタルスペースにモンスターがいるのも?」
「安全とされるダンジョンにモンスターがいないわけではありませんよ?」
「……コボルドとリザードマンなんですけど」
「……話がまたややこしくなりましたね。二級試験対象のモンスターじゃないですか」
え、だめか。
「そうなんですよ」
「……うーん。アクロバット的解決法が一つ」
「なんですか」
「最初から二級試験場相当として申告するんです」
「……おー?」
「ダンジョンとしてはオープンしてる、潜れば二級試験と同等の経験が積める。実のところ、業である必要はない。……やりたいことはそういうことですよね?」
「まさに!」
「でしたら素直にダンジョンの内容を申請してください。まあ、条件はあります。そもそも二級試験に適してるかの審査とか。でも、ダンジョンマスター権限があれば、ダンジョンの中身はある程度変えられるんですよね?」
「はい。行けます」
「なら、試験場として適切かを判断するタイミングでそのように整えていただければ」
「おお!道が見えてきました!」
「お役に立てたようで何よりです」
大伴さんが笑った。
「では、単純に新規フロアにはコボルドとリザードマンが出現する、とお書きください。当該モンスターはフロアを跨ぐような様子もない、と。封じ込めが成功してるという事実がわかれば良いです」
「はい」
「そうしたらあとは行政が二級試験場の選定の際に真野さんのお宅に伺う形になります。以上です」
「ありがとうございました!」
気分よく帰れそうだ。
「あ、物品販売はやるんですよね? 税金の話は聞いていってくださいね」
撤回。
税金ってなんで存在するんだろう。いや、公共の福祉のためなのはわかるのだが、なんでこんなにめんどくさいんだろう。
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早速コボルドとリザードマンを呼び出そうと思う。
どちらも【モンスターカタログ】にいて一匹10DP、維持費が一日6DP。
地下で作業する。
- ぴろん -
- コボルド6体と雇用契約を結びました -
- ぴろん -
- リザードマン6体と雇用契約を結びました -
あ、雇用契約なんだ。
それはさておき、実物召喚。ぽちっとな。
ぽふん。
煙と共にコボルドとリザードマンが現れた。
コボルドはシベリアンハスキーみたいな顔をしているが、それが二足歩行している。不思議な愛嬌がある。
リザードマンは、トカゲ人間、というとちょっと頭が悪そうだが、そんなことはない。むしろ人にはない知性が感じられる。
「雇用契約に応じ馳せ参じましたわん。コボルド6名、死亡手当が出る限り頑張りますわん」
「同じくリザードマン6名。身命を賭して戦います」
「いや、なんか悪いけど、死なない程度に戦ってもらうよ。勤務は3人1組で交代制。」
「「はて?」」
おもむろにアロマディフューザーを2個置く。
コボルドとリザードマンの表情が柔らかくなった。
「なんとも安らぎますわん」
「これは……攻撃力に影響がでますな?」
「これは一個で部屋の攻撃力50%減少の効果がある。これを地下フロア全室に2個置く」
怪訝な表情。うん、何をさせたいかわかんないよね。
「……4分の1の攻撃力で戦えと?」
「うん。で、探索者から4分の1体力を減らされたら死んだふりしてよ。降参でもいいけど」
「ははあ。このダンジョンの目的は、探索者とわんたちの命の取り合いではないわん?」
「むしろ長引かせてDPを可能な限りもぎ取りたいね」
「……エグくないですか?」
「えぐいかなあ?」
「人間がダンジョンマスター権限持つと怖いわん」
解せぬ。するとポテトが地上から降りてきた。
『まのー』
「なんだポテト」
『こぼるどとりざーどまんにあいさつにきた』
「おお、マスター様……」
「下っ端に挨拶だなんて、恐れ多いわん」
社長が新入社員に顔見せするようなもんかな。
ポテトがふんぞりかえってるのが面白くて、ちょっと眺めていたが、そのうちコボルドとリザードマンが居心地悪そうになってきたので上階に戻した。
んで、福利厚生として、希望の家具とか部屋のデザインとかあったら言ってね、と伝えておいた。
リザードマンからは保温と水分、コボルドは待機時間にしゃぶる
「骨ぇ?」
「真野様、どうなさいました」
「ああシャルロッテ。いや、コボルドからおやつを要望されて。代表例が骨だって」
あー、とシャルロッテが渋い顔をする。
「顔が渋いよ。どしたの」
「コボルド族の骨のこだわりは尋常ではなく……適した骨はカタログにはないかと」
「んじゃイオン行ってくる」
「は?」
ててーん。ケンタッキーフライドチキーン!
