社会人だってリア充になりたい   作:アンドレアス

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第十四話「幸運II」

 

カードパックを開け終えた誠一と河合は、そのまま新宿の街をふらふらと歩いていた。誠一の頭の中では、河合の勢いに押されて、ついカードパックを買ってしまったことへの後悔が渦巻いていた。

 

百万円を失った結果が、Fランク十枚。あまりにも酷い結果だった。酷すぎて、すぐに帰る気にもなれなかった。

 

二人は特に目的もなく、クリスマスの雰囲気に浮かれた休日の新宿を、ただぶらぶらと歩いていた。

 

大通りには人々が行き交い、すれ違う人からは、甘ったるい香水の匂いが漂ってくる。そんな賑やかな街の中を、二人の男だけが、絶望を抱えたまま歩いていた。

 

「いやぁ……まさか全部Fランクとはなぁ」

 

隣を歩く河合が、もう何度目になるか分からないため息をついた。手には、さっき開けたカードの束がある。

 

「百万円払って、全部Fランクだからな」

 

「俺なんか、二ヶ月分の給与だぞ。お前と違って、臨時収入なんてないんだから」

 

「……そう考えると、酷いな」

 

「そう考えなくても酷いだろ」

 

河合が、一番上のカードをつまみ上げる。そこに描かれているのは、醜い小型モンスター――ゴブリンだった。

 

「こいつが、十万円」

 

「言うなよ」

 

思わず声が大きくなった。前を歩いていた女性が、ちらりとこちらを振り返る。誠一は焦って、小さく頭を下げた。

 

河合はそんな誠一を見て、少しだけ口元を緩めた。

 

「まあ、でもさ。……こういう時って、次は当たる気がするよな」

 

「は?」

 

河合は頬をひきつらせて笑いながら続けた。

 

「ほら、ここまで外したんだから、次は反動で」

 

「無理だよ。俺はこれで、貯金なくなったんだから」

 

誠一の財布は、かなり危機的な状況にあった。銀行残高は、十万円を下回っている。ここで「次こそは」と考え始めたら、本当に破滅してしまう。

 

「……今日はもう、カードの話はするな」

 

酔いが回ってきたのか、少し気持ち悪くなってきた。河合からFランクカードが詰まったパックを受け取りながら、誠一はため息をつき前を向いた。その時だった。

 

人混みの向こうから、見覚えのある女性が歩いてくるのが見えた。

 

その姿は、人の流れの中にいても、なぜかすぐに目に入った。

 

(……あれ?)

 

誠一は足を止めた。河合が二、三歩先まで進んでから振り返る。

 

「どうした?」

 

女性が近づいてくる。見間違いではなかった。高梨美咲だった。――その隣には、男が歩いている。

 

背が高く、細身で、姿勢がいい。服装もきちんとしていて、髪型も整っている。顔立ちは、素直に言って、男前だった。

 

その男を見た瞬間、誠一の心臓のあたりが、きゅっと縮んだ。息を呑んで立ち止まっていると、美咲がこちらに気づいた。

 

「あれ?」

 

美咲が足を止め、つられて男も立ち止まる。

 

「誠一さん?」

 

「……あ!」

 

名前を呼ばれただけで、胸の奥が跳ねた。

 

「やっぱり誠一さんだ!」

 

美咲が嬉しそうに笑う。その笑顔を見た瞬間、誠一の中にあった不安が、一瞬だけ薄れた。――いや、待て。

 

隣には、親しげな男がいる。しかも、かなりのイケメンだ。

 

「こんなところで会うなんて、偶然ですね」

 

「そ、そうですね」

 

誠一は、美咲と男を交互に見た。見れば見るほど、二人の距離が近く感じる。傍目には、お似合いの男女に見えた。

 

視線に気づいたのか、隣の男がこちらに顔を向けた。近くで見ると、さらに顔立ちが整っていた。

 

カードパックで全てFランクを引いた直後、好きな女性が、知らないイケメンと一緒に歩いている。――なんだ、この世界は。俺に何か恨みでもあるのか。誠一は、そんな理不尽さすら感じていた。

