おかげで色んな人に助けてもらえて知り合いが多い。
なので葉隠ちゃんが可愛くてわしゃわしゃする。
生まれ持った“個性”は“
平たく言えば他者の能力を一部だけコピーできるというもの。
役に立たないわけではないが上には上がいる。ヒーロー適性試験では活躍できなかった。
人類の大半が特殊能力を生まれ持ち、それを能力とは呼ばずに“個性”と呼ぶ時代。
巷には“個性”を駆使して人助けをするヒーローが溢れ返っていた。
勇生もまた幼い頃はヒーローになることを夢見ていたが、高校生になった今、その夢はすでに諦めれてしまっている。
有名ヒーローを数多く輩出した雄英高校のヒーロー科に入れなかったことが大きな挫折だ。
しかしその一方で、彼にはヒーロー科の生徒からも羨まれるほどの才能があった。
それは頻繁に事件に巻き込まれる、もしくは事件が発生した現場に居合わせる運の悪さ。
彼自身が望もうと望むまいと彼がいる場所ではよく事件が起こる。
ヒーロー社会になった今、その異常な運の悪さは“主人公体質”とも呼ばれた。
ヒーローになれないのに主人公になったところで意味はあるのか。
勇生自身はそう考えて、自身の体質をあまり気に入ってはいなかった。
「オラァァ‼ 近付くんじゃねぇ! こいつがどうなってもいいのかァ!」
「主人公っていうか、被害者体質だよなぁ……」
逃走中の
体から棘を生やす大男に首に腕を回され、左手から生えた棘を顔に向けて突き付けられて、群衆に取り囲まれている。
駆け付けた警察とヒーローがそこかしこにいるが野次馬も多く、これではまるで見世物だ。
ヒーローなどの特殊な職業でもない限り、原則として市民の“個性”使用は禁止されている。
こうして
それなら早く助けてほしいと思うのだが、手立てがないのかしばらく眺められていた。
「民間人が人質にされています!」
「狙撃班の準備はまだか!」
「対応できるヒーローはいないのか⁉」
「落ち着くんだ! その子は関係ないだろう! 我々も下がるから、一旦話し合おう!」
大人たちは慌てふためいているものの、勇生自身は落ち着いている。
偶然その場に居たからという理由で人質にされるのは、子供の頃からの累計ですでに何十回と経験している。よっぽど錯乱している犯人でもなければ大人しくしていれば傷つけられないものだ。
そう思って彼は大したリアクションも抵抗もせず、静かにじっと立っていた。
「あっ! また先輩が捕まってる!」
「クソが‼ てめぇなに黙って突っ立ってんだマヌケがァ!」
「口が悪いぞ爆豪くん! 先輩に向かってなんて口の利き方なんだ君は!」
「せ、先輩! 大丈夫ですか!」
野次馬をかき分けて、勇生と同じ制服を着ている学生たちが現れた。
勇生はなんとなく嬉しくなって笑顔になる。
「そんなやつさっさとてめぇでぶっ飛ばして逃げてこいや‼ 甘えてんのかバーカ‼」
「それはいけない爆豪くん! だいたい君はしょっちゅう勝手に“個性”を使っているが、“個性”は許可を得た人しか使っちゃいけないものなんだ! つまり君が悪くて先輩が正しい!」
「アァッ⁉ だったら
「プロヒーローの悪口を言うんじゃない! その
「目撃者がこんだけいるんだから緊急措置だろうが! 警察もヒーローもこんだけ雁首揃えてやがるくせに
「君は本っ当に口が悪いな! 確かに僕だって思うところはあるが先輩の不利になるようなことをすべきではないと言ってるんだ! ただでさえ悪目立ちするのに!」
「つーかお前らうるさすぎ。飯田、お前の発言も結構アレだぞ? 先輩気にしちゃうぞ?」
雄英高校の生徒たちが駆けつけて、すぐに騒ぎ出したせいで辺りはさらに混乱する。
警官やヒーローが彼らに下がっているように注意するのだが、ツンツン髪のいかにも不良然とした生徒がこの状況に大声で文句を言い始め、眼鏡をかけている高身長の男子がその彼に大声で注意し始めるものだから収集がつかない。
そんな中で赤い髪を逆立てた男子生徒が一歩前に出てくる。
唐突な行動に驚いて隣にいた緑がかった天然パーマの男子生徒があっという顔をしていた。
「おい犯人! 人質が必要なら俺がなってやる! だからその人を解放しろ!」