これにはコボルドも大満足。骨付き肉を食べたあと骨を無限にしゃぶっている。
食い意地大魔王のポテトとクロの分も骨をとって与えたのでなんも問題なかった。
「あっさり解決しましたね……」
「人間界の食へのこだわりが役に立ったね。さて、次は保温と水分か……」
こっちは冬属性のカタログから床暖房を引っ張ってきて保温を解決。しかし5部屋+待機所の床につけたので維持費がさらに増えた。
水分は勝手に保湿だと判断した。家電量販店で加湿器を買ってきてそれぞれの部屋に配置。
リザードマンたち、うっとり。
「これがこの世の天国か……」とか言ってる。うん、その分働いてね。堕落しないでね。
上からクロがやってきてゴロゴロしだした。うん、犬はあったかい床好きだよね……。
というか、リザードマンもコボルドもゴロゴロしている。うん、富山は寒いからね……。
「真野様。DPをかなり消耗したのでは」
「そうなんだよ。維持費が8だったのが、80ほど増えた」
「ひえっ。収入は日に120DPですよ?」
「黒字じゃん。日に30DPあるなら現時点で月900DP黒字。なんとかなるよ」
「本当ですか……?」
「……実はちょっと不安」
「ほらー!」
「万一おじいちゃんたちが風邪でも引いて来なかったらそれで破綻するからね……なんとかなるといいなあ」
中村にLINE。
「もうちょっと早く怪我治んない?」
「怒るぞ」
だめかー。
「いやDPカツカツでさ」
「俺だって怪我で休んだからカツカツだよ」
「イェーイカツカツ仲間」
「イェーイじゃねえだろ、なんでそんな減った」
「リザードマンとコボルドを雇用しまして」
「おっ、ずいぶん思い切ったな。二級試験場にされるぞ」
「いや、元から試験場にするって話で役所と話ついたんだよ」
「あー、なるほど」
「ちゅーわけでテストプレイと口コミ営業をお願いしたいわけ」
「ほいほい。まあでも月末ぐらいになる」
「了解」
了解と言ったものの2週間はちょっと長い。
「あと桜木ちゃんがポテトに嫌われたらしいじゃん?」
「あー、そうだな」
「桜木ちゃんなんかやらかした?そんな子には見えないんだが」
「なんだろなあ、デーモンスレイヤーになりたいってのがダメだったらしい」
「はー。すでにデーモンスレイヤーの俺が良くて?」
「桜木ちゃんはガツガツしてる、らしい」
「ポテトわかんねー」
「な、わかんねー」
ポテトは一月近く経つ今でもなぞのいきものだ。かわいいからいいけど。
「それと大事なお知らせがあります」
「聞こうじゃないか真野くん」
「雇い止めになる。だからダンジョン業に本気にならざるを得ない」
「……そうか」
「なんか言わねえの?」
「いやー、楽じゃない、ってのはもう身に染みてそうだしな」
「マージで大変だよ」
「まあがんばれ」
「おう」
LINEはそこで途切れた。
ので、地下フロアを覗きに行ってみる。全員ゴロゴロしてる。
「おお、雇い主殿」
「あ、くつろいでていいよ。探索者の気配を察知したらやる気になってくれるだけでいいから」
「楽な職場わん」
「楽な職場で長く働いてもらいたいからね」
これは本心だ。楽な職場なんて世界にいくつあってもいい。まさか自分が職場を提供する側になるとは思ってなかったけど。
「あ、代表者を決めてくれないかな。要望はそいつから聞くことにする」
「代表者、ですか」
「メリットはあるわん?」
「うーん。じゃあ、名前をつけてあげよう。コボルドの代表者にハスラー、リザードマンの代表にイース」
揉めた。そりゃもう揉めた。
なぜ揉めたかというと、雇用契約時に名前をもらったというのは一生使えるステータスらしい。そんなん知らんかった。
じゃあポテトも?と聞くと、若干話が異なるらしい。
「ダンジョンマスターの場合は名付けたものに名誉がありますわん」
「名付けた雇用主様はダンジョンマスターの上に立つもの、ということになりますな」
はえー。
シャルロッテに聞いたら、「言ってませんでしたっけ?」ときたもんだ。この女はそういうこと言う。
あとシャルロッテが最初から名乗ったのも、以前のダンジョンマスターに名付けられた誇りがあるから、だそうな。
「ふーん、昔の男の思い出ね」と言ったら「女ですけど」と言われた。そういうことじゃないんだけど、まあいいか。
ビールを仕入れたら午後の茶飲み場営業が始まる。
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