 

「じゃあ、俺はここで」

 

男が、美咲に向かって言った。

 

「え?」

 

誠一は、思わず男を見た。恋人ではないのか。

 

「話せてよかったよ。美咲も頑張れよ」

 

男はそう言って、美咲に軽く手を上げた。美咲も、小さく頭を下げる。

 

「はい。沢渡さんも」

 

男はそのまま、誠一たちの横を通り過ぎていった。すれ違う瞬間、清潔感のある香りがした。その背中が、人混みの中へ消えていく。

 

――美咲も頑張れよ。その言葉が、誠一の頭の中で反芻していた。何の話だ。嫌な想像が、勝手に膨らんでいく。

 

「え、ちょっと待って」

 

先に口を開いたのは、河合だった。男の後ろ姿を見ながら、眉間に皺を寄せている。

 

「今の人、誰?」

 

「……俺も聞きたい」

 

誠一は、美咲に向き直った。

 

「あの、さっきの人って……」

 

「え? ああ、沢渡さんっていって、三つ星の冒険者なんです」

 

名前を聞いただけで、嫌な予感がさらに強くなった。

 

「冒険者の友達です」

 

「……え?」

 

冒険者の友達。誠一はその言葉を、頭の中でゆっくり反芻した。誠一と河合は、思わず顔を見合わせた。たぶん、同じことを考えている。友達という言葉の意味が、自分たちの知っているものとは違うのかもしれない。

 

「でも、美咲さん。冒険者の知り合いはいないって……」

 

「ああ、それは……」

 

美咲が、少し困ったように笑った。その表情に、誠一の心臓が、嫌な音を立てる。

 

「実は、元カレなんです」

 

「…………」

 

街の音が、急に遠くなった。人の足音や話し声が、すべて薄い膜の向こう側にあるように聞こえる。

 

「元カレと、なんで会ってたんですか?」

 

河合が聞き返した。誠一は、聞き返すことができなかった。聞き返すのが、怖かった。

 

「今回は、前に貸していたものを返してもらうために、会っていただけです」

 

美咲は、あっさりと答えた。

 

「今は、本当に何もありません。連絡も取っていなくて」

 

「そ、そうなんだ……」

 

ようやく声が出た。自分でも驚くほど、情けない声だった。

 

――よかったのか。いや、元カレがいるという事実は、普通によくない。気持ちが落ち着かないせいか、誠一はどうしても悪い方向にばかり考えてしまっていた。

 

「あ!」

 

美咲が突然、声を上げた。誠一は驚いて、びくっと肩を跳ねさせた。

 

「ちょうど、誠一さんの話もしていたんですよ」

 

「俺の?」

 

「はい」

 

美咲が、嬉しそうに頷く。

 

「ちょうどよかったです。少し、お話しませんか?」

 

「え?」

 

誠一の鈍くなっている頭では、話の展開についていけなかった。

 

「じゃあ、俺は帰るわ」

 

河合の反応は早かった。美咲が誘い終わる前に、もう帰る顔をしている。

 

「え?」

 

「俺、今日もう十分傷ついたから。二ヶ月分の給料を失って、目の前で男女の再会イベントまで見せられて」

 

河合は、本気で疲れた顔をしていた。

 

「……河合」

 

「今の俺は、もう、これ以上他人の幸せを見ていられない」

 

河合は傷ついているようだったが、誠一も似たような気持ちだった。

 

「まだ幸せになると決まったわけじゃないだろ」

 

「その台詞を言う奴は、だいたい幸せになるんだよ」

 

河合は片手を上げると、誠一たちを置いて、駅の方へ歩き出した。誠一はその背中を見ながら、なんとなく申し訳ない気持ちになった。

 

「……河合さん、帰っちゃいましたね」

 

「はい。何を考えてるのか、俺にもよく分かんないです」

 

美咲も、河合の様子に少し驚いているようだった。だが、美咲は誠一と河合に今日起きた不幸を、まだ知らない。

 

「まあ、あいつは器用な奴なんで、大丈夫です」

 

