え、何この能力 作:闇次元の解放
どうも、俺っす。
作業員に紛れて冷や汗ダラダラで船に潜入成功したよ! 物陰から物陰へシュバババッて移動する俺、完全にスパイ大作戦の主人公だったね。俺って実はスパイの素質あったりする? え、天才?
……なんて自画自賛で現実逃避してる場合じゃない。ここからが本番なんだよ!
つーか、この体、腕の肉付きからして相当な膂力がありそうだけど……肝心の魔法ってどうやって使うの!? 使い方どころか発動の感覚すら知らんぞ!? 詰んでない!?
完全にフィジカル一発勝負な現状に白目をつきつつ、豪華なパーティ会場の物陰からコソコソ様子を伺う。
そこでは、華やかなドレスを着たお姉さんたちが「サ〜ラマンダー様ぁ〜♡」とか言いながら、睡眠薬入りの酒をゴクゴク飲まされていた。
……うん、すまんお姉さんたち。正直、今の俺のキャパじゃ全員を助けるのは無理だ。見殺しにするみたいで後味が悪いけど、俺はヒーローじゃない。ただの17歳のオタク高校生なんだ。許してくれ。
俺の目的はただ一つ、ルーシィの無事だ。
あ、ルーシィがボラからお酒を勧められてる。
(飲むな! それ絶対やばいやつ!)
と心の中で叫んだ瞬間——
「睡眠薬よね、これ。勘違いしないで、あたしギルドに入りたいけどあんたの女になる気はないから」
ルーシィが自分で気づいて、バシッとグラスを払い除けた!
凄い、流石原作ヒロイン! 自分の身は自分で守るストロングスタイル! 頼もしすぎる!!
「……仕方ないな」
ボラがやれやれと肩をすくめると、周りのゴツい手下どもが一斉に動き出した。
さらに奥の部屋から、すでに睡眠薬で眠らされた大勢の女性たちが手下たちに抱えられて運ばれてくる。最初から拐う気満々じゃねーか!
「な、何すんのよ離しなさい!!」
暴れるルーシィだが、流石に多勢に無勢。ガッチリ両腕を固められてしまった。
さらにボラが、ルーシィの腰から星霊魔法の『鍵束』をひょいっと奪い取る。
「ふむ、これはオーナー以外は使えない鍵……無価値だな」
「あ……返して! あたしの鍵!!」
ボラは冷酷な笑みを浮かべると、その鍵束を船外の暗い海に向かって思いっきり投げ捨てた。
——あ、それ消えたらルーシィ詰むやつー
頭で考えるより先に、身体が動いていた。
ガタァンッ!!
隠れていた装飾用の樽を蹴飛ばし、俺は甲板へ飛び出した。
床を思いっきり蹴りつける。想像以上の脚力で、視界が跳ね上がった。
うおっ!? 飛んだ……っていうか高っっ!?
放物線を描いて夜空に舞い、海へ落ちていく鍵束を目がけて、空中へダイブ。
……キャッチ!!
パシッと手に伝わる、冷たい金属の感触。よし取った!!
取ったのはいいんだけどさ。
ドサァァァンッ!!
「ぶふっ!?」
着地の勢いを殺しきれず、豪華な船の甲板を豪快にゴロゴロ転がって、派手な音を立てて倒れ込んだ。
痛ったあああああ!!
膝と肘を強打した衝撃で激痛が走る! 涙目になりながら「あだだだ! 絶対血出てるだろこれ! 皮膚持っていかれたわ!」と擦りむいたはずの腕や脚を慌てて確認する。
……あれ?
「……え? なんで無傷なんだ……?」
服こそ少し汚れているものの、赤く擦りむけているはずの肌はつるんとしたままで、血どころか傷一つついていない。さっきまで死ぬほど痛かった感覚だけが、じんじんと体に残っている。
え、どういうこと? 俺の皮膚、鋼鉄か何かで出来てんの……!?
……って、あ。自分の体の異常さに困惑している場合じゃない。出ちゃったよ!
物陰から完全に出てきちゃったよ俺どうしようかな……!!
「何? 昼間の奴……なぜここに!?」
ボラが目を見開き、手下たちも「なんだコイツ!?」と一斉に武器を構え直す。
完全に注目の的だ。胃が痛い。吐きそう。
すると、拘束されていたルーシィが俺を見て目を見開いた。
「あんた、なんで……!? ううん、あたしの事は良いから! 逃げて!!」
……うわぁぁぁぁん!! ルーシィ優しいーーーッ!!
自分が捕まって絶体絶命のピンチなのに、出会ったばかりの怪しい俺の身を本気で心配してくれるなんて! どこまで良い子なの君は!!
(……ああクソ、もう逃げられるわけねえじゃん!!)