「き、切島君、そんなこと言ったら……」
「心配すんなって緑谷。俺の“個性”ならあんなやつのしょぼい棘なんか効かねぇよ!」
「はっきり言っちゃった⁉ 声が大きいよ切島君! 代わらせてもらえるわけないよ!」
そっちはそっちで騒ぎ始めて、救出のために動き始めることはできなかったようだ。
勇生は慣れた様子で嘆息するだけだが、彼を人質にしている
「今日は夜までに帰れるんだろうか……」
「てっ、てめぇらふざけてんのか⁉ いいからさっさと離れやがれェ!」
その時、耳元で怒声を聞きながらふと視線を動かした勇生は彼に気付いた。
髪の半分が赤、半分が白。この状況で全く慌てていない無表情の青年が立っている。
彼は胸の前まで上げた右手に冷気を纏わせつつ、勇生をじっと見つめて、大声を出さずに呟く。
「先輩。一瞬隙を作ってくれれば
「あぁ~……おっけ」
あとで怒られるかもしれないと思いつつ、意を決して動き出す。
捕まっているのもそろそろ面倒になってきた頃だ。
勇生は彼を信じて行動した。
“共鳴”の発動条件は“個性”を持つ他者に触れること。今は
掌に棘を生やして、自身の首を押さえる太い腕に突き刺した。
「ぎゃあっ⁉ いでぇ⁉」
人質に攻撃されるとは微塵も思っていなかった
勇生はすかさず腕の中からするりと抜け出し、再び捕まらないよう低い姿勢で走る。
次の瞬間には強烈な冷気が空を駆けていた。
あまりにも鮮やかな手腕。何が起きたのか本人にも理解できていない。
周りで一部始終を見ていたはずの景観やヒーローも、一瞬ぽかんとしてしまったあと、ようやく状況を察して動き出す。
動けない
その頃には勇生は避難を完了しており、“半冷半燃”の青年へ笑いかける。
「
「いや……別にこれくらい」
「すげぇな轟! 爆豪なんもしてねぇぞ!」
「あ゛っ⁉ ふざけんな前髪! ぶっ飛ばすぞてめぇ!」
「誰が前髪だよ! 事実じゃねぇか! お前結局飯田と揉めてただけだろ!」
「お前のトサカをぶち折ってやる‼」
「やめるんだ爆豪くん!
事情聴取だの注意だの、この場に残っても面倒なことばかりだ。
勇生はこそこそと逃げ出そうとする。
「あれ⁉ 先輩、まだ残ってた方がいいんじゃ……」
「いいのいいの。どうせ顔も覚えられてるし、なんかあったら呼び出されるだろ。緑谷もおいで。爆豪の近くにいたらまた無意味に怒鳴られるぞ」
「それは確かにやられそう……!」
「轟も来るか?」
「はい。これ以上は遅刻するんで」
勇生は慣れた様子で走って逃げだし、ついでに緑谷と轟を連れて安全にこの場を去った。
やたら事件に巻き込まれる主人公体質は、言い換えれば誰かに
特にヒーローやヒーローを志す者と関わる機会が多い。
本人が望む望まないは関係なく、勇生には知り合いが妙に多かった。
「先輩の体質は、本当に毎日大変ですね……」
彼が簡単に他人を嫌ったりしない優しい性格だと知っているとはいえ、そんな表情でそんなことを言われるのは初めてのことで、嫌われたかもしれないと不安に思ってしまう。
ヒーロー志望のよく知らない相手からは羨まれることもあるこの体質。しかし実際に近くにいるとやたらめったら事件に巻き込まれてその余波を浴びるため、めんどくさがられることも多い。
彼自身は何もしていないのに、警察やプロヒーローからなぜか注意されることもあった。
そうした事情があるため勇生は他人の感情の動きに敏感だったのだ。
「昨日は誘拐されかけてたし、その前の日は自転車に跳ねられて橋の上から川に落ちて、その前は落ちてきた植木鉢が当たりかけてたって……」
「言ってくれるな。俺もどうかしてるとは思うけど、どれも俺のせいじゃないんだ」
「ちょっといいなって思っててすみませんでした……今は正直、ヒーローとか関係なく代われるものなら代わりたいくらいです」
「そう思ってくれるだけで嬉しいよ。ありがとう」
やっぱり嫌われたわけではないようだ。出久の優しい発言に勇生はにこっと笑う。
一方で出久と共に勇生を挟んで歩く
「だけど、先輩も悪いですよね。こうなるかもしれないから一緒に登下校しましょうかって言ったのにめんどくさそうに断って」