誠一は、河合の背中を見ながら首を振った。

 

「明日になったら、今日のことなんか忘れて、元気になってると思います」

 

その後、二人は、近くの喫茶店に向かった。誠一は、河合のことよりも、美咲の話の内容の方が気になって仕方なかった。

 

***

 

古いビルの一階に入っている、フランチャイズの喫茶店に、二人は入っていった。

 

案内された席に向かい合わせに座るが、なぜか少し距離があるように感じる。

 

「誠一さんは、何か食べますか?」

 

「え?」

 

「中途半端な時間になっちゃったので、私は何か食べようかなと思って」

 

美咲の様子からして、沢渡と会っていた時間は、そんなに長くなかったのかもしれない。だが、誠一には、注文のことよりも、何を話したらいいのかの方が気になっていた。

 

今こそ、シルキーに相談したいと心から思った。

 

「じゃあ……俺は、このコーヒーゼリーを」

 

美咲が、小さく笑った。その笑顔を見て、誠一の胸が、また跳ねた。

 

その時、美咲がふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、誠一さんって、テレパス使えますか?」

 

「え?」

 

誠一は、注文用の端末を持ったまま固まった。

 

「テレパスって、なんですか?」

 

「カードと頭の中で会話する、冒険者のスキルなんですけど」

 

「あ!」

 

誠一は思わず声を上げた。

 

「やっぱり、できるんですね」

 

美咲が、納得したように頷く。

 

「誠一さんのモンスターたちって、連携がすごく良いなって、思ってたんですよね」

 

「冒険者としては、当たり前のスキルだったんですね……」

 

「私も、さっき知ったんですけど。プロ級の冒険者にとっては必須のスキルみたいですよ」

 

「そうだったんですか。全然知らなかったです」

 

誠一は、まどろんでいた頭が、ようやく回転してきた。そして、少し胸が熱くなった。プロの冒険者のスキルを、二つ星の自分が、すでに身につけていた。

 

「不思議な感覚だったので、自分だけかと思ってました」

 

誠一は、自分の手元を見た。人生最悪の日だと思っていたが、頭が混乱して、よく分からなくなっていた。

 

「実は、さっきの沢渡さんから教えてもらいました」

 

誠一は驚いて、再び思考が止まった。

 

「プロの冒険者を目指してる人で、色々と話を聞いてたんです」

 

「ああ……」

 

混乱していたせいか、男の話が出て、誠一は逆に少し落ち着いた。

 

「あと、それで、誠一さんに話したかったのは、その件じゃなくて……」

 

美咲が、顔を下に向けて考え込んでいる。その動きが、やけにゆっくりに見えた。

 

(そういうことだったのか)

 

美咲が何を言おうとしているのか、もう聞きたくなかった。今日の出来事が、頭の中で勝手につながっていく。最近、少し運が向いてきたからといって、調子に乗ってしまったのかもしれない。

 

これは、自分への罰なのだ。むしろ、最近の自分が、人生の中で異常だっただけなのだ。男と並んで歩いていた美咲の姿が、頭の中にフラッシュバックする。

 

誠一は、もう何も考えたくなかった。美咲からの言葉で傷つくくらいなら、何も聞かずに立ち去った方が良いと思い、椅子からゆっくりと立ち上がった。

 

椅子の脚が床を擦り、店内に大きな音が響いた。

 

「すみません。今日はもう帰ります」

 

冷えた頭とは反対に、心臓の音だけがうるさくなっている。

 

(二人で探索できたこと、楽しかったです)

 

心の中でそう呟きながら、自分でも分からないうちに、口が勝手に動いた。

 

「俺が敵うものなんて、何一つないので。今まで、ありがとうございました」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

美咲が慌てて立ち上がった。テーブルが揺れ、水の入ったグラスが波打つ。

 

「誠一さん、さっきから何言ってるんですか?」

 

美咲は、本当に驚いているようだった。

 

「どうして急に、帰るなんて言うんですか?」

 

美咲は慌てた様子で、テーブルの上にカードを置いた。

 

「これ、見てください」

 