俺は痛む体を叱咤し、握りしめた鍵束をギチ…と強く持ち直した。
「ちっ、まあ……いい。一人邪魔が入ったところで何も変わらねえな。お前ら、やれ」
ボラが面倒くさそうに吐き捨てると、周りの男たちがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ヘヘッ、そういうわけだ。何しに来たんだか知らねえが、間抜けな奴だぜ!」
ギラリと光るナイフを構え、ガラの悪い手下がジリジリと間合いを詰めてくる。
後ろを見ると、ルーシィが「逃げてー!」と叫ぼうとしていたが、速攻で別の手下に後ろから口を固く塞がれていた。んぐぐ、と必死に目配せしてくるルーシィ。
え……ちょ、待って。どうすればいいの……これ。
俺、魔法なんて使えないんだけど……!?
使い方どころか、気合の入れ方すら知らんぞ!?
え、終わった? 俺の異世界転生、開始初日で最終回ですか!?
負けじゃね!? これ完全に詰みじゃね!?
頭の中が真っ白になってパニックを起こしている俺を他所に、手下が容赦なく踏み込んできた。
「ハハッ! 刻んでやらぁ……うらあっ!!」
うわあああああっ!?
死ぬ!! と思って反射的に両腕で頭をガードする。
直後、シュッと鋭い風切り音と共に、俺の腕にナイフが思いっきり叩きつけられた。
痛っっっっっっっっっっっ!!??
あまりの激痛に叫び声が喉に詰まる。
感覚としては、金属のバットで思いっきり腕をフルスイングされたような衝撃! 脳天まで響く熱い痛みに涙目が限界突破する。痛い痛い痛い! 刺さった!? 切れた!? 肘から下が吹き飛んだりしてないよね!!??
あ、痛ったぁぁぁ……って、え……?
必死で目を開けて自分の腕を見る。
服の袖は真横に鋭く切れていた。……が、肝心の皮膚はやっぱり無傷。血が一滴も出ていないどころか、白い線の傷跡すらついていなかった。
かわりに、甲板に虚しく転がったのは——
パキッ、と綺麗に真っ二つに折れた手下のナイフだった。
「……は?」
刺されたはずの俺も間抜けな声を漏らしたし、ナイフを振るった手下も目を丸くしてフリーズした。
沈黙が船の上に広がる。
「……ちっ、古いナイフだったか。おい、誰か新しいのを貸せ!」
手下が己の腕の未熟さやナイフの老朽化を疑い、気まずそうに後ろの仲間に叫ぶ。
いやいやいやおかしいだろ!!
ナイフが折れるほど殴打されたような激痛(※痛みは100%ダイレクト)で俺は涙目なんだけど! 腕は折れてないし皮一枚切れてないってどういうこと!? 俺の肌、鋼鉄より硬いの!? どんな物理耐性してんだよ!!
戸惑いと痛みに悶絶する俺の横で、口を塞がれているルーシィが(えっ……えええー!?)と目を点にしてこちらを凝視していた。
「ち、おい、あのガキとっとと始末しろ」
ボラの声で部下達が俺を囲んで攻撃を開始するのだった。
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現在、俺は絶賛ボコられ中である!
痛い痛い痛い痛ぇぇぇええっ!!
「ハハハ! なんだコイツ、威勢がいいのは最初だけかよ!」
「マジで何しに来たんだコイツ? バカじゃねえの!?」
コンボウで殴られ、鉄パイプで叩かれ、足蹴にされる。
魔力の使い方知る由もない俺は、100%ダイレクトに脳ミソを揺さぶる激痛に涙と鼻水を垂れ流してのたうち回っていた。感覚としては、運動部のゴリラ集団に囲まれて鉄パイプでリンチされている感じだ。痛い痛い痛い! 骨折れた!? 絶対折れたよね!?
「やめて……! もうやめてっ!!」
船の隅で口の拘束が解けたルーシィが、涙を浮かべて悲痛な叫び声をあげている。
あんな可愛い女の子に情けない姿を見せまくっている恥ずかしさと、容赦のない激痛。俺はただ鍵束を胸に抱きしめ、身を縮こまらせて耐えることしかできなかった。
「チッ、しぶとい野郎だ。トドメ刺して海に投げ捨てろ」
ボラの冷酷な声が響く。
「ヘヘッ、任せろ! 死ねやぁぁぁっ!」
一人の手下がニヤつきながら、ギラリと光るナイフを俺の首元目がけて思いっきり振り下ろした。
(あ……詰んだ。俺、死ぬんだ……)
死を覚悟し、恐怖で目をギュッと瞑った——その瞬間。
ドクン…………!!
心臓が、耳腔の奥で破裂するような重苦しい音を立てた。
ゴオオオオオオオオオッッ!!
「うわあああぁぁぁっ!?」
「な、なんだ死ねぇっ!」
ナイフを振り下ろしていた手下の悲鳴。俺の身体の底から、ドロリとした禍々しい黒紫色の闇の瘴気が爆発的に噴き出したのだ!
