(ん? ここはどこだ?)
意識が覚醒したかと思えば、視界の一切が深い、どん底のような闇に染まっていた。
(僕は・・・・・・確か)
僕の名前は
病院の集中治療室。悪化の一途をたどっていた容態のまま、僕はそこで――死んだ。そう思っていたが・・・・・・
その後の記憶なんてあるはずがない。
だが、今こうしてはっきりと意識があるということは、奇跡的に一命を取り留めたということなのだろうか。
(それにしても暗いな、ここ。)
僕の視界には光一つすらない暗闇がどこまでも広がっている。
(あれ? なんで目が開かないんだ?)
得体の知れない恐怖が、じわりと胸を這い上がる。
どんなに意識を目に集中させても瞼を動かすという感覚すらない。
まさか!?
慌てて体を動かそうとする。
だめだ。手足の感覚もない。
上半身はカサカサと微か音を立てる。
だが、下半身に至っては動く気配すらない。
まるで大地に深く根を張る植物のようだ。
しかし、不思議と体は奇妙なほど軽かった。
胸を押し潰すかのような圧迫感も、四肢を苛んでいた鉛のような重だるさも、すべてが綺麗に消え去っていた。
手も、足もまるで感覚がない。
だけど……こんなに体が軽いのは生まれて初めてだ。
俺に一体、何があったんだ?
『エクストラスキル「魔力感知」を使用しますか? YES/NO』
困惑する心に呼応するように、脳内へ直接、無機質な女性の声が響き渡った。
なっ! なんだ!? 誰だ!?
この声・・・・・・どこかで聞いた気がするな?
はて? どこだったか。
そうだ! 思い出した。
死にかけた時にも同じような声が聞こえてたな。
あの時は幻聴の類かと、うんざりしていたが気のせいではなかったのか。
それにしても人間味がない声だな。
まるでSF映画でよくあるAIのような無機質で機械的で・・・・・・。
(いったいどこから聞こえてくるんだ?)
周りに誰かいるのかな? でも、それにしては・・・・・・妙な違和感がある。
周囲にはなんら気配すらない。
もしかして僕、脳内に最先端のAIチップでも埋め込れたか?
それなら僕の脳内に直接、声が聞こえるのも納得できるが、本人無断でそんな人体実験じみたことを両親が「はい。いいですよ」なんて同意するとは思えないが・・・・・・
僕は少々、いや、かなり不安だった。
まぁ・・・・・・まだそうと決まったわけではない。
謎は山積みだが、今はひとまず置いておこう。
それにしても「魔力感知」か。
・・・・・・「魔力感知」だぁ?
どういうことだ?
前世ではよく聞き馴染みある言葉であり、そうでもない。
矛盾してはいるが、それは仕方のない。
なぜなら、「魔力感知」という言葉は異世界もののラノベでよく用いられる言葉だからだ。
僕も「魔力感知」という言葉についてはそれなりに知識がある。
異世界ラノベ譲りの知識ではあるが、大体、どのラノベも共通した認識で、“周囲の魔力を感知する”という能力で紹介されている。
そんな世間では、非現実的なファンタジー用語がなぜ、今になって、登場してくるのだろうか?
もしかして、死にかけた僕を励まそうっていうブラックジョークか?
正直、あんな恐怖の直後じゃ少しも笑えない。
空気読んでよ、トホホ・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・』
・・・・・・む。
なぜだか無言の圧力を感じる。
誰かとは言わないが、ずっとこちらをじっと見つめられているような気配がする。
・・・・・・わかった、わかったよ! ごめん、言い過ぎた。
『・・・・・・・・・!』
なんだか少し嬉しそうになった気がする。
今のところ無口ではあるが、悪い奴では・・・・・・ないのか。
まあ、そもそもこいつが何なのか、未だにさっぱり分からないけれど。
そういえば「魔力感知」が使うかどうかって話だな。
まぁ・・・・・・今はすることはないし、少し遊んでみるか。
今の僕はほとんど動けない。上半身だけは動く状態じゃ、何もできないし。
取り敢えず、YESでお願い。
『了』
僕はこの時の選択を少しだけ後悔した。
なぜなら・・・・・・
(うおぉぉぉっ・・・・・・!)
途轍もない激痛が、僕の脳内を容赦なく襲った。
今まで経験したことがないほどの激痛だ。
いっ、 痛い!?
脳が焼き切れそうだ。
膨大な何かが、僕の脳内に直接、入り込んでくる。
このままじゃ・・・・・・死ぬ。
《エクストラスキル『魔力感知』をユニークスキル『
謎の声のおかげで激痛からすっと解放される。
はぁっ、はぁっ・・・・・・命拾いした。
そして、俺は反動の直後、真の意味で「見る」事ができた。
目の前に広がっていたのは、四方八方が武骨な岩石に囲まれた薄暗い洞窟だった。
どこを見ても、岩、岩、岩。
無機質な灰色以外の色彩がほとんどない空間。
いや、よく見ると視界の端・・・・・・足元付近に細々と生える雑草のような植物がちらほらと確認できる。
(・・・・・・マジかよ。)
僕はただ、心の中でそう呟くしかなかった。
ここは間違いなく。病院じゃない。
何をどうしたらこんな天然記念物のような洞窟で目を覚ますのか皆目見当もつかんが、それが現実だった。
(そんな・・・・・・嘘だろ!? そんあことあるの)
さらなる混乱が脳内を駆け巡る。
気付けば、目の前は真っ暗闇で、動けない。そして突然、現れた謎の声。
謎の声の問いに「YES」と選べば、激痛ののちにこれだ。
いったいどうやったら、こんな所で目を覚ますんだ?
しかし、そんな疑問をどうでもいいとすら思わせるほどの、圧倒的な事実が突きつけられていた。
僕の視界に映り込んでいるには、よく見慣れた人間の手足・・・・・・ではない。
もっと別の、圧倒的に異質な肉体だった。
僕は頭ではなく、「本能」で理解した。
僕はどうやら・・・・・・転生してしまったらしい。
地面から直接生えた、青緑色の葉っぱをロゼット状に形成した植物。
つまり「草」。
それが今世での僕なのだと。
僕は地面から生えた、ただの『草』へ転生した。