机の上には、禍々しい角と鋭い爪を持つ、見るからに恐ろしげなモンスターのカードが、こちらを睨みつけていた。

 

「デーモンのカード、ですか……?」

 

それは、Dランクの中でも上位の性能を持つ、人気のカードだった。デーモンは、Dランクでありながら、同じDランクのレッサーデーモンを眷属召喚することができる。

 

美咲が頷いたので、誠一はカードを手に取った。カードの情報が、目に飛び込んでくる。

 

【種族】デーモン

【戦闘力】150

【先天技能】

・悪魔の眷属:自身の下位悪魔を召喚することができる。一日一回。

・下級魔法使い:簡単な魔法を使用可能。

 

【後天技能】

・悪魔のプライド

・無口

 

「……これ、どうしたんですか?」

 

誠一は、カードと美咲を交互に見て尋ねた。

 

「私は主人として認めてもらえなくて、どうしても、うまく使うことができなかったんです」

 

美咲は、真剣な表情をしていた。

 

「よかったら、誠一さん、使いませんか?」

 

「へっ?」

 

誠一は、カードを持ったまま固まった。

 

「い、いいんですか? かなり強力なモンスターですけど」

 

美咲は、少し困ったように笑った。

 

「私の言うこと、全然聞いてくれなくて。テレパスが使える誠一さんなら、悪魔も上手く扱えるんじゃないかと思って」

 

カードの中のデーモンを見る。後天スキルには、マイナススキルである「無口」があった。ほとんど喋らず、集団行動にマイナス補正がかかるスキルだ。

 

そして、悪魔のプライド。カードを少し傾けると、デーモンのイラストが、さらに偉そうに見えた。

 

「売るくらいなら、誠一さんに使ってもらった方がいいかなって」

 

「どうやって、このカードを?」

 

美咲が、少し照れたように笑いながら答えた。

 

「実は、唯と一緒にいる時に、勢いでカードパックを買ってしまって。Dランクカードが、二枚入ってたんです」

 

「え!」

 

誠一は驚いた。美咲もカードパックを買って、Dランクカードが二枚も入っていたなんて。

 

自分たちは、Fランク十枚。美咲は、Dランクカードが二枚。

 

「もう一枚のDランクカードは?」

 

美咲は、鞄からさらに一枚のカードを取り出し、誠一に手渡した。――それは、アマゾネスのカードだった。

 

【種族】アマゾネス

【戦闘力】150

【先天技能】

・戦士:戦士に必要な技能を収めている。武術、剣術、槍術、弓術、騎乗スキルを内包する。

・不屈の闘志:追い詰められるほど力を発揮する。生命力が一定以下になると、筋力が大きく向上する。

 

【後天技能】

・奇襲:攻撃時、相手に気づかれていない場合、ダメージにプラス補正。気配遮断を内包する。

 

同じ価格のカードパックを、購入したはずなのに、結果はまるで違う。アマゾネスとデーモン――どちらも、Dランクカードの中では強力な部類に入る。しかも、女の子モンスターであるアマゾネスは、人気の高いカードでもあった。

 

誠一は、もう一度、自分のカードの束を思い出した。Fランク、Fランク、Fランク――十枚すべてが、同じ結果だった。対して、美咲のカードは、二枚ともDランク。明らかに、強いカードたちだった。

 

誠一は、ゆっくりと椅子に座り直した。さっきまで立ち上がっていたことすら、忘れかけていた。

 

「なんだ、この差は……」

 

気分の悪さを通り越して、誠一の中では、妙な感情が渦を巻いていた。

 

美咲を見ると、居心地悪そうに頷いている。誠一は、なぜか納得してしまっていた。

 

思えば、最近の自分は、いつになく運が良かった。新しいカードを手に入れ、迷宮での危ない場面も、大きな問題もなく切り抜けてきた。色々なことが、調子よく進んでいた。

 

誠一は、それを自分の運の良さだと勘違いしていた。だが――もしかしたら、違うのかもしれない。

 