重圧(プレッシャー)のような衝撃波が吹き荒れ、周りで嘲笑っていた手下たちがまとめてドカンと後ろへ吹き飛ばされる。
「え……ぐほっ、はぁ、はぁ……え?」
死んでいない。どころか、痛みが一瞬で引いていく。
息を呑みながら、俺は自分の胸の前で震える手を見つめた。
「…!!!?」
そこに伸ばされていた俺の両腕は、いつの間にか服の袖を突き破り、赤黒い鎧のような不気味な鱗と外骨格に覆われていた。爪は鋭く研ぎ澄まされ、隙間からは禍々しい闇の気がうっすらと立ち上っている。
(な、なんだこの腕!? ……いや、待て)
俺はこの禍々しくも圧倒的に洗練されたデザインを知っている。カードのイラストで、何千回と見つめ続けたあのデザイン——。
(ベエルゼ……!? 『魔王龍 ベエルゼ』の腕か……!?)
「クソがッ! 腕が変色したくらいで調子に乗んじゃねえぞ!!」
吹き飛ばされていた手下の一人が血相を変えて立ち上がり、予備のナイフを逆手に構えて俺の右腕に向かって思いっきり切りつけてきた。
シュッ、と鋭い効果音。
直後——
パキィィィンッ!!
甲板に甲高い音が響き渡り、金属の破片がコロコロと転がった。俺の皮膚に触れた瞬間、ナイフが一瞬で粉々に砕け散ったのだ。
「は……ナイフが……折れ……っ!?」
手下が引きつった顔で後ずさる。
その瞬間、俺の身体が直感で動いた。
ドガァンッ!!
右の裏拳一閃。
ほんの少し腕を振っただけなのに、手下の身体が弾丸のような勢いで吹き飛び、船のメインマストを木っ端微塵に砕き割って気絶した。
静寂が訪れる。
俺は自分の両腕を静かに見つめ直した。
心臓の鼓動がうるさい。全身の毛穴が開くような緊張感の中、すり減りかけていた思考が研ぎ澄まされていく。
(勝てる……。いや、勝つんだ……!)
不安を押し殺し、覚悟を固める。
俺は一言も発さず、無言のまま冷たい視線を手下どもに向けた。
「ひ、ヒィィッ……!?」
怯える男たちの中へ、俺は一直線に踏み込んだ。
ドカァンッ!!
目の前の男の腹に左拳を叩き込み、一撃で吹き飛ばす。
ゴバァンッ!!
横から襲いかかろうとした男の鉄パイプごと右腕でなぎ払い、壁へ叩きつける。
言葉など一言も挟まない。
ただひたすらに、目の前の脅威を排除するためだけに腕を振るう。
圧倒的な物理耐性と魔王龍のパワーの前では、手下どもの攻撃など無意味だった。ほんの数秒前まで俺をリンチしていた男たちが、静まり返る甲板へ次々と沈んでいく。
そして——最後の一人。
ルーシィを後ろから力任せに拘束していた手下が、恐怖で引きつった顔で後ずさろうとしていた。
俺は無言でその手下の懐へ踏み込むと、首根っこをガシリと掴み上げた。
「ひっ、助け——」
ドスッ……バウンッ、ドスン!
そのまま床へ向かって力任せに叩きつける!
激しく床で跳ね返った手下は、白目を剥いてそのままピクリとも動かなくなった。
甲板に立っている手下は、もう一人もいない。
荒い息を吐きながら、俺は赤黒い腕の力をそっと抜いた。
荒れ果てた船の上、そこには腰を抜かしたように座り込み、目を丸くして俺を見上げるルーシィの姿があった。
(……無事だ。良かった……)
心の中で心底安堵の息を漏らす。
俺は無言のままルーシィの前まで歩み寄ると、ゆっくりと屈み込んだ。
そして、激痛に耐えながら絶対に手放さなかった彼女の『鍵束』を、そっと彼女の手元へ差し出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
主人公の持つ能力『魔王龍ベエルゼ』の現時点での仕様について、分かりやすくまとめておきます。
・通常モード(未覚醒状態)
【肉体の完全耐性】:概念的に「破壊(損傷)」されないため、傷や切創は瞬時に再生・無傷になります。
【痛覚100%】:肉体は無傷ですが、痛覚自体はフツーの人間と同じです。そのため、殴られれば激痛ですし、刺されれば死ぬほど痛いです。
【ダメージ蓄積(パッシブ)】:この状態でも「喰らったダメージ(痛み)を攻撃力に変換して溜め込む」効果はバックグラウンドでしっかり発動・蓄積されています。(今回は激痛とパニックで主人公はそれどころではありませんでした)。
・ベエルゼモード(両腕覚醒状態)
【痛みの軽減(攻守3000の壁)】:原作カードの「ステータス3000」が適用されるイメージです。攻撃力/守備力3000以下の攻撃による痛みや衝撃を大幅に軽減します。そのため、並のナイフや手下の打撃では痛みすらほとんど感じなくなります。
【肉体の完全耐性】:通常時同様、物理・魔法問わず一切の損傷を受けません(ナイフの方が砕け散ります)。
【攻撃力の限界突破】:通常時以上に「溜め込んだダメージ」をダイレクトに腕力へ乗せられるため、軽く振っただけで人間が吹っ飛ぶ馬鹿力が出ます。