「ハッ⁉ 怒られる気配⁉」
普段クールな焦凍にじろっと見られたのを察して、勇生はバツが悪そうな顔になる。
「結局騒ぎを聞いて駆けつけることになるんだから一緒にいた方が楽だろうと……」
「あぁ~怖い顔⁉ ごめんなさい! や、それはそれで気ィ遣うしさ……」
「どうせ何か起こるんだから未然に防いだ方がいいでしょう」
「ひどいこと言われてる気がする!」
「轟くんって、あんな顔するんだ……」
友達の意外な一面を見た気がする。
焦凍自身は出久の反応を気にしていない、どころか気付いてすらいなさそうだが、意外な距離の近さを感じて出久はわけもなくドキドキしていた。
クールで基本いつもかっこよくて少し天然。そう思っていた彼の知らない一面を見た。
「あっ! 先輩だ! おはよーございまーす!」
後ろから弾むような大声が聞こえてきた。
すでに相手がわかっている勇生は振り返ると同時に胸の前辺りまで手を上げる。そして手を開いて待っていると、女子用の制服を着ている透明人間が走ってきて、構えられている勇生の手を見えない手でパチンと叩いた。
「いえ~い‼」
「はい、おはよう。いえーい」
「おはよー先輩! ねぇねぇ、痴漢した
透明人間の
勇生は葉隠の透明な手で手を掴まれながら芦戸に答える。
「いや、そんなことはないと思うよ」
「うそつき~! 先輩うそつきだぁ! 私もう聞いちゃったもんねー! 捕まってたのはいつもの不幸少年で、髪が半分白い男の子が氷の“個性”で
がははは、と上機嫌に笑う芦戸を見て勇生はやれやれという態度を見せる。しかし気分を害するどころか彼女に絡まれて実はめちゃくちゃ喜んでいた。
普通に可愛い。可愛すぎる。女子から自発的に絡まれるこの状況にドキドキしていたのだ。
「歩いてるだけで人質になっちゃう人間なんて先輩しかいないでしょ~!」
「先輩、不幸だー! ってちゃんと言った?」
「言ってない……俺別に無個性ではないんだよ」
「えぇ~言った方がいいよー。言えるくらい不幸なの先輩だけなんだから!」
「不幸でも頑張ってくださいね! 先輩!」
「うるさいなぁ⁉ 俺だって別に望んでこうなったわけじゃねぇよ!」
勇生が見えない葉隠の頭を両手で掴み、わしゃわしゃと少し乱暴に撫でてやる。
透明なせいで表情が見えないとはいえ彼女は楽しげに声を弾ませた。
「あはははは! きゃ~♡」
「ちくしょう可愛いなこいつめ!」
「あーっ‼ なんかラブ臭がすることしてる! ずるい! 私もやってほしい!」
そうしてじゃれるのは今となっては珍しくない。
人懐っこい葉隠と新しいもの好きの芦戸が温厚な勇生と仲良くなるまで時間はかからなかった。
ただ意外な接し方だったのか、そのやり取りを見ながら出久と焦凍は口を挟めなくなる。
ちょうどそんなタイミングでまた別の生徒に声をかけられた。
「こ~ら、見えないからってセクハラはよくないぞー」
「ら、ラブ臭……ラブ臭とは……」
からかうように言ってきた
手は止めたものの、勇生の両手は葉隠の頭に置かれたままで、彼女の手がそのまま押さえるようにして上から重ねられていた。さらに芦戸が駄々をこねるように背後から首根っこを掴んでいる。
年頃の男女というより家族のようであった。
「セクハラしてねぇよ。愛でてるだけだ」
「んふふ~、愛でられてまーす!」
「私も愛でろおら~!」
「どういう集まりなんだこれ……」
「コホン! せ、先輩、仲睦まじいのはいいことですが、その、交際もしていない男女がそこまで身体接触するのはいかがなものかと……」
「ヤオモモもおいでよー!」
「そうだよヤオモモちゃん! 楽しいよー!」
「ええっ⁉ い、いえ、その、私は……!」
「……そんなに嫌がってなくない?」
「なんていうか……みんなすごいね」
「ああ。先輩にここまで人望があるとは」
日常的に様々な不運に見舞われるが、その度に誰かに
気付けばいつの間にか多くの人と知り合っている。
そして今はただの偶然にしても、可愛い女の子たちに囲まれていたのだ。
(これはもしや……俺ってモテてるのか⁉)
その結果、勇生は単純に浮かれていた。