自分の運が良かったわけではない。美咲がずっと幸運で、誠一の隣に美咲がいたから、その幸運の一部が、少しだけ流れてきていただけなのかもしれない。

 

そして今、その幸運の一部を、美咲は誠一に分けてくれようとしている。

 

誠一は、目の前のカードを見つめた。デーモン。Dランク。自分に扱えるかは分からないが、間違いなく強いカードだった。

 

だが、そんなことは、もう、どうでもよかった。

 

誠一は、美咲を見た。彼女は、自分にカードを渡そうとしている。自分が引いた貴重なカードを。

 

(……この人を、絶対に離してはいけない)

 

そう思った。理屈ではなく、直感だった。カードパックの結果も、元カレのことも、三つ星冒険者のことも、全部どうでもよくなっていた。

 

誠一は、美咲を見つめた。

 

「み、美咲さん」

 

「はい?」

 

美咲が顔を上げる。その目が、まっすぐ誠一を見た。

 

心臓が、どくんと鳴った。店内の音が、また遠くなる。コーヒーの香り。隣のテーブルの会話、窓から差し込む午後の光。全部がぼんやりして、目の前の美咲だけが、はっきりと見えた。

 

「好きです」

 

「……は?」

 

美咲の目が丸くなる。誠一自身、自分の言葉に驚いていた。言ってしまった。それでも、もう止まらなかった。

 

「付き合ってください!」

 

声が、店内に響いた。さっきよりも、大きかった。窓際の若い男女がこちらを見る。本を読んでいた男性が、顔をあげてこっちを見ている。店内の会話が止んで、空気が一瞬で変わった。

 

誠一は、その時になって、ようやく自分の状態を思い出した。

 

頬が熱い。頭がぼんやりする。さっきから、水を飲んでも全然酔いが醒めない。

 

そもそも、誠一は今日、カードパックを開ける前から調子良く酒を飲んでいた。河合と一緒に、景気づけだとか何とか言って、昼間から飲んでいたのだ。

 

つまり――誠一は今、かなり酔っ払っている。それも、相当に。

 

美咲も、誠一の顔色に気づいたらしい。

 

「えっと……」

 

美咲は、珍しく顔を赤くして、視線を下げた。手を机の上に揃えて置いているが、その指先が少し落ち着かない。

 

「誠一さん、かなり酔ってませんか?」

 

「酔ってません!」

 

反射的に答えた。

 

「いや、酔ってますよね?」

 

「酔ってても、関係ありません! 初めて会った時から、好きでした!」

 

言ってから、店内の空気がさらに重くなった。誠一は自分で言った言葉に、恥ずかしくなっていたが、もう引き返せない。

 

その言葉を聞いた瞬間、美咲の頭に、唯の言葉が過ぎった。

 

――大事にしてるんじゃない?

 

そうだ。誠一はずっと、自分のことを大事に考えてくれていたのかもしれない。ただ、それを態度には出さず、控えめに、ちゃんと向き合おうとしてくれていたのだ。

 

美咲は、嬉しかった。今まで知り合ってきたどの男性とも、目の前のこの人は違う――そう、はっきりと感じていた。

 

「……わかりました」

 

美咲が、恥ずかしそうに、ゆっくりと顔を上げた。

 

「え!?」

 

「でも」

 

美咲は、少しだけ困ったように笑った。

 

「酔ってない時に、もう一回言ってくださいね」

 

「いつでも言いますよ!」

 

誠一は即答した。早すぎた。美咲が目を瞬かせる。

 

「本当に?」

 

「はい!」

 

「今も、酔ってますよね?」

 

「酔ってません! 好きです、美咲さん!」

 

誠一は、もう一度、はっきりと言った。もはや店内の全ての客が、二人に注目してどこからかパラパラと拍手まで聞こえてきた。

 

「絶対、酔っ払ってますよね」

 

美咲は、顔を両手で隠した。こんなに恥ずかしい告白をされたのは、初めてだった。それでも同時に――お酒の力を借りなければ、素直な気持ちを伝えられない。そんな誠一の不器用なところを、美咲は、いつの間にか好ましく思っていたことに気がついた。

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